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第26章 クリスタル会議室

 火星から派遣された5人とJayを加えた6名は、朝から会議室に招集されていた。そこには、Calyxも同席しており、他にも日本人の出席者が何名か見られた。どうやら、他の国からの出席者もいるようだった。

 

 日本国外務省官僚「それでは、会議を開始したいと思います。今回の会議には、火星自治政府から派遣していただいた5名の方、それとインドとEUからの代表者にも参加していただきます。」

 

 日本国首相「みなさん、会議に参加いただき、ありがとうございます。すでに、インド政府、EU政府、火星自治政府とは情報を共有しておりますが、中国とロシアで反政府勢力が政治の実権を握っているとのことです。彼らは、火星に対する本格的な攻撃を示唆しており、すでに別世界航路にかなりの数のミサイルを展開している模様です。」

 

 火星自治政府大使「わが軍も、すでに複数のミサイルを別世界の空間に展開している。いつでも攻撃は可能です。ただ、できれば直接的な攻撃は実施したくないと考えております。地球全体に影響が及びますので。」

 

 Lun「その反政府勢力というのは、すでに中国とロシア全土を掌握しているのでしょうか。」

 

 日本国防衛大臣「いや、詳細はわかりません。ただ、彼らは全領土を掌握する必要はありません。要するに、軍を掌握すれば、国を掌握することになります。すでに、両国とも軍部首脳は、革命政府側への支持を表明しております。したがいまして、すでに両国は革命政府側の管理下にあると考えて差し支えないかと。」

 

 Xin「われわれの政府首脳からは、彼ら革命政府側の首謀者の排除を計画していると聞いておりますが、何か具体的な作戦があるのですか。」

 

 インド軍幹部「火星から派遣されてきた能力者を送り込むと聞いております。」

 

 Calyx「ええ、すでにこの会議室に来てもらっております。」

 

 EU政府大使「もう具体的なプランはお持ちですか。」

 

 Calyx「プランはありますが、ここでは公表いたしません。どうも、先日より中国とロシア側にわれわれの情報が漏れているような兆候が見られます。」

 

 インド大使「どこかに彼らの諜報員がいるということですか。」

 

 日本国外務大臣「まだはっきりとしたことは言えませんが、その可能性は排除できません。あるいは、彼らのなかの能力者によって機密情報への侵入があったのかもしれません。」

 

 Ren「いや、その可能性は低いと思われます。彼らの能力者がわれわれの機密情報にアクセスしたとなれば、われわれはすぐに感知いたします。こちらも警戒をしておりますので。」

 

 日本国首相「いや、わが国の諜報部からの情報によると、やはり機密情報への侵入の形跡が見られるということだった。君たちの能力を上回る能力者がいるということだろうか。」

 

 Lun「どのような情報に侵入されたのでしょうか。」

 

 日本国外務大臣「それは、この場では公表することは控えさせていただきます。」

 

 Calyx「いずれにせよ、作戦は予定どおり決行ということでしょうか。」

 

 日本国首相「そういうことだ。まだ、Kyno、Naomi、Jayには説明していはいないが、計画どおり実行に移す。」

 

 EU大使「わが国の諜報部も作戦に参加させていただきたい。特に、対ロシアに関する作戦では、われわれにも諜報網があります。」

 

 インド大使「わが国は、対中国作戦を支援させていただきたい。」

 

 日本国首相「ご協力に感謝いたします。」

 

 会議では、4か国の強力が確認されただけで、何も具体的な取り決めはなかった。ただし、Kynoには情報が漏れているという発言が非常に気になった。それと、作戦はすでに決まっているとはどういうことだろうか。Kynoは、まだ何も作戦の詳細を聞かされていなかった。Kynoは部屋に戻り、ひとりベッドで考えを巡らせた。この先、一体何がどう進行していくのだろうか。そうしているうちに、ドアをノックする音が聞こえた。ドアを開けると、そこにはNaomiとJayがいた。彼らを部屋の中に入れた。

 

 Jay「Calyxさんが外に食事に行こうって。行こうぜ。」

 

 Kyno「おお、もちろん行くよ。どこに連れて行ってくれるのかな。」

 

 Naomi「でもさ、250年たっても、案外食べ物って変わらないのね。びっくりしたわ。」

 

