第94話 幸運
翌日は移動で丸々潰れることになった。
正直採集をしながら進みたかったが、この広さになると次の階層に進むのさえ一苦労だ。
レベリングが目的である以上、いつまでものんびりしているわけにもいかない。とにかく先を進み、五日目は26層に辿り着いたところで一晩を明かす。
そして迎えた六日目。散策しながら魔物の【鑑定】を何度も繰り返し、俺は確信する。
「この階層ですね。間違いないと思います」
やっと着いたって感じだ。まさか移動だけで五日も掛かるとは。
しかしそれだけの時間をかけた甲斐はある。ここでなら〈百花繚乱〉のレベリングも捗るだろう。
「最高で35。ミライさん達の中で一番レベルの低い日向さんが30。ここなら何と戦っても大丈夫ですよ」
「そう、ありがとうね。それじゃあここから本格的にレベリングを兼ねた獲物探しを始めましょうか」
パキッ、パキッと、ミライさんは珍しく指を鳴らして戦いの準備を始める。すると他の四人も体を解したり、武器を取り出したりと備え始めた。
心なしか、これまでよりも剣呑な空気を放っている気がする。戦いに怯えている日向さんでさえ、目つきが鋭くなっていると言えばその本気度が分かるだろう。
やはりこのくらいの階層になると、ミライさん達も本気でやらないといけないということだろうな。そんな場所に俺達がいて大丈夫かと不安になるが……。
そんな不安を察してか、ミライさんは頼もしい笑みを浮かべて言う。
「大丈夫よ。大抵の敵は私達で止められるわ。仮に貴方達のところへ行っても、数匹程度なら自分達で対応できる。それくらいの強さはあるから自信を持ちなさい」
「はぁ、本当にそうだったらいいんですが……」
「安心してください。最悪僕が引き付けて囮になりますから」
「そういえばそうだったね! その時は頼むよ拝賀君!」
「急に元気じゃないですか……」
死なないと分かればそりゃね。
本当に期待しているからなっ!
「ただ、私たちの指示には絶対に従ってちょうだい。パニックになって私達でも勝てないような魔物のところへ逃げられると、さすがに守りきれないから」
「はい。勝手な行動は――ってちょっと待ってください。ミライさん達でも勝てないような奴がいるんですか?」
「油断できないやつが何種類か。それと私達でも挑む気になれない奴が一匹。ああほら、あそこよ。見えるでしょ?」
言われ、ミライさんが指した方向に目をやる。
しかしそうは言われても、サバンナの景色が広がっているだけで、どれがその魔物かは分からない。ちらほらと群れを作っている魔物や、かなり遠くに孤立している恐竜はいるが……。
「――ん? え? もしかしてあれ?」
「そう、あれ。ここからじゃ分かりにくいだろうけど、近くに行ったら凄いわよ」
サバンナの更に奥に森がある。その森の中から長い棒のような物が飛び出し、ゆっくりと動いているのが見えた。
いや、おそらく棒ではなく首なのだろう。【鑑定】すら届かぬ距離に居るのに、その陰が分かるとなると、一体どれだけサイズなのか。
「えぇ……。もしかしてあれ、ブラキオサウルスとかスーパーサウルスとかそういう感じの?」
「そんなもんまで居るのかよ。いや、恐竜が出てくるなら分からんでもないけど」
「あれは人間が勝てる生き物なのか? 僕の【魔術】なんか通る気がしないんだが」
俺達が揃って呆然としていると、ミライさんも同じ方向を見ながら説明してくれる。
「相変わらずバカみたいなサイズよね。ここまでは運よく遭遇しなかったけど、これも深層の特徴なのよ。深層にはね、各階層にああいう勝ち目がないようなボスがうろついているの。フロアボスとはまた別にね。一応フィールドボスって名付けられているわ」
フィールドボスか。まぁ分かりやすいというか、そうとしか言えないよなって感じだ。
「フロアボスとフィールドボスって、どっちが強いんですかね?」
「フィールドボスね。フロアボスは格上だけど、パーティで頑張れば勝てる相手だから。前に挑んだ奴がいるそうだけど、ろくにダメージも与えられず撤退したそうよ。あれを倒そうとするなら、それこそ集団で戦わないといけないでしょうね」
そんなバケモンがフィールドをうろついてんじゃねぇよ。
間違って近づいたら死ぬしかないだろうが。
「安心しなさい。アイツはこちらから刺激しない限り暴れ出すこともないから。私達の指示に従っていればそう危ないこともないわよ」
「肝に銘じておきます。死にたくないので」
俺達はこくこくと素直に頷いた。幸いにも、俺達の中に蛮勇な者はいない。
しかしこの後、たとえフィールドボスではなくとも、やはり深層は危険な場所だと俺たちは思い知ることになる。
♦ ♦
