↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/14

第1話:火消し屋と賢者の扉


 ネットの悪意は、簡単に人の人生を壊す。


――私の家族が、そうだったように…


 手元のスマホ画面に映し出されているのは、数年前の過去のまとめ記事。


『【顔画像あり】某殺人事件の容疑者家族の特定完了www』

『自宅突撃配信・容疑者の家がついに特定された模様』


 事実に尾ヒレがつき、捏造され、拡散された悪意の群れ。

 無実だった父親の会社は嫌がらせで倒産し、家族はバラバラになった。

 

 一度ネットに刻まれた「デジタルタトゥー」は、二度と消えない……。



「まったく……バカバカしい」


 息を一つ吐き出し、スマホの画面をスワイプして記事を閉じる。

 手のひらには、何もしていない筈なのに汗が滲んでいる。


「ダメ、忘れよう……」


 暗い記憶を振り払うように顔を上げると、視界に入ってくるのはよく分からない

無数のジャンクパーツや書籍、ヴィンテージフィギュアなどの山々。



 秋葉原の雑居ビル地下にある怪しげなジャンクショップ

 

 ――『アングラ堂』


 ここが嘘で当たり前の日常から追放された、今の私の居場所(シェルター)だ。



「アカリちゃ〜ん! ボクこれからラジ館の限定アクスタ物販に行ってくるから、店番よろしくね〜!」


 店の奥から飛び出してきたのは、ボサボサ頭にぶ厚い丸眼鏡をかけた店のオーナー、宗麟(そうりん)店長だ。手に持ったトートバッグには、推しVTuberの缶バッジが痛々しいほどジャラジャラとつけられている。



 見るからに『良い歳をしたオタクのオジサン』だけど、人畜無害が服を着ているような様相のお陰で

過度な推し活以外は、嫌な感じがしない不思議な人だ。


「まーたそんな散財して……ちゃんと私のバイト代残しておいてくださいね!」


「失礼な! 推し活は人生の嗜みだよ? それじゃ、物販の戦場へレッツゴー!」


 店長は子供のようにウキウキとした足取りで、ドアの端に備え付けられたベルの涼やかな音を

鳴らして店を出て行った。


「もう、ホント店長は……」


 まだ営業時間なのに推しのグッズを買いに行く雇い主の奔放さに呆れつつも、

私は少しだけ口元を緩める。


 あんな風にユルく生きられたらどんなに楽だろう。……まあ、あの店長がただのオタクじゃないのは、ここで働いていれば嫌でもわかるんだけどね。



 ジャンクショップ『アングラ堂』の平日の客足は少なく、一人になった店内で、

レジカウンターに肘をついた、その時だった。


 激しくドアベルが鳴り響き、息を切らした少女が飛び込んできた。


「アカリちゃん……! た、助けて……っ!」

「えっ、ホタル!?」


 駆け込んできたのは、近所のレトロゲーム店でアルバイトをしている

私の親友『月城(つきしろ) ホタル』だった。


 可憐な顔立ちを真っ青に染め、震える手でスマホを私に押し付けてくる。


「これ……! お店のSNSが、大変なことになっちゃって……!」


 画面を覗き込むとそこには、ホタルが働いている有名なレトロゲーム店で「偽物のプレミアムソフトを掴まされた」「店員の接客が最悪だった」という、身に覚えのない暴露動画が拡散されていた。


『【炎上】アキバの老舗レトロゲーム店、詐欺商法で終了www』

『拡散希望。店員の接客もゴミ。凸電しまくろうぜ!』


 コメント欄には、事情も知らないネットの煽りどもによる暴言とクソリプが

凄まじい勢いで殺到している。

 

 店の電話は鳴り止まず、突撃系ユーチューバーも押し寄せてきているらしい。



「私、店長さんにすごくお世話になってるのに…このままじゃ、私のせいで店が潰れちゃうッ……」


ポロポロと涙をこぼすホタルの姿に、胸の奥が冷たく熱く滾るのが分かる。



――まただ。誰も事実なんて確かめやしない。ただ憂さ晴らしのために、

誰かの日常をこうやって簡単に踏みにじるんだ。


(でも、今度は違う。ホタルの店は……私が、絶対に守る)



 私は震えるホタルの肩を優しく抱きしめ、冷静に、穏やかに微笑みかける。


「大丈夫、落ち着いて」

「でも……っ」


「ウチの店長、こういうネットトラブルを解決するのが得意なの知ってるでしょ?今、ちょうど出かけちゃってるけど。相談して対応してみるから、ホタルは一度、お店に戻って電話の線でも抜いて待ってて」


「本当……?」

「うん、だから私を信じて……」


 ホタルは強く決意を固めた私の目を見ると、安心したように涙を拭う。


「アカリちゃん……うん、信じるね……」

 

 そして、彼女の背をさすりながら店から送り出し、その姿が見えなくなったのを見届けると、

私の顔からは自然と笑みが消えていく。


「……ハッキングにデマの拡散、ね」


 私は手際よく扉の札を『Close』へ裏返すと、慣れた手つきで扉に鍵をかける。

これは緊急で店を空ける時に店長と約束したルールだ。


 電気を落とし暗くなった店内の奥に、普段は「立ち入り禁止」のプレートが付けられている

サーバールームの前に立つとポケットからスマホを取り出す。

 

 画面に並ぶ色とりどりのアプリの中から、赤く禍々しいアイコンの

 『Ur-Akiba Gate』をタップする。


『――認証完了。裏アキバ(Ur-Akiba)へのアクセスを許可します』


 機械的な音声とともに、サーバールームの無機質な鉄扉が、

怪しい紫色の光を放ち始め、現実と別の次元を繋ぐ『賢者の扉』が開く――


 扉の向こうから吹き抜けてくる、空間を歪ませた光を帯びるノイズの風。


「店長が帰ってくる前に……私だけで火消ししてやるんだ」


 緊張を消す為にスマホを強く握り締め、私は暗光の中へと足を踏み入れた。



「秋葉原アンダーグラウンド」 を、お読み頂きありがとうございます!


長年あたためていた『現代の錬金術師プロット』を、

久しぶりに小説として書いてみました!


この趣味的なお話が気に入っていただけましたら、

ぜひ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!( *¯ ω¯*)ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。