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第21章 火星での再会

 Kynoはどこか冷たい地面の上に倒れていた。そこが一体どこなのか、わからなかった。頭が痛い。かすかな記憶が残っていた。たしか、Jayと神社にいて、そこで激しい地震にあったはずである。その後、気が遠くなって、何か誰からの声が聞こえてきて、体がふたつに引き裂かれそうな感覚があった。覚えているのは、そこまでだった。ふと頭を上げると、隣にNaomiが倒れていた。間違いなくNaomiだった。いそいで起き上がり、Naomiに息があるか確認した。Naomiは単に気を失っているだけのようだった。

 

 Naomi「Kynoちゃん。よかったまた会えて。」

 

 Kyno「ここは、一体どこなんだ?」

 

 Naomiはしばらく、周りを見ていた。そして、何かに気が付いたようだった。

 

 Naomi「ここは、火星の地下。ここは、火星の取水場。そう、250年後の世界よ。」

 

 すぐにEvieがやってきて、かれら二人を救出した。その後、すぐに二人別々の検査室に入れられ、各種の検査が行われた。まだ、火星の微生物やバクテリアなどが人体に及ぼす影響ははっきりわかっていないのである。数日間、隔離をされ消毒のプロセスを経た後、ようやく彼らは隔離室から出してもらえることになった。

 

 Lun「いや、Naomi君、心配したよ。いきなり部屋から消えて、そのまま数日間失踪していたからね。君が戻ってきたのは、われわれの能力でわかったから、なんとか救出に間に合ったが。」

 

 Naomi「ありがとうございます。自分でも、一体何が起きたのか、よくわからなくて。」

 

 Xin「その、同じ年くらいの男の子は、君の友人かなにかなのか。」

 

 Naomi「ええ、地球では同じ学校に通ってました。まあ、幼なじみのような関係です。」

 

 Ren「彼のことは知っているよ。以前、われわれを遠隔透視していた子だ。本人はそのことを知っているのかな。」

 

 Kyno「以前、夢で見たような気がします。夢で見たものが、実は現実だなんて。いや、250年後の火星にいるというのも信じられないです。」

 

 KynoはJayがいないことが気がかりだった。火星で出会った人たちに聞いても、Jayのことは一切知らないようだった。ただ、サイキック能力者である、Cheng兄弟は地球にJayの気配を感じると言っていた。どうやら、彼は日本にいるようである。250年後の火星ということで、Kynoには何もかもが初めて見るものばかりだった。そして、そのうち火星政府と地球勢力が独立をめぐって、対立しているという事実を知ることになった。

 

 Ren「地球側も意見が割れているようだ。日本、アメリカ、インド、EUは独立も仕方ないと考えているようだが、それに中国とロシアが反対しているらしい。」

 

 Kyno「いや、彼らは最終的には攻撃の準備を進めると思います。なぜか、そう強く感じるのです。」

 

 Xin「実際、先日電源装置の一部が破壊された。どの国の仕業かわからないが、われわれの独立を阻止しようとしている勢力がいることは間違いない。」

 

 KynoもNaomiと同様に、徐々に火星の生活に慣れていった。Kynoにとっても、Naomiにとっても、お互いの存在が心強かった。それに、火星政府の職人も彼らにとても親切に接してくれていた。ただ、ふたりともなぜか毎日の生活に違和感を感じていた。時々、自分たちが時空を離れた別の世界にいるような感じがしていたのだ。それが具体的に、どこの場所で、いつの時代なのかまではわからなかった。だが、地球のどこかで、はるか過去の世界にいるような感じがするのだ。今まで感じたこともないような違和感だった。Naomiは以前使っていた同じ部屋を使わせてもらっていた。Kynoも同じような部屋を別に用意してもらった。そして、彼らはふたりとも午前中は学習プログラムに参加し、午後はEvieの助手として働くことになった。

 

 Evie「今日は、ローバーに乗って、外の世界に調査にいくわよ。」

 

 Naomi「ローバーってなんですか。」

 

 Evie「まあ、荒れた道でも走れる、四輪の自動車ね。バッテリーで走るんだけど。」

 

 Kyno「何の調査に行くのですか。」

 

 Evie「実は、上空からのスキャン画像に奇妙なものが映っていて。割とこの近くなんだけど、それが何なのか確認しに行くの。」

 