26層のスライムポイントを目指しながら、俺は初見の魔物を見つけてとにかく【鑑定】をかけまくった。その結果、分かったことがある。
やはり深層に入ってからは、強さと経験値は比例傾向にあるということだ。
こうなると、高い経験値を求めてより強い敵を狙うか、多少経験値が低くても安全性と周回速度が速い相手を狙うか。
自分達の実力と相談し、より効率的な方を選ぶことになるんだが。ミライさん達の場合、そんなことを考えるよりとにかく片っ端から狩った方が良さそうだな。
目の前に転がっている死屍累々の魔物の数々を見ながら、そんなことを思う。
「ほえ〜……強〜い……」
「これは真似できないわね……」
感心しつつも恐れを滲ませる顔で、チヨちゃんと七緒ちゃんが呟く。だけど気持ちは分かる。俺も正直ミライさん達が怖い。
逆に手を抜く余裕がないからこそだろう。より苛烈に戦うミライさん達は、これまで以上に短い時間で26層の凶悪な魔物達を屠った。
その中には12層で戦った〈バルクホーン〉もいる。あの時とは違って階層相応のレベルまで上がっているのに、その時よりも早く片付けていた。これまでどれだけ手を抜いて戦っていたかがよく分かる。
静かになっている俺達の元に、弓の弦の感触を確かめつつトキコさんが寄ってくる。そしていつも通りの上品な声で言う。
「下手に時間を掛けると、消耗が大きいですからね。結局何もさせずに倒してしまうのが一番安全なんですよ」
「いや、それは分かりますけどね」
そもそもそれができるかっていう話なんですわ。
一応適正レベル、同格以上の敵なんだよな。それだけ戦い方が上手いということなんだろうが。トップレベルの探索者はやはり普通じゃない。
「すまん。オレにあそこまでのレベルは無理だ」
「僕もだ。自分がああなるイメージが湧かない」
「気にするな。豚や猿に空を飛べとは俺も言わないから」
「ブヒィ……」
「ウキィ……」
怒る気も起きないほど、二人の心は折られたらしい。俺と違い、一応戦闘を専門にするからなおさらショックだったのだろう。
だがそれでもいいんだ。俺たちは所詮エンジョイ勢の凡人よ。弱いもの虐めをして楽しくやろうぜ!
で、レベリングの話に戻るんだが、スライムが最高効率なのは変わらない。ただ、やっぱり獲物を選んで戦うというのは、現実的ではないかもな。
ハッキリ言って、どこにいるかも分からない相手を探している時間がもったいない。スライムはその点、目指す場所がハッキリしていて、それに見合う経験値だから狙う価値があるが。
ましてやミライさん達は何が相手でも蹂躙する実力がある。だったら片っ端から殺して回った方が効率的だ。
スライムを目指しつつ、道中の魔物は見敵必殺。おそらくこのスライムマラソンが探索者のトレンドになっていくと思う。
どうにかしてスライム以外に美味しい魔物を見つけたいところだな。まぁダンジョンは広い。それもそのうち見つかるだろう。
しかし魔物にとっては傍迷惑な存在だろうな。フィールドボスと変わらない。いや、積極的に殺しにかかってくる分タチが悪い。もう災害だろこれ。
ただまぁ、俺達にとっては頼もしいとしか言いようがない。ミライさんの口ぶりだと下手すれば俺達も戦う場合があるみたいだったけど、この人達をすり抜けて俺達が襲われることはないだろう。
深層とはいえ、安全を確保しながら探索できる。これなら俺も情報収集に集中できそうだ。
「さて。この調子でどんどん――ん?」
休憩を終えたミライさんが皆に声をかけたところで、明後日の方向に体を向けた。
なんだ? と思いつつ、俺も同じ方角に目をやる。すると遠くの方で砂埃が上がっているのが見えた。
「なんですかあれ? 何かが走っている?」
「そうみたいね。とはいえ、ここだとちょっとまだ分からないわね」
「ピーちゃん! お願いっ!」
ミライさんの発言を聞いたチヨちゃんが、ピーちゃんに声をかけた。真上を飛んでいたピーちゃんは、一声鳴くと砂埃を上げている方へ飛んでいく。
「あら、気が利くわね。ありがとう」
「えへへっ。お礼なら帰ってからピーちゃんに」
「もちろんそうさせてもらうわ。それにしても、ああやって空から偵察してくれるのはやっぱり便利ね。〈調教師〉の取得は無理でも、そのうち楓太君にホムンクルスで作ってもらおうかしら?」
なんかまた俺の仕事が増えそうな……。
ピーちゃんはこの階層でも、空を飛んで周囲の警戒をしてくれていた。おかげでミライさん達が気兼ねなく戦えていたからな。戦いこそしないが十分役立っている。
今もああして気軽に見に行ってくれるし、やっぱり空を飛べる奴がいると便利だよな。
グーフストリオと並んでホムンクルスの主力商品になるかもしれん。一番は当然ホム嫁なのは間違いないけどなっ!
