第七話
「隊長!」
男が帽子を取った途端、全員が歓喜の声を上げた。
「よくぞご無事で!」
「どうしてここにいるんですか?」
「今どうなっているんです? 俺たちはまったく訳が分からない……」
「おい、静かにと言っているだろう」
慌ててユーリが手を上げて、浮足立つ第一部隊に静止をかけた。
「ここに殿下がいるのがばれたら一巻の終わりだ」
「……わ、判りました。でも、どうして副長はそんなに落ち着いているんですか? 隊長がここに来るのが判っていたみたいだ」
「いや、判りはしないさ」
ユーリはセドリックを奥へと誘うと静かに扉を閉めて言った。
「ただ、殿下は私たちを残して一人でどこかに行ってしまったりしないと、私は知っているだけだよ」
「なるほど」
全員がにやりと笑った。
「隊長と副長の絆の深さには敬意を表しますよ」
「何を言っている」
困ったように頬を指で掻きながら、セドリックはそこにいる全員の顔を一人一人、静かにみつめた。
「……全員、無事だな」
「はい」
「勿論です」
「あの、ケイティは」
言いかけたアンの言葉を片手をあげて制すると、セドリックは俯いて座っているケイトリンの傍に歩み寄った。それから、そっと彼女の足元に跪く。
「……怖い思いをしなかったか、ケイティ?」
一瞬、びくりと身体を震わせて、ケイトリンは小さく首を横に振った。
自分が第一部隊と共にここにいることを叱責されると思っていたケイトリンは、思いがけない優しい言葉に胸が詰まって言葉が出てこなかった。
「すまなかったな。解決を急いでしまった俺のせいでお前にもみんなにも迷惑をかけてしまった」
「殿下。城の中で今、何が起きているのですか」
「そうだな。説明をしなくてはな」
セドリックはケイトリンの傍を離れると、ユーリの顔をまっすぐに見た。
「俺は真実を確かめたかったんだ。そのために父上に会う必要があった」
「国王に、ですか」
「ああ、だが、知っての通り、グレイシアの企みだろう、会うことは禁じられている」
「つまり、強引に会おうとなさった?」
「そうだ。それを謀反と騒ぎ立てられ、兵たちに捕らえられた。俺が父上に会おうとすればそうするようにと、前もってグレイシアから命じられていたのだろう、迅速な行動だった」
「だけど捕らえられたって……今、ここに隊長はいるじゃないですか」
ニールがそう言うと、セドリックは不敵に笑って答えた。
「ああ、そうだ。捕まる前に逃げたからな」
「え? でも、今捕まったって。それに伝えられている情報では、殿下は国王を暗殺しようとして捕まって牢につながれていると」
「ユーリ、お前はテリュースを知っているな」
「あ、はい。……もしや彼が身代わりに?」
「その通りだ。俺も驚いた」
「驚いた? ではそれは殿下の指示ではないと?」
「俺は捕まりそうになった時、兵の隙をついて逃げたのだが、正直、行き当たりばったりの行為だった。逃げおおせる自信はなかったんだ。ところが廊下の角を曲がったところで、俺は思わず足を止めたよ。そこに、俺がいたからだ」
「つまり……あなたに扮したテリュースがいたのですね?」
「ああ、テリュースは俺の部屋のクローゼットから、スペアの軍服を拝借したと言っていた。あいつはなかなかの役者だな。もともと背格好は似ていたが、立ち姿や雰囲気をうまくまねていた。鏡を見ているのかと思うほどよく似ていたよ。だが、顔を見られたらすぐに偽物とばれてしまう。後は、アレクの裁量に任せるしかなかった」
「アレク? ああ、近衛隊長の……殿下が幼い頃はお守り役だったとか」
「お守りじゃない……」
憮然としてそう言うと、セドリックはひとつ咳払いをして話を続けた。
「アレクが騙されたふりをして、テリュースを地下牢に連行してくれた。グレイシアにも俺を捕らえたと報告済みだろう。テリュースには辛い思いをさせているが、その隙に俺は城が抜け出すことができた。この服もテリュースが用意してくれていた」
セドリックは自分の来ている古ぼけた上着を引っ張ってみせた。帽子を目深に被って、背中を丸めて歩いていれば、どこにでもいる労働者に見える。
「ご無事でなによりです」
ほっと息をつきながらトムが言った。
「しかし、ここに俺たちがいるとよく判りましたね」
「城を抜け出してから、先ずはユーリの家に行ってみたのだが、玄関の扉は壊され、憲兵の見張りが付いていた。何があったかは察しがつく。おそらく、第一部隊全員が同じ目に遭っているだろう。
不安にはなったが、家に見張りが付いているということは、まだユーリが捕まってはいない証拠だと思った。そうなると、お前たちが避難する場所と言えば」
「ここ、というわけですね」
「そういうことだ」
全員がにやりと笑い合った。
「第一部隊全員が無事にここに集まることができたのは幸運ですね」
明るいトムの声に、セドリックは頷く。




