第三話
近衛兵に化けていた第一部隊の面々は、計画通りに法廷の中を素早く動き、出入口を抑えるとともに、驚きと恐怖で硬直している裁判長や弁護人、傍聴席の者たちをそれぞれの席に座らせておとなしくするように警告した。
「お前たち、これは謀反ですよ! 重罪ですよ! 判っているのですか!」
手にしていた酒の入ったグラスを丁重に取り上げられると、グレイシアは両腕をふたりの兵士に抑えられ、無理やり王族の席に押し込まれていた。
「無礼者!」
ぱんと鋭い音が法廷内に響いた。兵士のひとりがグレイシアに頬を打たれたのだ
「ぬるいですね」
何もなかったように、頬を打たれた兵士は顔を上げて王妃を見た。
「な、何だと?」
「このくらいの痛み、屁でもありませんわ」
そうきっぱりと言い放ったのはアンだった。乱れた髪とずれた眼鏡を指先で整えるとつんと顔を上げる。
「どうせなら往復ビンタの連打でもしてごらんなさい、王妃さま。さ、どうぞ。さ、ご遠慮なく」
「アン、やりすぎ」
ぐいぐいとグレイシアに迫るアンを、慌ててもうひとりの帽子をかぶったままの兵士が止める。
「今、そんなことをしてる場合じゃないでしょう」
「だって、殴り返せないのならいっそのこと、もっと殴ってもらいたいじゃないの!」
「どういう理屈」
顔を強張らせているグレイシアの前ですったもんだしているふたりの様子に、自然と周囲から笑いが起きた。緊迫していた場内が少し和んだ時、それを見計らったようにセドリックが言った。
「諸君、聞いてくれ。俺たちは武器を所持しているが、無抵抗の者に危害は加えることはしない。約束しよう」
セドリックは第一部隊によって制圧された法廷内をぐるりと見渡した。
「ほんの少しでいい、お前たちの時間を俺にくれ。それで何もかも決着がつく。そしてお前たちはここで起きたことの証人になってくれ」
「証人、とはどういうことかな」
ひとりの男がゆっくりと席を立った。彼はやれやれというように溜息をつくとセドリックをみつめる。
「変わりませんな、あなたは。いつも派手に問題を起こす」
「……パドフ少佐」
アレクによって手錠を外されたセドリックは、パドフに向き直り頭を下げた。
「あなたまで呼び出すとは……ご足労をおかけした」
「それはいい。そんなことよりこれは一体、どういうことだ。近衛兵があっという間に第一部隊に早変わりとは、まるで手品の一幕を見せられているようだ。殿下の偽物、という説も気になるところだが?」
「手品といえばそうなるか」
口元だけで不敵に笑うと、セドリックはアレクに一瞥を送る。
「勇敢な協力者たちのおかげだ」
「なるほど。やはりタネも仕掛けもあるようだな」
「きっかけはある者が持ち出したこの城の地下の古地図だ。それは複雑な地下の様子が一目で判るものだった」
「地下の古地図? なるほど、それを見て殿下は地下牢から抜け出し、偽物とすり替わったと。……いや、待て。それは違うな。今、私の目の前におられるのはどう見ても本物の殿下だ」
「その通り。俺は本物。つまり俺は最初から地下牢には入っていなかったのだ。地下牢に入っていた者こそ俺の『偽物』だ。そして、この裁判の直前に、牢に入っていた偽物と俺が入れ替わり、今、本物の俺がここにいるというわけだ」
ざわと周囲の空気が揺れた。グレイシアが目を見開いてアレクを睨む。
「アレク! お前、知っていたのですね? シアーレン公の偽物と承知の上で牢に入れたのですね? 私を騙したのですね?」
「……はい。潔く認めます。但し、これは私の一存でしたこと。本日も部下には休暇を取らせています。部下は何も知りません」
「お前……!」
怒りで身体を震わせるグレイシアにアレクは深く頭を下げた。
「すべての罪は私に」
「罪などない」
セドリックがきっぱりと否定した。
「お前に罪があるというのなら、それはすべて俺が背負ってやる」
「その言葉、お忘れなきように」
呪いを唱えるように、低くグレイシアが言った。
「あなたの罪は許されるものではありませんよ」