「あ。ピーちゃんから連絡がきました。なんだか魔物の群れが走って逃げているらしいです」
「逃げている……どんな奴から?」
「えっと、二本足で走っているちょっと大きい恐竜。あとそっちの恐竜も群れで追いかけているって」
「うわっ! 最悪っ! 一番嫌な奴!」
「できればこっちに来ないでほしいですね……」
チヨちゃんの話を聞いたカコちゃんが、げっ、と嫌そうな顔をして、刻子さんも面倒そうに眉を顰める。この二人がこんな反応をするのも珍しいな。
「なんですか? そんなに強い魔物なんです?」
「出発前にミライお姉様が言った、油断できない相手だね。強いのもあるけど、頭が良くて群れで襲ってくる面倒なタイプだ」
「こ、後衛の私が危ない奴ですっ。楓太さん達がいるならなおさらっ……」
あ、そういうことね。
今西さんと日向さんの説明で納得した。つまり、俺達に害が及ぶ可能性がある相手と。
これはまずいのでは? 早くも青ざめる俺とは反対に、ミライさんは食事のメニューにでも悩んでいるかのような、気楽な口調で呟く。
「まだ距離があるから狙われるかは微妙な所ね。今追いかけている魔物で満足してくれればいいけど」
「あっ。ミライさん、その恐竜が進路を変えたそうですっ! こ、こっちに向かって来るって!」
「ああ、私達に気づいちゃったか。それじゃあ仕方ない。やりましょうか」
「やるんですかっ!? 逃げないの!?」
ミライさん達が負けるとは思わないけど、俺達が危なくなるんでしょ!? 逃げた方が良くない!?
「できるならそうしたいけどね。楓太君達を連れてだと、振り切れるほどの速度は出せないのよね。あと、アイツらは人間を見つけたらしつこいのよ。見失っても匂いで追いかけてくるの。その先で別の魔物とバッティングしたらそれこそ最悪でしょ? だったらここで戦う方が安全よ」
な、なるほど。結果的に逃げた方が面倒になるパターンか。それなら仕方ないな。覚悟を決めるか。
「川辺先生。お願いします」
「君だけが頼りだぞ。僕達を守ってくれ」
「お前ら……いや、守るけどよ。オレも普通に怖いんだが」
「川辺さん。お願いしますっ。私まだ死にたくないですっ」
「私もですっ。後でお礼をしますのでっ」
「…………はぁ」
「なんですかその目! その溜息! どういう意味!?」
「失礼にも程があります! 私達の何が不満なんですか!?」
ビジュアルでしょ。どう考えても。こいつらロリじゃねぇからな~って感じ。君らで川辺を落とせる訳がない。
俺が川辺の立場だったらめっちゃ張り切るけどな。ロリコンのなんと業の深いことよ。
じゃれ合っている内に、件の魔物の姿が見えてきた。
サバンナを駆け抜ける赤褐色の獣脚類。うろ覚えだが、その姿はアロサウルスとかいう恐竜に近いかもしれない。明確に異なる点を上げるなら、その背に血のような赤黒い突起を持っているところか。
そしてその周囲に、似たような姿の小型の恐竜が後を追いかけている。
【魔物鑑定】
名称:ブラッドジョー
レベル:35(魔力保有値18579)
ステータス: 【MP】234【STR】426【CON】382【POW】293【DEX】322【INT】317
スキル:【血牙】【血爪】【激昂】【統率】【群哮】【狩ノ導声】
【魔物鑑定】
名称:ヴァーミリノス
レベル:28(魔力保有値2145)
ステータス:【MP】114【STR】212【CON】189【POW】164【DEX】259【INT】232
スキル:【俊敏】【従命】【連携】
「いや強っ……!?」
なんだアイツ!? ちょっと強すぎだろ! 間違いなく今までで最強の敵じゃねぇか!
単独でも脅威だってのに、それが小型の群れを従えてくるとか反則過ぎんだろ!
っていうか、ちょっと待て!
「二匹いるじゃん!? 番!?」
「ってことはあれは家族かな? 仲が良くて素晴らしいね……」
伊波が現実逃避気味に、遠い目で呟く。
気持ちは分かるが帰ってこい! 気を抜いていると本当に死ぬぞっ!
