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第22章 地球上のJay

 JayはCalyxの指示にしたがって、しばらくは東京のクリスタル内の個室で過ごすことになった。個室の窓からは、外の世界が良く見えた。クリスタルに来るときに外側から見たときは、窓のようなものは一切見えなかったが、個室には外を広く見渡せる窓があった。遠くには、富士山が見えた。それにしても、東京の真上に浮かんでいるというのに、窓を見下ろしてもそれほどたくさんの人が歩いているわけではなかった。Jayがいた世界での東京には、たくさんの人がいたのだが、なぜかこの世界の東京には人が少ないように思えた。

 

 Calyx「富士山よ。きれいだよね。」

 

 いつの間にか、Calyxが部屋の中に入ってきていた。

 

 Jay「あ、おはようございます。」

 

 Calyx「君の世界から、この250年後の世界までの間に、富士山は2回噴火しているの。少し形が違っていない。」

 

 Jayは目を凝らして富士山を見てみたが、東京からはそれなりに距離があるため、細かいところまではわからなかった。でも、自分がいた世界に比べると、かなり空気がきれいな気がした。Calyxは相変わらず、Jayの脳に直接話しかけてくる。

 

 Jay「なんか、東京ってもっとたくさんの人がいるところだと思っていました。窓から下の道路を見ていても、あまり人がいませんね。

 

 Calyx「ああ、そうか、そうね。今の日本の人口がどのくらいか知っている。」

 

 Jay「まあ、僕が知っている日本には、1億以上の人いましたから、同じくらいですか。」

 

 Calyx「実はね、600万人よ。」

 

 Jay「えっ、たったの600万人ですか。一体、日本に何があったんですか。なにか未知のウイルスで人がたくさん死んだとか。」

 

 Calyx「確かに、未知のウイルスは何回か発生したわね。地球温暖化が進んで、シベリアとかカナダの永久凍土が解凍されて、そこから古代のウイルスが出てきて。」

 

 Jay「そんなことがあったのですか。」

 Calyx「でもね、人口が減少したのは、そのせいではないの。世界的に計画的に減らしたの。」

 

 Jay「どういうことですか。自主的に人口を減らしたということですか。」

 

 Calyx「そういうこと。でも日本だけじゃないけどね。世界中の国が協力して、人口削減に取り組んだのよ。でなきゃ、多分地球は人が住めない環境になっていたかもね。」

 

 Jay「いや、信じられないですね。」

 

 Calyx「今日は政府の人たちが来て、君にいくつか質問したいそうよ。まあ、面談ってやつね。知っていることだけを正直に答えてくれればいいのよ。」

 

 Jay「ええ、もちろん、なんでも知っていることは答えます。でも、僕は何も役に立つような情報は持ち合わせていませんよ。」

 

 Calyx「いいのよ。知っていることだけで。あとでまた迎えに来るわ。そうね、今は朝の7時だから、10時ごろにまた来るわね。」

 

 そう言い残すと、彼女は部屋から出て行った。それにしても、KynoとNaomiは火星で一体なにをやっているのだろうか。どうにかして、彼らに連絡をとりたかった。それに、火星と戦争ってことを言っていたけど、この先どうなるんだろうかと思った。窓から見る外の景色からは、戦争などというものは全く連想できなかった。まだこの世界に来たばかりで、何にも知らなかったが、この250年という時間のなかで、いろいろと世界は変わったんだろうなって思った。それでも、日本という国は今だちゃんと存在しており、東京も見る限り相変わらず大都市として残っている。この250年の間に、戦争とかはなかったのだろうか。火星と戦争と言っているということは、今でも人類は戦争というものから逃れられていないということだった。何か、この世界での世界地図を見てみたかった。ということを考えていたら、壁面に世界地図が映し出された。どうやら、外で見たディスプレイと同じで、何かを見たいと思ったら、それがそのまますぐに映しだされる機能があるようだった。この世界では、これが標準仕様なのだろうと思った。まあ、慣れれば便利な機能だと思った。


