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第19章 地球勢力軍

 地球勢力軍は、6大勢力による連合軍勢力であった。設立の目的としては、宇宙空間の共同管理、火星と月への前線基地構築、その他の国の宇宙進出の阻止などがある。ようするに、地球内の6大勢力で宇宙空間を独占し、その利権を分配することにあった。設立以来議長国は、日本がつとめていた。すでに、月への前線基地の構築は軌道に乗りつつあり、月にもかなりの軍事ユニットが展開済みだった。地球勢力軍とはいっても、各国は政治的には独立しており、独自の軍も持っていた。ただし、すでに6大勢力内では共通通貨である円を使用しており、軍事に関しても軍事同盟が結ばれていた。ただし、この軍事同盟は地球上での戦争には適用されず、宇宙での戦争にのみ適用できるものであった。目的としては、すでに数百年前から地球の上空を飛来している未確認飛行物体からの攻撃に備えること、および月と火星の植民地を軍事的に地球勢力の管理下に置くことであった。現在の懸念事項は、火星における独立の気運の高まりであった。


 地球側も、いろいろと外交交渉でこの局面を乗り越えたいと考えているではあるが、一部の好戦派勢力が火星が独立を宣言する前に、軍事的に介入すべきだと主張していた。日本国代表団としては、惑星間戦争はできれば回避したいと考えていた。6大勢力内では、日本、インド、欧州、アメリカは穏健派を形成していた一方、中国、ロシアはすぐにでも軍事的な介入を求めていた。すでに、レアアースは火星側に100%依存しているほか、金、銀、ダイアモンド、プラチナなどといった貴金属や宝石類も、火星で採掘できるものは純度が高く、地球内での需要も高かった。合わせて、火星側でしか製造できない、いくつかの合金類もあった。特に、火星の軌道上に製造された合金製造施設では、重力が無い分、合金の混合に全く偏りがなく、高品質の合金の製造が可能である。これは、火星が技術的にかなり進んでおり、地球側はまだキャッチアップできていない分野だった。


 地球勢力側の分析では、火星側の技術者はすでにミサイルを別世界にて移動させ、地球に十分接近したところで、こちらの世界に戻すという技術(ワープ操法)を確立しつつあった。地球側も同じ技術の開発を進めているが、こちらの技術に関しては、火星側のほうが進んでいるということを認めざるをえなかった。この技術が汎用技術にまで進化した場合、非常に地球側としては不利だった。今のところ、火星側にはスパイを経由させたり、偽情報の意図的なリークなどを駆使して、地球側の技術のほうが進んでいると認識させようとしているが、そんな子供じみた方法がいつまで通じるかわからなかった。通常戦力であれば、かなりの物量差があり、地球側が有利なのだが、ワープ操法と核ミサイルの組み合わせで攻撃をされると非常に不利になりうる状況だった。

 

 RUS「これより、地球軍の定例会議を開始します。本日の議長を務めます、ロシア連邦のOです。」

 

 地球連合軍内では、火星の独立の機運の高まりを受けて、毎週定例会議が開かれていた。この日の会議の議長は、ロシア人のOだった。

 

 RUS「火星勢力の独立分子どもは、こちら側の要求に対して、あくまでも拒否する姿勢を崩しておりません。彼らのワープ操法が完成したら、こちらはかなり不利になるため、独立勢力排除をするのであれば、今が適当かと思われます。われらロシア軍より惑星間航行用の空母ユニットを派遣することができます。みなさんの国からも空母ユニットを派遣していただければ、独立勢力の排除は可能かと思います。」

 

 空母ユニットとは、小型飛行艇を数十機搭載した宇宙航空母艦で、海の上を航行する航空母艦とほぼ同じような働きをすることから、こちらも空母と呼ばれている。他の宇宙船何隻かと一緒に航行し、遠方への攻撃を仕掛けるのである。ミサイル発射に特化した船、別世界へのワープ操法を受け持つ艦、火星上陸時にあちらに展開する兵士を乗せた艦など、いくつかの艦船に分かれるが、それぞれの艦は司令官の乗る司令艦からの指示によって、一体的な戦闘を実施することになっている。

 

 IND「いや、できれば直接的な戦闘は避けたい。サイキックチームの状況はどうなんでしょうか。」

 

