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追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜  作者: はりねずみの肉球
第5章:【圧倒的防衛戦】愚かなる王太子の強奪侵攻と、砂に消える武具

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シーン3:【国境の対峙】見すぼらしい侵略者と、決して揺るがない決別

毎日投稿チャレンジ挑戦中です。

20時に投稿しますので、よろしくお願いします。

ゴォォォォォッ……!


かつて私が粗末な馬車から放り出され、死を覚悟して倒れ伏した熱砂の境界線。

そこは今、私たちが立つ『潤いと緑に満ちた帝国の領土』と、完全に水分を失い『ひび割れた荒野と化した祖国の領土』とを隔てる、残酷なまでの絶対的な境界となっていた。

私の背後からは、新しく引かれた水路を流れる清らかな水の音と、夜風に乗って運ばれてくる甘い花の香りが漂ってくる。

しかし、境界線の向こう側――東の地平線から吹き付けてくるのは、喉の粘膜をヤスリで削るような、乾燥しきった土埃の匂いだけだ。


「……来たぞ」


私の隣で、漆黒の軍馬に跨がったレオン様が、低く地を這うような声で警戒を促す。

国境の防衛線には、すでに帝国の精鋭部隊が分厚い盾を構え、鉄壁の陣形を敷いて待ち構えている。

彼らの瞳には、かつて水を求めて怯えていた頃の弱々しさは微塵もない。私服の林檎飴の甘い匂いを微かに残したまま、彼らは私という『真の聖女』を守るため、絶対的な士気の高さで前方を睨みつけている。


ズズンッ、ズズズズンッ……!


地響きと共に、月明かりに照らされた土埃の向こうから、無数の黒い影が姿を現した。

祖国の正規軍だ。

だが、その姿は、かつて王城のパレードで見せつけていたような、太陽の光を反射して輝く華美な軍隊の面影など一切なかった。

「はぁっ……水……」

「喉が……渇いた……」

兵士たちの足取りはゾンビのように重く、引きずり歩くたびにガチャガチャと手入れのされていない鎧が虚しい音を立てる。

頬は完全にこけ、落ち窪んだ瞳には、極限の渇きと飢えがもたらした『狂気』だけがギラギラと血走って宿っている。

彼らの手には、城の地下から強引に掻き集められたという最後の非常用魔石――今にも消え入りそうな、濁った青い光を放つ魔石――が組み込まれた魔導銃や槍が、震える手で握りしめられていた。


『止まれェェェッ!』


群れの先頭から、ひどく掠れた、しかし聞き覚えのあるヒステリックな号令が響き渡る。

軍勢が重い足取りで停止し、土煙が風に流されて晴れていく。

最前線に立っていたのは、かつて毛並みの美しい白馬に乗っていたはずの、ザイードだ。

今の彼は、痩せこけて肋骨の浮いたみすぼらしい馬に跨がり、豪奢だったはずの王太子のマントはボロボロに引き裂かれ、泥と汗でどす黒く汚れている。

金髪は鳥の巣のように乱れ、唇は乾燥でひび割れて血が滲んでいる。


「ルリア……! ルリアァァァッ! どこにいる! 俺の前に姿を見せろォッ!」


ザイードが血走った目を剥き出しにして、帝国の陣形へ向かって狂ったように叫び声を上げる。

私はレオン様のすぐ背後、軍馬の陰に隠れるようにして立っていたが、腕の中でチクタクが『キュルルッ!』と警戒の声を上げたことで、ザイードの鋭い視線がこちらへと突き刺さった。


「そこにいたか、ルリア! ああ、なんという運のいい女だ! 砂漠で干からびて死んだかと思っていたが、まさかこんな野蛮な国で生き延びていたとはな!」


私を見つけた瞬間、ザイードの顔に醜悪な歓喜の笑みが張り付く。


「聞けば、お前がこの国に水をもたらしているそうじゃないか! やはりお前は、我が国の王太子であるこの俺に仕えるべき『所有物』だったというわけだ! さあ、今すぐ俺の元へ歩み寄れ!」


