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9 過去の呪縛

前回予告しましたが、今回の話はアキラの子どもの頃の性被害の話が出てきます。

子どもの被害は親が思いもよらないところで起きていることをわかって欲しい気持ちもあり書きました。できるだけ生々しくならないようには配慮しましたが、不快に感じる方がいましたらすみません。


私にも息子がいます。

息子には小さい頃から自分の身体を守るように話をし、もし信頼している大人や友達でも身体を不必要に触ってきたり、おかしいと思ったら逃げたり助けを求めたり、私に必ず話をするように伝えています。

 礼から新規の依頼があり、このままレムリア国内に留まると連絡があった。

 予定について調整したり調べたりとやることはあるが、そこまで時間を取られるわけではない。


 ヴェスは作業外の時間になると、礼の言葉が頭の中に響いてきて落ち着かなくなった。


『ヴェスには対応無理……、絶対無理! なんだかアキラがかわいそうに思えてきたわ……』


 何度も何度も、響いてくる言葉に、ふと気が付いた。


 違う、俺がアキラに対応しているんじゃない。

 アキラが俺に対応して、くれていたんだ……。




   ◇ ◇ ◇



 

 ヴェステラントとアキラが初めて会ったのは6歳の時だった。

 父アスランの親友のシリウスおじさんが4歳の子どもを連れてくると聞いてワクワクしていたことを覚えている。


 やってきたアキラは想像していた弟分的な男の子ではなかったけれど、きれいな子だったし、泣いたりわめいたりしないおとなしい子だったので、まあよし、と思ったぐらいだった。


 シリウスおじさんが仕事の時にアキラがヴェスの家に泊まることが増え、一緒に遊ぶようになると、けっこう頑固だったり、細っこいくせにすばしっこかったりといろいろな面が見えてきた。

 見た目からの意外性もあって、なかなか面白い奴だと思うようになった。


 アキラもヴェステラントのそばにちょこんといることが多く、別に一緒に何かしているわけでもないのに、本を読んでいるヴェステラントのそばでアキラが絵を描いていたり、違う本を読んでいたりということがよく見られた。


 ヴェステラントのことをヴェスと最初に呼んだのもアキラだった。


 間もなく、ヴェスとアキラは一緒に本を読んだり、転げまわったりして遊ぶようになった。


 1年後、アスランの勧めもあり、アキラはヴェスの家で暮らすことになった。

 周囲の大人からは『兄弟みたいね!』と言われ、お兄ちゃんとして褒められることの多いヴェスは悪い気はしなかった。



 アキラが6歳の時のことだ。

 アキラには主治医がいた。ヴェスもアキラが特殊な体質で男でも女でもない状態であることは父から聞いていた。

 

 その父が探してきた専門の研究者である医者ということで、時々家にアキラを診察や観察に来る。


 ヴェスはその先生がけっこう好きだった。面白い話をしてくれたり、ヴェスの興味がありそうな本を持って来てくれたりするからだ。


 アキラはその先生があまり好きではなさそうだった。

 まあ、観察されるってのはあんまりうれしくないかもな……ぐらいに思っていた。

 

 その日、ヴェスは庭の木の陰で本を読んでいた。

 木の裏にベンチがあるのだが、その反対の草むらの上に座って本を読んでいた。


 ベンチの方から声が聞こえた。

 先生とアキラの声だった。

 出て行こうかと思った時、自分の名前が聞こえ、ヴェスはそのまま聞き続けることにした。


「じゃあ、ヴェスはアキラにとってお兄さんみたいに好きなんだね?」

「ちがうよ、ヴェスは兄さんちがう。ヴェスはヴェスだからすき」

「お兄さんじゃないのにいつも一緒にいるのはおかしいよ。

 それだと大きくなったら、一緒にいられなくなるよ」

「ヴェスと一緒にいられないの……」

 

 悲しそうなアキラの声にヴェスは心が痛んだ。

 そして、先生の声がいつもの感じとは違ってヴェスには聞こえた。

 なんだろう、この違和感は。


「そうだ! アキラがヴェスのことを好きじゃ無くなればいいんだよ。そうしたずっといられるよ」

「そんなの、変だよ。すきだから一緒にいるんだよ」


「アキラは先生のことが好きなんだよ。そう、言ってごらん。先生のことが好き……」

 

 アキラが嫌がっているのか服がこすれるような音と動く気配がした。


「やだ、先生はこわい!」


 アキラの泣きそうな声が聞こえて、どさっとベンチの上に何かが置かれるような音がした。


「やだ! やだ! いやだ……、助けて……、ヴェス助けて!」

 アキラの弱々しい声に急いで立ち上がりベンチに回り込むと、先生がアキラを押し倒して胸をはだけさせていた。

 

 アキラの顔が涙で濡れている。アキラの胸のあたりも同じように濡れて光っていた。


 ヴェスはそれを見たとたん、逆上した。意味もわからず、怒りが湧いた。


 先生は突然現れたヴェスに驚き、アキラから離れようとして尻もちをつき地面に転がる。


「これは……、医学的な実験なんだよ……」


 言い訳する先生の頭を怒りに任せて蹴っ飛ばす。


 泣き顔で起き上がったアキラの手をつかむと自分のバスルームへ連れて行き、中に入れるとドアを閉めて叫んだ。


「全部きれいに洗い流せ!」


 アキラが泣きながらシャワーを出して浴びている音が聞こえた。


 

 それからのヴェスはアキラのそばから離れず、特にアキラに性的な好意を向けてきたと思われる人間に対して容赦なく威嚇するようになった。


 アキラもヴェスから離れない。

 アキラに信用されているのがうれしかった。


 父アスランに「お前はアキラのケルベロスだな」と言われたことがあった。調べたら地獄の門番の犬のことだった。


 ケルベロスでも番犬でも何と言われようが、アキラをもう泣かせるような目には合わせないと決心した。


 しかし、気が付いてしまった。


 成長していくにつれ、ヴェス自身がアキラに、自分が憎んで排除してきた性的な欲求を持っていることに。


 はっきり自覚してしまったのは14歳の時、いつものようにアキラの髪に付いた枯れ草を取ってやろうとして髪に触れたら、アキラに触りたい、抱きしめたいと思っている自分に気が付いた。


 はじかれたようにアキラから手を離すと、アキラから逃げるように離れた。


 それからアキラとふたりきりになるのをできるだけ避けた。


 そのあたりからアキラは自分が男であるような振る舞いを始めた。


 伸ばしていた髪を切り、どちらかというと優しい色を選んで着ていた服の色が寒色系になり、私と言っていたのがオレになった。



 ヴェスは男同士の親友という、新たにアキラが与えてくれた関係で、アキラと一緒に居続けることができたのだ。


「俺はアキラに甘えてしまっていたんだな……」


 ひとりきりの宇宙船の中でヴェスはアキラのことを考え続けていた。

今回は重い話でしたが、最後まで読んで下さりありがとうございます。

次からは明るい感じに戻ると思いますので、よろしくお願いします!

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