 Naomi「ここからどのくらい時間がかかるんですか。」

 

 Evie「往復で、7日間くらいね。居住用の車両も手配してあるから大丈夫。どの車もドローンだから、自動運転なの。私たちは、車両の中で音楽でも聞いていればいいから。」

 

 Kyno「自動運転ですか。すごいなぁ。」

 

 Evie「そうね。250年前の世界だと、人が運転していたんだもんね。私はそっちのほうが信じられないけど。」

 

 途中、いくつかのポイントに立ち寄りながら、最終地点を目指した。Evieは、途中のポイントでいろいろとデータを採取しているようだった。KynoとNaomiにはよくわからなかったが、言われるがままに彼女の調査を手伝った。それにしても、空も大地も赤茶色一色の世界だった。かつては、青い空が広がっていたという説もあるが、それらはまだ詳しくわかっているわけではなかった。いくらローバーで走っても、代わり映えのしない景色が延々と続いていた。動く者は、彼らが乗ったローバーとドローン車の列だけだった。火星も一日は地球とほぼ同じ24時間と数十分くらいだった。ここには、昼と夜があった。夜になると、車列を止め、居住用車両に移り、そこで過ごした。遥か昔に地球の砂漠地帯をラクダで横断していたキャラバンの未来版のようなものだった。その居住用の車両内には、ダイニングもシャワーも装備されていた。食事は、アンドロイドのメイドが全て用意してくれた。火星では、かなり薄いものの二酸化炭素が主体の気体があった。よって、いわゆる地球の砂漠で発生するような激しい砂嵐みたいなものはなかった。火星にも衛星が二つあるのだが、ひとつは月よりも小さいもののなんとか肉眼で見ることができたが、もうひとつは他の遠くの星と見分けがつかないくらい小さかった。

 

 Evie「火星にも月があるんだけど、地球の月に比べると小さいのよ。肉眼ではひとつしか見えないけど、実際はふたつあるのよ。」

 

 Kyno「ひとつは見えますけど、確かに小さいですね。」

 

 Naomi「ところで、目的地にはいったい何があるんですか。何を調査に行くんですか。」

 

 Evie「実はわれわれの人工衛星からの画像分析によると、何か人工物のようなものが確認されたの。しかも、われわれの居住地域からかなり近い場所だったの。」

 

 Naomi「人工物。ということは、何か知的生命体がいる可能性があるということですか。」

 

 Evie「生体反応は見られなかったけどね。でも、生命体と言っても、われわれが想定可能な生命体の定義なんて宇宙規模でみたら、ほとんど当てにならないけどね。どうしても、われわれは地球発祥の生命体を基準に考えてしまうから。」

 

 Kyno「そうですね。われわれの想定をはるかに超えてくるような生命体がいてもおかしくないですね。でも、われわれ三人だけで調査に行くのは危険ではないですか。」

 

 Evie「一応、念のために、武装アンドロイドを同行させているの。あの後ろの2つの車両の中には、武装アンドロイドが格納されているの。」

 

 Naomi「え、そんなものが同行しているなんて知らなかった。」

 

 Kyno「ところで、その人工物って、一体どのようなものなんですか。」

 

 Evie「まだ人工物と決まったわけではないわ。ただ、衛星画像を見ると、四角錐のようなものが写っているの。ただ、かなりの部分が砂に埋もれていて、頂上だけが見えているの。」

 

 Evieは画像を居室内の壁面に映しだした。たしかに、表面が綺麗に研磨されたような四角錐が砂に埋もれているような画像だった。人工物と言われれば、そうかもしれないと思える物体だった。

 

 Kyno「大きさはわかるのですか。」

 

 Evie「砂に埋もれている部分ははっきりとはわからないけど、以前調査用ドローンを派遣して、超音波で埋もれている部分を見てみたら、高さは底面から800メートルくらいあるみたい。ただ、表面に出ている部分の高さは、地面から50メートルほどよ。」

 

 Naomi「800メートルの四角錐ですか。相当な規模ですね。」

 

 Evie「そう、かなりの大きさよ。地球のエジプトのピラミッドでさえ、150メートル弱くらいの高さだから。」

 

 Kyno「これが、本当に知的生命体の建造物だとしたら、大発見ですね。」

 

