第96話 お前が言うな
【鑑定】で見えた芽依さんの力に、動揺が収まらない。
名前だけでも想像できる理不尽な能力に、怒りすら湧いてきた。なんだこのチート揃いはよぉ……!
はぁ、落ち着け。嫉妬や怒りを燃やすのは後でいい。重要なのはこの能力を正確に知ること。この絶好の機会、全て調べ尽くしてやらねば。
「――もうっ、いい加減にしてよっ!」
そう決心した時、森山さんの苛立った声が響いた。
振り向けば、森山さんがミライさんの拳を弾き、大きく後ろに跳んでいるところだった。距離を取って間を稼ぐと、憤慨してミライさんに怒鳴る。
「ちょっとからかっただけでなんなの!? 冗談も分からないのっ!?」
「冗談? 貴女、冗談と侮辱の区別もつかないの? いくら温厚な私と言えど、許せない範囲があるわ」
いや、温厚ではないだろ。なんて白々しい言葉だ。
聞く耳を持たないミライさんに業を煮やしたのか、森山さんはプルプルと震えたと思ったら、フンと鼻息荒くミライさんに背を向けた。
「もういいわっ。そんなにムキになってバカみたい。二人とも、行きましょう!」
「ありゃりゃ〜。拗ねちゃったか。まぁ当然か」
「もう少し戯れたかったのですが、仕方ないですね」
芽依さんは苦笑し、樫原さんは名残惜しそうにしながらも、ゲロゲロとベイグルから意識を離す。そのまま森山さんが近づいてくるのを待っていた。
い、いかんっ! このままだとここでお別れになってしまう! なんとか時間を稼がないと!
どうにかしてミライさんに伝えなければ……!
さりげなーく、手で何かを伸ばすような仕草をしてみる。伸ばしてー! 尺稼いでー!
伝わるか不安だったが、不機嫌そうだったミライさんは、俺の方を見て目を丸くした。そして小さく眉を上げると、それまでの表情が嘘だったかのように殊勝な態度を作った。
「そうね。確かにムキになっていたわ。ごめんなさい」
「……ミライさん?」
ミライさんの落ち込んだ声に、森山さんは耳を疑ったかのような顔で振り向いた。
正直、気持ちは分かる。まさかミライさんが自分の非を認めるとは思わなかっただろう。付き合いが長い森山さんならなおさらだ。
そして、ミライさんはさらに信じられないことをした。
足を止めた森山さんに対して、困ったように笑って見せたのだ。
「貴女に負けたと認めるのが悔しくて、ついムキになって言い返して。本当にカッコ悪いわね。貴女が不快に思うのも当然だわ。林華、本当にごめんなさい」
「そ、そんな……いえ、私の方こそ調子に乗って……」
「本当は、これを先に言うべきだったのよね。林華、【種族進化】おめでとう。何をやってもダメだった貴女が、誰よりも凄い探索者になるだなんて想像もしなかったわ。貴女、本当に頑張ったのね」
「ミ、ミライちゃん……! う、うんっ、頑張った……本当に頑張ったんだよぉ……!」
森山さんはボロボロ泣き出したと思ったら、よろよろとミライさんに寄り、縋り付くように抱きついた。
――エルフに――頑張っ――ミライちゃ――認められ――怖いけど――頑張って――
――うん――凄い――誰にも――貴女だけが――
涙声の森山さんと、その背を撫でながら穏やかに囁くミライさんの声が聞こえてくる。
それはまるで、母親に認められて喜ぶ子供と、甘やかす母親のような姿だった。事情を知らなければ実に美しい光景である。
「嘘、あのミライちゃんが? うっ、ぐすっ! よかったね、林華ちゃん!」
「あのミライが林華を認める日が来るなんて……いえ、有り得ませんね。絶対に何かがある……しかし何を企んで……」
芽衣さんは貰い泣きしているが、樫原さんは疑いの目でミライさんを見ている。
人が良い芽衣さんはともかく、樫原さんはさすがというか、やはり付き合いが長い分、ミライさんのことをよく分かっているな。
しかし、ミライさんのことばかりを警戒しては、その目的も気づけまい。鍵となるのは俺なのだから。
ミライさんを警戒しているこの絶好の隙に、じっくりと覗かせてもらう!
「えっと〜、颯太君? 何故そんなに私をじっと見ているのかな?」
「あ。そのですね……可愛らしいなーって思って、つい」
「えっ!? ……わ、私にもとうとう春が!?」
いかん。見ようと思ったら気づかれた。
どうしよう、さすがにこの状況でも見続けるのは厳しいものが。
か、川辺! お前しかいない! 助けてっ!
ミライさんと違い、俺達であればちょっとした目線で意思を伝えられる。
川辺と目が合った瞬間、俺たちは意思を共有した。
――時間を稼げ! なんだったら口説け!
――いいの?
