007_謎の青年
さて、転生して2年経たずと言ったところか。
14才になり、冒険者として活動可能な年齢になった。
役人がギルドに登録してよいかロイ爺に尋ねる。
「お前冒険者になりたいのか?」
「いや、小遣い稼ぎとか、趣味になるかとかの興味で」
「ふむ、公務が疎かにならない範囲で副業することは可能だ。」
そういって胸元からギルドの身分証と見られる首飾りを取り出して俺に見せた。
アメリカ兵のドッグタグみたいなものに見えるが、銀じゃなくて金色だな。
登録できるとわかったので、最寄りのギルドへ向かって登録してみよう。
とは言っても、この田舎村にはギルド支部がない。
ギルド支部がある最寄りの都市までは、歩きで1日かかるとロイ爺が教えてくれた。
俺は野宿装備を用意し、家族に用事を伝え村を出た。
野宿を経て外壁へ到着し、検問に少し並んで通された街中は、ルートン村とは比べ物にならない発展ぶりだった。
大きな街道は石畳で舗装され人々が行き交い、たまに黒い馬車が通っている。
ロイ爺から渡された地図を見ながら、冒険者ギルドまで歩いていると美味そうな香りがしてきた。
香りに釣られ道を逸れて歩いていると、パスタのようなものを提供している店が現れた。
親切に、メニューと金額は黒板の立て看板に書いてある。
ちょっと高いけど、食べてみようか...
転生してからというもの、食事の淡泊さに飽き飽きしていたところだ。
この世界の店で食べる料理で、満足できると良いが。
少し順番待ちし次で自分というあたりだが、ちょっと失敗したな。
2人ペアの客しかいない。カップルか夫婦であったり、ママ友って感じのご婦人が多い。
だから、並んでいる時に「ご合席でよろしいですか?」と聞かれたわけだ。
一人で窓の外の噴水を眺め、肩身が狭いまま待っていた。
ふと店の隅に視界をやると、2人席のテーブルに1人で座っている青年がいる。
相席を拒否したのだろうか?
一瞬気になって顔の向きがそのままであったが、そのまま目が合ってしまった。
こっちに気づいた青年は手を挙げてきた。
店員が伺いに参り、俺はそこの相席に通されることになった。
店員に決めておいたパスタを注文し、席へ移る。
座る前に一言かけた方がいいだろう。
「失礼します。」
「やあ、礼儀正しいね。この店にはよく来るの?あっ、このピザ君も食べていいよ。」
話しかけられてしまった。相席ってこんなものなのか?
「いえ、初めて入店しました。美味しそうな匂いがして。」
店はおろかこの都市も初めてなんだが、この青年に話すとしっかり掘り下げられそうな気がする。
「へぇ、僕もこの都市に初めて来た時、匂いに釣られて入店したんだよね。
今では常連さ。君はこの辺に住んでるの?」
うーん、こいつめっちゃ喋るな。
この調子だと今日の予定まで聞かれそうな気がするが、元々頼む気のなかったピザにありつけるんだ。
不愛想に答え続けるのもどうかと思うし、こっちから色々話そう...
「いえ、ルートンという村から来ました。今日は冒険者登録をしようと思って。」
「なるほどねぇ、僕は冒険者じゃないけど、ギルドに用があった時でこの店を知ったんだよ。
やっぱ立地がいいねここは。
で、君は冒険者志望ってことだけど、将来それで生計を立てたい感じ?
それともちょっとした副業かな?」
予想を遥かに越えて、俺の人物像が根掘り葉掘り探られていくな。まるで面接だ。
明け透けに話し続けるのも危うい気がするので、俺は少し嘘をついた。
「副業ですね。本業は農家を継ぎます。」
「えー、家業を継ぐなら冒険者での副業はおすすめしないよ?
だってギルド登録したら更新料かかるし、ルートンから来るならクエストの受注も一苦労だし。
メリットないと思うな~。」
更新料がかかるのか。便利屋程度のクエストしか受注しないなら、確かにやめておいた方がいいかもしれない。
「それよりさ、君魔力持ってるよね?しかも鍛錬した形跡がある。」
ピザを口に咥えたところだったが、一口嚙み切って皿へ戻す。
魔力って他の人間から見えるのか?
8才の時にロイ爺が見定めた時以外、他の人間に指摘されたことはない。
ロイ爺ほどの境地なら、他の人間の魔力がわかるかもしれない。
「...はい、持ってます。」
「あっ、やっぱそうなんだ~
じゃあ君もロイ・ドイルの教えを受けた子なんだろうね。ちなみに僕は魔力見えないよ。
ロイ氏が管轄しているルートンから来たって言うから、カマかけしてみたんだ。
あの人は世代交代できる人材を管轄地域で育てているからね~」
そういうことだったのか、やられた。
「来るにはちょっと早いと思ったけど、魔力持ちの役人は冒険者を副業にすることが多いからね。
ルートン出身ってのも合わせて、それで連想したんだ。」
「そうでしたか。家業を継ぐって嘘をついてすみません。」
社会人必殺技、とりあえずすぐ謝る。予後がよくなるからな。
「いいよ~今日初めて会った相手だし、身の上全部話すのに警戒するのは仕方ないよ。
僕もカマをかけたし、お互い様さ。
それより君は役人として将来が安泰だけど、村付きの正式な役人になれる年齢まで暇なんじゃないか?
今はロイ氏が王政に交渉して引き出した、支援金でアルバイトの補佐をしていると思うんだけど。
魔力が使えて言葉尻がしっかりしている君なら、もっといい仕事を僕が紹介できるよ。
というか人材が見つからなくて困っているんだ。話だけでも聞いてくれない?」
途中から本当に面接を始めていたらしい。後ろめたさや口をつけたピザのせいで、上手く断れない。
「まぁ、話を聞くだけなら...」
「よかった!じゃあこの紹介状を持って、近いうちにレイソンまで来てくれ。
ロイ氏に相談してからでもいいよ。」
レイソンというと、ルートン村を挟んで都市サイロンの反対に位置するあの都市か。
渡された白い封筒には金色のインクで装飾が施され、家紋のような印で赤色の封蝋が押してあった。
明らかに格式高い紹介状を受け取り、改めて目の前の青年を見直してみる。
服装は町民そのものだが、服の品質は新品同様、髪も綺麗に洗髪・理髪されている。
どうやらお忍びで食事をしに来た、身分が高い者のようだ。そう推測した。
店側が最初から相席にしなかったのも、この人物の身分を知っていたからかもしれない。
丁度、注文しておいたパスタがテーブルに配膳された。
「料理が来たね、ゆっくり味わって。」
そう言うと青年は立ち上がり、会計を済ませた後にこちらへ手を振って店を出た。
結局なんの仕事なのか説明もされないまま、去られてしまった。
この調子だと、次に会うことがあればそのまま仕事を誓約させられそうな気もする。
不安と期待が入り混じった気持ちだが、まずは目の前のミートソースパスタを楽しも...黄色い!
メニューの字面で赤色を無意識に想定していたが、この世界のトマトは黄色いのだった。
味はしっかりミートソースなカルボナーラを食べている。
まあ味は素晴らしかった。満足して会計に向かったら、先の青年が俺の分まで会計を済ませたらしい。
招待が断りにくくなった。最初から最後まで手玉に取られた気がする...。