「チヨちゃん!? 聞いてないんですけどっ!?」
「ごめんなさいっ! ピーちゃんにちゃんと確認するべきでした!」
「仕方ないわ。いち早く情報を掴めただけでも十分よ。とはいえ、あれの番なんて初めて見たわね」
お叱りこそなかったものの、ミライさんは眉を顰めてブラッドジョーの群れを睨み続けた。
「さすがに二匹同時は厳しいか。……仕方ないわね。拝――」
「特別ボーナスはよろしくお願いします」
「拝賀君!?」
ミライさんが言いきる前に、拝賀君は自らブラッドジョーに向かって駆けだした。止める暇もなく、みるみるとその距離を詰めていく。
そしておもむろに背中側に回したウエストポーチに手を入れたかと思ったら、苦無と手裏剣を取り出し、高く飛び上がった。
「てりゃー!」
幾つもの手裏剣と苦無が、先頭を走っていたブラッドジョーの顔面に突き刺さる。とはいえ、あまりダメージになっていないらしい。ブルブルと頭を振り刺さった小道具を落とすと、ギロリと拝賀君を睨み付ける。
「僕を捕まえられるものなら捕まえてみるといい。小畑会の忍びを舐めるなよっ!」
ふははははっ、と笑いながら、拝賀君は全く違う方向へ逃げていく。ブラッドジョーは迷ったような仕草を見せたが、もう一匹に吠えられると、数匹の子分を連れて拝賀君を追いかけていった。
それを見て、ミライさんはフッと微笑ましそうに笑った。
「はしゃいじゃって。よっぽどマジックバッグを貰えたのが嬉しかったのかしらね? しかし自分から動くとはやるじゃない。拝賀、後で褒めてあげるわ」
「は、拝賀君が本当に囮に……大丈夫ですかね……?」
「大丈夫。アイツは逃げるだけなら余裕よ。それよりこっちにも来るわよ。ほら、備えなさい」
「そうだよ楓太さんっ! 拝賀君の死を無駄にしないでっ!」
死んでる! 殺してるよカコちゃん!
せめて生かしておいてあげてっ!
「――グキャアアアアアアアアア!!」
ブラッドジョーの咆哮が轟く。ビリビリと空気から振動が伝わり、それだけで俺達は恐怖で身が竦むほどだった。
しかし、俺達を守るように前で壁になっていたミライさん達には、誰一人として怯えている者は居なかった。
「……【鈍足の呪い】……【脆弱の呪い】……堕ちろ……ッ!」
日向さんの身からおどろおどろしい魔力が放たれ、ブラッドジョーの群れ全体に降りかかる。中層でも見た足を鈍らせる呪いと、おそらくは防御低下に関係する呪いだろうか。
黒いもやが敵を包む。その足が鈍り、苦しげな声を上げる。
そして続いたのは、刻子さんの【魔術】だった。
弓は背負ったままに、懐から短いロッドを取り出す。
そしてピッと群れに向かって突き出しと、バチッ、と青い火花が光った。
「――【スパークウェブ】」
バチバチと火花がステッキの先端から出続けたと思ったら、まるで網のように電撃が放たれる。それに絡めとられた魔物の群れは、纏めて雷の影響を受けて感電し、焦げた匂いが辺りに広がった。
「雷の【魔術】か。初めて見た」
「おおっ、これは……なんというっ! くそっ、氷と火を選んだのは失敗だったか!? 僕も雷にすべきだったか……ッ! なんだったら今からでもっ!」
止めとけ。それ以上手を出したら使いもんにならなくなるだろ。
しかし伊波が羨ましがるのも分かる。カッコイイだけではなく、この攻撃力と攻撃速度。躱しづらく、感電も影響も残る。耐性のある敵もいるだろうが、生物であれば大体の敵に通る強力な属性だ。
案の定、ブラッドジョーはともかくヴァーミリノスはろくに動けていない。そして、こっちの攻撃はこれで終わりではない。
刻子さんが作り出した時間で、ミライさん、今西さん、カコちゃんが動き出していた。
「お姉様と蒼ちゃんに! 【攻撃上昇】! 【敏捷上昇】! 思いっきり行っちゃって!」
カコちゃんの気合の入った声と同時に、ミライさんと今西さんが一瞬、赤と緑の光に包まれる。ぎゅんと速度を上げた二人は、そのまま敵に襲い掛かった。
「――はあ!」
今西さんは未だに動きが鈍い小型を相手に、一振りで首を断ち切った。
今使っているのは、俺が作ったばかりの攻撃力重視の剣だ。あれだけの隙を晒し、今西さんの性能についていける武器があるなら、あの程度は造作もない。そして今西さんはそのまま回復しかけている奴らに斬りかかっていく。
そしてミライさんは、たった一人でブラッドジョーに殴り掛かっていた。
「はぁあああああああ!」
跳び上がり、その勢いまで乗せるようなオーバーハンドブロー。ブラッドジョーの脳天に突き刺さり、一瞬だがふらりとその身体を揺らした。
いかにミライさんといえど、圧倒的なタフネスを持つブラッドジョーに素の攻撃ではあそこまでのダメージは与えられない。おそらくは【貫通打撃】を使っての攻撃だろう。さすがの怪物も衝撃をそのまま脳に通されては無傷とはいかなかったようだ。
だが、これでも時間稼ぎ程度にしかならないのが、ブラッドジョーの恐ろしい所だ。
「ガァアアアアアアアアア!!」
頭を振って正気に返ると、すぐにミライさんに噛みつきにかかる。
