第二章
―二―
「例の事件、内部の人間の可能性がほぼ確定じゃないかってさ」
あれから数週間。ポイント制は明確にはなっていないけど、すぐ実施されてもいいようにと英人になり続ける毎日を過ごしていた。今日もそれになろうと対人戦で最後に残った冬歌と刃を交えていると、冬歌は言った。例の、ということは今続いている上層部の事件だとわかったので、刃を振り下ろしながら聞く。
「外部じゃなくて?」
「そ、内部」
「ふぅん」
再度言われた言葉に、攻撃の速度や強さを少し緩めて考える。
訓練や見回りという変わらない日々。その中で、相変わらず本部や地方の上層部の殺人もなくならなかった。ニュースでは未だ原因不明とされているけれど、組織の大半は外部の人間がやったと思っているだろう。反組織という存在がいる以上、誰だってそいつらがこの事件を起こしているのではないかと思い至る。僕もどちらかというとそっち寄りだった。けれど冬歌は違うと言う。
「なんで?」
どんなに考えても内部の線は僕の中では挙がらなかったので、ナイフを交えながら素直に聞いた。冬歌はそれを受け取って、攻撃を軽く流しつつ少し考える。そうして少ししてから楽しそうに笑った。
「何?」
「今朝のニュースはお前ら朝礼前にデートしてたかって思い出して」
「朝の散歩だよ」
「相変わらずお熱いこって」
冬歌の茶化しはスルーしつつ、若干刃を押す力は強めておく。
「それで? 今朝のニュースがなに?」
「待て待て待て力強めんな」
「いつかこういうシチュエーションでの戦いもあるかもしれないだろ。慣れなよ」
「無茶言うなよ」
そう言いながらも冬歌はなんだかんだ平然と口を開いた。
「今回殺された上層部の人間、刃物でやられたらしい」
「刃物?」
「そ。証拠とかはないけど、傷跡が刃物だったってさ」
「ふうん……。それで、なんで僕らが疑われてるわけ? 刃物なら一般人だって調達できるだろ」
自然と力を緩めて問えば、待ってましたと言わんばかりに冬歌は微笑んで続きを話す。
「そこがさ、特殊な刃物だったらしいぜ」
「特殊?」
「俺らが持ってるようなナイフってさ、刃がギザついてるだろ? ちょっと特殊じゃんか」
「うん」
「それと似たような形で、刺されたところと切りつけた跡が普通の刃物じゃないって」
「へぇ」
「それが出たらまぁ当然答えも二つに絞られやすくなる。一つは内部の犯行、もう一つは内通者、ってな」
「見回りで外出た時に渡して、って?」
「そういうこと。ま、俺らは緊急のときにいつでも動けるよう武器を所持してるから、刃物が出た時点で元々あった内部への疑念が確定気味になってはきてるみたいだぜ」
「ふぅん……」
なかなか厄介なところまで進んでるんだなと、考えるそぶりを見せて。
「……さすが冬歌、組織が誇る頭脳派の意見は違うね」
褒め言葉を、ナイフの攻撃と共に少しからうかうように出した。けれど心の中では、やっぱり冬歌はすごいなと素直に尊敬の念を送る。
長年ルームメイトである冬歌。彼は戦闘の実力ももちろんだけど、とくに分析力に長けていて、昔から動きを推測したり、ドラマとかでも犯人を推理することが得意だった。その能力は、今はほとんどいなくなってしまった上層部も認めているほど。戦争がまだあったときでは、若いながら部隊で司令塔として動いていたときもあった。日々研ぎ澄まされるその推理力はいつからか組織内で「冬歌の推理は当たる」と言われるほどである。
ただ、
「ま、わかんねぇのはどうして今回が刃物になったってところだけど」
「ずっとそういう武器の話は出てなかったもんね」
「話聞く限り、刃物使われたのも今回が初めてらしい」
こういった推理の話になると、少し気が散漫になってしまうのが玉に瑕でもある。話に夢中になってきた冬歌の刃は先ほどより緩くなっていた。そのままさらに思考にふけりそうな彼に、微笑み。
「冬歌、考えるのはいいんだけど」
「ん?」
こちらを向いたところで踏み込み、刃を薙げば一際大きな金属音が鳴った。
「うわっ!」
飛んでいったナイフには目もくれず、間合いを一気に詰め、冬歌の首もとにナイフを突き立てる。そうして笑って、
「よそ見してると今度は首が飛ぶよ」
そう、告げれば。
「なんだよ、もう少し話したかったのに」
戦場ならば危機的状況であるにもかかわらず、冬歌はいつもの調子で笑った。そんな彼から刃を離し、審判が勝者である僕の名を呼んで今日も無事英人になったを確認して、ナイフをしまいながら歩き出す。
「推理の続きは部屋で付き合うよ」
「お言葉に甘えさせてもらうかな」
隣にやってきた冬歌が肩を組んできたのに笑って、次の対人戦の邪魔にならないよう、僕らはその場を後にした。