 世界地図を見てみたが、いろいろと変わっていることがあった。全体的に、いろんな国が細かく分かれてしまっていた。以前は、大きな国だった国が、いくつかの小国に分かれていた。おそらく、何らかの独立運動が起きて、独立した国家がかなりあったのだと思えた。そう、第2次世界大戦後に、アジアやアフリカで次々と国家が独立していったように、同じようなムーブメントがあったのだと思った。ただ、日本の領土は相変わらず同じだった。欧州は元々細かく国境で国が分かれていたが、更に新国家が増えていた。アフリカ、南米、アジアもかなりの国が増えていた。非常に興味深いことを知った。次に、21世紀の歴史を見てみた。そう、頭で知りたいと思うだけで、いろんな教材が壁面に映し出されるのだ。いわゆる第3次世界大戦という大戦争は結局起きてはいなかった。その代わり、世界中のいたるところで、小さい戦争が数多く発生していたようだった。特に、独立戦争が数多く戦われ、そのプロセスを経て、いろんな国が増えたのだろう。結局、アメリカやカナダ、オーストラリアのような、自主的にそれらの国にやってきた移民で構成されている国は、そのまま残っていた。また、日本のように国内に少数民族を抱えていない国についても、そのままの領土を維持していた。一方で、人口が比較的大きな少数民族を抱えていた国は、かなりそれらの少数民族の独立運動が激しかったようで、領土が著しく縮小している国も見られた。世界の国々は、3つのパターンで歴史的発展を遂げているようだった。ひとつは、アメリカのような世界中からの移民によって構成されている国家。ふたつ目は、日本のような圧倒的多数がひとつの民族で構成されている国家。そして、三つ目が国内にいろんな土着の異民族を抱えている国家である。この三つ目の国家形態が非常に国家としては脆く、それがもろにこの地図に現れていた。


 その中でも、宇宙開発は目覚ましい成果を上げており、いまや月と火星は、地球の植民地と言えるほどまでに開発が進んでいる。次は、木星や土星の衛星へ人類は進出するとのことだった。ただし、太陽系内の植民地計画では大国同士の利害の対立や、植民地と地球側との対立などが徐々に顕在化しつつあるようだった。そう、火星自治政府による独立運動についても、この流れで行けば、自然な流れだと思えた。10時少し前になって、CalyxがJayを迎えに来た。

 

 Calyx「今、歴史の映像を見ていたでしょ。本当は、君のように過去から来た人には見せてはいけないの。」

 

 Jay「どうしてですか。」

 

 部屋の中には、静かに音楽が流れていた。べつにJayが音楽を流すように何かを設定したわけではなかったのだが、いつの間にか聴いたことのあるジャズが流れてきた。

 

 Calyx「君が過去の世界に戻ったあとに、未来のことを知っていたらまずいと思わない。」

 

 Jay「あ、確かにそうですね。歴史が修正される可能性があるということですよね。」

 

 Calyx「そういうこと。ところで、この曲を知っている。君たちがいた世界にはすでにあったはずよ。」

 

 Jay「ええ、ハービー・ハンコックの処女航海ですね。よくKynoとNaomiと一緒に聴いていた曲です。ところで、なぜ歴史の映像を見られるようにしていたのでしょうか。なんか、意図的なものを感じます。」

 

 Calyx「そうね。君は今から重要な作戦に参加するの。だから、今までの背景も少し知ってもらいたかったからね。」

 

 Jay「そういうことですか、分かりました。」

 

 曲は、ハービー・マンのバティーダ・ディファレントに変わっていた。Calyxはこの時代ではかなり古典の部類に入るであろう、ジャズの曲が好きなのだろうか。

 

 Calyx「でも、心配はしていないけどね。どうも、時間軸を超えて誰かが移動してきた場合、そのたどり着いた時代で知られている以上の知識は自動的に消されるみたい。その時代と、その時代に生きている人の知識は自動的に整合されるみたい。」

