第5話 前編
その日の夜、俺は帰宅せずに廃墟地帯へと向かう。
ハチが人気のない場所に案内してほしいと言ってきたのだ。
廃墟のあるそのエリアは、過去にダンジョンからモンスターが溢れ出した時の被害でゴーストタウンになっていた。
特に立ち入り禁止にはなっていないものの、あえて立ち寄る者もいない。
瓦礫だらけの室内で俺はハチに尋ねる。
「ここで一体何をするんだ……?」
「此度の任務遂行にあたり、機体の強化とマスターの武装作成を行います」
「そんなことできるのか」
「亜空間に収納している素材を使って実施します。所要時間はおよそ十分です。機体強化と武装に関するご要望はありますでしょうか」
ハチに尋ねられた俺は考える。
腕を組んだ俺は素直に答えることにした。
「いや、別に……いや、とにかく俺とハチが死なないことを第一にしてほしい。あとなるべく色んな状況に対応できると嬉しいな」
「承知しました。マスターの要望に沿ったものをご用意します」
「ありがとう、助かるよ」
ハチが親機を操作する。
たぶん俺の要望を設定として打ち込んでいるのだろう。
それを終えた彼女は、今度は機体から端末を取り出して差し出してきた。
「機体の操縦マニュアルです。この世界の言語体系に翻訳してあります。よければご確認ください」
「わかった、読んでみるよ」
俺は端末を受け取って、画面をスクロールさせながら内容を読んでいく。
とにかく内容が多すぎる。
基本操作は既に習っているものの、細かな部分まで記憶して咄嗟に活かすのは厳しいかもしれない。
ハチが遠隔操作でサポートできるらしいが、俺だけでちゃんと扱えるのが理想だろう。
(これは……乗りこなすまで時間がかかりそうだ)
頭を抱えながらマニュアルを読み進めること暫し。
機体の強化が終了したらしく、ハチが俺を機体の前まで案内する。
「大きく変わった感じはないね」
「魔物の死骸を使った装甲に加え、魔力増幅機構を新設しました。マスターの負荷を軽減しつつ、これまで以上の出力を発揮できます。装甲は自動修復機能もあるので長期戦にも対応可能です」
「おぉ、すごいな」
「今回は複雑な強化は施さず、生存率を重視したものにしてあります。魔力の防御壁を展開すれば、様々な環境でも通常通りに動けます」
よく見ると、機体の表層の色味が変わった気がする。
装甲自体も分厚くなったのではないか。
ハチの説明を聞くに、実際の性能は見た目以上にグレードアップしたようだ。
次にハチが結晶らしき物体をいきなり俺の胸に押し当ててきた。
結晶からメタリックな液体が広がって全身を包み込んでいく。
「おわっ!? 何だこれっ!」
「強化外骨格です。マスターの魔力で駆動しますが、補助動力も備えてあります。装着中は通常の数十倍の身体能力を発揮できます。親機に搭乗している間は使い道がありませんが、万が一の保険です。これで緊急時もマスター単独で戦闘が可能です」
「えっと、軽く試してみてもいいかな」
俺は恐る恐るコンクリートの壁に拳を当ててみる。
本当に軽くぶつけたつもりが、壁は木っ端微塵に粉砕された。
俺は自分の拳をまじまじと見て戦慄する。
「マ、マジか……とんでもない破壊力だ」
「扱いに習熟すれば、さらに力を引き出すことができます。こまめなトレーニングを推奨します」
「もちろん! 明日までしっかり練習するよ!」
意気込んだ俺はハチとの特訓を始めた。