川辺が目を輝かせた気がした。そんなに嬉しいんかお前。
何度か咳払いをして喉の調子を整えると、川辺は声だけイケメンになって無謀にも口説き始める。
「芽衣さんの可愛らしさに虜になるのも無理はないです。かく言う俺だってそうなのですから。ところで芽衣さん。パートナーはいたりしますか? もし良かったら今度二人きりでお食事でも――」
「あ、ごめん。私不潔なデブはちょっとタイプじゃないから」
「…………」
バッサリいったぁあああああああ!!
これはキツイ! まさか秒で振られるとは! あんなの言われたら耐えられない!
「ほら、結構前にアイドルのゲームであったでしょ? 〝外見は内面の一番外側〟ってやつ。あれ本当に良い言葉だと思うんだよね。君も他人に興味持ってもらいたいなら、まず外見を整える努力をしないと。でないと誰にも好きになってもらえないよ?」
しかもさらに追い打ちをかけてきやがった。よりにもよってあのアイ〇スど正論をブチこんでくるとは。お前それはオタクにとっての禁じ手だからな?
可愛いアイドルから指摘されたその言葉に、一体どれだけのオタクが殺されてきたのか知らんのか。というか俺にも刺さるんだが……。
いくら川辺でもこれには耐えられないか? 仮にそうで合っても責められない。あんな無情な振られ方そうそうねぇよ。
しかし、川辺は強かった。本当は膝を着きたいくらいショックだっただろう。だがそれでも、アイツは俺からの任務を果たそうと奮い立った。
「――ちょっと可愛いからって調子に乗ってんじゃねぇよ! いくら見た目が若返ろうと四十のババアには変わりねぇからな!?」
「はぁ!? なんだこのデブ! お前今何て言った!?」
「お高く止まってんじゃねぇって言ったんだよ行き遅れ! 何が清潔感だボケが! 素直に若いイケメンが良いって言えや! そもそも選り好みできる年齢じゃねぇだろうが! 身の程を知れ!」
「うるせぇキモデブ! 私が結婚できなかったのは林華ちゃんに悪いと思ったからだよ! テメェ死ぬ覚悟できてんだろうな!?」
アイツ凄いな。まさか振られるや否や喧嘩を売るとは思わなかったわ。なんちゅう力技を……。
でもこれなら確かに時間稼ぎにはなる。芽衣さんもすっかり川辺に集中している。いくらでも盗み見し放題だ。
早いとこ確認しとかないと。下手すりゃ川辺が死にかねない。
さて、順番に見ていこう。レベル58で、種族は半妖精。これもびっくりだけどまぁいい。まずはステータスからだ。
ステータス:【MP】1215【STR】563【CON】581【POW】433【DEX】297【INT】662
ヤベェだろこれ。こんなに小さいくせにほとんどにおいてミライさんを上回っている。【MP】に至っては千に達しているぞ。
恐ろしいのが、この人はおそらく戦闘を専門にする人ではないということだ。にもかかわらずこれか。
しかし今までのレベルアップのステータス上昇量からいって、この数値はレベル58というだけでは説明がつかない気がする。明らかに上昇の仕方がバグった強さじゃないか? だとすると、やっぱり【種族進化】が原因か?
【種族進化】することで、レベル上昇とは別枠のステータス強化が入るとしたら、ますます皆がそこを目指すだろうな。
よし、ではいよいよジョブとスキルだ。この人はここからが重要。隅から隅まで見させてもらう。
〈運搬屋〉
【重量軽減】レベル8【インベントリ】レベル8【腕力補正】レベル5【体力補正】レベル5【重量転化】レベル2
かつては俺も狙っていた〈運搬屋〉。まさか先駆者がいたとはな。よくもまぁここまで隠し通してきたものだ。
意外とスキルが少ないが、最高レベルは8。ここまでスキルレベルが高い人は見たことがない。
【腕力補正】、【体力補正】は別に珍しいものでもないな。そして荷物持ちなら持っていてもおかしくない。重いものを運ぶなら、腕力と体力は必要だし。全体的に高いステータスはこのスキルも原因か。やっぱり素のステータスが高いわけではないのかもしれない。
重要なのは残り三つだな。
【重量軽減】――自身が所持する荷物の重さを減らす。
まぁこれも〈運搬屋〉らしいスキルだな。シンプルだが実に便利だ。これがあれば大量の荷を運べる。
しかし、やはり次のスキルに比べれば印象は落ちる。これぞ〈運搬屋〉と言わしめる、特徴的なスキルだ。
【インベントリ】――自身の体に接触した物を己の作り出した異空間にしまう。生物不可。80種各80個。
とうとう出てきたな【インベントリ】。これを俺たちがどれだけ熱望していたことか。
この文面から察するに、ようは触った物をしまえるってことだよな? んでもっておそらく生物以外はなんでも入る。アイテムバッグと違って容量の制限はないから、大きさも関係なし。ずるくね?
その代わり種類と個数の制限はあるようだが、80ってすげぇな。これだけあれば荷運びには困らないだろ。
……いや、そうでもないか?
自前でアイテムを持ち込んで、素材の採集をしていたら80種ってすぐに埋まりそうだな? ゲームだったら数百くらい普通にあるし。案外入らないか?