 

 Jay「それは、どういう原理なのですか。」

 

 Calyx「詳細は私にも分からないけど、数年前にある数学者が理論的に証明したらしいわ。」

 

 Jay「そんなことが数学で証明できるんですか。」

 

 Calyx「出来るみたいというか、出来たみたい。私には難しすぎて、理解できないけどね。」

 

 Jay「じゃあ、この未来にいる僕は、日本での出来事を覚えているけど、もし仮に僕が過去の世界に行ったとしたら、現在の日本での記憶は無くなるってことですか。」

 

 Calyx「理論上はそうなるわね。さて、そろそろ面談に行こうか。」

 

 Jay「わかりました。」

 

 部屋の中の曲が、ビル・エバンスに変わったところで、部屋を出ることになった。時間は、午前10時5分前だった。Jayにはその曲名が思い出せなかった。ビル・エバンスは好きなピアニストだったが、彼はビル・エバンスと一緒に演奏していた、スコット・ラファロのベースが大好きだった。なぜか、こういう緊迫した状況になると、いつも全く関係のないことを考えてしまう。250年後の火星で、日本の高校生がビル・エバンスを聴いているなんて、元の世界の一体誰が想像していただろうか。

 

 Calyxが先に部屋を出て、クリスタル内の通路を歩いていった。歩きながら、CalyxはJayに雑談をしてきた。どうやら、Jayが緊張しないように、彼女なりに気を使っているようだった。

 

 Calyx「君は、サッカーとか好きなの?私はサッカーが大好きなの。」

 

 Jay「僕の親友のKynoが大好きです。僕はバスケが好きです。」

 

 Calyx「じゃあ、サッカーは見ないの?」

 

 Jay「テレビでサッカーの試合とかやっていないので、見る機会はあまりないですね。でも、そうだ去年スペインでワールドカップがあったんですよ。」

 

 Calyx「ねえ、日本はワールドカップで優勝したことがあると思う。」

 

 Jay「さすがに、250年も経っていますから、1回くらいはあるんじゃないですか。」

 

 Calyx「実際は、8回優勝しているのよ。」

 

 Jay「8回もですか。すごいなぁ。」

 

 Calyx「でも、他の国に比べたら、少ないほうよ。250年間で8回って少ないでしょ。でもね、今は世界ランキング2位なのよ。」

 

 Jay「1位はどの国ですか。」

 

 Calyx「今の1位は、メキシコらしいわ。ここのところ、メキシコはすごく強いのよ。」

 

 2人はしばらく通路を歩き、エレベーターで上階に上り、そこからしばらく歩いて、ある会議室のような場所に案内された。中には、対面にテーブルとイスが並んでいた。その一方側に、JayとCalyxが座った。反対側にはスーツ姿の男性が2名、女性が1名座っていた。

 

 Calyx「Jay君を連れてきました。」

 

 Jay「Jayです。Calyxさんからお話は伺っております。知っていることはなんでも話しますが、ほとんど何もお役に立てないと思います。」

 

 男性①「どうぞ、そちらのイスにおかけください。早速ですが、単刀直入に伺います。Kynoという男性を知っていますか。あなたとは同じ年くらいと思いますが。」

 

 Jay「ええ、私の親友です。たしか、火星にいると思います。」

 

 男性②「そうです。彼は火星にいるようですね。Naomiという女の子も一緒です。」

 

 Jay「はい、そのようです。」

 

 女性「あなたがた3人は、この世界で何をするつもりですか。何か聞いていませんか。」

 

 Jay「いえ、僕は何も聞いていません。ただ、信じてもらえないと思いますが、先日、小さいおじさんに会いまして、そのおじさんが大きな戦争をふたつ止めなければならないとか言っておりました。ただ、彼が何者なのかはわかりません。」

 

 Calyx「小さいおじさんが、あなたの前に現れたの。」

 