その言葉のあまりの身勝手さ、傲慢さに、帝国の兵士たちの間から「ふざけるな」「頭が狂っているのか」という怒りのざわめきが波のように広がる。

しかし、ザイードは自分に向けられている殺意に全く気づいていないのか、それとも渇きで脳が完全に機能不全に陥っているのか、さらに声を張り上げる。


「お前が浄化の仕事をサボって逃げ出した罪は、この俺の海よりも広い心で特別に許してやる! 今までの無礼もすべて水に流してやろう! だから大人しく、お前が作ったその水ごと、俺の元へ帰ってこい!」


――ブツンッ。


私の隣で、極限まで張り詰めていた鋼の糸が切れるような音がした。

レオン様だ。

彼から立ち昇る漆黒の闘気が、夜の冷気を一瞬にして凍てつかせ、物理的な殺気となって国境の空気を支配する。


「……万死に値するな、あのゴミ屑は」


チャキッ、と。

レオン様が背に背負っていた巨大な両手剣クレイモアの柄に手をかけ、ゆっくりと引き抜く。

月光を反射して、分厚い刃が処刑人のギロチンのように冷たく輝く。


「おい、そこの干からびた愚か者。その汚い口を二度と開くな。貴様が俺の宝物に向けて放った暴言の数々……一文字につき一回、その肉を削ぎ落として砂漠の獣の餌にしてやる」


レオン様の地獄の底から響くような声に、祖国の兵士たちがビクリと肩をすくめ、後ずさる。

ザイードでさえ、その圧倒的な覇王の威圧感に一瞬息を呑み、馬上で身体を硬直させた。

しかし、背後に大軍を従えているというちっぽけなプライドが、彼に再び口を開かせる。


「な、なんだ貴様は! 野蛮な砂漠の王風情が、大国の王太子であるこの俺に気安く口を利くな! 数の上ではこちらが圧倒しているんだぞ! 俺の背後にある、最強の魔導兵器の数々が見えないのか!」


ザイードが剣を振り上げると、背後の兵士たちが一斉に、濁った青い光を放つ魔導銃の銃口を私たちへ向けて構える。


「ルリア! その野蛮な男から離れろ! お前は俺のものだ! 大人しく俺の足元にひれ伏して、水を差し出せば、再び王城の地下室へ戻してやるぞ!」


王城の地下室。

その言葉を聞いた瞬間、私の胸の奥で、カチリと何かが完全に凍りつく音がした。

かつての私なら、あの暗く冷たい場所を思い出して、ガタガタと震え上がり、恐怖で泣き叫んでいただろう。

『叩かれる』『見捨てられる』という呪縛に縛られ、彼の命令に逆らうことなど絶対にできなかったはずだ。


でも、今の私は違う。

私はレオン様の軍馬の横から、静かに一歩、前へと踏み出した。


「ルリア?」


剣を構えて突撃しようとしていたレオン様が、驚いたように私を見下ろす。

私は彼を見上げ、安心させるように小さく、けれど力強く微笑んだ。

そして、彼が握る大剣の冷たい刃の峰に、自分の両手をそっと添える。


「レオン様。どうか、剣を収めてください」

「……何を言っている。あいつらは君を力ずくで奪おうとしているんだぞ。俺が、一瞬で片を付ける」

「分かっています。でも、あなたの美しい剣を、あんな過去の亡霊たちの血で汚す必要はありません。……それに、私はもう、誰の背中に隠れて震えているだけの小鳥ではないと、あなたにお伝えしたはずです」