巨体に見合わぬ機敏さ。あれに噛まれたらいくらミライといえど……そう思うと、冷や汗が止まらない。
しかし、ミライさんはそんな脅威を目の前にしながら、挑むような笑みを浮かべて舞い始める。
「【戦舞】――【揺動のカポエイラ】」
鮮やかな緑色の光がミライさんを包むと、その動きが更に変わった。より軽やかに、より素早く。左右にステップを刻むミライさんにブラッドジョーは翻弄されている。
名称からして、回避補正のある踊りなのだろう。さらに言えば【軽舞】という回避スキルも働いているはず。カコちゃんのバフに、さらに二種類の自己バフが重なれば、あれだけの動きも頷ける。
ブラッドジョーも執拗に攻撃し続けるが、ミライさんは余裕を持ってその連撃を躱し続けた。かすりもしない姿はこっちも安心して見ていられる。
もちろん避けるだけではなく、思ってもみない姿勢から強烈な蹴りを叩きこんでいる。だが、ミライさんの攻撃もブラッドジョーにダメージになっているとは言い辛い。
ミライさんが大物をいなしている間に、他の四人で小物を片づける。大物はそれから囲んで叩くというところか。となると、どれだけ素早く小物を処理できるかだ。
先手は上手く行ったが、ヴァーミリノスの数は多い。そして、電撃による痺れから回復しきった個体が増えてきた。
「キシャアアアアアア!」
「――カコ! 任せるよっ!」
「任されましたー!」
二匹が今西さんの間合いを抜け、カコちゃん達に向かった。本来なら後衛を守るために今西さんが動く。だが、数が多すぎるあまりカバーに行く余裕がない。
今西さんから指示を受けたカコちゃんは、場違いなほど元気に返事をして前に出た。だがその前に、再び刻子さんの【魔術】が放たれる。
「――【ライトニング】」
ロッドで一匹を指すと、バチンッ! とひときわ大きな音を立て、一筋の電撃がヴァーミリノスに飛んだ。それを受けたヴァーミリノスは全身を焦がし煙を立て、ばたりと地面に倒れる。
最初に放ったものとは真逆の性質、単体だが強力な電撃か。シンプルに強い。だがその間に、もう一匹がカコちゃん達に迫る。
「……【腑腐りの呪い】!」
「グッ……ギィ……ギギィイイイイ!?」
一際濃い黒いもやが日向さんの杖から洩れ、ヴァーミリノスを包む。その瞬間、ヴァーミリノスはヨタヨタと足取りを重くした。
腑腐り……もしかして内臓を腐らせているのか? なんちゅう恐ろしい術を……。
ヴァーミリノスに同情しかけるが、足を止めたなら絶好の隙でしかない。そして当然、カコちゃんはそれを見逃す程甘くはない。
「【攻撃上昇】!【爆破付与】! ――カッキィイイイイイイイン!!」
――ボガンッ!!
カコちゃんが野球のように、杖でヴァーミリノスの頭部をフルスイングする。そして杖が頭を捉えた瞬間、小規模な爆発が起きてその頭を吹き飛ばした。
「よっしゃー! ホームラーン!」
よっしゃー、じゃねぇのよ。無邪気に喜ぶな。頭が無くなってんだぞ。
今のは属性付与か? んで自分に爆破の属性を付けたみたいな?
〈付与術師〉ってあんなこともできるのか。怖いな。
「あの、もしかしなくてもオレより強いんじゃ……」
「いやまぁ比べる相手が悪いだろ」
特に川辺の衝撃は大きかったらしい。〈戦士〉である自分より派手で強力な攻撃をしてればそりゃな。でもああ見えてカコちゃんだってトップ層の一人だから、気にするな。
今西さんが抑えきれずとも、カコちゃんに刻子さん、そして日向さん。この三人ならば、いくら襲ってきても自分達で対応できるというのはよく分かった。
だが、やはり数の暴力とは厄介だ。
今西さんが頑張って数を減らしたとはいえ、まだ十匹以上のヴァーミリノスがいる。そしてとうとう完全に刻子さんの【魔術】の影響から回復し、積極的に後衛を狙いだした。
カコちゃん達の三人すら抜け、俺達を狙うまでに。
「あっ! やばっ!」
カコちゃんが焦った声を漏らす。
残った半分がカコちゃん達に襲い掛かったと思ったら、そのうちの二匹がするりと抜けて俺達に向かってきた。
備えていたとはいえ、いざ来るとなったらぎょっと固まってしまう。
ど、どうする!? どうすれば――
「すぐに援護します! とにかく死なないことを優先!」
刻子さんがすかさず指示をくれる。指示を出している間も、バチンッ、と雷を飛ばして一体ずつ確実に仕留めている。あれなら言葉通り、すぐにこっちに回ってくれるはず。
――なら、そのくらいの時間は稼いでみせる!
「七緒ちゃん! 歌! 防御重視!」
「ッッ! ~~♪ ~~~~♪ ~~――」
下手に歌えばこっちが目を付けられるから、あえて歌わなかった。だけどもう狙われているなら抑える意味はない。
【伴奏】と七緒ちゃんの歌声が響き、俺達だけではなく、ミライさん達までに七緒ちゃんの【歌唱】の効果が広がる。
これでバフは良し。なら俺はいつも通りに――!
「〈鈍化薬〉だおらぁ!」
「んで俺は【挑発】だこらぁ! こっちこいや!」
もはやお決まりの動き。ただしこの〈鈍化薬〉は深層製。その効果は今までとは比べ物にならず、深層の魔物相手にも十分に効く!
