第13話 新たな力と見えない壁
翌朝。秋葉原の街が静かに目覚める頃、『アングラ堂』の倉庫スペースには眩い紫と青緑の光の粒子が虚しく弾け飛んでいた。
「ああ、もお……! また途中で焼き切れた……!」
「力でエーテルをねじ込もうとしてはダメだよ。術式が安定するまでの時間は変えられないから、出力を上げても循環の際のノイズになるだけだしねェ」
苦戦する私の横でノートPCのキーボードを軽快に叩きながら、店長は息を吐く。
アカリは汗に濡れた額を拭いながら、自分の両手を悔しそうに見つめる。
昨夜の店長の手当てでほとんど怪我は治ったものの、店長の作ってくれた新しい術式を展開しようとすると、コードの形を結ぶ前に崩壊してしまう。
「うーん、言われた通りにしてるつもりなんだけどなぁ。今までのバイナリーエッジのイメージだと、どうしてもエーテルが過剰に流れちゃうんですよね……」
「多分、以前のイメージと実際のエーテル出力にズレが生じているんだろう。出力のコントロールが出来ないと、空気を入れすぎた風船の様に弾けてしまうのさ」
店長が苦笑交じりに分厚い丸眼鏡の枠を押し上げると、手に持つアカリのスマホがピコンと通知音を鳴らした。
画面を見ると、ホタルからのメッセージのようだった。
『アカリちゃん! 先日に話してたステラリリスさん、ネットの炎上が綺麗に収まって今日から営業再開したんだって! 吉岡店長から「軍資金は出すから、お祝いに顔出してきなよ!」って言われてるんだけど、一緒に行けないかな?』
「……ホタルからだ。ステラリリスの炎上、収まったんだ……」
「そのようだね。吉岡さんからボクのところにもさっき連絡が来ていたよ。あそこの社長さん、随分と喜んでいたそうだ」
チラリと私の表情を覗き込んだ店長は、ふっと表情を緩めると、キーボードから手を離してこちらに向く。
「ちょうどいい。アカリちゃん、ひとまず今日の訓練はここまでにして、ホタルちゃんと一緒にステラリリスに行ってきなよ」
「えっ……? でも、私まだ新しい術式を全然扱えてないし……」
「物事に詰まった時は、気晴らしも必要さ。デフォルト・モード・ネットワークといってね、科学的にも証明されてるよ……それに、ボクもこれから少し『用事』があって外出するんだ。今日は店を臨時休業にするから、君も楽しんでおいで」
そう言って、店長はアカリの肩をぽんぽんと叩くと、どこか意味深な笑みを残して上着を羽織り、倉庫を後にする。
(店長の用事……? 何だろう……)
その様子を少し気になりつつも、アカリは店長の「気晴らしも必要」という言葉に従ってみて、軽く身支度を整えホタルとの待ち合わせ場所へと向かった。




