第15章 再び神社
神社の石灯籠にあの印を見つけた、JayとKynoはそこからどうすれば良いかわからなかった。だが、そのうち石灯籠のその三角形を2つ重ねた印が碧く光出した。
Jay「おい、見ろよ。この印がなんか光っているぞ。」
Kyno「うわ、本当だ。これどういう意味なんかな。何か知らないか。これが光ったら、何かが起きるとか、お前何か知っているんじゃないか。」
Jay「いや、わからない。この印が何か重要な意味を持っているらしいってことだけはわかるけど、実際何なのかなんて知らねえ。」
Kyno「でも、これは何かの前兆だよ。何かが起きようとしている。ちょっとこのまま待つか。」
Jay「そうだな。待つしかないだろう。それにしても、気味悪いな。」
Kyno「なんか、地面が揺れていないか。」
Jay「地震か、いやこれは地震だよ。」
ふたりは、とっさに神社の敷地の少し広い場所に移動した。石灯籠の側だと、灯篭が倒れてくる可能性があったからだ。揺れはどんどん激しくなり、木々に留まっていた鳥たちがものすごい声をあげて、飛び立って行った。付近の木陰や、建物のなかから、一斉にネズミが這い出してきて、どこかに走り去っていった。神社の本殿も拝殿も激しく揺れていた。そのうち、瓦が落ちてきた。まわりの世界がぐるぐる回っているように見えた。いや、世界が回っているのではなく、Kynoの意識だけがぐるぐる回っていたのかもしれない。いずれにせよ、なぜかどんどんと意識が遠のいていくのを感じた。Jayの叫ぶ声が聞こえたが、その声もどんどん遠くなっていった。まるで、麻酔が少しずつ効き目を発揮しだして、そのまま意識が遠のいていくような感覚だった。空が見えたが、空はどこかに飛び去る鳥の群れで、真っ黒に見えた。無数の黒い点が、空一杯に広がり、太陽の光さえさえぎるような感じだった。鳥に遮られ、辺りは薄暗くなっているほどだった。やばい、どこかに引き込まれると心の中で叫んだが、何の気休めにもならなかった。なぜか、Naomiの顔が頭の中に浮かんだ。あいつは一体今どこにいるんだ。
すごく、長い時間が流れたような気がした。そう、何百年なのか何前年なのかはわからないが、すごく長い時間のかたまりが、一気に彼の脇を通り過ぎていくような感覚だった。時間が物質のかたまりだったということを、その時初めて知った気がした。いや、時間は物質ではないではないか。でも、なぜか時間が物質のように感じられた。しかも、ぎゅっと圧縮された物質としての時間だった。それは、彼の意思をまるでせせら笑うかのように、濃厚な塊となって、Kynoの横を過ぎ去っていった。そう、彼は確信した。彼の横をすり抜けていったあの物質の塊は間違いなく時間の塊だった。時間の塊ってなんだ。時間が物質ってどういうことだ。彼には理解ができなかったが、彼は自分の感じたものが何なのか確信できた。時間は質量を持ち、そして信じられない速度で移動していく。いや、時間が移動したのではなく、自分が質量を持った時間の塊の横を高速で移動したのかもしれない。どちらが移動して、どちらが停止しているのか、相対的な位置関係のため、はっきりとはわからなかった。どちらも、移動していたのかもしれない。でも、どの方向に移動しているのだろうか。その移動速度は、なぜか光速だということがわかった。なぜ光速なのか、全く説明はできなかったが、光速で時間の塊とKynoは離れていった。そして、そこには虚無の世界が待っていた。時間もなく、質量もなく、光もなく、何も無い世界。そして、そこには意思だけが存在した。だが、一体誰の意思なのだろうか。その意思は善意を持ったものなのか、それとも悪意を持ったものなのか、Kynoには知る由もなかった。ただ、その虚無の世界では、何者かの意思だけが存在していた。そして、その意思は偏在なく存在していると同時に、その場の中心部に点としても存在していた。もはや、彼自身も実体を持った存在ではなかった。Kynoは何か叫ぼうとしたが、予想通り無駄な努力だった。音さえも、光さえも、時間さえも失われた世界。そのうち、Kynoは自分の体がふたつに引き裂かれるような感覚を感じた。痛くはないが、確かに自分の体がふたつに分裂している。だが、その世界ではもはや物質的な存在は無いはずだった。そう、自分の体さえも存在しない世界。それなのに、感覚だけはやけにはっきりしていた。そして、どのくらい時間がたったかわからなかった。永遠のような気もするが、ほんの一瞬だったような気もした。
上の存在「もうすぐNaomiにたどり着くだろう。」
機械的な男性の声が頭の中に響いた。もはやそこは音のない世界であり、物理的な音としての音声は響かない場所なのである。