狙い通りその煙を吸い込んだ二匹のヴァーミリノスは、日向さんの呪いも合わさって、みるみると動きが鈍くなっていった。
「ググッ――ギィイイイイイ!!」
「ぐぬっ……ッ!? こいつら、やべぇ……!」
だが、それでもその強さは俺達の手に負えるものではない。
動きが鈍くなったはずなのに、その爪や牙を川辺が盾で受ける度に、体が押し込まれていく。あまりにステータス差があり過ぎて、とても反撃をできる余裕がない。
「――【アイスランス】! ――ッ! この程度か……!」
伊波の【魔術】がヴァーミリノスに直撃する。一応ダメージにはなっているようだが、致命傷には程遠い。伊波のスキルなら時間を掛ければなんとかなりそうだが、それまで川辺が保つか?
「――ピィイイイイイイイイイイ!」
その時、甲高いピーちゃん声が空に響いた。
体を炎で纏わせたピーちゃんが、炎の矢となって一匹のヴァーミリノスに襲い掛かる。川辺に噛みつこうとしている一匹を狙い、その一撃は見事に上顎を貫いた。
「ガッ――ギギャギャ!? ギィイイ!」
さすがにこれは効いたのだろう。ピーちゃんの一撃を受けた個体はその場から離れ、地面に寝転がって悶え苦しむ。
絶好のチャンスだ。ここで仕留めれば楽になる。
野生の直感で動いたのか、俺がそう思った時には既にマルがトドメ刺すべく襲い掛かっていた。しかし、深層の魔物の生命力は尋常ではなかった。
「ウォオオオオン!! ――ギャンッ!」
「マルッ――!?」
首元に噛みつこうとする寸前、ヴァーミリノスが跳ね起きて尻尾を振るう。鞭のようにしなった尻尾の直撃を食らい、マルは大きく弾き飛ばされた。
チヨちゃんが悲痛な声を上げても、マルは苦し気に呻くだけで起き上がることもできない。たった一撃でそこまでのダメージを受けたのか!? 早く治療しないとまずいことになる!
だが、治療に入る前にヴァーミリノスが動き出す。上顎を失くすほど深刻なダメージだというのに、凄まじい生命力と闘争心だ。己に牙を剥いた格下にトドメを刺してやろうと、今にも飛び掛かりそうだ。
それに気づき、七緒ちゃんが歌を止め、双剣を構えてマルとヴァーミリノスの間に飛び込んだ。
「七緒ちゃん! 無理するな!」
「分かってます! でも、少し時間を稼ぐだけでも!」
七緒ちゃんもバカではない。あくまで時間稼ぎに徹するつもりだろう。だけど、それすらも簡単にできるとは思えない。
川辺はもう一匹で手一杯。伊波や俺が手を出せば今度は俺達が危なくなるだけ。チヨちゃんも出来ることはない。唯一なんとかしてくれそうなピーちゃんは次の一撃までまだ時間がかかりそうだ。
まずい、このままだと七緒ちゃんが――
焦りを覚えたその時、今西さんの頼もしい声が聞こえる。
「カコ! 少し交代!」
「オッケー! バトンタッチ!」
そんな二人の声が聞こえたと思ったら、疾風のように今西さんが現れ、剣を振るった姿勢を取っていた。すると、俺達が戦っていたヴァーミリオンの首が、ズルッと地面に落ちる。
今の一瞬で、七緒ちゃんを襲おうとしていた方だけではなく、川辺が相手していた方まで首を刎ねたのだ。
その強さに息を飲んでいると、ヒュンッと剣を振るい血を落とし、今西さんは七緒ちゃんに背を向けたまま言う。
「助けが遅れ申し訳ありません、姫。ですがご無事で何よりです」
「――ッ!?」
こ、これはっ――今西さんのロールプレイ!? 対象は七緒ちゃんか! というかこのタイミングで!? いや、このタイミングだからこそなんだろうけどっ!
必要とはいえ、急に巻き込まれるのはやっぱり厳しいものがあるな。七緒ちゃんもめっちゃ吃驚している。そりゃそうだよ。
だけど、ちゃんと返さないと足を引っ張ることになるから、やらないという選択はない。とはいえ大丈夫か? 七緒ちゃんにこれが返せるか?
心配していたが、それは杞憂だった。
やはり七緒ちゃんはさすがだった。
「――いえ。大儀でした、我が騎士。褒めてあげます」
「――ッッ! ハッ! 身に余る光栄ですっ!」
吃驚していた七緒ちゃんだったが、急にスッと冷めた表情に変えると、当然と言わんばかりの冷たい声でそう返した。奉仕されて当然っていう偉そうで冷徹な姫、みたいな設定か……?
