第93話 物流の革命が迫る……ッ!
「それじゃあ――始めます」
食事当番を除いたメンバーが見守る中、俺は生産作業を始める。
俺と伊波の考えを伝えたら、ミライさんと拝賀君も顔色を変え、すぐにあのリスを仕留めてくれた。
戦闘力こそ無いものの、逃げ足だけは深層相当のものがあり、仕留めたのは五匹だけ。森の中を逃げ回るリスは、狩ることを考えれば意外と難易度の高い魔物だった。
とはいえ、実験には十分な数だ。本当ならそのまま生産と行きたいところだったが、さすがに安全を確保した場所でないと生産作業はできない。
深層なら何処にでも居る魔物だし、ミライさん達のレベリングとしてもここはまだ適正レベルの階層ではないと判断して、俺たちはさらに先を進んだ。
そして道中で生産に使えそうな素材を集めつつも、夕方には23層にたどり着き、入り口でキャンプを張る。
そうして準備ができたところで、いよいよ【錬金術】を行う時がきた。もし成功すれば、探索者界隈に革命が起きるレベルの歴史的瞬間となる。となれば、やることが無いとはいえ、手が空いている者が俺の作業を見守るのも当然だ。
下手すれば俺以上に熱の込められた目をしている。そんな視線の集まる中、俺は一番重要な素材を手に取った。
【素材鑑定】
〈モグリスの頬袋〉――モグリスの頬袋。皮素材として使える。【空間拡張(極小)】
極小、というところが気になるところだが、そんなものがどうでもよくなるほどの価値がこの【空間拡張】というスキルにはある。
このスキルと、これを見た瞬間に頭に浮かんだレシピの存在。それを知った時の俺たちの反応は察して頂きたい。
よし、と一つ頷き、俺は丁寧に携帯〈錬金釜〉に頬袋を入れる。そしていくつかの繊維素材、さらにスライムの核を投入し、魔力を注ぎ込んだ。
強さはそうでもないとはいえ、さすがに深層素材。ずしっとした重さを感じる。しかし、無理というほどではない。一度魔力が回り出せば、順調に作業は進んだ。
もう一時間ほど経ったというのに、誰も俺の作業から目を離そうとする者はいない。そして皆が見守る中、そのアイテムが完成した。
ズズズ、と【錬金術】によって輝きを放っていた水が、底に吸い込まれるように無くなっていく。
残ったアイテムを取り出し、俺は迷わず【鑑定】をかけた。
【アイテム鑑定】
〈ウエストポーチ型マジックバッグ〉【空間拡張(極小)】(1立法メートル。重量制限100キロ)
「――マジックバッグ完成!」
「「いよおおおおおおおおおおし!!」」
川辺と伊波が興奮で声を上げた。ファンタジーと言えばこれ、と俺達の頭の中には当然にあったアイテム。それがようやく手に入ったのだから、この反応も無理もない。正直俺も一緒に叫びたい。
二人ほどではないとはいえ、ミライさんと拝賀君の表情も喜色に染まっている。
「待ちに待ったわ。とうとう見つけちゃったわね……ッ!」
「ええ、間違いなく僕らが世界で初めてマジックバッグを見つけた人間でしょうね。まさかそんな瞬間に立ち会えるとは……ッ!」
やはり長いこと探索者をやっているせいだろうか。リアクションこそ俺たちより静かだが、その感動は俺達よりも強そうだ。
探索者の誰もが待ち望んでいたアイテムバッグ。それを俺が発見して作ったかと思うと、さすがに誇らしい気持ちになる。
「浸ってねぇで早く性能を教えろよ!」
「喜ぶのは性能次第だよ! さぁ早く!」
「欲に塗れた奴らめ……容量1立方メートルで、重量制限100キロって書いてあるな」
1立方メートルか。思ったよりは大きいけど、これ容量としてはどうなんだろう?