私の真っ直ぐな瞳の奥にある決意を見て、レオン様は小さく息を吐き、ギリッと奥歯を噛み締めながらも、ゆっくりと大剣を下段へと下げた。

「……一歩でも奴らが君に近づいたら、俺は容赦しないからな」

「はい。ありがとうございます」


私はレオン様の庇護の影から完全に抜け出し、夜風が吹き抜ける国境の最前線へと、ただ一人で歩み出た。

腕の中のチクタクが、私の覚悟に共鳴するように『キュィィィン』と小さく高い音を立てて、淡い青色の光を放ち始める。

私の一歩一歩に合わせて、珊瑚色のシフォンドレスがふわりと揺れ、私自身の内側から溢れ出す圧倒的な純度の『水魔力』が、夜の闇を真昼のように明るく照らし出していく。


「あ……」

「な、なんだ、あの光は……」


祖国の兵士たちから、どよめきが漏れる。

私が放つ神聖なまでの魔力の波動は、彼らが今にもすがりつきたくなるような、極上の清らかな水の気配そのものだったからだ。


「ル、ルリア……?」


ザイードが、馬上で完全に目を見開いて硬直する。

彼の目に映る私は、かつてくすんだドレスを着て、いつも床に這いつくばって命乞いをしていた『地味で役立たずの女』ではないはずだ。

満ち溢れる魔力によって艶を取り戻した水色の髪。

隣国の最高級のドレスに身を包み、背筋を真っ直ぐに伸ばし、冷ややかで気高い瞳で彼を見下ろす『真の聖女』の姿。


「久しぶりですね、ザイード。……いえ、もう王太子殿下と呼ぶ必要すらありませんね」


私の口から紡がれた声は、広場の空気を震わせるほど凛として、どこまでも冷酷に響き渡った。


「私があなたの所有物? 水を差し出せば、地下室へ戻してやる? ……呆れて、言葉も出ません」

「なっ……き、貴様、俺に向かってなんという口の利き方を……!」

「黙りなさい」


私がピシャリと一言放つと、私の魔力の波動が物理的な圧となってザイードを打ち据え、彼の言葉を強制的に遮った。

ザイードはビクッと肩を震わせ、まるで得体の知れない怪物でも見るかのような目で私を見つめ返す。


「私はもう、あなたの所有物でも、ただの浄化係でもありません。私は私の意志で、この愛する砂漠の国と、私を心から大切にしてくれる人のために生きると決めたのです。あなたたちが今、どれほど喉の渇きに苦しんでいようと……私には、一滴の同情も湧きません」


私の宣告に、ザイードの顔が屈辱と怒りで真っ赤に染まり、やがて紫色のどす黒い狂気へと変わっていく。


「ふざけるなァァァッ!! 誰のおかげで今まで生きてこられたと思っている! この恩知らずの裏切り者め! ええい、構わん! あの女の足を撃ち抜け! 生け捕りにして、一生地下室から出られないように手足を切り落としてやる!!」


ザイードの狂乱した命令に、飢えと渇きで理性を失った兵士たちが、一斉に魔導銃の引き金に指をかける。

レオン様が『ルリア!』と叫んで飛び出そうとする気配を背後に感じる。


しかし、私は一切の恐怖を感じることなく、ただ冷ややかな目で、こちらへ銃口を向ける無数の祖国軍を見据えていた。

彼らが手にしている武器。

その中で今にも消えそうに明滅している、最後の非常用備蓄魔石。

それが、そもそも『誰の魔力』で満たされたものなのかを、彼らは完全に忘れているのだ。


「……愚かですね。本当に」


私はチクタクを片手で抱きかかえたまま、もう片方の手を、ゆっくりと天に向かって翳した。

いよいよ、彼らが私に依存し続けてきた『すべての借り』を、完全に精算する時が来たのだ。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


ルリアのお返し(復讐)を「応援したい」と感じていただけたなら、

評価や感想を入れていただけると、とても励みになります。


あなたの応援が、この世界をもっと広げてくれます。


次回もぜひ、お会いしましょう。

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