第八章
―八―
「時雨……」
百合愛の顔が悲しそうにゆがむ。
「どうしても、邪魔する?」
「うん」
「そっか……」
しばらく沈黙が走る。
「……」
「……」
見つめあったまま、時間だけが過ぎた。
それを破ったのは、百合愛だった。
「――ねぇ、時雨?」
「ん?」
「あたしの想いって……時雨に伝わってたかなぁ?」
百合愛の声が、震えてる。
唐突な言葉だけれど、何を意味しているのかはわかって。この選択を変えられないことを悔やんだ。一瞬だけ、何かがこみあげてくるのをぐっと耐えて、笑う。
「それはもう、しっかりと」
――ちゃんと伝わってたよ、と。
その思いを込めて伝えた僕の声も、少し震えてた。
「そっか」
そう言って笑う彼女の顔は、視界がぼやけ始めてよく見えなかった。
「……」
「……」
再び沈黙が走る。
今度は、僕がそれを破った。
「百合愛」
名を呼んで、僕は君に銃口を向ける。
「…………うん」
君も僕に銃口を向けた。
たったの数秒なんだろう。
けれど決して短くないこの時間に。
思うのは、後悔ばかりだ。
すぐに助けられなくてごめん、と。
何度も何度も謝罪が口を出てきそうになる。
けれど何度も、何度もそれをこらえて。
もうほとんど見えなくなった彼女を、目に焼き付けて。
涙を流して、震える指で。
「「さよなら」」
僕らは、その引き金を引いた。




