彼女を狙う人形
和哉は声のもとに懐中電灯を向ける。
そこにあったものは、首が90度ほど回転した身長20センチメートルほどの布でできた人形だ。目にボタンが縫い付けてあり、口は片方につり上がるように縫われている。見るからに趣味の悪い綿人形と思われるその物体は、人の様にそこに立っていた。
「理系ノ男ト言ウノハ、理論ダケデ話シタガル癖ガアル。モット、理論以外ノモノニモ目ヲ向ケルベキダ」
「誰だ」
「誰ダトハ、君ハ自分ガ敵ニ回シテイルモノサエモ知ラナイトイウノカ?マッタク、アノ鬼女ハ何ヲ考エテイルンダカ」
「鬼女……、錐香のことか?」
「錐香ァ?アァ、アノ駒ノコトカ。ソウイエバ、君ノ妹ダッタネ。猪苗代和哉クン」
「駒だと」
和哉は人形の方に近づいていき、人形を摘み上げる。
「てめェ、錐香を駒と言ったか?」
「マァマァ、ソウ熱クナルナッテ。君ノ目的ハ何ダ?目ノ前ニ寝テイル娘ヲ殺スコトデハナイノカ?」
「あぁ?何を言って……」
その時、和哉が懐中電灯を黒夜瞳の眠るベットに向けた時、黒夜陽太が黒夜瞳の首に手を当てているところを見た。一瞬何をしているのか分からなかったが、陽太の力んだ振るえと瞳の苦しそうな表情から事態を把握した。陽太が瞳の首を絞めていた。
「っ!何やってんだ!?」
和哉は人形から手を離して、陽太の手をどかそうとする。しかし、予想以上に強い力で離すことができない。眠っている瞳が苦しそうに悶える。
「っち!何やってんだよ!!」
和哉は陽太の体を押し倒すように突き飛ばした。首から手は離れ、和哉は陽太に馬乗りになりながら陽太の肩を掴んで叫んだ。
「おい!!何やってんだよ!?おい!おい!!」
陽太の返事は無く、眼がどこを見ているのか、焦点が遠くを見ていた。
「ソウダ、何ヲヤッテイル?目的ヲ邪魔スル者ハ、ドウスルベキナノダネ?」
人形の言葉に陽太がばね仕掛けの様に手で和哉の首を絞める。陽太の眼は見開かれ、そこには殺意と恐怖が映っていた。
「がはっ……、くぁ……」
陽太の手をどけようとしても離すことができない。相当の力で首を絞められているのがわかる。
うぁ、い、意識が……。
「どうした?それでもあたしの見込んだ男か?」
病室のドアを開いたのは、錐香を担いだ稗畑先輩だった。




