第14話 星の装飾と謎の美女
「あー! アカリちゃん、こっちこっちー!」
「おまたせ、でもホントにいいの? 私、お金無いよ?」
「へへへぇー。吉岡店長から、こーんなに予算を預かってから大丈夫なのです!こういう横のお付き合いも大事なんだって」
ホタルがうらやましいお札を何枚かヒラヒラさせながら、私に見せつける。
「それならいいけど…コンカフェって、行くの初めてなんだよね……」
「だいじょうぶだって。私も何回か吉岡店長に連れて行ってもらったことがあるんだけど、キャストのお姉さんと話してるだけでも楽しかったもん。それにステリスは、変わったご飯も一杯あって美味しいんだよ!」
「えっ、そっちはちょっと気になるかも…」
明るい日差しが差し込む秋葉原の大通りを抜け、裏通りにあるビルの階段を上がると、そこには綺麗な流れ星の光と色でデコレーションされた小さな洋風のお屋敷みたいな『ステラ・リリス』があった。
「すごい…お客さん、たくさん……」
「うん。キャストさんも、すごくイキイキしてるよね!」
閑散としていたという事実が嘘のように、華やかな雰囲気の店内を目の当たりにして、可愛らしく装飾された扉からホタルと共に店内へ足を踏み入れる。
「――ごきげんよう、お嬢様方っ!」
星モチーフのリボンや薄い葵色であしらわれたのメイド服に身を包んだ女の子が、私達を屈託のない笑顔で迎えてくれた。
「う…その……どうも……」
秋葉原の至る場所で彼女らの姿を見ていたから大丈夫だと思っていたんだけど、実際にこうやって目の前でキャストさんとやり取りすると、可愛すぎて同性の私でも思わず圧倒されてしまう。
「くすっ。お嬢様はご来店、初めてですよね。さぁさぁ、お入りくださいませ!」
緊張する私に気づいたのか、ネームプレートに『みーな』と書かれているキャストさんが腕に手を添えながら席にまで案内してくれた。そして、ホタルといっしょに椅子に座ると、彼女はその場で腰をかがめる。
「ホタルお嬢様!今日はこんなに素敵なご友人とまたお越しいただきまして、ありがとうございます」
ホタルは以前の来店の時にみーなさんのことを知っていたようで、さっそく彼女と話し込んでいる。
「この前とっても楽しかったので、また来ちゃいました!」
「嬉しいですわ。今日もお嬢様方に楽しんで頂けるよう。みーなも、精一杯ご奉仕させていただきますね」
そう言うと彼女はドリンクや食事のオーダーを伺いつつ、専属として付いてくれて楽しいおしゃべりタイムが始まった。
みーなさんは『話し方が信じられないくらい上手くて』いわゆる聞き上手なのか、最初は何を話したらという感じな私も、気がつけば自分の普段のことや店長の奇行についての愚痴なんかを話しているくらいだった。
その後も喋りつつ『ギャラクシーソーダ』を飲んだり『星屑カレー』や『隕石ナゲット』なんかも食べてみたけど、どれもすごく美味しい。
特に個人的にイチオシなのが、色とりどりの果物が丸いゼリーの中に収まっていて、まるで小さな地球や火星を模した星ゼリー。それをシアン色の美味しいシロップに浮かべた綺麗な『惑星ポンチ』が絶品だった。
もう甘い物で満足過ぎて、頭はシアワセなシロップ状態かもしれない……。
そんな感じで浮かれていると、みーなさんが私の顔を不思議そうに眺めて、ポロっと疑問を口にした。
「そういえば、アカリお嬢様って。髪はショートとかにはしないんですか?」
「えっ? うーん、どうかな。小さい頃に男の子に間違われてから、ずっとロングなんですよね。たぶん似合わないんじゃないかなぁ」
「私、ぜーったいアカリお嬢様のショート、イイと思うんですよォ!」
「うんうん。私も昔からそう思ってました! アカリちゃんって、ふっとした何気ない仕草がたまにすごい色気あるんですよー」
ホタルがそれに乗っかると彼女は何か思いついたのか、少しイタズラっぽい顔をして「ちょっとまっててくださいねッ!」とお店の裏に入っていく。
「なんだろうね?」
「さぁ…」
しばらくして、彼女がバックヤードから戻ってくると、その手には綺麗な銀髪の短めなウィッグを持っていた。
う……何か、嫌な予感がする……。
「これ、お店のやつなんですけど、ぜひ被ってみてください!お嬢様ならぜーったい、似合いますから!さぁさぁ!」
「でも…ちょっとハズカシイし……」
「だいじょうぶですってェ!さぁさぁ!」
その推しに負けて、手渡されたウィッグを渋々と適当に頭に被ったら、あまりに雑だったのか、クシを入れながら彼女が整えてくれた。アップに縛っていた髪も目立たないように後ろでまとめると、正面からはショートカットの様な見た目になった。
「もお…強引だなぁ……」
そんな様子を横でニマニマしながら見ていたホタルに、髪を整えて「どう?」と聞いてみると、
「えっ…ウソ………」と、ホタルの眼が大きく開いた。
「あれ……やっぱりヘン、かな?」
「ううん、そうじゃないの……ただ、その……似合いすぎてて……」
何故か逆にホタルが今まで見たことの無い程に頬を赤らめながら、モジモジと私から目を逸らす。えっ……なんで??
「ふっふーん、やっぱり私の見立て、間違いじゃなかったじゃないですかぁ!アカリお嬢様、男装すると『超絶イケメン』ですよぉ!」
「ハァ? 何を言って……」そう言いかけて、店内の異様な様子に気づく。
他のお客さんやキャストさんまで『まるで信じられないモノでも、見るかのような視線』が自分に向けられているのに、ようやく気づいたのだ。これは…失敗したかも…まるで見世物じゃん……。
「うっ……みーなさん。やっぱ恥ずかしいから、これは返しま――」
あまりの羞恥に耐えきれずに私はウィッグに手を掛けて外そうとする…が、
『『『キャーー外しちゃダメーーーーーっ!!!』』』
一斉に周りから『その手を止められる』と、その後は周りが止まらなかった。
『――勿体ないよ、お願い、写真取らせてくださいっ!!』
『――超ぉカッコイイ、イケメン過ぎィーーー!!?』
『――オ、オレを踏んでください!?』
『――かっ…彼氏になってください……』
そんな感じの黄色い声で店内がパニックになると、私も『何が何だか、よくわからなくなってきて』彼女らの言うままになっていると、入口からひとりの女性が、何かの袋を抱えつつ店内に入ってきた。
「――こーら、皆で何を騒いでるのかな?」
そしてよく通るとてもハスキーな声が響き、お店の混乱は一斉に収まるとまるで、モデルの様な美女は笑み含みつつ、ゆっくりと私達へと歩みを進めた。