いやでも80個ずつ持ち込めるなら、ポーションとか補助アイテムには困らないよな。やっぱりズルいだろこれ。
今となっては俺たちもアイテムバッグを手に入れたが、その前にこれを知ったら嫉妬で殺したくなっただろうな。
【重量転化】――自身が所持する荷物の重さを攻撃力に上乗せする。
そして最後にこれだ。荷物がそのまま武器になるとは、意外だけど確かに〈運搬屋〉らしいスキルだ。〈運搬屋〉はサポート専門だと思っていたけど、案外戦えるのかもしれん。だとしたら更に有用なジョブだと……ん?
あ、いやでもちょっと待てよ? これなんか無駄になってね?
【重量軽減】が軽くするスキルなのに、重ければ重いほど攻撃力が高まるってちょっと噛み合わせ悪いよな?
ああ〜、だから【重量転化】のスキルレベルが低いのかな? あまり使う機会がないみたいな?
――いや待て、そもそも【重量軽減】と【インベントリ】ってもっと相性悪いな!?
【インベントリ】があるなら【重量軽減】が死んでるだろ! なんだよ〈運搬屋〉! こんな無駄が大きいジョブなのか!?
……いや、さすがにこんな噛み合わせの悪さはおかしすぎるな。そもそも両方ともレベル8だ。常に使ってるくらいじゃないとここまでは上がらないだろうし。必要だから育っているのでは?
二つが両立する必要がある理由。となると――もしかして、【インベントリ】って重量無視の効果がないとか?
ああ〜、マジでこれっぽいな。これなら色々納得がいく。
重量の制限がない代わりに、容量の制限がつくのがアイテムバッグで。
容量の制限がない代わりに、重量の制限がつくのが【インベントリ】みたいな。
荷重という枷を与え続ける代わりに、異空間にしまうという能力を自前で得ることができた、って考えるとしっくりくるかも。
あるいは、どこまでいっても荷運びということには変わりない、というメッセージなのかもしれん。ちょっと面白いな。
「――上等だよクソデブ! ちっせえからって舐めんなよコラァアアアアア!」
「えっ? はっ? ちょっ、力強っ――」
あっ、芽衣さんがとうとうブチギレて川辺に掴みかかった。
小さい体で自分よりでかいデブの胸倉を掴んで振り回している。川辺はその強さに本気で驚いているようだ。
あ、そっか。アイツ、芽衣さんのステータスが見えてないから喧嘩売れたのか。
……早いとこ終わらせてあげよう。
〈アイテム使い〉
【アイテム理解】レベル―【効果上昇】レベル8【効果拡大】レベル6【効果範囲拡大】レベル8【効果延長】レベル3【消費削減】レベル6【即時発動】レベル4【アイテムスロー】レベル7【爆弾強化】レベル8
まさか俺以外に〈アイテム使い〉がいるとは……いや、そういえば前にタケさんが、それっぽいことを匂わせていた気がするな。もしかして知っていたのかな?
それにしてもこのスキルの数々。どれも見たことのないスキルばかりだ。
だけど名前でどんな能力なのか想像しやすいな。時間もあまりないし、俺自身も持っているジョブだからそこまで詳しく見るつもりもないが、あえて気になるとすればこの辺りか。
【効果拡大】――アイテムの持つ効果を拡大し、新たな効果を付加する。
【即時発動】――アイテムの効果を任意で最大限発揮する時間を早める。
【効果拡大】は、効果を新しく付与か。確信は持てないが……例えば、ポーションに新しく解毒を付与とか、そういうことができるってことかな?
あ~、アイテムに使われている素材の効果を増幅させれば、確かにそれも可能かもな。例えば〈鈍化薬〉なら、麻痺だけではなく毒の効果がある毒草が使われているし、そうすれば毒と麻痺の二重効果を持たせることもできそう。
……え、やばくないか? 便利な物がより強くなるし、使えないアイテムが一転して強力なアイテムに変わるとか。投げ売りされているようなゴミを独り占めして、強化されたアイテムとして使いまくることもできるよな? そう考えると反則だなこれ。
【即時発動】は、アイテム効果が発動するタイムラグを減らすみたいな感じかな? 爆弾系統なら、起爆の時間を早めるみたいな。使い所が難しそうな感じだな。下手すりゃ自分も巻き込まれるような。あ、でも任意でやれるのか。なら便利かもしれん。
それ以外に特に気になるスキルはないが、この段階で見れたのは俺にとって僥倖だったな。
先達者の見本を見ることができた。そしてスキルの存在を知ることができた。これは本当に大きい。俺もそこを目指せるからな。いつかこの経験が役に立つ時が来るはずだ。
「なんでデブがブタさん呼ばわりされるんだデブゥ! ブタさんは綺麗好きだし体脂肪率低いし、おまけに美味しくて人の役に立つんだぞぉ! お前みたいなデブとは大違いだデブゥ! 聞いてんのかデブゥ!」
「ずみまぜん……もう許して……ッ!」
いつの間にか芽衣さんがマウントを取って川辺を殴り続けていた。
そう長くは持つまい。いよいよ時間がないから、一番大事なところを見ようか。
そう、お前だよ〈空間魔術師〉! ――あと種族スキル。
〈空間魔術師〉
【空間把握】レベル―【座標指定】レベル4【空間跳躍】レベル4【次元跳躍】レベル3【空間切断】レベル2【空間圧縮】レベル2【空間拠点創造】レベル3
種族スキル:【妖精の通り道】
はぁ、まさかこんなとんでもないもんが見れるとは思わなかったな。
いくつも気になるスキルがある。だがまぁ、差し障りのなさそうなところから行こうか。
【空間把握】はまぁ、〈アイテム使い〉でいうところの【アイテム理解】みたいなもんだろ。空間を把握せずして空間を操ることはできないみたいな感じだろうな。
【空間切断】――指定した空間に、空間を切り裂く斬撃を放つ。
【空間圧縮】――指定した空間を圧縮する。
これもそのままだが、ロマン溢れるスキルだな。空間ごと切り裂く、握りつぶす。カッコ良すぎる!