「大きさ的に大抵の物は入りそうだけど、本当に運びたい物が運べないような気がするな……」
「オレの大盾も入らなくねぇか? あとは槍とか長物も無理だよな。意外と入れたい物が入らないような?」
「重量が100キロだと、鉱石とか重い素材をちょっと入れただけで運べなくなりそうだね」
やっぱり極小だから、性能はそれなりってところか。
アイテムバッグってだけですごいけど、ちょっと残念だな。
「いやいやいや、何言ってるの? 十分にすごいからね?」
「本当にそうですよ! これとんでもないことですから!」
残念がる俺たちに、ミライさんと拝賀君は揃って叱るようにまくし立てる。
「それだけの容量だったら、食糧や水の持ち込みには一切困らないでしょ? これだけで今までの探索と比べて遥かに楽になるわよ」
「それだけじゃないですよっ! 僕みたいに苦無や手裏剣を使う者は、持っていける量に限度があるんです! だから泣く泣く無理のない量で諦めるんですけど、そのバッグならもうその問題で悩まずに済むじゃないですか!」
ああー、確かに苦無だったらこの容量なら数百本とか入りそう。
拝賀君みたいな人にとっては奇跡みたいなアイテムになるのか。あとアキラさんとかも喜びそうだな。
「はっきり言って、極小というには性能が良過ぎますね。あんな小さなリスから取れた物ですし、てっきりもっと容量の小さい物かと思っていましたが、まさかここまでとは……」
刻子さんが感嘆とも呆れとも取れるようなため息を吐く。
今一つか? と思っていたが、どうやら本当に凄いバッグか作れてしまったようだな。
「俺ら、ちょっと認識が甘かったかな?」
「だな。ゲームだともっと大量に運べたり、重量なんか関係なかったりするからな……」
「そういう制限のあるゲームもあるけどね。ちょっと色々と試してみないか? とりあえず気になるのは……川辺、試しにそこにある小さめの岩を入れてみてくれないか?」
そう言って伊波が指したのは、両手で抱えられるサイズのもの。うん、確かに石と言うには大きいし、小岩って感じだ。
「ああ、なるほどな。よっこいせ――ん。入らねぇな」
川辺が小岩を拾い、俺が広げているウエストポーチの口に近づけるも、それよりも大きな岩はポーチに吸い込まれるような気配はない。無理矢理突っ込もうともしたが、結局入れることはできなかった。
「なるほど。袋の口より大きいものは入らないか。当たり前といえば当たり前だけど、自動収納機能とかがあればワンチャンいけるかと思ったのにな」
「こうなると、ウエストポーチで作ったのは失敗だったかもね。どうせならリュックとか口の大きいものにすれば良かったかも」
げっ。本当にそうじゃん。
いきなりしくじったか?
「いえ、僕にはその方がありがたいですね。戦闘中でもすぐに取り出せる形の方がいいので」
「ふふっ、僕も拝賀君に賛成だね。あと、少し気になることがある」
ひょいと前に出てきた今西さんが、俺からアイテムバッグを受け取る。そしてそこらに落ちている石を何個か拾ってバッグに入れると、口を開けたままくるっとひっくり返した。
しかし、そこから石が零れる様子はない。
「逆さまにしても何も出てこない。これならアクシデントでバッグの中の物が飛び出ることはないだろうね」
おお、それかなり便利じゃね? 失くし物も減りそうだし、地味に嬉しい機能だ。
と思っていたら、ボトボトとバッグから石が落ちてきた。それを見て、今西さんが何度か頷く。
「そして取り出す時は持ち主の意思で自由自在と。なるほど、これはかなり便利――ん?」
怪訝そうに今西さんは首を傾げる。そしてまた石を拾ってバッグに入れ、目を見張った。
「驚いたよ。これ、重さを感じない」
「え!? 本当ですか!?」
慌てて今西さんからバッグを受け取り、上下に揺さぶってみる。今西さんの言う通り、石が入っていると思えないほどバッグは軽く、中で転がっている感触もなかった。
「本当だ。マジで重さがない」
「重量制限百キロって、百キロの制限だけじゃなくて、百キロまで重量を無視できるってことかよ!? めっちゃ便利じゃん!」
本当だよ。これなら俺でも荷物持ちで役立てるじゃん。疲れるってこともないし。
……いや、違うな。それ以前に荷物持ちすら要らないのか。これなら各自で水とか食料まで持てるじゃん。大きなリュックで作ればテントとかも余裕で運べる。一気に運搬問題が解決するぞ。
俺は荷運びにしか目が行かなかったが、戦闘を専門にする人はまた評価が変わるらしい。
拝賀君は喜びを通り越して恐れるように、ウエストポーチを見つめている。
「大量に武器をしまっても、重さで動きが鈍ることがない? 僕みたいな斥候タイプにとっては夢のような性能なんですが」
「うん。僕やミライお姉様みたいな軽戦士タイプも同じだね。……持ち主の意思で取り出しができる。だったら――」
今西さんはウエストポーチに、片手を手首のあたりまで突っ込む。そしてゆっくりと引き抜くと、身につけていた白い手袋が消え、シミひとつない綺麗な素肌が見えた。そしてまた同じことを繰り返すと、元の通りに白手袋を身につけている。
――何それ!? どうやって着脱したの!?