 Evie「そう、でもこの事実は当面は極秘にしておくことになっているの。だから、君たちも、この調査で目にしたものは口外しないように。」

 

 Naomi「わかりました。とはいっても、ここには誰も知り合いなんていませんから。話せる相手もいないし。」

 

 Kyno「そうだな。でも、これは考古学の調査になるわけですね。」

 

 Evie「これが人工物であれば、火星考古学という新しい学問分野になるわね。」

 

 Naomi「ところで、地球勢力との件は今どうなっているんですか。」

 

 Evie「私にも詳細はわからない。でも、聞いた話によると、地球側も意見がふたつに割れていて、まだ方針が決まっていないようよ。場合によっては、地球側の一部の勢力との戦争になるかもしれない。」

 

 Kyno「なんか、ここに来た時から感じるんです。いずれは、何か大変なことが起きるような気がするんです。」

 

 Evie「まあ、私たちは与えられた仕事を精一杯やるしかないわね。そろそろ寝ましょう。」

 

 Kynoはなかなか寝付けなかった。いきなり250年後の火星に移動し、いきなり惑星間戦争の危機だなんて、付いていないと思った。元の平和な世界に戻りたいと思った。唯一、心強いのは、Naomiの存在だった。Naomiもいろいろと戸惑っているに違いないが、なるべくそんな表情を出さないように振舞っている。

 

 数日後についに、その人工物と思われる四角錐にたどり着いた。外部に出るため、宇宙服を着て、調査用の機材を持って、外に出た。Naomiは車両内に滞在し、NとKynoの動きを遠隔で監視していた。念のために、武装アンドロイドを12体護衛につけた。まだもう一両の車両内には12体の武装アンドロイドが格納されているのだが、それらはリザーブとすることにした。小型ローバーにのって、少し丘のようになっている四角錐の頂上付近まで行ってみた。四角錐は、明らかに砂に埋もれており、その頂上の箇所だけが地表に出ている状態だった。話に聞いていた通り、約50メートルほどの高さの部分は、地表に出ていたが、下のほうは砂に埋もれているようだった。そして、その地表に出ている箇所についていた砂を除去すると、何やら見たこともないような文字がびっしりと刻まれていた。まるで、それらの文字は、昨日鋭い刃物で刻まれたかのように、切込み部の摩耗というものが見られなかった。いくら気体が薄いとはいえ、多少は砂での摩耗があるかと思ったが、そのようなものは見当たらなかった。

 

 Kyno「文字らしきものが見えますね。」

 

 Evie「見たこともないような文字ね。誰が刻んだのだろう。」

 

 Evieは、すぐにスキャナーで3次元のデータをとり、火星政府本部にデータを転送しているようだった。おそらく、火星政府本部のしかるべき部署で、3Dプリンターかなにかで復元作業が同時進行で行われているのだろう。とはいえ、50メートルの三角形が4面あるのである。かなりの作業量である。ただ、実際の作業はドローンにて自動的に実施された。2時間くらいで、地上に出ている部分に記載されている文字のデータ取りは終わった。念のために、放射能の反応も調べてみたが、放射線は出ていないらしい。どこかに、その巨大人工物に入れる入り口がないか調べてみたが、それらしきものは見当たらなかった。おそらく、地下に埋もれている部分を掘り起こせば、何らかの発見があるのかもしれないが、それはかなり膨大なエネルギーを必要とするだろう。そして、それらの見慣れない文字に混ざって、人の姿らしき絵も見られた。頭があり、胴体、両手・両足とあり、見た目はわれわれ人類とほぼ同じだった。ここには、人類と同様の進化を遂げた、知的生命体がかつていたのかもしれなかった。


 人の姿図は、3パターンあった。ひとつは男の赤ん坊の姿だった。赤ん坊なので男女の見分けが難しいが、男性器がついていたため、男の赤ん坊だということがわかった。そして、次は女性の姿だった。乳房のふくらみ、三角形型のふくよかな体形などから容易に女性の姿とわかった。その赤ん坊を大事そうに抱えていることより、おそらくその赤ん坊の母親なのだろう。そして、最後に掘られていた人の姿は、ある意味異様だった。体長がそばに掘られている女性の姿の3倍くらいあった。しかも、大きくて長い尻尾があり、体中に細かいうろこのようなものが見えた。顔つきは人間のそれではなく明らかに爬虫類のような面持ちなのである。長く横に裂けた口、細長い瞳孔、口の中にある鋭い牙、先端が二股に割れている長い舌などが見られた。いったい、この絵は何の場面なんだろうか。赤子とその母親の後ろには、馬らしき動物も描かれていた。彼らは、小さな小屋の中にいるような図だった。馬がその小屋のなかに見えたため、馬小屋だったのかもしれない。火星にも馬小屋というものがあるのだろうか。

