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帝都あやかし奇譚~転生したら陰陽師家の無能でしたが、令和の頭脳で無双します~  作者: ひーちゃむ


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第七話 契約と仲間

晴れて『帝国陸軍士官学校・あやかし特命科』へとトップ合格を果たした僕は支給された黒漆仕立てのモダンな軍服に身を包み、その上に大正浪漫あふれる漆黒の二重回しマントを羽織って大講堂に立っていた。


「これより、第一分隊(1班)の校内案内に移る。ついて来い」


案内役の鬼教官・鬼上(きじょう)少佐に率いられ、僕たち第一分隊の四人は巨大な石造りの校舎を歩き出していた。

僕の隣を歩くのは、肩くらいまでの長髪をハーフアップに結んだイケメン___帝国陸軍の大将を父に持つ鬼塚(おにづか) (じん)だ。ちょっとチャラくておちゃらけた雰囲気の彼は、マントの裾を揺らしながら親しげに僕の肩を叩く。


「おい!見ろよ(れい)! あの廊下の飾りの刀、全部あやかし斬りの特殊鋼なんだってさ! メチャクチャカッコいいな!」

「ああ、ずいぶん凝った造りだな」


僕が苦笑して答えると、反対側から「ふんっ」と鋭い鼻鳴らしが聞こえた。

陰陽師の超名門『賀茂華族家』の令嬢、賀茂(かも) (らん)だ。彼女は紫の髪をなびかせ、不機嫌そうに腕を組んでいる。


「何がカッコいいのよ。伝統的な式神の術式に比べれば、陸軍の近代兵装など無骨で品がありませんわ。それに……なぜ霊力も持たない安倍家の『無能』が班長なのですか? 納得いきませんわ!」

「不満なら実戦で示せと教官も言っていただろ、蘭。僕は効率的に班を指揮するだけだ」

「くっ……名前で呼ばないでくださる!? 馴れ馴れしいですわ!」


そんな蘭の横で小柄で可憐な雰囲気を纏った春日(かすが) (さく)が、おどおどと周囲を気にしながら小さく声を上げた。


「あ、あの……喧嘩はやめましょう……? 蘭さんも、零さんも……っ」


帝都の名門「春日総合病院」の令嬢である咲は、争いごとが苦手なようで僕たちの間でソワソワと身を縮めている。

その時廊下の向こうから歩いてきた別の分隊とすれ違った。

その中心にいたのは整った眉と涼やかな目元を持つ爽やかな美青年、黒木(くろき) (さえ)だった。彼はどこかミステリアスな雰囲気を纏った笑みを浮かべ、僕たちに手を振ってきた。


「やあ、噂のトップ合格者……安倍 零くんだね。二次試験での君の『銃の扱い』、実に興味深かったよ。霊力を一切使わずにあやかしの核を貫くなんて素晴らしいね。君は何か僕たちの知らない秘密でも知っているのかな?」

「ただの物理計算と伝承の分析だよ、黒木。大したことじゃない」


僕がサラリと受け流すと冴はハハッと爽やかに笑った。


「謙虚だね。……いいよ、君のその異質な頭脳、これから仲良く観察させてもらうとするよ」


冴が去っていくのを見送りながら陣が「なんだあいつ、変なやつだな!」とケラケラ笑い、蘭は「フン、気味が悪い男ですわ」と吐き捨てた。





教官に導かれ僕たちは帝都の地下に広がる巨大な要塞施設へと足を踏み入れた。

巨大な蒸気パイプが走り、妖しい霊光を放つ魔導インジケーターが明かりを灯している。そのSFとレトロが混ざり合ったような圧倒的な光景に、僕は思わず目を見張った。


(……待て待て。離れや裏山で過ごしていた時は気付かなかったけど……僕の知っている史実の大正時代と全然違うぞ!? 蒸気機関と霊導技術が合体したこんな地下要塞、1920年代の日本に存在するわけがない。やはりここは過去の日本じゃなくて『大正時代っぽいパラレルワールドの異世界』なんだな……)


改めて己の置かれた状況を確信していると、教官が立ち止まり、重厚な鉄扉を指差した。


「これより、地下封印区画に入る。ここには陸軍が回収し、未だ制御できずに封印している危険な怪異や霊兵器が収められている。各自、己の相棒となる『武器』や『契約妖怪』を見定めよ!」