絶対強いだろこれ。おそらく防御無視の攻撃になるはず。射程範囲次第だと思うけど、ぶっちゃけ倒せない敵はいないんじゃね?
これだけでもうサポート役じゃねぇよ。〈運搬屋〉如きが持っていい力じゃねぇだろ。荷物運びが実は最強ですってなんだよそれ。なろう系の主人公じゃねぇんだからよ。
んで、ある意味もっとやばいのがこれよ。
【空間跳躍】――【座標指定】地点、または視界に入った地点への空間跳躍を可能とする。距離、人数に比例して消費魔力増大。
〈空間魔術師〉というなら、あって当然だよねのテレポート。見えてる範囲なら跳べるとかまじでズルい。やばいと感じたらすぐに逃げれる。緊急回避手段としてこれ以上ない。
もちろんそれだけじゃない。ぱっと消えたら敵の背後でズバッ、という攻撃もできる。敵からしたら悪夢だろ。少し目を離したらどっから飛んでくるかわからないんだから。
四代目かな? リアル火影ごっこができるのはいいなぁ……。
んでもって、見えない所に跳ぶための【座標指定】か。というか【座標指定】すればどこでも跳べるって、限界距離はどのくらいなんだろう?
日本ならどこでも行けんのか? 海外はどうだ? もし可能だとすれば……やめよ。ちょっと考えただけでイリーガルな問題に行きつくわ。
さて――いよいよ核心に迫る時が来た。
【空間跳躍】がこれなら、もう間違い無いだろう。
【次元跳躍】――【座標指定】地点へのダンジョン内の階層を超えた【空間跳躍】を可能とする。
これだぁあああああああああああああ!!
もう間違いない! 【鑑定】に代わる優位性! 絶対にこれだ!
だって考えてみてほしい。トップレベルの探索者が停滞している理由は何か? 遠征を重ねて理解したけど、間違いなく移動問題なんだよ!
この世界のレベルのルール上、格下の敵を倒してもレベルは上がらない。つまり同格以上の敵を倒し続ける必要がある。
ってことは、ミライさん達みたいな一流レベルがレベリングするなら、わざわざ深層まで移動する必要がある。
でもここで、俺たちがここに来るまでの時間を考えて欲しい。 26層まで五日かかった。つまり往復で十日は使うってことだ。
もちろん人によるだろうが、体力、ストレスの関係で、目的の階層でレベリングをできるのは四、五日が限界らしい。モチベーションが落ちると途端に怪我をしやすくなり、死にかねないとか。というかまず先に物資が尽きる。
となると、一回の遠征で二週間くらい使うということだ。
当然遠征から帰ったら、回復のために数日は休養を入れるだろう。それを考慮すれば、深層への遠征は月に一回か二回くらいしかできない。
しかもこれ、レベリングに専念した場合の話だからな?
金も稼ぎたいし、クライアントの付き合いとかで、レベリングに専念できない人もいるだろう。そりゃレベルも中々上がらなくなる。
だけど、もしこの半分でも時間を短縮できたら? 単純にレベル上げる速度が倍になるはずだ。
ミライさんは言っていた。森山さんの余裕は明らかにおかしい。ダンジョンに潜り続けている人のそれではないと。
そりゃそうだよ! だって人より楽に短い時間で移動してるんだから! 楽にレベリングスポットに行けるし、休養を入れる余裕もあるだろうさ!
俺が【鑑定】による経験値効率というアドバンテージを持つのに対し。
森山さん達は、ファストトラベルというアドバンテージがあったわけだ。
優雅に休日を楽しみつつ、【種族進化】に至るまでに。
――いやずっる!! そんなのありかよ!?
しかもだめ押しのこれよ!
【空間拠点創造】――異空間に自分の拠点を作り出す。
これは!!! ダメだろ!!!
絶対にっ!!! いかんだろ!!!
油断をしてはいけないダンジョンで、絶対に安全な拠点を自分達だけ確保するとか、お前どんだけズルを重ねれば気が済むんだ!? 下手すりゃ【次元跳躍】より凄いわ!