「本当に凄いな。外したいと考えながら手を入れたら手袋が外れて、身につけたいと考えながら手を入れたら、自動で手袋が装着された。これなら戦闘中でも装備の交換が簡単にできるね」
「なにそれ。めっちゃロマンを感じるんですがっ」
「敵に合わせて戦闘中に属性付きの装備換装とか……滾るねっ……ッ!」
伊波の中二病に刺さっちゃったよ。
いやでもしょうがない。その絵面を想像しただけで正直カッコ良すぎるッ!
「一立方メートルの大きさなら僕のレイピアも余裕で入る。今まではサブウェポンの持ち込みにすら悩んでいたけど、これがあれば敵によって武器を選べるのか」
「私も同じことができるわね。まさかここまでの性能になるとは……」
「軽戦士タイプ、そして斥候タイプの探索者にとっては必須アイテムになるでしょうね。いや、運搬にも使えるんだから、結局全探索者が必要となるか。小畑さん、今の内にどうにかパーティ人数分確保したいんですが……」
申し訳なさそうにしつつも、期待しているように拝賀君は俺を見る。
まぁ、気持ちは分からんでもない。これをパーティの人数分揃えたら活動が大きく変わるだろうしね。
ただ、それを言うとだな。
「楓太さーん! 私にもお買い物袋で作って欲しいんですけどっ! それなら卵を割らず済むようになりますよねっ!?」
「私もー! 私も欲しいですッ! 食材を買うと結構重いのでっ!」
「楓太さーん! カコ、お出かけに使えるお洒落なバッグ欲しいな~って!」
「あ、あのっ……! すみませんが、私も……!」
ほらみろ。こちらを気にしていた食事当番組の連中まで声を上げてきやがった。
というか君ら、思いっきりプライベートなバッグだねそれ?
「気持ちは分からんでもないけど、普段使いするってまずくない? 万が一盗まれてバレたらとんでもないことになるような……」
「その通りね。誰でも使えるみたいだし、扱いには細心の注意を払わないと。だから貴方達もプライベート用はしばらく我慢しなさいね。探索用の物を人数分確保するだけでも大変だろうし」
ミライさんに窘められ、七緒ちゃん達は素直にはーいと返事をする。
良かった。プライベート用まで作れとか言われたら、マジで馬車馬の如く働くことになるところだった。小畑会の人数分だけでも俺の過労死が見えかねないし。
あ、いや、待てよ? そもそも一人に一つこれを買う余裕あるのかな?
「あの、このバッグ、いくらで買ってもらえます?」
聞くと、傍に居た先輩探索者達は揃って難しい顔になった。
しばらくの沈黙の後、ミライさんが苦しそうな声で言う。
「ごめんなさい。帰ってからあのバカ共と相談して決めていいかしら? 相談もなくこれに値段を付けるのはさすがに……」
「いくらが適正なのか正直分からないね。数億払ってでも手に入れたい人はいくらでも居るだろうし」
「ベイグルの五千万どころじゃない値なのは間違いないですけど。いえ、ベイグルも安すぎるくらいではあるんですけどね」
「冷静に考えると、僕ではパーティの人数分は無理ですね。正直、一個貰うだけでも厳しいかもしれません。でも諦めたくない……」
やっぱりそうなるよな。身内価格に抑えたとしても、相当な額になりそうだし。
しかしミライさん達ですら迷うのだから、より資金力に乏しいであろう拝賀君の苦しみは大きい。目の前で性能を見せられて、自分に一番必要と分かっているからなおさら諦められないだろうし。
辛いだろうなぁ、と他人事ながら同情していた俺だが、隣の川辺によってより複雑な状況になる。
「なぁ。これってバッグに入れている間の時間経過ってどうなんのかな?」
「お前、さらに揉めそうな疑問をぶち込んでくるなよ……」
いや、確かにアイテムボックスなら重要な要素ではあるけどさ。
今でさえ悩んでいるのに、また査定の難しいことを。
「そう、そうよね……もし内部の時間が止まっているとしたら……」
「今でさえ物流の概念が変わってもおかしくないのに、これで時間停止まであったら……」
「数億どころか、百億は行ってもおかしくないんじゃ……」
「僕じゃ絶対に買えないんですけど……」
ああ、拝賀君が絶望的な表情に。
まぁさすがに百億は行きすぎだと思うけどね。そんなの小畑会の誰も買えなくなるだろうし。
「【鑑定】には時間に関して書かれてなかったんだよな。書かれてないってことは、現実と同じだと思うけど……」