 

 Evie「この絵は、処女懐胎の絵かしら。でも、このトカゲ人間みたいな生き物はなんだろう。」

 

 Kyno「Naomi聞こえるか。このトカゲ人間のことをデータベースと照合してくれないか、」

 

 Kynoが無線でNaomiに指示をした。

 

 Naomi「もう検索中よ。それは、古代の世界を支配していたと考えられている、レプティリアンという知的生命体にそっくりね。レプティリアンは爬虫類から進化してきたのではと考えられているみたい。」

 

 Evie「レプティリアンって聞いたことあるけど、あれは都市伝説かなんかじゃないの。」

 

 Naomi「いや、一部の生物学者の間では、実際に存在していたのではと考えられているようです。」

 

 Kynoは四角錐の絵があった面とは反対側の面も詳しく見てみた。やはり、反対側の面にも何か絵が刻まれていた。その絵は、ふたつの集団が戦っているような絵だった。一つ目の集団は、先ほどの爬虫類のような生物だったが、もうひとつの集団はほとんど普通の人間の男性と同じような外見だった。Kynoは表面の砂を払いのけ、その人間に似ている集団の外見をもう一度詳しく観察してみた。背の高さは、もう一方の爬虫類人と同じくらいだったが、彼らの手には指が6本あった。その人間と同じ外見の集団は、どの個体を見ても、指が6本あったのである。

 

 Kyno「Naomi、もう1種類、人に似た生物が刻まれている。画像を送るので検索を頼む。」

 

 Naomi「今見ているわ。なんか、人間と同じ外見みたいだけど。あれ。」

 

 Kyno「気が付いたか。指がさ、6本あるんだよ。」

 

 Naomi「本当だ。」

 

 Evie「ちょっと見せて。本当だ。彼らの手には指が6本あるわね。初めて見たわ。ちょっと見て、足の指も6本あるわね。」

 

 Kyno「本当だ。確かに、足の指も6本ですね。」

 

 それらの個体は、いわゆるサンダルのようなものを履いている者や、裸足の者が描かれていたが、確かに足の指も6本あった。

 

 Naomi「検索してみたけど、あまり詳しい情報は出てこないわね。なんか、ガトの巨人だとか、豊臣秀吉とかが出てくるけど。あとね、南米の壁画にもそういう手の模様が発見されているわね。」

 

 Evie「とりあえず、これらの画像のスキャンは終わったから、あとで専門家も交えて解析しましょう。」

 

 Kyno「ここに、何か骨でも埋まっているといいのですが。」

 

 Evie「ちょっと見て。何かうっすらと赤く光っている。」

 

 その四角錐は黒くて硬い石で作られているようだったが、その黒い表面の奥のほうが、何やらほのかに赤く点滅しているのが見られた。EvieとKynoは急いで、ローバーでその場を離れ、少し遠方からその様子を見てみた。確かに、その黒い四角錐はほのかに赤くあちらこちらが光っていた。遠目で見ると、かなりその様子がはっきりと見ることができた。

 

 Evie「もしかしたら、これは何かの装置なのかもしれない。遺跡なんかじゃなくて、現在でも稼働している何かの装置よ。」

 

 Kyno「とりあえず、ここから撤収しましょう。何か危険が迫ってきている気がします。」

 

 EvieとKynoは急いで、調査の拠点としている地点に戻ることにした。彼らの前方と後方は武装アンドロイドが警戒を続けていた。ただ、周囲には脅威になるような物は何も見えなかった。その時だった。EvieとKynoの目の前の大地が大きく歪んだ。そう彼らの視界がいきなり大きく歪んだのである。EvieとKynoは周囲を見渡した。後方には先ほどまで調査をしていた人工物があった。そして、彼らはそちらの方に目を向けた。そこには、完全な状態の四角錐がそびえたっていた。それは砂に埋もれておらず、空を突き破るかのようにそそり立っていた。その建造物の周囲には、いろんな人々が歩いており、まるで地球上の大都市のような風景が広がっていた。ただ、そこを歩いていた人々は、例のレプティリアンと思われる生物だった。彼らは、EvieとKynoには全く気が付かず、かれらの近くを通り過ぎて行った。そう、人によっては、EvieやKynoの体をすり抜けて行ったのである。Kynoは、これは幻に違いないと思ったが、幻にしては目の前の風景は明らかにクリアで、現実そのものに見えた。Kynoの耳に男性の声が響き渡った。