 CHN「先日、火星側の電源インフラの一部を破壊することに成功しましたが、サイキック戦だけで、彼らを軍事的、経済的に追い込むのは難しいでしょうね。」

 

 JPN「まだ、抜け駆けの攻撃開始は止めていただきたい。交渉の余地は残しておきたい。まずは、やはり話し合いではないでしょうか。」

 

 CHN「いや、そんな生ぬるいことを言っているから、彼らがつけあがるんですよ。我が国としては、一気に軍事侵攻のうえ、彼らの中の独立分子を捕らえるのが一番の解決策と考えます。」

 

 RUS「中国に同意します。物量的には、われわれのほうが圧倒的な戦力を持っています。もうぐずぐずする必要はないかと。」

 

 USA「日本に同意します。われわれは、戦争の前に、やはり外交的な解決を目指すべきではないか。彼らの外交団と月もしくはどこかの人工衛星での話し合いを持つべきではないだろうか。」

 

 EU「戦争は望みませんね。まずは外交交渉が定石ではないでしょうか。直接の軍事行動は向こう側に誤ったメッセージを送ってしまう。われわれは、あくまでも貿易の再開を望んでいるだけですから。」

 

 地球側の全人口は、環境負荷も考慮し、ここ200年におよぶ人口抑制政策により、約8億人にまで減少してきた。その後は、その人口があまり変動しないように、各国協力のもと人口レベルを一定に維持する政策がとられていた。すでに、CO2を吸収する金属触媒の開発により、空気内のCO2濃度もかなり精度よくコントロールできるようになっていた。また、淡水、海水ともに、大掛かりな清掃船団による清掃活動により、200年前とは比べ物にならないくらい美しい海、川、湖が戻ってきていた。人間の活動領域を意図的に限定することにより、人間居住区域と野生居住区域は物理的にわかれており、過去には絶滅が危惧されていた様々な種の生物が再度繁殖することに成功している。


 エネルギーに関しては、核融合による発電に成功したため、ほとんど環境に負荷をかけることなく、莫大なエネルギーをまかなうことができた。また、地球内で過去に発生した、有害物質については、輸送コストが劇的に下がったロケット技術によって、地球外の廃棄物処分エリアに飛ばすことになっていた。これによって、過去からの負の遺産であった、核廃棄物の最終処分方法が確立された。それらの危険物質の除去についても、すでに人型ドローンによるこまかな作業が可能となっており、日本やウクライナにある過去に大事故を起こした原子力発電所の廃棄物は全て撤去され、廃棄物はすべて宇宙空間に廃棄された。もはや、核融合の発電方法がほとんどの国のエネルギーをまかなっており、エネルギー問題はいったんは解決されていた。その分、かつては経済的に石油、石炭、天然ガスの輸出に大きく依存していた国々の凋落はすさまじかった。それらの国では、資源から得られる莫大な富に依存していたため、人材開発が極度に立ち遅れており、核融合が普及するにつれ、経済的に立ちいかなくなっていた。いまや、化石燃料は環境破壊の素になるということで、世界的にその使用が禁止されている。よって、かつての産油国はこの国際世界で経済的に生きていく術を失い、また人材教育もおざなりであったため、国際的に競争力のある人材も極度に不足していた。もはや、地政学的にも重要度が極度に下がり、経済的なお荷物状態になりつつあった。


 そんななかで、6大勢力はそれぞれ独自に、核融合によるエネルギー抽出技術に成功しており、各国ともエネルギー問題に関しては、自給自足体制を整えつつあった。もはや、日本、インド、中国、EUなど、以前であれば莫大なエネルギーを他国から調達していた国々は、自前で全ての必要エネルギーを賄えることになった。かつての産油国は、地球内での存在感を大きく失い、かつて栄華を極めたペルシャ湾岸諸国の都市は荒れ果て、ほとんどゴーストタウンとなりつつあった。


 火星自治政府の独立問題に関して、6大勢力は東京で代表団会議を行うことになった。東京での国際会議は、通常は通称クリスタルと呼ばれる、空中に浮遊しているピラミッドをふたつ重ねた形状をした建造物の中で行われている。上のピラミッドは頂点が上向きであるが、下のピラミッドは下向きになっているのである。よって、一番下の部分も頂点となっている。今回も、各国代表団がクリスタルに集結した。東京は、過去300年の間に4回大地震に見舞われ、かなり壊滅的な破壊を経験した。よって、政治的に重要な施設は、空中に浮遊しているクリスタル内に入れることとなっていた。東京だけでなく、北から札幌、仙台、横浜、名古屋、大阪、京都、神戸、広島、福岡、那覇にもクリスタルが建造されていた。クリスタルは移動することも可能で、また外部からの攻撃に対する防御施設も充実していた。会議は非公式会議となり、秘密裡に東京のクリスタル内の会議場で開催された。