「まぁそれは確かめてみればいい話だ。これを入れてみよう。数時間も経てば結果が分かる」
そう言って、伊波は【魔術】で拳大の氷を作りだした。
ああ、確かにそれなら分かりやすいな。溶ければ時間が経過しているってことになるし。
伊波から氷を受け取り、ポーチの中に入れる。数時間後に拝賀君がほっとするか、絶望するか見物だな。
「まぁ値段に関しては皆が買える値段設定でいいですよ。身内で阿漕な真似するのもどうかと思いますし。それよりも、これでだいたいマジックバッグの性能も分かりましたけど、生産は何を優先します?」
俺にはマジックバッグの他にも、ミライさん達の装備を作る必要があるからな。
深層でより楽に戦えるように、強力な武器、防具を作るのは必須だ。むしろ現時点で重要度が高いのはこっちだろう。
生産時間も限られているし、優先順位を付けてやっていかないとな。
「それじゃあ、まずは蒼の装備から手を付けてくれないかしら? 一番攻撃を受けやすい立ち位置だし、武器の更新もすればさらにパーティが回るだろうしね」
「いいですよ。それじゃあそうしましょうか」
意外だ。ミライさんが自分よりも今西さんを優先するとは。
いや、そうでもないか。同じ女には甘いし、ミライさんの所はパーティ仲が良いしな。だから自分を後回しに自然と効率を追求できるのだろう。
「それじゃあ今西さんの装備から作りますけど、やっぱりその騎士服がみたいなのがいいんですかね?」
「そうだね。あとはレイピアを作ってくれれば」
やはり良い装備になると嬉しいんだろう。今西さんは王子様というより、少年のように目を輝かせながらコクコクと頷いた。
ここまで嬉しそうにしていると、俺も良い物を作ってあげたくなる。
「何か装備にこんなスキルが欲しいとか希望はあります? 今持っている素材の範囲ですけど、なるべく合わせますよ。遠征が終われば【再錬成】で作り直せますし、気軽にどうぞ」
「そうだね。とりあえず服は小畑さん達と同じで、快適性の追求をしてほしい。たぶん小畑さんの作品なら、防御面は十分だと思うんだ」
「確かに深層素材を使うだけで、今までより性能面は上がるでしょうが……」
ここに来るまでに孤立していた恐竜型を何匹か倒している。その素材についている防御系スキルを使えば、さらにとんでもない性能になるとは思うんだよな。
でもまぁ、この人達はそもそもゴミみたいな装備に慣れちゃった人達だからな。相応の装備を作るだけでも性能的には満足するんだろうし、それなら快適な装備を試したいと思うんだろうな。
価値観が歪んでいると思わなくもない。
「【洗浄】はちょっと素材が無いので無理ですが、【耐寒】【耐暑】は付けられますね。それと体力上昇と回復系のスキルも付けましょう。余裕があれば余った部分に少し戦闘系スキルを足す感じで。レイピアの方はどうします?」
「手間がかかるとは思うんだけど、アイテムバッグで戦闘中の装備交換を少し試してみたいんだよね。攻撃力を優先した物。それから状態異常を付加した物の二本、できるかな?」
連続攻撃が可能なレイピアで状態異常系か。いいね、凶悪なスタイルになりそうだ。
元々ミライさんのサポートをすることが多いし、戦術的にもマッチしている。めっちゃ強くなりそうだな。
「麻痺効果のある毒草があるので、それで麻痺のレイピアとかできそうですね。攻撃力を追求したほうは恐竜の牙や角をメインに、ステータス増強系で補強する感じでどうです?」
「ああっ! ありがとう! ふふっ、本当にワクワクしてきたよ」
「じゃあそんな感じで。それじゃあこのウエストポーチはそのまま今西さんが使いますか?」
アイテムの取り出しが楽になるから俺が使おうかと思ったけど、レイピアならこれでも問題なく入るだろうし、それならこのまま使ってもらっても構わない。
そう思っての提案だったが、今西さんは一瞬硬直したあと、悩んだ末に頭を下げた。
「ごめんっ。本当に我儘だとは思うんだけど、ちょっとデザインが……ッ! もう少し騎士服に合う見た目で、レイピアが取り出しやすい形の物に出来ないかな? ――だめ?」
「いいですよ」
だめ? っていうのが可愛かったから。
美男子のコスプレしている人にこんなことやられるとギャップが……ッ!