 

 上の存在「ここは10億年前の火星だ。」

 

 Kyno「10億年前。そんな昔にここには文明があったのですか。」

 

 上の存在「そうだ。今の地球よりもはるかに進んだ文明があった。」

 

 周りを歩いている古代火星人は、まるで爬虫類のような見た目だった。それは、先ほどあの人工物の表面に図示されていたレプティリアンだった。そして、いつの間にか、そこは戦場になっていた。レプティリアンと6本指の巨人が入り乱れて戦っていた。どちらも、縦と剣を持ち、さながら古戦場で両軍が入り乱れるかの如く激しい戦いを展開していた。かなりの数の死体が、遥か向こうにまで横たわっていた。投石器、弓矢、ハンマーなども用いられており、さながら中世の欧州での合戦のようだった。彼らは全く地球人とは異なる生物にも関わらず、あたりには血の匂いが充満していた。Kynoはだんだんと吐き気をもよおしてきた。

 

 Kyno「彼らは、どちらも古代の火星人だったんですね。今はどこに行ったのですか。」

 

 上の存在「彼らは、ここにいる。君たちとは違う世界の火星にいる。今も戦いを続けている。そう、まさに君が立っている、その場所でも戦いが繰り広げされている。」

 

 Kyno「このふたつの勢力が火星に同時に存在しているということですか。全く異なる外見をしているのに。」

 

 上の存在「6本指の巨人は地球から火星にやってきたのだ。そして、レプティリアンのほうが、火星で進化を遂げた固有種だ。君が見ている戦いは、侵略戦争なのだ。」

 

 Kyno「なぜ、彼らの姿が見えているんですか。」

 

 上の存在「君たちがアレを起動したからだ。」

 

 Kyno「あの四角錐のことですか。あれは何の装置なんですか。何かの装置じゃないんですか。」

 

 上の存在「装置であると同時に、あれはレプティリアン達の宗教施設だ。ここは彼らの聖地だ。」

 

 どうやらEvieには、この男性の声が聞こえていないようだった。彼女はただただその巨大な建造物に圧倒されているようだった。そのうち、気体が非常に薄いのにも関わらず、砂嵐が発生して、まわりが全く見えなくなってしまった。そして、砂嵐が収まったあとは、元の風景に戻った。

 

 Evie「なんだったのかしら。なんか、幻のようなものが見えたわ。戦いが見えた。恐ろしい殺し合いが。」

 

 Kyno「10億年前の火星の風景です。ここは、彼らにとっての聖地だったようです。」

 

 Evie「そう。あの方の声を聞いたのね。」

 

 Kyno「ええ、聞きました。」

 

 Evieはそのまま何もそれ以上のことは聞いてこなかった。再び、EvieとKynoは車両のあるところまで移動することにした。EvieとKynoは居住用車両の所にもどり、Naomiと一緒に大型のローバーに乗り込んだ。他の車両も後に続いた。とりあえず、ここから離れたほうが良さそうだった。そのうち、地面が大きく揺れてきた。

 

 Kyno「火星にも地震があるのですか。」

 

 Evie「地球ほどの大きな地震はないけど、軽めのものならあるわね。火震って呼ばれているみたいだけど。でも、この揺れは自然現象とは思えないわ。これは、おそらく人工的に作られた地震だと思う。

 

 Naomi「でも、ここにはわれわれのような地球から移住してきた人たちしかいないじゃないですか。われわれの仲間がそんなことをするなんて考えられないです。」

 

 Evie「地球からのサイキック攻撃とも思えないわね。もしかしたら、あの四角錐は今でも装置として稼働しているのかもしれない。」

 

