第10話:賢者 と 不死の錬金術師
静寂と悪寒……そして自分の身体が侵食される悍ましい感覚だけが残る。
黒いデータの鎖によって意識は絶たれ、私は黒い群衆に飲まれていった。
(………守れなかった……調子に乗って……一人で出しゃばって……)
「……怖い…何も出来ないで…死ぬのは…イヤだ………」
脳裏にはすべて失ったあの時が、走馬灯の様にフラッシュバックする……。
それを考える程、漆黒に染まり、息が止まる。そして絶望に落ちる――
――コード、トレース……
だが、暗闇のノイズに閃光が切り裂き、鈴なりのような詠唱が木霊する。
「――『縮退』」
展開された術式によって、次の瞬間には無数に増え続ける黒い泥の化物が紫電の光に包まれ、アカリを縛っていた鎖と共に小さな黒点に溶け、引き込まれていく。
そして、星が終焉を迎えるよう完全に飲み込まれると『永遠に圧縮』された。
「――うっ、けほっ………」
鎖から解放され、ハッと重い瞼を開く。
周りに溢れていた筈の黒い蠢きは、一つの人影以外、消え去っていた。
「…てん……ちょう………」
そこに立っていたのは、いつものエプロン姿……ではなく、白いコートを羽織り、丸眼鏡を外し鋭い眼に光を宿した『宗麟店長』だった。
「……遅れて、すまないね。ボクは君ほどスカウトの才能に恵まれてないのは、知ってるだろう? ここで君を見つけるのに少し手間取ってしまったよ」
店長は眼鏡を顔に戻し、泥が消えたことを確認すると、いつものユルい苦笑いを浮かべる。そして、ゆっくりとこっちに歩み寄り、身体中血だらけで服もボロボロになってしまった私にコートを掛けてくれた。
「……大丈夫かい、手酷くやられたね」
「……はい…ごめん…なさい……」
「いいよ。自省が出来るようになったのは、強くなれる証拠さ。ボクも君ほど若い時にそれが分かっていれば、もっと過ちを冒すことは無かっただろうね」
その言葉が耳に入った瞬間、自分が情けなくて、涙が止まらなくなった。
――それから少しして……
「……落ち着いた?」
「はい…悔し泣きしたら、何だか胸が晴れちゃいました。戻ったら鍛錬します」
「それはダメ!早期治癒のコードを流してるけど、まずはユックリ身体を休めて、治すことが優先だよ。コレは厳守ね」
「ハーイ!」
「ダメ、もっと真剣になるのダッ!」
ようやくいつもの調子に戻せて、自分でもホっとする。
このひとが師となってくれたことが、私の幸運だったんだろうと今では分かる。だからもう、幻滅させるようなことはしたくない……そう決めた。
「ヨシ、じゃあ帰ろう。コンカフェの方も落ち着いてくれるとイイんだけどね」
「あれだけのカルマを倒したんです、そうじゃなきゃ困りますよ」
「そうだねェ。せっかくだし、ステラ・リリスで夕飯――」
――っ!?
だが、緊張の糸が切れた私達をまるで狙ったかの様な頭を刺すようなプレッシャーに、思わず首がその方向へ向く。
「店長、危な――!!」
声を張り上げようとしたが間に合わない。『パチン』という指鳴と共に氷柱状になった鋭い宝石の塊が複数、店長の背後を目視できない速度で襲う。
――コード、トレース……間に合えっ!!
即席のバイナリーエッジを何本も盾にするように無理やり地面に突き立てるように全力展開し、幾重にも破壊されながら襲いかかる宝石柱の勢いを殺し切る。
「くっ…ぅ……はぁ…はぁ…危な…かった……」
最悪の事態は避けた。だがアレに当たっていれば、即死は免れなかった。
「アカリちゃん、助かりました。アレが出てくるとは、ボクの想定が甘かった…」
店長が見たことが無いほど冷たい表情で睨む先には、時代錯誤としか思えない中世貴族みたいな格好をした壮年の紳士がビルの上からこちらを見下ろしていた。
「久しいな、"宵闇の賢者 殿"……」
「そちらこそ、いつまで生きているんですか?
もうとっくに死んだものと思っていましたよ……"サンジェルマン伯爵"」
第10話、ここで第一章は終わりです~
二章からのサンジェルマンとの闘いについては、ボチボチ制作していますので、
またお話ができたら再開させたいと思います~( *¯ ω¯*)=to be continued?
(ただ、秋アンは趣味的過ぎてあまり評価されてない感じかもなので、別で考えているお話を先に作るかもです。。 その際はそちらも読んで頂けると、幸いでございます~)