 

 JPN「そういえば、先日我が国の能力者が、過去の世界からわれわれの世界に紛れ込んだ者がいるとの報告がありました。」

 

 CHN「わが国でも把握しております。日本にいるようですね。彼をどうするつもりですか。火星側から送り込まれたスパイですか。」

 

 JPN「まだわかりません。今はしばらく様子を見ておりますが、ある神社で誰かと話している様子がセキュリティーカメラで撮影されております。ただし、彼の前には誰も映っておりませんでした。一度、彼を確保しようかと思っております。」

 

 RUS「火星の問題に戻りましょう。火星が先制攻撃を打ってくる前に、われわれも別世界の時空内に兵力を展開しておいたほうが良いと思います。」

 

 CHN「そうですね。もしいきなり彼らがワープ操法を使って、こちらを攻撃してくることを想定した場合、こちらもすぐに反撃できるような体制は事前に整えておくべきです。」

 

 JPN「別世界のことですが、彼らがどの別世界に部隊を展開するかわからないでしょうか。なんなら、こちらの世界ではなく、別の世界での戦いとしても良いのでは。」

 

 IND「難しいでしょうね。われわれは、彼らがどの世界に兵力を一時的に置いておくか、知りようがない。並行世界の数は80兆と言われております。80兆から具体的にどこかのひとつの世界に絞り込むのは、ほぼ不可能です。ただ、逆に言えば、この事実はわれわれの強みにもなりえます。」

 

 USA「先ほど、過去の別世界から来た者が日本にいるとのことでしたが、一度彼を確保して、何か知っていることがないか尋問してみてはいかがでしょうか。もしかしたら、なんらかの意図をもって、どこかの世界から送り込まれている可能性があります。」

 

 JPN「そうですね。われわれもそのように考えております。」

 

 RUS「それで、結論としてはいかがですか。」

 

 その後、多数決で次のようないくつかの案が採択された。

 

 ① 日本国内の過去の世界からやってきた人物を確保、尋問する

 ② まずは、適当な別世界にドローン船団を送り込み、火星近傍にて待機させる

 ③ 火星自治政府側との外交交渉を打診する

 ④ サイキック能力者と火星現地に送り込んだスパイからの情報収集と分析を続ける

 

 USA「日本に来ていると思われるその能力者の具体的な所在地はわかっているのですか。」

 

 JPN「ええ、すでに彼がどこに現れているのかはわかっております。ひとりのエージェントを派遣しております。間もなく彼は確保できるでしょう。」

 

 EU「そうですか、われわれからも専門家を派遣しますので、情報は共有していただきたいですな。」

 

 JPN「いや、それはお断りいたします。情報の共有はいたしますが、この人物の尋問はわれわれの手で行います。」

 

 議場は少しざわついた。

 

 RUS「わが国の懸念事項もあります。できれば、われわれの懸念事項を彼に問いただしてほしい。」

 

 JPN「わかりました。それでは、明日の正午までに書面で質問事項をわが国の外務省宛てに提出していただきたい。後日、回答できる事項があれば、書面で回答しましょう。」

 

 会議は当たり障りなく終わった。特に結論は出ずに、まずは日本に現れた、例の過去からやってきた人物からの事情聴取を実施することになった。日本側の代表団は、議場から代表団の控室に引き返した。

 

 JPN代表団①「その神社に現れた人物は確保できたのか。」

 

 JPN代表団②「先ほど、報告がありました。無事にその人物を確保し、ただいまクリスタルに向かっているとのことです。まだ、中学生から高校生くらいの男の子供だそうです。」

 

 JPN代表団①「子供なのか。何か聞き出せそうか。」

 

 JPN代表団②「いや、まだわかりませんね。ただ、彼の確保に向かわせたエージェントはわが国の諜報部では一番のエリートです。彼女なら、何か引き出してくれるとは思いますが。」

 

 JPN代表団①「だといいが。まあ、数日間は様子を見てみよう。」


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