 彼ら3人は、全ての車両を引き連れて、ひとまず火星政府の本部へと引き返すことにした。その間、火星政府内では、その四角錐の表面に記載されている文字の判読に全力をあげていたが、地球上のあらゆる文字と比べても、共通点のある文字が見当たらなかった。それと、あの爬虫類のような人間のような生き物はやはり古代の火星人だったのだろうか。あの母親と男の子の赤ちゃんは一体何者なのだろうか。そして、あの6本指の人類は本当に古代の地球からここ火星にやってきたのだろうか。彼ら3人には、ますますわからないことが増えたような感じである。

 

 Evie「まあ、まだ火星に人類が移住して200年くらいしか経っていないから、わからないこともたくさんあるわ。でも、あそこには生体反応は一切見られなかった。生物反応は無いってことね。」

 

 Kyno「あの四角錐の中が一体どうなっているのか気になりますね。おそらく、中に入れる入り口があって、中に巨大な空洞があって、その中にもしかしたら、われわれと同じ知的生命体がいるのではないかと考えちゃいますね。」

 

 その時、火星政府本部から緊急の連絡が入った。

 

 火星政府「地球側からの攻撃が確認された、至急本部に戻れ。」

 

 Evie「地球側が攻撃してきたってどういうこと。」

 

 火星政府「いいから、すぐに戻ってくれ。詳細は本部での会議で説明する。それと、現時点でわかっている情報をそちらに送信してあるから、道中確認しておいてくれ。」

 

 Evie「わかりました。なるべく早くそちらに戻れるよう尽力します。」

 

 火星政府「了解した。それでは、後ほど。」

 

 そこで連絡が途絶えた。ローバーに送られてきている資料を開いて見てみた。どうやら、地球のどこかの国が抜け駆けして火星にミサイルを放ってきたらしい。問題は、ミサイルを別世界で航行させてから、火星近傍でこちらの世界に戻してきたため、迎撃の時間がないとのことだった。ミサイルの第1陣は、なんとか全数迎撃に成功したらしいが、第2陣に関しては、さらに多くのミサイルを送り込んできており、ほとんど飽和攻撃に近いような感じだった。ただし、地球側の操作ミスもあり、第2陣は何もない荒れ地にミサイルが落ちたらしい。

 

 Naomi「さっきの地震は、このミサイルのせいなのかも。」

 

 Evie「そうかもしれないわね。でも、地球側の6大勢力がひとつにまとまっているなんて考えられない。おそらく、そのうちの1か国もしくは2か国がミサイルを自主判断で撃ち込んできたのでしょう。」

 

 Kyno「地球側も、ミサイルのワープ航法を開発したということでしょうか。」

 

 Evie「まあ、そういうことでしょうね。でも、われわれも地球側には、かなりの偽情報でかく乱しているから。おそらく、われわれの正確な位置を探るのは難しいはず。でも、向こうもサイキック能力者がいるらしいから、おおよその場所はバレているかもね。」

 

 数日後に彼らは本部に到着した。思っていたほどの被害はなかったが、いよいよ戦争が始まるのではということで、緊迫した空気に包まれていた。

 

 Evie「地球上のどの勢力からの攻撃なのですか。」

 

 Ren「おそらくわれわれの母国である、中国であろうというのが火星政府の見解だ。」

 

 Lun「ロシアも後ろで動いているらしい。この2か国は力づくで、われわれを屈服させたいらしい。まあ、彼らの歴史を見ても、納得できるがな。」

 

 Evie「われわれも、すでに別世界にかなりの数のミサイルを展開しているはず、全部ではないにしても、その一部だけでも、攻撃に使ったらどうですか。」

 

 Xin「まあ、それについては上層部の判断になるだろう。ただ、まずは直接的な軍事作戦の前に、地球側の他の国の意図を探りたい。日本、アメリカ、インド、EUはどのような対応をするのか、そちらが気になる。」

 

 火星政府の庁舎に戻ってから、二日間が経過した。KynoとNaomiはJayの所在がまったくわからなかった。KynoはJayとはあの神社までは一緒にいたのだ。あの神社で地震にあって、その後の彼がどこにいるのかさっぱりわからなかった。

 

 Lun「君たちの友人は、日本にいるよ。われわれには感じることができるんだ。」

 

 Kyno「今の時代の日本にいるのですか。」

 

 Lun「そうだ。今は日本政府にかくまわれている。おそらく、彼はいろいろと情報を持っていないか聞かれるだろう。」

 

