彼女の命のやり取り
「誰!?」
陽太の叫びに近い問いかけに、女は狂ったように笑う。
「アハッ、私ィ?私は『鬼面』だよォ。そこのガキを殺しに来ましたぁ」
そう言って、その女は虚空に消える。
そこのガキを殺す?『そこの』ということは、私ではなくお姉ちゃん。そして空間移動。
陽太の脳裏に最悪の結果が駆け巡る。陽太はお姉ちゃんを守るために懐中電灯を投げ出し、机に突っ伏した状況の黒夜瞳に覆いかぶさる。
空間を飛ぶ錐香は、机に突っ伏した状況の黒夜瞳の後ろに空間移動する。隣にいた女が、黒夜瞳に覆いかぶさろうとしているが気にしない。錐香は自分の右腕を空間的に強固な状態にして、2人共々貫こうとした。
が、そこで錐香は空間移動独特の空間的知覚で、この病室の1つしかないドアから高速で人間大の物体が跳んでくるのを感知した。物体はまっすぐ錐香に突っ込んで来る。このままでは2人を貫く前に、こっちが吹っ飛ばされてしまうと反射的に空間移動で距離を離した。
陽太は窓が無い病室に暴風が吹くような音を聞いた。それは陽太のすぐ横を通り過ぎて行ってしまう。
「大丈夫ですか?さあ、こっちです」
少し遅れて男の声と共に懐中電灯の光が2人を照らした。男は陽太や瞳と同い年くらいの男子で、兵隊が着ているような黒っぽい防弾チョッキを白っぽいティーシャツの上から着ている。
「お姉ちゃんが、お姉ちゃんが!」
瞳は机に突っ伏したまま動かない。男は瞳をお姫様だっこして、出口に向かう。
「さあ、早く。先輩があいつを引きつけてる間に」
陽太は瞳を担いだ男子と共に、窓のない病院の廊下を走る。病院の照明はすべて落ちていて、彼らの行く手を照らすのは男が持っている懐中電灯の明かりだけだった。




