第2話:裏アキバと『炎上モンスター』
光の渦を抜けた瞬間、全身を包む空気の質が一変する。
生ぬるく湿り気を帯びた空気……。
肌をチクチクと刺す、不快な静電気の様な粒子が無数に舞い上がっている。
「……相変わらず、気味の悪い場所」
そこに広がっているのは秋葉原……の「裏側」に存在する、
認知レイヤーの世界――通称『裏アキバ』だ。
同じ場所に存在しながら、認識の階層が異なる世界。
頭上に広がるのは、どんよりと淀んだ紫色のノイズ空に暗雲が覆う。雑居ビルの壁面にはバグった画像のように明滅する広告が浮かび、路地裏には緑色に発光するデータのコードが空腹の鴉のように這い回っている。
この人間の集合知やネットの感情が層となって重なる場所を、
店長は気まぐれに『裏アキバ』と名付けた。
スマホを取り出し、アプリ画面に浮かぶARマップを確認する。
「ホタルの店を炎上させているデマの発生源……追跡を開始――」
人々の認知に刻まれた『カルマ(因果)』のログ流動を読み取ると、
画面上のインジケーターが裏アキバの路地裏へ伸びる赤い光のラインを描き出した。
大きく外見は異なっているが街の構造は同じだ。GPSマップをそのまま利用した
このラインを辿っていけば、炎上を仕掛けた元凶へと辿り着く。
「やっぱり嫌な気配がする……」スニーカーの底でアスファルトを蹴り、
薄暗い裏アキバを走り出したその時だった。
『ギ……ギギ……ッ!』
前方の路地裏から、不快な粘性の液体と金属の擦れる音が響く。
物陰から蠢き出てきたのは、黒いスライムのように不気味で醜い、
人型に近い異形だった。
全身から錆びついたハサミやカッターのような刃物をいくつも生やし、
顔のない頭部には、赤く不気味な2つの目が爛々と明滅している。
「見つけた……」
『通称、クソリッパー』ネット上の情報を悪意たっぷりに切り貼りし、炎上を撒き散らすカルマの集積体だ。炎上が増せば増すほど強固になるのだが、いま目の前にいる個体は、まだ発生したばかりの小さなザコだろう。
『――ギシャアアアッ!』
私は冷静に足を止め、スマホの画面を素早くフリックする。
『コード、トレース……バイナリーエッジ』
スマホから放たれた光が、私の右手に収束していく。
そして空間を切り裂く様に実体化したのは、0と1の数字列――
バイナリコードが眩い青緑光となって明滅する一振りの光剣。
質量は無く、誤って触れれば切断される刀身は、店長から教えてもらった
現代のプログラミック錬金術であり、その制御はとても難しい。
――『いいかいアカリちゃん。これは刃そのものが純粋なエネルギーなんだ。
だから力で振るうんじゃない、腕の延長として“認識”するんだよ』
かつて光剣の振り方を叩き込んでくれた店長の声がリフレインする。
『ギシャアッ!』
ハサミを振り上げ、刃物をジャキジャキと鳴らして突撃してくるクソリッパー。
その刃先の挙動を上手く読んで、最小限の動作で半身を引いてそれを躱すと、
店長から以前に教わった刃の重みを感じるような光の横薙ぎで一閃した。
『――ギィッ……!?』
鮮やかな青い光軌が、クソリッパーの巨体を滑らかに切り裂くと怪物は断末魔のノイズを撒き散らしながら、カルマの霧となって弾け飛んだ。
「ふぅ……これでよし」
するとクソリッパーが消えた足元に落ちたのは、カルマが浄化されたことで転がった、小さな物体だった。私はそれを慣れた手つきで拾い上げる。
それはどこか愛嬌のある“炎上モンスターの原因になったモノ”が、
手のひらサイズのデフォルメフィギュアとなっていた。
「……もしかして、これってハァミコンのカセット?」
フィギュアをポケットに放り込み、スマホからバイナリーエッジを収める。
そしてスマホのARマップを見直すと、赤いラインの先
――裏アキバの大きなビルの地下へと続く怪しいネオン看板が目に入った。
「あまりザコの相手をしている時間は無さそうね。待っててね、ホタル。
くだらないデマの根元は、ここで叩き潰すから」
私はスマホを構えたまま、ノイズの蠢く暗がりの中へと静かに走り出した。
次の第2話です!近々のお話まで作っているので、
ドンドンいきます~( *¯ ω¯*)>