 その数日後、火星政府内での会議が開かれた。

 

 火星自治政府外務大臣「で、地球側の各国の対応はどうなのだ。何かわかったのか。」

 

 火星人民軍将軍①「とりあえず、日本、アメリカ、インド、EUは今のところ、今回の軍事作戦には関与していないようです。」

 

 火星自治政府外務大臣「それでは、中国・ロシア連合軍からの攻撃ということだな。日本、アメリカ、インド、EUには、中立を保ってもらえるよう、何か条約の締結とかを進められないか。」

 

 元帥①「中立条約ですね。まあ、彼らを味方に引き込むことは難しいですが、中立を維持してもらうことは実現できるかと思います。」

 

 火星自治政府外務大臣「その4か国に駐在しているわれわれの大使に、その旨伝えよ。それと、外務省経由で中立条約の締結を打診せよ。」

 

 火星人民軍元帥②「われわれの諜報部門からの情報では、中国国内の権力争いがかなり熾烈になってきており、今回の攻撃は反体制派によってなされたものとのことです。」

 

 火星自治政府国防大臣「では、中国政府の指示で攻撃がなさせたわけではないのか。」

 

 諜報部「ええ、われわれが中国国内に潜入させている協力者からの情報によると、中国政府の知らないところで、今回の攻撃がなされたということです。」

 

 火星自治政府諜報局長「わが国のサイキック部隊は、何か情報をつかんでいるか。」

 

 Amit「ええ、どうもロシアと中国の反政府過激派が裏で暗躍しているようです。」

 

 そこで会議室内のモニターがいきなりオンになり、そこにアジア人の男性が映しだされた。

 

 Amit「日本政府から緊急の協議の申入れです。」

 

 日本国外務大臣「先ほど、中国とロシアで反政府組織が政権転覆を成功させました。どちらの国でも主要な政治家は、殺害もしくは監禁されているようです。」

 

 火星自治政府外務大臣「反政府組織ですと。われわれへの攻撃は、その組織が実施したということですか。」

 

 日本国首相「現在、われわれの諜報部門で情報収集中ですが、まずそう考えて間違いないでしょう。」

 

 火星人民軍将軍①「ずばりお聞きするが、地球側の6大勢力は、われわれとの戦争を準備されているのか。」

 

 日本国防衛大臣「わが国は、戦争の意図も意思もない。おそらく、アメリカ、インド、EUも同様だろう。中国とロシアは攻撃を準備していたが、その対応が生ぬるいということで、政権がひっくり返された。したがって、元々彼らは攻撃の準備をしていたが、その攻撃の時期が早まったと考えてよい。」

 

 火星自治政府外務大臣「なんてことだ。彼らは攻撃をするつもりだったが、その対応が十分でないということで、政権が崩壊したというのか。」

 

 日本国首相「そういうことだ。」

 

 火星自治政府外務大臣「われわれは、まずは日本、アメリカ、インド、EUと中立条約を提携したい。それは可能だろうか。」

 

 日本国外務大臣「わが国もそれを望んでいる。インドとEUも中立条約には賛成するだろうが、アメリカはどちらの側にもつかないだろう。」

 

 火星自治政府国防大臣「アメリカはわれわれに攻撃してくる可能性はあるのだろうか。」

 

 日本国外務大臣「はっきりとは言えないが、彼らには火星を攻撃する意図はないだろう。他国の戦争には全く関心がない。彼らは、彼らが攻撃を受けない限り、どちらの側にもたたないだろう。」

 

 火星自治政府外務大臣「まずは、貴国と中立条約を締結したいが、応じていただけるだろうか。」

 

 日本国外務大臣「わが国としては、応じるつもりである。それと、一度インドやEUとも話をしたほうが良いと思う。ただし、中立ではあるが、火星政府に協力して、中国やロシアを攻撃することはしない。」

 

 火星自治政府国防大臣「承知した。同盟ではないから、そこまでは期待していない。ただ、そちらで把握している情報をこちらにも共有してもらいたい。」

 

 日本国首相「こちらが火星政府に情報を与えたということは極秘にしてもらいたい。もし、重要な情報があれば、共有するが、そちらが何か情報をつかんだら、わが国にも共有して欲しい。」

 

 火星自治政府国防大臣「承知した。」

 

