第八話
「その通りだな。俺たちの置かれた状況は相当に悪い。だが、こうして全員が怪我もなく無事でいられることはこの上ない幸運だ。俺は、お前たちがいてくれれば何でもできる気がする」
「俺たちもそうですよ。隊長がいてくれればできないことなど何もありません」
「言い切ってくれるぜ」
ふわりと笑った後、フランが少し声を改めて言った。
「身代わりになっているテリュースのことが気になるな。早く助け出さなくては」
「ああ。そして……俺が地下牢につながれているとグレイシアが思っている今こそが行動の時だ」
セドリックは全員を見回すと言った。
「お前たちに迷惑をかけることになるが、俺を信じてついて来てくれるか」
「聞くだけ野暮ですよ」
ユーリが微笑むと言った。
「どこまでも殿下とご一緒します」
全員が黙って頷く。その目には強い光が宿っていた。
「あ、あの……」
張り詰めた空気の中、アンが恐る恐るといった調子でそっと言葉をはさんできた。
「空気を壊すようで何なんですけど」
「何だ、どうした?」
「隊長、ケイティのことはどうしますか」
「ああ、そうだった」
トムがはっとしてつぶやくと、全員の視線が静かに椅子に座っているケイトリンに集中した。
「彼女は聞き入れてくれないんですけど、これ以上、私たちと一緒にいることはケイティのためにならないと私は思うんです。危険な上に、彼女の家の立場を考えると……ね、そうでしょう、ケイティ? 私の言っていること間違ってないわよね?」
「そ、それは判っているわ。だけど」
「隊長は無事よ。こうして私たちの目の前にいらっしゃる」
ケイトリンの言葉を遮るとアンは少し強い調子で言った。
「ついさっきまで、私たちの最優先事項は隊長を救い出すことだった。あなたも隊長を救い出す手助けをしたいと言っていたわよね?」
「え、ええ」
「もうその必要はなくなったのよ。だからあなたは」
「アン、お願い。私は」
「あなた、ご家族のこと、考えた?」
「……え」
ケイトリンは小さく息を呑むと、改めてアンの顔を見る。
「家族のことって……」
「ケイティ。あなたの気持ちは判るの。隊長の傍にいたいわよね。だけどね、自分の気持ちばかりを優先させてはいけないわ。お母さまも弟さんもあなたのことを心配しているんじゃないの?」
「……ああ、アン」
ケイトリンは手で顔を覆うと、呻くように言った。
「確かにそうね、お母さま……とても心配していらっしゃるわ。アレンもきっと……。私、自分の気持ちしか考えていなかった。恥ずかしいわ」
「ケイティ、あなたはここで引き返した方がいい。これからどうなるのか判らないけれど、とにかく、事態が収まるまでご家族と一緒にどこか安全な場所に」
「お前はどうしたい?」
アンの言葉にケイトリンがおとなしく頷きかけた時、セドリックが静かに言った。はっとして顔を上げたケイトリンの瞳を彼はまっすぐにみつめる。
「俺はお前の意思を尊重する」
「……え」
思いがけない言葉にケイトリンは唖然として、次の言葉が出てこない。何か言おうとあえぐように息をしているケイトリンにセドリックは冷静に言葉を継いだ。
「お前が俺たちと行動を共にしたいならそうすればいい。家族の元に戻りたいというならそれでもかまわない。護衛をつけて屋敷まで送らせよう」
「隊長! そんなことを言ったら、ケイティはご家族の元には戻りませんよ……!」
身を乗り出し抗議しようとするアンを阻止するように、ケイトリンは素早く椅子から立ち上がるとセドリックに一歩近づいた。
「セドリックさま、私は薄情かもしれません。家族の気持ちを無視しようとしています」
「そうか」
「セドリックさま」
ケイトリンは更に一歩、近づく。
「それでも私は、あなたと一緒に歩きたい。あなたとこれから訪れる運命を共有したい」
「これから訪れる運命が最悪なものでも、か」
「はい」
そして、もう一歩近づく。セドリックはもう彼女が手を伸ばせば届く位置にいた。
「あなたが行く先が地獄であっても構いません。どうぞ、私をお連れになって」
そっと差し出したケイトリンの手を、セドリックはしっかりと捕まえた。
「お前の気持ちは判った。だが、後からこんなはずではなかったと文句を言っても俺は聞かんぞ」
「はい。承知しております」
そう言って、花が咲いたようにケイトリンは微笑んだ。その笑顔に一瞬はっとして、それからセドリックもつられるように笑った。
「よし。全員で決着をつけに行く。はぐれるなよ」
「はい!」
全員が嬉々として返事をする。その中でアンだけが小さく溜息をついていた。
「さすが悪名高い第一部隊。みんなどうかしてるわ」
肩をすくめた後、観念したように彼女も笑った。




