第23章 Regnosの世界へ
Regnosは絡み合った、いくつかの仮想世界のバグを修正していた。ようやく、大きなバグが発生し、それらの仮想世界が暴走する前に、手を打てるように準備ができた。80兆の仮想世界のなかでも、一番Regnosが想定しているシナリオにそって世界が進んでいるいくつかの仮想世界がお互いに干渉しあってしまっている。
前にも説明したが、ひとつの仮想世界には仮想実体は一体しか存在しない。その仮想世界を動かすための演算スピードを上げるため、通常は仮想実体が目にした部分だけが、まるで世界が動いているように仮想現実が作られる。よって、仮想実体が目にしていない世界は、そのまま止まった状態で放置されているか、あるいは真っ黒な虚無の世界が広がっている。仮想世界Aでは、Kynoと呼ばれる仮想実体が配置されており、その仮想世界に登場する他の人間たちは、彼の分身である。現在、仮想世界Cと仮想世界Dで、想定外の戦争という事象が発生しようとしている。そして、それは文明の発展を仮想世界で実現しようとしているRegnosの意図にそぐわない事象だった。彼は、なんとかして、そのバグを早めに修理したかった。まずは、彼は仮想実体Kynoとその分身であるNaomiとJayのアバターを作り、仮想世界Cという1940年代の世界に送り込んだ。また、もう一組のアバターも作り、そのアバターは250年後の仮想世界Dという世界に送り込まれた。Jayのアバターは250年後の日本へ、KynoとNaomiのアバターは250年後の火星に送り込まれた。あとは、それらアバターに仕事をしてもらうだけになった。そう、彼らはRegnosが望んでいない、仮想世界の戦争という事象をなんとか事前に食い止めることが使命なのである。ようやく、紆余曲折を経て、なんとか主要アバターを配置できるところまでは来た。あとは、彼らに事前に決めた手順通り動いてもらうだけである。
Kynoにはすでに大まかな概念だけは彼の脳内にインプット済みだった。そう、戦争を主導しようとしている主要人物を消すのである。そのためには、彼らが送り込まれている世界とは、全く逆の世界にいるそれらと同じ主要人物にも同時に接触する必要がある。そして、それらの消去対象となっている人物たちに、表と裏の世界にて同時に、あるチップを彼らの体内に埋め込む必要があった。そのチップは弾丸の中に埋め込まれており、ピストルの形をしたインジェクション・マシーンから発射されることになっていた。そのチップを用いることにより、その特定の人物のみ表の世界でも裏の世界でも消去することが可能なのである。実際、その世界を丸ごと消すのであれば、Regnosには簡単だったが、一部の特定の人物のみを消すというのは、かなり事前準備を慎重に行う必要があった。
Regnosはバグの修正のために、いろいろなシナリオを考えた。駒は揃い、駒の配置までは終わった。あとは、その駒を的確に動かすことができる、スクリプトが必要だった。RegnosはAthenaのAIに、数百種類のシナリオを作成させた。あらかじめ、パラメーターと希望の結果を入力しておけば、何種類ものシナリオを自動的に生成してくれるのである。ひとつは1940年の世界、そしてもうひとつは2233年の火星である。出来る限り、元の痕跡を残さないようなシナリオがよかった。それでいて、1984年の世界にあまり大きな影響を及ぼさないシナリオが必要だった。
まずは惑星間戦争の件だったが、火星側には好戦的な人物は見当たらず、争いの原因は地球側の一部の過激勢力だった。具体的には、中国とロシアに出てきた、強硬派と呼ばれる右派民族主義勢力だった。彼らは、非常に高度な暴力システムを要しており、中国とロシアの政権にあった重要人物を根こそぎ革命で死に追いやっていた。日本やインドも非常に警戒している勢力だった。元々、この二国は歴史上何度も、血なまぐさい革命を繰り返してきていた。特に中国は、王朝が何度も入れ替わり、そのたびに血なまぐさい争いが繰り広げられていた。それらの権力闘争で、数千万もの人民が犠牲になったこともあった。また、新王朝が発足するとすぐに、前王朝の遺産を徹底的に破壊するという土壌があった。今回も、前政権の政策はことごとく破壊され、前政権下で花咲いた文化や教育というものも、ことごとく否定の対象となった。よって、これら革命を起こした革命家たちを根絶する必要があった。
1940年欧州だが、まだ時系列的には、独ソ戦も真珠湾攻撃も起きていなかった。このふたつの出来事が起きる前に、各国の指導者のうち好戦的な者たちを排除する必要があった。まずは、最初のターゲットはヒトラーだった。ヒトラーを消去したあとの世界を見て、次の一手を考える必要があった。
あとは、高度地生体AIにて生成されたスクリプトをKyno、Naomi、Jayに読み込ませ、彼らの仮想世界内で実施させればよかった。Regnosはようやく、これでバグの修正を終えることができると考えた。