 日本側の首相、外務、防衛両大臣との協議は、とりあえず終了した。ただ、まだ火星政府として、この事態にどのように対応するかは、まだ決まっていない。ここで火星側が地球側に攻撃を加えたら、中国、ロシア以外の国からも反発を食らうかもしれなかった。とりあえず、もう少し情報を収集してから判断を下すことにした。まだ、火星側からは何も攻撃はしていないが、攻撃を受けたとして、地球側を非難する声明は出しておいた。一体、地球側で何が起こっているのか誰にも確実な情報はなかった。何か遠くからは知りようのない、権力闘争が起きているような感じだったが、詳細は何もわからなかった。

 

 一方、KynoとNaomiはそれぞれに当てが割れた部屋で毎日を過ごしていた。Jayのことが気がかりだった。だが、彼に連絡を取るすべがなかった。Cheng兄弟からの情報だと、彼も250年後の日本に来ているとのことだった。多分、彼も相当混乱しているだろうと思った。でも、なぜか近いうちに、Jayからなんらかの合図があると思った。別に何か根拠があるわけではなかったが、絶対に彼から何らかの手段で連絡を取ってくるはずである。Kynoはそれまで待つことにした。ここでジタバタしても仕方がない。

 

 だが、連絡をとってきたのはJayではなかった。驚いたことに、Kynoの脳内に侵入してきて、彼の思考に話しかけてきたのは、なんとKyno自身だった。ある夜、シャワーを浴びてから、部屋で深く瞑想をしているときだった。辺りはなんの音もなく、空気の揺らぎもないほどの静寂だった。彼の心臓の音だけがほのかに聞こえてきていた。彼は、深く呼吸しながら、瞑想を続けた。

 

 Kyno「Kynoよ、今から見せたいものがある。」

 

 Kyno「驚いたな。まさか自分自身からコンタクトがあるなんて想像もしてなかったよ。」

 

 Kyno「そうだな。俺は、そこにもいるし、ここにもいる、そしてあそこにもいる。」

 

 Kyno「別の俺はいったいどこにいるのだ。」

 

 Kyno「もうわかっているだろう。俺は3つに分かれているのだよ。火星と欧州と日本に平行して存在しているのだよ。」

 

 Kyno「そうだな。わかっていたよ。1940年の欧州、2233年の火星、そして1984年の日本だ。」

 

 Kyno「そうだ。欧州と火星にいる自分はアバターなのだよ。本当の俺は、1984年の日本で高校生をしている。」

 

 Kyno「そうだ。しかし、バグを修正するのは大変そうだな。」

 

 Kyno「そうだな。NaomiとJayがいるが、所詮彼らも自分の分身だしな。全員、敵も味方も自分の分身なのだよ。」

 

 Kyno「一体、俺が存在しているこの世界はなんなのだろうな。」

 

 Kyno「仮想世界だよ。もう知っているだろ。俺は、シミュレーションなのだよ。俺が注意を向けた世界だけが、いかにも世界が実在しているように動いている。でも、俺の目が届かないところは、何も動いていないし、虚無の世界が広がっている。ずっと昔から知っていた。ただ、気づかないふりをしてきただけじゃないか。」

 

 Kyno「そうだな、俺というシミュレーションを動かしている実在が神ってわけか。時々、その実在からの声が聞こえてきて、俺の行動に干渉してくるよ。」

 

 Kyno「もうバグを修正する方法はわかっているよな。」

 

 Kyno「ああ、わかっている。1を消すには-1を用意する。そうすれば、0になる。そういうことだろ。」

 

 Kyno「ああ、そうだ。考えてみたら、単純な話だけど、仮想世界全ての-1を持ってきたら、その仮想世界自体が消滅してしまう。まあ、バグの修正だからな、プログラムの全面書き換えじゃないからな。」

 

 Kyno「Jayは日本でどうしている。」

 

 Kyno「Jayは日本政府にかくまわれている。彼は大丈夫だ。まあ、彼も俺の分身だがな。」

 

 Kyno「そうか。それで決行はどうするのだ。」

 

 Kyno「また、上の存在から声がするはずだ。それに従えばいい。俺は駒なのだよ。だから、駒として動けばいい。」

 

 もう、全ての駒の配置が終わったように思えた。あとは、実行するだけである。

 


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