はじめての産婦人科
第14話は、“家族になる実感”をテーマに描きました。
今回は、
* はじめての産婦人科
* 小さな不安
* でも、それ以上にある安心感
を中心に描いています。
このシリーズではずっと、
「安心できること」
を大切にしてきました。
そして今、その安心感は、
“二人”
から、
“家族”
へ変わろうとしています。
少しずつ変わっていく二人の空気を、楽しんでもらえたら嬉しいです。
初夏。
柔らかい風がカーテンを少し揺らしていた。
奈々はソファへ座りながら、小さく深呼吸する。
「……なんか緊張する。」
悠斗はそんな奈々を見ながら、小さく笑った。
「ぼくも。」
今日は、はじめて二人で産婦人科へ行く日だった。
検査薬では陽性。
でも、ちゃんと病院へ行くのは今日が初めて。
奈々はお腹へそっと手を当てながら、小さく息を吐く。
まだ実感は少ない。
でも、
“何かが変わり始めている”
感覚だけは、少しずつ増えていた。
⸻
病院までの道。
奈々は悠斗の隣を歩きながら、小さく笑う。
「……なんか不思議。」
「うん。」
悠斗も静かに頷く。
付き合って、
同棲して、
一緒に暮らして。
その延長に、今がある。
でも、それでもまだ少し信じられなかった。
奈々は苦笑いする。
「わたし、ちゃんとお母さんになれるのかな。」
その声は、少しだけ不安そうだった。
悠斗はゆっくり奈々を見る。
そして、小さく笑った。
「一人じゃないよ。」
奈々の表情が少し柔らかくなる。
悠斗は続けた。
「ぼくも一緒に覚えていくから。」
その言葉に、奈々は少し安心したように笑った。
⸻
待合室。
静かな空気。
雑誌をめくる音。
奈々は少しだけ緊張した顔で座っていた。
悠斗は隣で、小さく手を握る。
奈々は驚いたように見る。
悠斗は少し照れながら笑った。
「……緊張してるから。」
奈々は吹き出す。
「悠斗くんもじゃん。」
「うん。」
二人とも、かなり緊張していた。
でも、不思議と怖くはない。
隣に相手がいるから。
その安心感が、二人を落ち着かせていた。
⸻
診察が終わったあと。
病院の外。
奈々はまだ少しぼんやりした顔をしていた。
悠斗が小さく笑う。
「奈々ちゃん、魂抜けてる。」
奈々はゆっくり悠斗を見る。
それから、小さく笑った。
「……ほんとにいた。」
その声は、とても静かだった。
でも、すごく嬉しそうだった。
悠斗も優しく笑う。
「うん。」
二人とも、まだ実感は完全じゃない。
でも、
“これから家族になる”
その感覚だけは、ちゃんと胸の中にあった。
⸻
帰り道。
奈々は悠斗へ少し寄りかかりながら、小さく笑う。
「……なんか安心した。」
「よかった。」
悠斗も静かに頷く。
奈々は少し照れながら続けた。
「悠斗くん隣にいると、やっぱ落ち着く。」
悠斗は少し照れながら笑った。
「ぼくも奈々ちゃんいると安心する。」
その空気は、昔から変わらない。
でも今は、
その安心感が、
少しずつ“家族”へ変わろうとしていた。
⸻
夜。
二人の部屋。
奈々はソファへ座りながら、小さく息を吐く。
「……今日は疲れた。」
「かなり緊張してたもんね。」
悠斗が苦笑いする。
奈々も笑った。
でも、その笑顔はかなり穏やかだった。
不安がゼロなわけじゃない。
これから分からないこともたくさんある。
でも今は、
“一緒なら大丈夫”
そう思えた。
⸻
奈々は小さくお腹へ手を当てながら呟く。
「……ちゃんと安心できる家にしたいな。」
悠斗は静かに奈々の隣へ座る。
そして、そっと肩を寄せた。
「きっと大丈夫。」
奈々は小さく笑った。
「うん。」
窓の外では、初夏の夜風が静かに揺れている。
二人の“帰る場所”は、
少しずつ、
新しい未来へ向かって歩き始めていた。
第14話「はじめての産婦人科」を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、
“親になる実感が少しずつ生まれる瞬間”
を描きました。
奈々も悠斗も、
まだ完全に実感があるわけではありません。
不安もある。
緊張もある。
でも、
「隣に相手がいる」
その安心感が、
二人を少しずつ前へ進ませています。
また今回は、
待合室で手を握る場面など、
“昔から変わらない安心感”
も意識しました。
恋人になって、
同棲して、
家族になろうとしている今でも、
二人の中心にあるのは、
“安心できること”
なのかもしれません。