 Jay「ええ、ラッキー・ストライクを吸っていました。それに、スーツをイタリアで作ったって自慢していました。」

 

 男性①「そうですか。小さいおじさんと会話をしたということですね。」

 

 Jay「ええ、実はCalyxさんと会う前に、神社でおじさんと話をしていました。」

 

 男性②「もうご存じとは思いますが、地球側と火星側の関係がぎくしゃくしておりまして。わが国としては、戦争は望みませんが、他の勢力がどうもその暴走しそうな気配がありまして。」

 

 その男性のものの言い方は、非常に歯切れが悪かった。実際は、もっと具体的なことを知っているのだが、何か言葉を濁しているような感じだった。

 

 Jay「他の勢力と言いますと、他国ということですか。」

 

 女性「そうですね。他国です。その他国の国内が非常に政治的に不安定でして、一部の過激派勢力が、火星に向けて攻撃を開始したとのことです。」

 

 Calyx「すいません。私も具体的なことは聞かされておりません。もう少し詳しい話をお願いできますか。」

 

 男性①「具体的に言うと、中国とロシアです。この二国の国内で、火星勢力打倒を目指す勢力が武力で政権を奪取したようなのです。」

 

 Calyx「つまり二国同時革命が成功したということですか。」

 

 男性②「そういうことだ。革命政府は火星の独占的占有を目標としている。火星の資源を二国で独占しようとしている。」

 

 Calyx「火星側からの反撃は。」

 

 女性「まだ具体的な反撃はないわ。でも、すでに別世界に多数のミサイルを展開しているとのこと。彼らがその気になれば、すぐにでもそれらのミサイルをこちらの世界に移動させることができる。迎撃はかなり難しいわ。」

 

 Calyx「中国とロシアの革命政府はそのことを知っているのかしら。」

 

 男性①「一応、非公式なルートでその旨を伝えたが、何も返答はない。彼らは、火星側が攻撃してきた場合、その飛来したミサイルを他国領土に誘導するつもりなのかもしれない。」

 

 Calyx「でも、その誘導技術は国際条約で使用が禁止されていますよね、中国もロシアも条約を批准しているはずでは。」

 

 女性「相手は、革命政府よ。前の政府が批准した条約なんか順守するとは思えないわ。」

 

 男性②「そこで、Jay君に依頼がある。KynoとNaomiと協力して、この戦争を阻止してもらいたい。われわれは巻き添えはくいたくない。」

 

 Jay「でも、KynoとNaomiとはどうやってコンタクトを取ればいいのですか。」

 

 女性「大丈夫。わが国政府は、すでに火星政府とは極秘で緊密に連絡を取り合っているの。KynoとNaomiが火星政府内で保護されていることも確認済みよ。彼らと遠隔会議システムをつなぐから、対応策を協議して欲しい。」

 

 Jay「わかりました。というか、なんだかわかりませんが、わかりました。やるしかないってことですよね。まあ、KynoとNaomiが何かを知っているのかもしれません。」

 

 数日後、Jayは遠隔会議システムで、KynoとNaomiと話すことができた。Kynoが説明する戦争を止める方法は非常に難解だったが、なんとか理解することができた。あとは、誰を消滅させるかだった。裏でこの戦争を遂行しようとしている個人を特定しなくてはならないのである。それについては、火星政府、日本国政府が全面的に支援してくれることとなった。また、日本国政府は、極秘裏にインドとEUとも連絡を取り合い、諜報活動を活発化させていた。すでに、中国とロシアの前政権の指導者達は、全員処刑されたとのことだった。いかに革命政府のメンバー達が凶暴かということが実感された。火星政府側にはかなり強力なサイキック部隊がおり、彼らの力も活用できるとのことだった。あとは、Kyno、Naomi、Jayが連携して、彼らを消滅させるだけだった。そして、最終決戦前に再び上の存在からの声が彼らに話しかけてきた。


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