この変わりようは、むしろ今西さんの方が驚くほどだ。一瞬目を瞠ると、膝を着いて頭を下げる。すると、今西さんの身体がカッと白く光る。
ひとまずバフは成功か。いきなりの演技でああも完璧に返せるとは思わなかった。
だが、俺の考えはまだ甘かったらしい。七緒ちゃんはさらに上を行った。
「ですが、まだ残っているようですね。我が剣よ。私に逆らう愚か者共を片づけなさい」
「ハッ! 御心のままに!」
その瞬間、さらに今西さんの光が強く光る。そして目にも止まらぬ速度でカコちゃん達の元に戻り、一人でズバズバとヴァーミリノスを片づけ始めた。
「凄っ。あんなに強くなるなんて……でも、これならなんとかなりそうですね」
「はっ! 姫の仰せの通りかと」
「ちょっと! 止めてくださいよ! 恥ずかしいの我慢してたんですからっ!」
嘘吐けよ。めっちゃノリノリだったくせに。
でないとあんなスラスラとらしい台詞出てこないよ……。
「チヨちゃん、マルはどう?」
「ポーションをかけたら治ったみたいです。本当に良かった……」
「クゥーン……」
涙目になりながらチヨちゃんはマルの頭を撫でている。が、マルは嬉しそうに見えない。
まぁ当然だろうな。あれだけ何もできずにやられたんだから……。
「あんま落ち込むなよ。オレもなんもできなかったしよ」
「川辺はちゃんと守ってくれてたじゃないか。何もできないといったら僕の方だよ。攻撃が効かない〈魔術師〉に何の価値があるのか……」
シンパシーを感じてか、川辺と伊波がマルの傍にしゃがみ、一緒に落ち込み始めた。
怪我は無くても心に深刻なダメージを負っているようだな。
そもそもレベル差がある格上の相手だぞ。歯が立たなくても当然だろうに。むしろ大ダメージを与えているピーちゃんが凄いんだ。
……冷静に考えたらピーちゃんマジで凄いな。あいつあんなに強かったっけ?
まぁでも、ミライさんは余裕でブラッドジョーを抑え込んでいるし、今西さんのあの調子ならすぐに群れを片づけるだろう。そうなれば加勢してこの戦闘が終わるのも時間の問題だ。安心して見ていられ――
「――グゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
突然、ブラッドジョーが高い声で叫び始めた。威嚇というよりも、遠くへ響かせようとするような声だ。
「――チッ! やられたわね。刻子! 任せたわよ!」
「はいっ! お任せください!」
なんだ? 何かあるのか?
ミライさんの指示を受け、刻子さんは周囲を警戒し、ロッドを構えた。
その方向へ目をやり、俺はぎょっと目を開く。
「土埃って――はぁ!? もしかして増援!? あっ、さっき吠えたのってそういうこと!?」
「ああー。増援を呼ぶタイプなのか。確かに面倒だな……」
いや、面倒ってレベルじゃないだろ。ただでさえブラッドジョーっていう強敵がいて、群れを作っているのに、仲間が減ったら増援?
強い奴のやることじゃねぇからっ! バランス調整ミスってるぞダンジョンマスター!
「大丈夫です。増援は小物だけで、ブラッドジョーは混ざっていません。先ほどのように私と日向で先手を取ります」
「僕もすぐにこいつらを片づけるから、心配いらないよっ!」
今も敵の数を減らしながら、今西さんが頼もしく続ける。
対処できる範囲であるなら、そう不安に思うこともないか。
とはいえ、油断することはできない。俺達は緊張しながら、こちらに向かって来る増援を注視していた。
そして、もうすぐ刻子さんの射程に入る――その時だった。
――ドパンッ!
先頭を走っていたヴァーミリノスの頭が、いきなり消し飛んだ。
「はっ? え……なんで……?」
予想外の事態に、呆けた声が漏れる。
いや、だけどなんでいきなり? 一体何が?
呆然とする俺達だったが、その異変はさらに続く。パンッ、パンッ、パンッ、と。次々に増援のヴァーミリノスの頭が吹き飛び、倒れていく。
あれは……刻子さんの弓と一緒だ。これまでに何度も見たそれと全く同じ。そのことに気づき刻子さんの方を見るが、刻子さんはロッドを構えたまま、緊張した様子でその光景を眺めている。
刻子さんじゃない? じゃあ誰が……?