〈空間魔術師〉ちょっと優遇されすぎだろ。こんなのがポンポン使えたら反則すぎるが……使えるのか?
こんな強力な力、そう簡単に使えるとも思えない。というかそうであってくれ。せめてコストが高いとかマイナス点がないと納得できん。
【妖精の通り道】――妖精だけにしか使えない、秘密の通り道がある。空間移動系のスキルにおける【MP】消費量を軽減する。
ああ〜、なるほど。このスキルで消耗を抑えられるのか。
わざわざこんなスキルがあるってことは、移動するにはそれだけの魔力消費があるってことだよな。やっぱり空間【魔術】自体、そう気軽に使えるようなもんでもないのかも。
だとしても、圧倒的な性能であることは間違いない。
な~にが日本を代表するトップ探索者だよ。このチートおばさん共がよぉ……!
「あー、腹立つ。この程度で勘弁してあげる私の優しさに感謝しなっ」
「やりすぎですよ芽依。大人気ない」
どうやらちょうど芽依さんの方も終わったらしい。
樫原さんに窘められながら、ポイッと川辺の胸倉から手を放す。見れば、川辺の顔には腫れてない場所がない程、殴られた跡が残っていた。
どんだけ殴ればこうなるんだよ。でもまぁ、これでも手加減してんだろうな。生きてるんだから。
よくやったと心の中で賛辞を送りながら、川辺の顔にポーションを垂らす。
芽依さんはこちらを一瞥もせず、森山さんの方へ向かった。
「林華ちゃん、そろそろ行こう! いつまでものんびりしてらんないでしょ!」
「えっ。もう少し……」
ミライさんに抱き着きながら、森山さんは寂しそうに芽依さんに振り向く。
そんな森山さんを優しく抱き止めているミライさんは、さり気なく俺の方を見た。
俺は両手で丸を作る。それを見たミライさんは態度を急変させ、森山さんを突き飛ばした。
「きゃっ!? ――えっ。え? 何!?」
「何? じゃないわよ。いつまでくっついてるつもり? 気が済んだなら早く離れなさい」
「え。私まだ全然……というか何ですかそれ!? さっきまではあんなに!」
「たまに優しくしてあげればすぐに調子に乗る。良い大人がいつまでも甘えてるんじゃないわよ。早く行きなさい。目障りよ」
「何!? 本当に何なの!? 私の心を弄んだの!? ――ミライちゃんのバカー!」
「はいはい。もう気は済んだでしょ。いいから行くよ~」
「皆さん、お騒がせしました。ミライ、また会いましょう」
森山さんは不満そうだったが、芽依さんと樫原さんに引きずられていった。
その方向は階層の入口、出口とは全く違う。森林フィールドに向かっている。その背がかなり小さくなったところで、ミライさんは億劫そうに呟く。
「あの子達もしばらくこの階層に居る気かしらね。ちょっと面倒だわ」
「そうかもしれませんけど、たぶんこのまま帰るつもりだと思いますよ」
誰にも見られないために、森に行ったんだろうな。
俺達のスライムレベリング並みに、知られたらヤバい情報だろうし。
「――? どういうこと? あっちには出入口は……いえ、何か掴んだのね?」
「ええ、全て分かりましたよ。奴らの卑劣な強さの秘密がね」
是非ともこの怒りを共有しなければ。
あのチート、ほんっとにやってらんねー、って感じだわ。あームカつく。
♦ ♦
「――ざっけんじゃないわよっ!!!!」
俺が芽依さんの全てを話してすぐのことである。
全員等しく、喋ることも忘れる衝撃を受けていた。しかし、ミライさんだけは違った。
静かに聞いていたと思ったら、スタスタと近くにあった大岩まで移動する。そして鬱憤を晴らすかのように、その岩を殴り始めた。
ドカッ、ボガッ、バゴンッ! と、拳と足を振るう度に岩が壊されていく。ゴリラが怒りのままに暴れまわるのを、誰も止められない。
「私の努力不足!? 【種族進化】もできていない!? やっぱりアンタ何一つ役に立ってないじゃないっ! 全部芽依のお手柄でしょうがっ! あのポンコツ娘! どの口で私をバカにしてるのよっ!?」
聞くに堪えない罵声を吐きながら、ミライさんは大岩を粉々になるまで砕いた。
そうしてようやく落ち着いたのか、長く息を吐いて、また俺らの元に戻ってくる。
「ごめんなさい。取り乱したわ。どうしても怒りが抑えられず……」
「いえ、気持ちは分かりますよ。あれはちょっとないですわ」
それだけの力だもんな。ミライさんじゃなくてもキレるわ、マジで。
