第六章
―六―
そして翌日の夜。事件は起こった。
警報が鳴り響く。所々で火災も起きているらしく、館内は少し煙たい。
『残っていた上層部、警備にあたっていた警官計十八名が死亡、今回犯人は銃を使っている模様。詳細は未だ不明。至急応援を――』
イヤホンから流れる隊長の声に耳を傾けながら、僕は上層部特別室へ走った。
「凜道か」
僕がそこに駆けつけたときには、すでに隊長や何人かの隊員が集まり始めていた。
「遅れてすみません。………これだけですか?」
周りを見渡し、聞く。たしかに隊員はいるけど、この緊急事態にしては数が少ない。
「お前たちより先に集まっていたメンバーにはすでに動いてもらっている。お前たちは先に出た捜索班を追ってもらう形だ。犯人が内部の人間の場合もある。複数人で行動するように」
「了解」
あとからやってくる人の邪魔にならないように隅に行き、武器を確認した。銃に弾を装填して、班員を確認するように部屋の中を改めて見回す。ここにいない冬歌はおそらく先の班にいるのだろう。
「ここにいる隊員に告ぐ!」
隊員が集まったところで隊長が声を張り上げた。
「犯人は逃走中と思われ、内部か外部の人間かすら不明。しかし銃を所持していることから厳重注意が必要だ。少しでも怪しい動きをしているやつは捕らえろ。抵抗する場合の発砲は許可する! しかし手を付けられないほどではない限り決して殺すな! 以上だ、行け!」
隊長の合図に頷いて、僕らの班はその場を後にした。
無線から聞こえる先の班のルート情報をたどるようにして、二階の大食堂前を隊員たちと共に駆ける。そんな中、前を走る数名の隊員は犯人探しに夢中のようだった。
「やっぱり内部だったのかな? 犯人」
「さあなー、でも武器なくても起きてたしなぁ」
「確かに」
「内通者だったんじゃないのか?」
「武器回収されたときは外部がって感じか」
「かもなぁ」
その会話に「違うよ」と心の中で首を横に振る。けれどそれを見ていない前の隊員たちはなおも犯人の議論を続けていた。常に戦場のような場所にいたからだろうか、どことなく会話はいつも通りで。
走っている中、突然それが起こったときも、誰も慌てることはしなかった。
「!」
僕らの一番前を走っていた数名の隊員が曲がり角を出たときだった。一発の銃声とともに、一人の隊員が倒れる。
「下がれっ」
すぐに一発、また一発と銃声が聞こえ、隊員が倒れていく。すかさず僕と残った隊員一人は壁に背を預けた。
「犯人と思われる人物を発見、隊員三名が撃たれました。至急応援を頼みます。場所は二階、大食堂前の廊下です」
前にいる隊員がすぐに隊長へと連絡を取る。その間に僕は戦闘準備を整えた。
「凜道、俺が先に出る。向こうが一発撃ったらすぐに出て撃て」
「……生きててよ、後始末するの嫌だから」
「了解」
僕の言葉に笑うと、彼は真剣な面もちになり、タイミングを見計らって踏み出した。途端に聞こえる銃声、そして人が倒れる音。それに構わず僕は踏み出し、相手へ向けて銃を構えた。
その視線の先の人物を見て、銃を構えた腕の力は反射的に少し緩んでしまう。けれどまたすぐに力を込めて、まっすぐにその人を見据えた。
そうして燃え盛る炎の中、僕は震える声で、その名を呼ぶ。
「百合愛――…」