重い扉が開き、まずは【兵器庫】へ。

そこには無数の名刀や霊槍、銃器が並んでいた。

蘭は最初から名家相伝の式神『玄武』がいるので僕、陣、咲の三人はそれぞれ武器を手に取ってみる。


「うーん……この槍、重すぎて持ち上げられません……」

「この剣、霊気が暴れてて扱えねぇ〜!」


僕たちが色々と触ってみるものの、どれも僕たちの手に馴染んだり認めてくれたりする気配がない。

そんな中、台座の奥に重々しく鎮座していた一本の刀に、陣が目を留めた。あまりの凶暴さに誰も扱い切れず放置されていた自立型のあやかし殺し【妖刀・赤蓮(せきれん)】だ。

刀から吹き出す烈火に周りにいた他の分隊の生徒が怖気づく中、陣は「へえ……イイのがあるじゃん!」とおちゃらけた笑みを浮かべ、真っ直ぐに手を伸ばした。

持ち前の圧倒的な気合と腕力で赤蓮を一気に引き抜くと、暴れていた炎は一瞬で鎮まり鮮やかな赤光となって陣の身に宿った。


「おい!見たか零! こいつ、俺の手にピッタリ馴染むぜ!」

「見事なものだな、陣」


僕が拍手を送ると、咲は「す、すごいです……!」と拍手をし、蘭は「……フン、脳筋にはお似合いの刀ですわね」と悔しそうに呟いた。






続いて向かったのは幾重もの鉄格子と結界が張り巡らされた【牢獄区画】。

薄暗い廊下の左右には陸軍に捕縛された凶悪な怪異や、人間を激しく警戒する無数のあやかし達が蠢いていた。威嚇の呻き声や怪しい妖気が立ち込める中、僕たちは奥へと進んでいく。

その中の一室にいたのは頭に大きな葉っぱを乗せた小さな男の子の妖怪【化け狸・キヌタ】だった。


「シャーーッ! 人間なんか大嫌いだぞ! 話しかけるなバ〜カ!」


鉄格子の中でダボダボの着物を着たきぬたが、必死に牙を剥いて威嚇してくる。ツンツンした態度を取ろうとしているが、咲がそっと近づくと「ひゃあっ!?」と跳ね上がり、抱えていた大量の希少な薬草をもわ〜っと盛大にぶちまけてしまった。


「わわわっ! ぼ、僕の薬草が〜〜っ!?」

「だ、大丈夫? 拾うのを手伝うね」


咲が優しく微笑みながら薬草を拾い集め、懐から特製の甘いお団子を取り出した。

そして人に警戒しつつ怯える化け狸を自分と重ねたのだろう。咲は決心したように契約を持ちかけた。


「私は春日咲。私と契約してくれたら、毎日この美味しいお団子をあげるし、君の薬草をもっともっと元気に育てる最高のお庭をあげるわ。……ど、どうかな?」

「う……うぐぐ……人間なんかの言うこと……お団子……広いお庭……」


キヌタは必死に葛藤していたが、お団子の甘い匂いと咲の天使のような微笑みに耐えきれず、ガバッと鉄格子にすがりついた。


「け、契約してやるぞ! 感謝しろバカ! ……あ、まずお団子ちょうだい咲〜〜っ!」

口は悪いものの完全にデレてしまったキヌタ。こうして咲は、最高のヒーラーパートナーを手に入れたのだった。






不気味に蠢く無数の妖怪牢を横目に、僕は周囲の雑多なあやかしには一切目をくれず、迷いのない足取りで地下深くへと進んでいった。


「おい零、どこに行くんだ?」

「零、そっちは最深部……一番危険な怪異が封印されている区画ですわよ!?」

「怖いです……」


後ろから困惑する陣や蘭、咲の声が聞こえるが、僕は足を止めない。


(……この士官学校の地下にどんな妖怪が収容されているか事前に陸軍の裏資料から調べ上げておいたんだ。僕の銃に必要な性能を持ち……そして何より、僕と同じ『あの陰陽師ども』に激しい恨みを抱いている妖怪をね……)