森山さんで舞い上がっていた伊波でさえ、正気を取り戻している。
「まさか本当にファストトラベルを使う人がいたとはね。さすがに驚いたよ。森山さんに会えた感動が吹き飛ぶ衝撃だ」
「私としては【空間拠点創造】が反則だと思いますね。完全な安全スポットを作れるなんて、反則にも程がありますよ」
「おまけに【インベントリ】の使える〈運搬屋〉と、〈アイテム使い〉ですか~。理想的な組み合わせですね。なんとなく楓太さんに似てますね?」
そう、チヨちゃんの言う通りなんだよな。
芽依さんと俺はかなり似ている。
「たぶん芽依さんはさ、俺が進んだかもしれないもう一つのルートを行った人なんだよね」
俺と同じように、最初からサポート専門で行くと割り切った思考だったからこそ、ああいう力を得ることができたんだろう。
というかジョブの取得順を見る限り、なんだったら俺よりも早く、ダンジョンに入る前から荷運びを担当するという自覚を持って臨んだはずだ。
でないとあの三つのジョブは習得できない。俺が真似できたとしたら、〈運搬屋〉までかな。四つ五つのジョブが取れるなら別だけど、今の所三つまでしか持っている人を見た事がないし。
「というかよ、なんだよそのステータス! オレ、ミライさんを超える化け物に行き遅れとか言って喧嘩売ったの!? 止めろよ! 冗談抜きで死ぬところだっただろ!?」
「いや、確かに自殺願望者かなと思ったけど。あの状況で伝えろって言う方が無茶だろ。というか、俺は何も言ってないし。お前が勝手にやっただけじゃん?」
「お前が合図したんだろうがよ!? 時間を稼げってよぉ!?」
「喧嘩を売れとは言ってないんだわ……。まぁいいじゃん、ポーションで治ったんだから。お前のお蔭で重要な情報を盗めた。よくやったな」
「そのせいでオレはあの人に目を付けられたんだが!?」
まぁそれはコラテラルダメージってやつよ。些細な問題だから気にするなって。
俺達の話を聞いていた刻子さんが、疲れたようなため息を漏らした。
「予想外にも程がありますね。階層を飛ばせるのでしたら【種族進化】もできる訳ですよ」
「ふふっ、さすがにこれはズルいとしか言いようがないね。とても真似できることじゃない」
「ホントだよー! 私達がどんなに苦労していると思ってんのさ!」
「ズル過ぎる……ッ! 私がどれだけ頑張って……呪いたい……ッ!」
さすがにこれには〈百花繚乱〉の皆様もお怒りの御様子。まぁ当然だろうな。
「全ての探索者をコケするような、卑怯すぎる力ですよアレは。そんなズルい力を使って、トップ探索者を名乗っているんですからね。恥を知れ、って感じですね」
『…………』
何故だろう。皆の気持ちを代弁したはずなのに、なんか白けた目を向けられている気がする。
俺が不安に思っていると、皆が俺を無視して円陣を組み始めた。
「えっ。ちょっと。なんで俺を省いて……」
「黙れ。今審議中だから」
「審議!? 何の!?」
川辺に冷たくあしらわれた。不満の声を上げるがそれすら無視して、皆で何か相談している。
――ファスト――確かにズル――でも錬金――おまけにホムンク――道具も装備も――スライムと比べ――拠点だって――
ボソボソと話して所々か聞こえないから、何を話し合っているか分からない。
ちょっとした孤独を感じていたら、ようやく話し合いは終わったらしい。
代表して、川辺が何度か頷き言った。
「はい、審議出ました。結論、お前の方がズルい」
「なんで!?」
それは絶対ないだろ!? 俺は唯一ではないし、他の奴だってマネできるぞ!?
あっちはマジで誰も真似できねぇし、遠征が遠足に変わるレベルじゃねぇか!
「意義あり! 絶対俺の方がまだマシだと思います!」
「却下します。評価点としては、ジョブの組み合わせと出来る事の多彩さな」
「〈運搬屋〉、〈アイテム使い〉も中々だと思うけど、〈錬金術師〉、〈アイテム使い〉はやっぱりどう考えてもやっちゃいけない組み合わせだと思うよ。補充の問題が消えるし、欲しいと思ったらどんなアイテムでも自前で用意できるのは〈アイテム使い〉としてズルいだろう。というかアイテムバッグを見つけた今なら、〈運搬屋〉の優位性も絶対ではないし、楓太はほとんど同じこと出来ちゃうよね?」
伊波が冷静に指摘してくる。そう言われるとぐうの音もでねぇな。
でもやっぱりおかしいと思う!
