シーン4:【承認の取り消し】無血の完全制圧と、砂に還る愚か者たちの刃
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カチャッ、カチャカチャッ……!
乾いた夜風に乗って、無数の無機質な金属音が不気味に響き渡る。
飢えと渇きで完全に理性を失った祖国の兵士たちが、ザイードの狂乱した命令に従い、一斉に魔導銃の引き金に指をかける。
彼らの手の中で、銃身に埋め込まれた非常用備蓄魔石が、最期の命を燃やすようにジリジリと不吉な青い光を放ち始めた。
一斉射撃の構え。
マトモに食らえば、私の細い身体など一瞬で蜂の巣にされるだろう。
「ルリアッ!」
背後から、レオン様の切羽詰まった叫び声が響く。
彼が漆黒のマントを翻し、私を庇おうと地を蹴って飛び出してくる気配がする。
だが、私は振り返ることなく、レオン様の前にスッと片手を伸ばしてその動きを制した。
「大丈夫です、レオン様。……あれは、私のものですから」
私の目には、彼らの構える武器の奥底――青く光る魔石の『中身』が、透明なガラス細工のようにくっきりと透けて見えていた。
王城の地下深く、非常用備蓄として保管されていたという魔石。
そこに満ちている淡い光の正体は、他でもない。
かつての私が、あの暗く冷たい地下室で、血を吐くような疲労に耐えながら無理やり注ぎ込まされていた、私の水魔力そのものだ。
私の魂から切り離され、石の牢獄に閉じ込められていた私の分身たち。
それが今、私自身を傷つけるための刃として向けられている。
そんなこと、私が許すはずがない。
「撃てェェェッ!! その忌々しい女の足を撃ち抜けェェッ!!」
馬上のザイードが、喉から血を吐くような声で絶叫する。
兵士たちの指が、一斉に引き金を引く。
その瞬間。
私は夜空に向かって翳していた右手を、スッと静かに下ろし、冷ややかな声で宣告した。
「――あなたたちへの魔力の『承認』を、完全に破棄します」
ピキッ。
広場の空気を凍りつかせるような、甲高く、小さな亀裂音が鳴り響いた。
それは、何百人という祖国軍の兵士たちの手元から、一斉に上がった悲鳴のような音だった。
「……え?」
最前列で私に銃口を向けていた兵士の口から、間の抜けた声が漏れる。
銃口から放たれるはずだった圧縮された水の弾丸は、いつまで経っても発射されない。
代わりに起きたのは、彼らの理解を完全に超えた『崩壊』だった。
パキンッ! パリンッ! パパパパパパンッ!!
魔導銃に組み込まれていた水魔石の青い光が、まるで蝋燭の火を吹き消すように一瞬にしてフッと消え失せる。
直後、魔石そのものが内側から粉々に砕け散り、パラパラと細かい粉塵となって空中に舞い上がった。
「な、なんだ!? 魔石が……ッ!」
「うわぁぁっ! 銃が、俺の槍が……崩れていく!」
驚愕の叫びが連鎖する。
魔石が砕けただけではない。
魔力によって金属の強度を保っていた魔導兵器そのものが、私の『承認の取り消し』によって完全に構造を維持できなくなったのだ。
彼らが握りしめていた重厚な鉄の銃身が、柄の長い槍が、そして身に纏っていた防具すらも。
まるで数千年の時を急速に早送りされたかのように、ボロボロと赤茶色に錆びつき、乾いた砂となって指の間からこぼれ落ちていく。
サラサラサラ……。
夜風に乗って、祖国の軍事力を象徴していた最新鋭の兵器の数々が、ただの砂埃となって砂漠の闇へと溶けていく。
一滴の血も流れることはない。
ただ、絶対的な力の差が、あまりにも静かに、無慈悲に証明されただけだ。
「あ……あ……?」
ザイードが、手綱を握りしめたまま完全に硬直している。
彼の腰に提げられていた、王家の証である黄金の宝剣。
それすらも、埋め込まれていた魔石が砕け散り、鞘ごとボロボロの砂の塊となって足元へ崩れ落ちていた。
武器を失い、防具を失い、ただの薄汚れた布切れを纏っただけの、飢えと渇きに苦しむ哀れな暴徒の群れ。