目指す場所はただ一つ。最深部の重厚な三重結界に閉ざされた【絶対零度の氷牢】。

僕が迷わずその扉の前に立ち、結界の解除コードを入力して重い鉄扉を開くと一瞬で周囲が凍りつくほどの極寒の冷気が吹き出した。蘭や咲が「くっ……!」「寒いです……!」と身を縮める。

氷結晶が乱舞する牢の奥。そこに鎮座していたのは透き通るような藍色の長い髪と、氷のように澄んだ藍色の瞳を持つ絶世の美少女【雪女・(みぞれ)】だった。

かつて自分を騙し、国に売り渡した安倍家をはじめとする陰陽師たちを激しく憎み、封印された大妖怪。

彼女はうっすらと優越感に満ちた笑みを浮かべ、人を弄ぶような冷ややかな瞳で、迷わず自分のもとへやってきた僕を見下ろしていた。


「へぇ。私を国に差し出した家の癖に、また私の力が欲しいと言うのね。人間って本当に惨目で愚かだわ」


「雪女、言葉に気をつけろ!」と教官が喝を入れるが、(みぞれ)はフッと鼻で笑い、僕たちを完全に見下している。

圧倒的な拒絶と見下し。蘭が青ざめて「零、駄目ですわ! あれは人間を激しく憎んでいる高位のあやかし……!」と僕の袖を引く。

だが、僕は不敵に口角を上げると、マントを翻して霙の牢の真前へと一歩踏み出した。

そして懐から自作の【魔改造リボルバー】を引き抜き、シリンダーを回転させる。


「見下すのは結構だが、僕は君に『服従』を求めに来たわけじゃない。……僕が欲しいのは、僕の銃の熱暴走を防ぎ、絶対零度の弾丸を生成するための『精密な冷却機構』だ」

「……? 冷却機構……?」


(みぞれ)の藍色の瞳が、初めて僕を捉えた。


「ついでに言っておくと……君をハメてここに送った安倍家。あそこは僕の実家だが、僕もあいつらが大嫌いでね。……どうだ? 僕と契約すれば君が憎む連中を僕の協力の元、復讐できる権利をあげるよ」

「……ッ!」


(みぞれ)のうっすらとした嘲笑が消えた。

復讐の機会、そして自分を「道具」ではなく、対等な「相棒(システム)」として、そして危険な同類として評価してくる目の前の男。


(……この男、私の憎悪すらも計算に入れて利用しようとしている……なんて危険で美しい男……頭のいい男は嫌いじゃないわ)


次の瞬間。

(みぞれ)はスッと鉄格子に近づくと、隙間から腕を伸ばして僕のマントをキュッと引っ張った。そして、きゅるきゅるした瞳で藍色の目を潤ませながら上目遣いで見上げてきた。


「ねぇお願い?♡ 私をここから出してくれるなら、貴方の相棒になってあげてもいいわよ?」


あまりの豹変ぶりに、後ろで見ていた蘭と陣が「「はぁぁぁぁぁ!!??」」と目を剥いた。

僕は呆れ顔で、マントを引っ張ってくる(みぞれ)を見下ろす。


「……お前、さっきまで『愚かな人間』って見下してただろ?」


すると(みぞれ)は一瞬で元の冷たい顔に戻り、不敵にふっと笑ってみせた。


「なんのこと? で、やってくれるの、くれないの? 私の顔と能力、嫌いじゃないでしょ?」


計算し尽くされたあざとさと、自信に満ちた挑発。

天才的頭脳を持つ僕の思考を一瞬で見抜き、逆に試してくるような危険な女。

僕は呆れつつも、不敵に口角を上げた。


「……ホント、食えない奴」


お互いに超絶顔が良く、お互いに腹に一物ある者同士。

使い魔と主の関係ではなく、騙し合いのような危険でドライな高度な心理戦___だが、これ以上なく息の合う最高のパートナーがここに誕生した。


「契約成立だ、(みぞれ)。僕の武器の一部になれ」

「ええ、よろしくね。零」


こうして僕は【管狐・紺】に加え、最高に危険で魅力的な相棒【雪女・(みぞれ)】を手に入れ、波乱に満ちた士官学校生活を本格的にスタートさせるのだった。

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