そんな疑問が浮かんだ時、刻子さんはハッとした顔を見せた。
「これは……ッ! ミライさん! おそらくですが!」
「ええっ! 見えたわっ! 増援はあの子に任せる! 一気にこいつを片づけるわよ!」
ミライさんの指示を受け、皆の動きが変わった。
最後の一匹を今西さんが切り捨てると、剣を腰のホルスターバッグに仕舞い、新たな剣を取り出す。今西さんから注文を受けた麻痺効果を持つレイピアだ。
そしてそのままブラッドジョーに近づき、一瞬で何度も剣を振るう。すると、ブラッドジョーは明らかに動きが止まりはじめた。早くも麻痺効果が出たらしい。
それに遅れて、刻子さん達も続く。
日向さんの凶悪な呪いがただ一匹に向けられ、カコちゃんまでもがアタッカーとして爆発する杖で参加。案山子となったブラッドジョーに、刻子さんの【魔術】がバンバン放たれる。
その間、誰も俺達を気にする様子はない。まぁ、既にその必要はなくなっている。いつの間にか増援のヴァーミリノスは一匹残らず、謎の攻撃によって仕留められていた。
俺達を憂う必要もない。大物だけに集中できる状況で、なおかつ麻痺効果が出て動きが止まっている。
ミライさんが全力を出せる、これ以上ない場が整えられていた。
「【戦舞】――【情熱のフラメンコ】」
中層でもみた攻撃力上昇のダンス。一方的に殴れるこの状況でなら、【連撃】と【拍衝響打】の効果も途切れることなく続く。
もはや敵が可哀そうになるような怒涛の連続攻撃が、ブラッドジョーに打ち込まれ続けた。ミライさんが一人で時間稼ぎに徹するしかなかった強敵は、一分も経たない内に悲鳴を上げることも揺らされず地に沈んだ。
リアルなハメ殺しってマジで恐ろしいな。
自分があの立場にいたらと思うと……想像もしたくない。
「――ふぅ。ごめんなさいね。そっちに何匹か通しちゃったみたいで。怪我はない?」
「はい! 大丈夫です! マルもポーションで治りましたので! ミライさんこそお疲れさまでした!」
ミライさんは伏せているマルの傍にしゃがむと、わしゃわしゃと両手で頭を撫でまわす。
「大怪我は負ってないようで良かったわ。本当にごめんなさね」
「ウォン……」
「あら、落ち込まないでいいのよ。チヨちゃんを守る為に格上に挑んだ結果でしょう?」
「そうだよっ! 頑張った結果なんだからっ」
いや~、慰められても元気にはなれないよな。女の為に男が体を張って戦って、何もできずに負けたとなったらな……。
むしろ優しくされるだけ居たたまれなくなるというか。放っておいてほしいな、俺だったら。
「ミライさん。増援を片っ端から消し飛ばした攻撃なんですけど……」
魔物を倒してくれたのだから敵ではないだろうが、あれだけの攻撃をした何者かがどこかにいると思うと落ち着かない。その何者かが、俺達を襲わないとは言いきれないのだから。
むしろ、姿を見せていないでどこかに潜んでいるという事実が恐ろしい。
「ああ、大丈夫よ。知り合いだから」
ミライさんは立ち上がると、俺の横に並んでサバンナを見渡し、ヒラヒラと手を振り始めた。その視線を追っていくと、三つの影がゆらゆらと揺れているのが見える。
……遠すぎて断言はできないけど、人でいいんだよな?
「ん? まさかあそこから弓でも放ったっていうんですか!?」
「マジかよ。オレ点にしか見えないんだけど」
「ここからだと4~5キロくらいあるんじゃないか? そこから弓での射撃? スナイパーの長距離狙撃の世界記録を超えてないか?」
しかもそれを弓で、ポンポン撃って一発も外すことなく命中させてるんだからな。人間技じゃないぞ。
「そのまさか、なのよね。本性はどうあれ、探索者としての実力は本物だからね」
俺達の反応に、ミライさんは苦笑を浮かべる。とはいえそれでもどこか嬉しそうな、親しみを感じさせる温かい笑みだ。
そんな気を許せる相手なのか、と思いきや、ミライさんはあっさりとその表情を変えた。
欲深く、計算高い魔女のような――
「楓太君、貴方は本当に運が良いわ。そのうちどうにかして会わせるつもりだったけど、まさかこんな所で、それも向こうの方から会いに来てくれるなんてね。いえ、運がいいのは私かしら? やはり私は神に選ばれた存在だったのかも」
「頭大丈夫ですか?」
思わず出てしまった一言だが、幸いにもミライさんは聞かなかったことにしてくれたようだ。迂闊だったが、でも仕方ないだろ。どうかしちゃったとしか思わんわ。
しかし、その人影の姿が見えてきて、ミライさんの言った意味を理解した。
「もしかしてあれ……」
「おい、マジかよ……」
俺と川辺は、そのネームバリューから。
「うわっ……凄っ……」
「ふわ~……キレー……」
七緒ちゃんとチヨちゃんは、同姓ですら見蕩れるその美貌から。
「あわわわわっ……はっ……! はっ、はわぁああああああ……!?」
そして伊波は、長年追い求めていた憧れから言葉を失っていた。
勘の良い者は、伊波の反応だけで察するだろう。
こちらに歩いてくる三つの人影。その先頭を歩いているのは、長い耳を生やした金髪の美女だった。
世界初の【種族進化】を果たした、日本最高の探索者の一人。
――エルフの〝森山さん〟が、そこにいた。
【おまけ。その頃の拝賀君①】
「――グギャアアアアアア!!」
「ほーら、こっちだよー? そんなに強いのに追いつけませんかー!? それでも群れのボスですかー?」
「ギィイイイイイアアアアアアアオオオオオオオ!!」
絶好調なご様子。