それが、我が祖国軍の『現在の姿』だった。
「馬鹿な……こんな、こんなことが……」
ザイードの口から、ヒューヒューという乾いた空気が漏れる。
彼はバランスを崩し、痩せこけた馬の背からドサリと無様に砂の上へ転がり落ちた。
全身を砂まみれにしながら、彼は震える両手で、足元に崩れ落ちた砂の山――かつて自分の武器だったもの――を掻き集めようとする。
「俺の武器……俺の、軍隊が……! 嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だッ!!」
「嘘ではありません。それが、あなたたちの本当の実力です」
砂に這いつくばるザイードを見下ろし、私は淡々と事実を告げる。
「あなたたちは、私から搾取した魔力に依存し、それが自分たちの偉大さだと錯覚していただけ。私がいなければ、武器一つ保つことすらできない……ただの無力な人々です」
「ル、ルリア……! 待て、待ってくれ!」
ザイードが顔を上げ、すがりつくように私へと手を伸ばしてくる。
その血走った瞳には、傲慢さなど微塵もない。
あるのは、すべてを失ったことへの絶対的な絶望と、私に対する醜い命乞いの色だけだ。
「俺が悪かった! お前が無能だなんて、ただの冗談だ! だから、水を……頼む、一滴でいい、俺に水を恵んでくれ! お前は優しいだろう!? 昔みたいに、俺のために……っ!」
砂に額を擦りつけ、ボロボロと涙を流しながら許しを乞うかつての婚約者。
あの日、華やかなシャンデリアの下で、私を路傍の石ころのように見下し「砂漠で干からびろ」と笑い捨てた男の末路。
これが、私を縛り付けていた呪いの正体。
(……ああ。もう、何も感じない)
私の心は、見渡す限りの青空のように澄み切っていた。
私は小さくため息をつき、冷ややかな瞳でザイードを一瞥する。
「私を追放した日、あなたは私にこう言いましたね。『お前のような地味な女は、砂漠で干からびろ』と」
私の言葉に、ザイードの肩がビクッと大きく跳ねる。
「その言葉、そっくりそのままお返しします。私の愛するこの国に、あなたたちへ恵む水は一滴もありません。……せいぜい、自分たちの傲慢さを呪いながら、大好きな砂漠で干からびることですね」
完全なる拒絶。
私の宣告が夜空に響き渡った瞬間、ザイードは糸が切れた操り人形のように砂の上へ崩れ落ち、喉の奥から「あぁぁぁ……」と絶望の呻き声を漏らし始めた。
背後にいる祖国の兵士たちも、膝をつき、ある者は頭を抱え、ある者はその場に泣き崩れる。
勝負は、完全に決したのだ。
私はもう二度と、彼らを振り返ることはない。
私がゆっくりと背を向けると、そこには、両手剣を地面に突き立てたまま、信じられないものを見るような目で私を見つめているレオン様の姿があった。
その猛禽類のような黄金色の瞳は、驚愕に見開かれた後、ゆっくりと、蕩けるような極上の熱と愛情を帯びて細められる。
「……恐れ入ったよ。まさか一振りも剣を抜かせてもらえないとはな」
「申し訳ありません。レオン様の出番を奪ってしまって」
「いや。最高に気高く、美しい勝利だった」
レオン様が歩み寄り、私の右手をそっと取って、その手の甲に深く、熱い口づけを落とす。
「これでもう、君を縛る過去の亡霊は完全に消え去ったな。……帰ろう、ルリア。俺たちの国へ。君を祝う祭りの火は、まだ消えちゃいない」
「はい……っ!」
彼の大きく温かい手に引かれ、私は弾むような足取りで歩き出す。
背後から聞こえてくる愚か者たちの泣き声は、もはや夜風の音に掻き消されて届かない。
前方に広がるのは、明るいランタンの光と、水と緑に溢れた私の本当の居場所。
胸に抱いたチクタクが『キュッ!』と嬉しそうに鳴くのを聞きながら、私はレオン様の隣で、これ以上ないほど幸せな笑みを浮かべていた。
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