「だとしても、ファストトラベルはズルいでしょ!? こればかりは否定できないはず! あと拠点創造も!」
「確かにズルいんですけど、強い敵を倒していることには変わりないじゃないですか? 魔物と戦う苦労はしているんですよ。それを踏まえるとどうしてもね」
「スライムの方が遥かに楽でズルいです……ッ!」
刻子さんは困ったように笑い、日向さんからはガチっぽい殺気を飛ばされる。
仮にも所属組織のリーダーに向ける目じゃないんだが……。
「あと拠点もだけど、たぶん楓太さんなら時間をかければダンジョンに作れるよねっ!」
「ふふっ、空間移動だって存在することを知ったんだから、楓太さんならアイテムで再現できるようになるんじゃないかな? そうなればもう、芽依さんの絶対性も消えるね」
「どちらも喉から手が出るほどの存在だということには変わりないわ。だけど仲間にできるのがどちらか一人なら、確実に楓太君を選ぶわね。という訳で、客観的に見たらズルいのは楓太君の方ね。それだけ頼りになるってことだけど」
〈百花繚乱〉の残り三人からトドメを刺される。
そんな……仲間からズルい扱いされるなんて……。
「俺、そんなにズルいのかな。皆の役に立とうと必死なだけなのに」
「ふふっ。確かにずるいですけど、それは私達にも使われている訳ですからね。頼りにしてますよ」
「楓太さんのお蔭で此処まで来れました。これからもお願いしまーす」
クスクスと笑っている七海姉妹に慰められ、ちょっと心が晴れる。
本心から喜ばれているし、それならズル扱いされてもいっか。
「とはいえ、芽依の力も見逃せないわ。仲間に欲しいのは楓太君。でもパーティに欲しいのは間違いなく芽依だから」
「まぁ、確かにそれはそうですね」
〈運搬屋〉と〈アイテム使い〉、そして〈空間魔術師〉によって得られるサポート。こればかりは俺も敵わない。小回りが利くという意味で、遠征にどっちが必要かと言われたら間違いなく芽依さんだ。
安全な拠点で俺がアイテムを生産し続け、それを使って芽依さんが現場をサポートする。効率面で言ったら、これが盤石な態勢になるだろう。
「芽依さんのようなサポーターが一人。そして他の戦闘担当が五人。将来的にこれが理想のパーティになるのは間違いないでしょうね」
「ええ。アイテムで代用ができればいいけど、もし不可能ならやはり人を揃えなければいけない。最低でも〈空間魔術師〉を取得しないと……」
そうだよな。だとすると、もしそれを取得できるとすれば――
自然と、皆の目が伊波と刻子さんに集まる。二人はそれを受け止め、困ったように眉を顰めた。
「まぁ、確かに可能性があるのは僕らでしょうが」
「正直、切っ掛けすら分からないですね」
確かにな。空間を操れって言われたって、どうやって? って話だし。
うーむ、と唸りながら、伊波は続ける。
「どうにかして空間に干渉する手段を手に入れないことには、そもそも〈空間魔術師〉なんて生えてこないと思うんだよ。でも、肝心のその手段に見当がつかない。芽依さんが取得できたのは、おそらく〈運搬屋〉のおかげだろう?」
「間違いなくそうだろうな。なんせ異空間を操って物をしまっているんだから」
【インベントリ】。あれが結果的に、〈空間魔術師〉に繋がるスキルになっているんだろうな。
それならまず〈運搬屋〉を取得するように頑張ればいいという話なんだが
「今から伊波と刻子さんが〈運搬屋〉を取得できるとは思えないんだよな」
「へぇ? それはなぜかしら」
「これは皆のステータスを見て俺が感じていることなんですけど、最初の取得したジョブで、その後取得できるジョブが限定されている気がするんですよね」
戦闘を専門とする戦闘職。
生産を専門とする生産職。
そして、独自の道を行く特殊職。
勝手に俺が分類しているんだが、おそらくジョブはこの三つに分けられるんじゃないかと思う。
「戦闘職は戦闘職しか取得できない。生産職は戦闘職を取得できない。そして特殊職は、条件に当てはまらないと取得できない、みたいな? まぁそんな感じの縛りがある雰囲気なんですよ。で、たぶん〈運搬屋〉は特殊職で、その条件に最初のジョブのみ、って感じの縛りがあるんじゃないかなーと」
これなら今まで〈運搬屋〉の取得者がいなかった理由に説明が付く気がする。
初回限定を逃したらそりゃ取れんわ。逆に言えばそれくらいレアだからこそ、〈空間魔術師〉にもなれたような気もする。
だとすると〈運搬屋〉は、〈空間魔術師〉になるための前提ジョブとして設計されている可能性もある。
「それだったら、まだ俺がそういうアイテムを作る方が早い気がしますね。もっとも、どんな魔物からそんな素材が取れるのかという話ですが」
「――いえ、心当たりがあるわ。芽依は半妖精なんでしょ? だったら同じ妖精系の魔物なら持っていてもおかしくないわ」
「あっ! そういえば妖精の魔物が瞬間移動しているところを何度か見た事がある!」
「言われてみれば確かに。鬱陶しい敵としか考えていませんでしたが、あれならスキルとして持っている可能性は高いですね」
高い声を上げたカコちゃんに、刻子さんも同意する。
おっと? これは意外にも早くアイテムを作れちゃうか? 芽依さんに嫉妬する必要もないか?