Kyno「こんな状態で、何をどうすればいいんだ。おまえは誰なんだ。ここから出してくれ。」
上の存在「君はもうそこから出ている。ただ、君がその世界を認識しようとしていないだけだ。」
Kyno「どういう意味なんだ。ここから出て、俺は一体どこにいるっていうんだ。」
上の存在「君は、過去に起こった大きなバグを修正しに行くのだ。そして、すでに君とNaomiとJayは、すでにそこにたどり着いている。あとは、君たちに仕事をしてもらうだけだ。」
Kyno「バグってなんだよ。俺が何を修正するって言うんだ。全くわからねえよ。」
上の存在「君の世界で起きた、過去の不幸なバグを修正するんだ。それは君の責任だ。君がその世界の唯一の実体だから。そして、それが片付いたら、今度は未来に発生するバグを修正してもらう。」
Kyno「唯一の実体ってなんなんだ。俺の責任。俺は何も悪いことなんかしてねえよ。責任とらされるような悪事を働いた覚えはねえよ。過去のバグに未来のバグ、一体何を話しているんだ。」
上の存在「いや、君の意識では何も責任がないということになっているが、無意識ではそのことを認識していることになる。君は止められなかった、あの悲惨な2つの惨劇を。」
Kyno「無意識。2つの悲惨な惨劇。何のことかさっぱりわからない。」
上の存在「君は今からNaomiとJayと協力して、あるふたつの民族を救済しに行くのだ。その出来事は君の世界における最大のバグだ。あのようなバグをそのまま放置することはできない。それは過去のバグだ。」
Kyno「だから、そのバグっていうのは何なんだ。さっきから意味のわからねえことばかり一方的に喋りやがって。そもそもお前は誰なんだよ。」
上の存在「君たちを作った者だ。君たちは、私の創造物だ。君らは仮想世界の住人だが、まあそんなことは知りようもないが。過去のバグの修正が終わったら、次に未来のバグを修正してもらう。」
Kyno「いや、未来のバグって。未来のことなんかまだ起きてねえし、修正も何もねえだろう。」
上の存在「この世界には、過去、現在、未来が混在して存在している。時間という概念は君たちだけが持っているものだ。それは、便宜上導入している概念に過ぎない。ただ、君に説明するために、その仮定の概念を使っているだけだ。」
Kynoはその声の主が何を言っているのか、さっぱりわからなかった。時間はたんなる概念で、便宜上導入しているってどういうことだろうか。過去、現在、未来が混在して存在?バグを2つ修正する。何ひとつ彼には理解できることがなかった。ただ、なぜかもうすぐNaomiに会えるような気がした。だが元の世界ではない、別のどこかで彼女に会えるような気がしていた。もう彼は何も怖くはなかった。わかったよ、それじゃあその世界に行って、そのバグを修正してやるよと心の中で思った。そして、再び彼の意識がどんどん遠のいていった。
どのくらいの時間がたっただろうか、なぜか寒い。そう、猛烈な寒さが彼を襲った。さっきまでは、何も温度なんか感じなかったのに、今は凍えるように寒かった。そして、彼の右手をだれかの温かい手がぎゅっと握ってきた。柔らかくて、温かい手だった。誰だろう、ここには自分以外誰もいなかったではないか。Jayもどこかに消えてしまっていたし。あの虚無の世界には、彼以外誰も存在していなかったではないか。でも、誰かが手を握ってきている。そうか、あの虚無の世界を彼は抜け出したようだった。でなければ、寒さも温かさも、そして人の手の感触も、感じないはずである。それが感じられるということは、自分がまともな世界に戻ってきたということだった。でも、どの世界に戻ってきたと言うのだろうか。元の世界では、こんな寒い季節ではなかったはずだ。その後に行った、Jayと再会した別の世界でも、こんな寒さはなかった。だとしたら、この世界はどこの世界なのだろうか。だんだんと、声が聞こえるようになってきた。誰かが、俺を呼んでいる。女性の声だった。誰だろうか。そう、Naomiの声だった。Naomiが俺を呼んでいる。まだ視界が暗い。そのうち、だんだんと視界がクリアになってきた。ここはどこだ?まわりはうっすらと雪が積もっていた。NaomiがKynoの手を引いていた。早く、早くと急き立てていた。痛い。なんだ、この痛みは。痛いというよりも、熱いと言った方がよいような鋭い感覚。周囲が騒がしい。怒声と悲鳴が飛び交っている。なんか、出血しているような感覚があるが、体のどの部位かもわからない。Naomiが何やら大声で話しかけていた。それにしても、恐ろしく寒く、しかも耐え難いほどの空腹を感じた。痛み、飢え、寒さ。ここはどこだろうか。