 Jay「おまえら、火星で何食ってたの。火星にもウナギとかいるのか。」

 

 Naomi「いるわけないじゃん。火星には、なんかチューブに入った栄養食みたいなものばかりだった。向こうでお世話になった、Evieさんが言っていたけど、火星の食料事情が良くなくて、あんまりまともな食べ物はなかったわ。」

 

 Kyno「でも、ここは日本だぜ。まあ、肉も魚もないけど、味は肉と魚そのものだしな。」

 

 そのうち、Calyxが彼らを迎えに来た。

 

 Kyno「どこに連れて行ってくれるんですか。」

 

 Calyx「まあ、付いてきてよ。」

 

 3人は、Calyxの後ろを歩いて付いていった。クリスタルの外に食事に出るものと思っていたが、クリスタル内のある部屋の中に案内された。そこには、4人分の食器がテーブルの上にセットされていた。どうやら、ここで食事をするらしい。

 

 Calyx「作戦を伝えるわ。これは極秘事項。くれぐれも、あなたたち他の人には口外しないこと。」

 

 食事と思っていたのだが、いきなりの作戦事項の伝達だった。3人とも、少し面食らったが、もうすでに覚悟はできていた。元の世界に戻るには、どうしても通らなければならない道なのである。Calyxが手で合図をすると、アンドロイドが飲み物と前菜を運んできた。

 

 Calyx「食べながら聞いてちょうだい。」

 

 Kyno「ええ、どうぞ。説明をお願いします。」

 

 Calyx「3人には一緒に行動してもらうわ。行き先は、上海よ。」

 

 しばらく沈黙が続いた。この部屋は何の機械音もしない、本当に静かな部屋だった。あまりにも音が無いと、なぜか耳の中で鋭く高い小さな音が響く。

 

 Jay「続けてください。」

 

 中空モニターには、ある人物のホログラムが映し出された。中肉中背のアジア人だった。

 

 Calyx「彼が中国側のターゲット。そして、」

 

 中空モニターの映像が変わった。今度は、やや大柄の白人が映し出された。かなりがっしりとした体形の男性だった。

 

 Calyx「こちらが、もうわかるよね。ロシア側のターゲット。」

 

 3人は、無言でうなづいた。

 

 Calyx「君たちには、現地で支援の要員が複数つくことになっている。それぞれ、EUとインドから派遣されるエリート諜報員よ。すでに彼らとの面談は終わっているわ。」

 

 Kyno「わかりました。出発はいつですか。」

 

 Calyx「この食事が終わったらすぐに出てもらうわ。それと、もう一人メンバーを追加するわ。」

 

 Calyxが合図をすると、一人の女性が部屋に入ってきた。彼女を見たときに、そこにいた全員が何かを感じた。なにか、記憶の奥底にかすかに残っている記憶の残照のようなものを感じた。

 

 Maria「Mariaです。私もこのチームに加わります。」

 

 Kynoは確かに、この女性と遥か昔に関わりがあったと感じた。おそらく、JayもNaomiも同じようなものを感じているはずである。初めて会う人ではないと思った。でも、思い出せなかった。

 その後、Mariaも食事に加わった。和食のコース料理が次々と運ばれてきた。どれも申し分ないほどに美味だった。Mariaは何も言わず、食事をしていた。KynoはCalyxが何か彼らが思い出せないものを知っていると感じた。彼女は、絶対に水戸出身の日本人なんかではない。彼女は言うなれば、使徒のような役割の人間なんだと思った。いや、人間ではないのかもしれない。おそらく、彼女が全ての鍵を握っている人物なのだろうと思った。彼女は、彼らが来ることを最初から知っていたのだ。そう、彼女は全てを知っていたのだ。そして、今後何が起きるかも知っているのだ。彼女は味方なのだろうか、それとも敵なのだろうか。CalyxはKynoのほうをちらりと見て、わずかに微笑んだ。彼女には人の心が全て読めるのだ。それにしても、このMariaという女性は何者なのだろうか。彼女は信用に値する人物なのだろうか。Kynoは途中から食事の味を全く感じなくなっていた。途中までは、とても美味しい料理だと思っていたのだが、考えをめぐらせるうちに段々と味がわからなくなってきていた。


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