「林華を引き込めればよし。駄目でもアイテムの当てもつく。となれば、あとは強くなるだけね」
ミライさんは強気な笑みを見せる。すると剣呑な空気……覇気のような物を纏い始めた。
それまでの姿が嘘のような、戦意に溢れた姿だ。
「私は決めたわ。プライドも何もかも捨てる。やれることは全部やる。そして林華の強さに追いつくとね。だから楓太君、装備だけじゃなく、使えそうなアイテムも作ってちょうだい。戦闘にアイテムも投入して全力でレベリングに集中するために」
「ああ~、いや、別にそれはいいんですけど」
補助アイテムを使えば、ミライさん達ならこの階層でも短時間で戦いが終わるだろうし。
でも、それ以前にさ。
「普通に誘えば仲間になってくれませんか? あれだけ俺のアイテムを欲しがっていた訳ですし」
「今はまだ駄目よ。レベルに差があり過ぎると、あの子達が好き放題やる可能性があるでしょ? 同じくらい強くなって、あっちの方からお願いします仲間に入れてくださいって言わせるくらいじゃないと」
そんな理由かよ。
分からないでもないけど、それ絶対に違うだろ。単に負けてるのが悔しいだけだろ。
しかしまぁ、どんな理由であれモチベーションが上がるのは良いことだ。
実際この後、ミライさん達はさらに集中し、多くの魔物を殺し続けた。
日没までにミライさんは早速レベルを1上げるという、本格的なレベリングの幸先の良いスタートとなった。
♦ ♦
【探索のヒント! その三十九】
〈運搬屋〉
ダンジョン探索において、荷運びとは重要な役目である。
ダンジョンで金を稼ぐには、素材を持って帰らなければならない。しかし重い荷物を抱えたまま戦うのは、敵に圧倒的なアドバンテージを与えるに他ならない。
安全を取り採集物を減らせば儲けは少なく、欲張って多くを抱えれば命を失いかねない。
ゆえに、荷運び役の人材とは必要な存在である。たとえパーティ枠を一つ潰したとしても、誰かが担わないといけない程に。
〈運搬屋〉はまさに、その荷運びに特化したジョブである。
重さを減らす【重量軽減】。重い荷物を運ぶために必要な腕力と体力を増やす補正スキル。そしてなにより、より多くの荷を運ぶことを可能にする【インベントリ】。
とりわけ【インベントリ】の重要度は高い。特大のリュックサックを遥かに上回る【インベントリ】の輸送力は、もはや特大トラックと同等、あるいはそれ以上の能力がある。
なによりも脅威なのが、【インベントリ】に容量的な制限がない点。そして時間停止機能が備わっている点だ。
人よりも遥かに大きい魔物を丸ごと持って帰ることも可能であり、そして何より腐らない。探索者にとってこれがどれだけ助かることか。
たった一度の遠征で途轍もない大金を稼ぎ、無茶な遠征計画すらも可能にしてしまう。〈運搬屋〉がいるといないのでは、探索の自由度がまるで違う。
なお、アイテムバッグは重さを無視する代わりに、バッグという形状を超えた物を入れることができず、時間経過もある。このあたりが【インベントリ】とアイテムバッグとの差別化と言えるだろう。
荷物の重さを感じるという代償に相応しい、いや、それ以上の優位性だ。
そしてなにより重要なのは、〈空間魔術師〉へと繋がる経験を得ること。【インベントリ】はその性質上、自然と異空間に干渉することになる。つまり〈空間魔術師〉に必須である空間を操るという経験を得ることができる。
現存する全てのジョブの中でも数少ない、〈空間魔術師〉以外で空間に作用する力を持っているジョブ。本編で楓太が推測した前提となるジョブなのではないかという説も、あながち間違いではない。
これだけ強力である〈運搬屋〉というジョブであるが、その取得は思った以上に難しい。多くの特殊職に共通する、最初のジョブであるという点。そして荷運びを専門にやっていく覚悟が必要となるからだ。
ダンジョンに潜る者は金だけが夢ではない。華々しく活躍したいという虚栄心もまた、探索者の多くが感じる欲望だ。
口では望んでいないと言いながら、それを完全に捨て去る者は多くない。それらを諦め、荷運びに集中するという献身性がなければ、〈運搬屋〉を得ることはできない。
荷物を運ぶ。ただそれだけの地味な存在。しかし侮ってはならない。
〈運搬屋〉こそ、パーティを支える土台であることは間違いないのだから。
――とはいえやっぱりアイテムバッグがあるならその重要性は落ちる。なぜって? だって重さがないなら荷物を抱えたまま戦えるもん。
パーティ全員で持てば、ほとんど容量的には変わらないよね? むしろ戦えない分、〈運搬屋〉入れない方が便利じゃね? くぅ~、〈運搬屋〉さんお疲れ様でしたっwww
【その頃の拝賀君その②】
「ギャアアアアアアオオオオオオオオオ!」
「バ、馬鹿な……ッ! いない……変わり身で擦り付ける魔物が……どこにも……!? あっ、いた! アイツに――ま、待てっ! 逃げるな! 僕の代わりに――よし、これで――ち、違うっ! こっちにくるなっ! お前は向こうに行くんだよっ!」
「ギィイイイイイアアアアアアアアアアアアア!!」
「はわっ!? はわわわっ……そ、そんなっ! まさかここで……死……!?」
わりと絶体絶命のピンチだったもよう。




