第七章
―七―
名前を呼べば、いつもとは違う悲しみに染まった瞳で彼女は僕を見る。
見つめあって、先に口を開いたのは、百合愛だった。
「……なんで、来ちゃったの?」
その顔は悲しみに暮れながら。
「時雨にだけは……秘密にしておきたかったんだけどなー……」
そう、小さな”嘘”を、彼女はこぼした。きっと最期までそうなんだろう。わかったから。
「――ほんとだよ?」
泣きそうに言う百合愛に、合わせるように頷いた。
「……どうして……って聞いたら、答えてくれる?」
そう聞くと百合愛は頷き、ぽつりぽつり話し出した。
「冬歌が読んでた本でもよくあるでしょ? 復讐のために組織で過ごしてるやつ。それと一緒。あたしも復讐のために、ずっと組織に残ってたの。パパの体やママ、あたしの大切なものを全部奪ったこの組織が憎かったから」
「百合愛……」
「……ほんと、だよ」
それが嘘だとわかっているけれど、頷いて。僕を信じてくれているであろう彼女は”演技”を続けた。
「……復讐が間違ってることなんてわかってる」
百合愛は俯き、こぼす。
「わかってるけど、許せなかったの。椅子に座ってのうのうと生きている上層部が」
「……」
「戦争で多くの人が死んで、親を殺された子供は泣き叫んだ。でも上層部も国も知らん顔して、平気で戦争するの。あたしたちを捨て駒みたいに扱って。そんなひどいあつかいを受けてきたのに、どうして平気でいられるの? どうして憎まずにいられるの!?」
顔を上げた百合愛は泣いていた。その瞳から大粒の涙を流して、悲しみに染まった色で僕を見る。
「百合愛」
「ちゃんと全部わかってるよ……。憎いからって殺しても意味ないって。理由はちがくても、結局は上層部と同じことしてるって……。殺してしまった人たちの家族はあたしを憎むと思う。あたしが上層部を憎んだように。だけど、組織がなくなることでこれからこんな思いをする子がいなくなるのなら……。あたしは迷わずこの道を選ぶ」
意志の強い瞳が僕を射抜く。
まっすぐに見つめられて、一瞬昔の百合愛を思い出した。
強くなろうと必死で、その意志を瞳に宿して僕をにらみつけていたあの頃を。それに、少しだけ口が笑った。あの頃と変わらず君の意志は強い。本当ならもっと、もっと別の道を考えたかったけれど、どんなに考えても、僕にももう他の答えは出せなくて。心の中で、覚悟を決めて。
「……それが、君の答えなんだね」
僕の口から出たのは、そんな言葉だった。
百合愛はゆっくり頷く。
「そっか……なら、僕は……」
彼女をまっすぐ見据えて、言った。
「これ以上罪を重ねないように、君を止めるよ」




