第8話 後編
ハチが椅子から立ち上がった。
彼女は静かに上層部の人間達に詰め寄っていく。
『強敵の存在を意図的に隠していたのですね』
「申し訳ありません。ハンターには不測の事態の対応力が求められます。今回はそれを見定めさせていただきました」
女性は素直に謝罪した。
少し顔が青いのは、ハチの威圧を正面から受けているからだろう。
自分の言葉一つで命が消し飛ぶと理解しているのだ。
ハチは俺に従順だが決して甘い性格ではない。
むしろ必要となればどこまででも冷徹になれるタイプだった。
女性は震える手で書類を持って読み上げる。
「佐々木さんはミコトを生け捕りにして、短時間でダンジョンを攻略しました。我々の予想を超える凄まじい戦果です」
「じゃあ昇級ってことですか?」
俺が訊くと、女性は頷いた。
彼女は書類を見せながら答える。
「はい、佐々木さんは本日よりAランクです。詳細は後ほど説明を――」
『そちらの判断に異議があります』
「えっ、ハチ……?」
『マスター、少々お待ちください。早急に問題解決します』
ハチの威圧感がさらに増した。
室内の空気がきりきりと張り詰めていくのを感じる。
上層部の人間も、何人かは苦しそうに汗を流していた。
そんな中、ハチは表面上は冷静に指摘する。
『此度の結果を鑑みれば、マスターの昇級はSランクが妥当ではないでしょうか。Aランクは過小評価だと思われます』
「確かにSランクにすべきだという意見もありました。しかし佐々木さんの場合は装備に依存した実力です」
『ハンターとは装備も含めた総合力で実力が決まるのでは?』
「ですので現在の能力、そして成長性に期待を込めてAランクとしました。今後の活動次第ではSランクも検討します……ここまでがハンター協会としての建前です」
女性が意味深に言葉を区切る。
ハチは首を傾げて告げた。
『では本音を聞かせてください』
「Sランクは世界中から注目される上、様々な義務が発生します。絶大な影響力を得られる代わりに、しがらみも多くなってしまうのです。現段階の佐々木さんにとって、それは足枷になると判断しました」
『……マスターの状況を考慮したのですね』
「はい、仰る通りです。佐々木さんの操縦する機体は改造して強くなるアーティファクトです。最速でSランクになって厄介事を引き込むのではなく、束縛されずに力をつけていくのが最善ではないでしょうか」
女性は緊張気味に話し終える。
暫し考え込んだ後、ハチは威圧感を解いて頭を下げた。
『あなたの判断を尊重します。早とちりをして申し訳ありませんでした』
「いえ、こちらこそ偉そうにすみません。佐々木さんがSランク相当であるのはこちらも確信しています。何かあればサポートさせていただきますので遠慮なく言ってくださいね」
女性は安堵した様子で笑った。