やっぱりこの人も女だな。男の殺し方を分かっている。恐ろしい。
まぁでも確かに騎士服にこのウエストポーチはちょっとラフすぎる感じがする。もう少し上品な感じは欲しいよな。
「革を使ったレザーホルスターバッグにしましょうか。それなら騎士服にも合うでしょうし」
「ああ、ありがとう! 本当に嬉しいよっ!」
また嬉しそうに笑ってくれるな。ちょっとドキドキしてきた。
いかん、本気でやられそう。落ち着け。普段から男装して演技までしている伊波と同類な人だぞ。
しかし今西さんには新しく作るなら、このウエストポーチはどうしようか?
まぁ俺が使えばいいか。アイテムの出し入れがしやすくなるし、むしろ俺こそ一番必要だし。
……いや、一番必要と言うと違うか。
「拝賀君。今回の報酬なんだけどさ、このウエストポーチとかどう?」
「いいんですか!? 是非ともお願いしますっ! くださいっ!」
「じゃあ契約成立ってことで。はいこれ」
「やったぁあああああああ!」
思いのほか拝賀君は喜んで受け取ってくれた。自慢げにウエストポーチを掲げている。
「お前、またそうやって安売りを……」
「拝賀君ならまぁいいとは思うけど、ああも簡単に渡すのもどうかと思うよ?」
「いいんだよ。拝賀君はそれくらいの働きをしているし、むしろあれ一個で済むなら俺の方が得だろ」
川辺と伊波が呆れた目を向けてくるが、俺から言わせれば安いもんだ。
確実に億を超える値段になるとは思うが、どうせこの遠征中に全員分作ろうと思えば作れる物でしかないからな。これで報酬なしになるならむしろ儲けだろ。
って言っても、分かってくれないかな。このへん、製作者とそうじゃないやつの視点の違いだろうな。
とはいえ俺の分のバッグが無くなっちゃったな。仕方ない、俺は今西さんみたいなカッコいいタイプを自分用に作ろう。いやー、本当に仕方ないなぁ。
「それじゃあ今西さん。とりあえず騎士服の方から手を付けようと思うんですけど……あー、その、デザインはそのまま流用すればいいんですが、サイズ感が分からないとさすがに作れなくてですね。大変申し訳ないですけど、手に取って見せて頂きたいといいますか……」
「ああ、そういうことか。待ってね、今脱ぐから」
察しが良くて助かる。
【錬金術】はいろいろと細かい所をスキルが補正して作ってくれる凄い技術ではあるのだが、さすがにある程度の数字は把握していないと、本人に合ったサイズにならないからな。
肩幅とか、腕の長さとか、腹囲とか――物によってはスリーサイズとか。
七緒ちゃんとチヨちゃんに確かめた時は、お互い羞恥心が酷かった。最終的には命には代えられないということで、両者納得で教えて貰ったけど。
「はい、どうぞ」
「ああ、ありがと――」
今西さんから上着を受け取る。上着の下は白いワイシャツであったが、その隙間から胸元を締め付けるコルセットのようなものが見えた。
いや、コルセットじゃないか? これは――
「ああ、これ?」
俺の視線から察したのか、今西さんの方から答えてくれる。
「バストバインダーだよ。男装するのに胸を潰さないと恰好つかないからね」
「ああ、なるほど。一瞬コルセットでも巻いているのかと」
男キャラのコスプレならいるよな、と考えていたところで、今西さんはおもむろにシャツの前を開けた。
どうやらそのバストバインダーは前開きのタイプだったらしい。ジジジッ、となんでもないようにジッパーを下ろす。すると俺の目の前に、ブラに包まれた深い谷間が現れた。
おお……これは……。
衝撃のあまり、まじまじと見つめてしまった。
「その、なかなかご立派なものをお持ちのようで」
「ふふっ、ありがとう。僕としては邪魔なくらいなんだけどね。この格好をするのにいちいち潰さないといけないのは大変だし。暑い日なんかはいっそ切り落としたいとすら思う」
「いえいえとんでもない。そんな素晴らしいものをっ」
七緒ちゃんほど大きくはないとはいえ、十分過ぎるほどの大きさ。潰し慣れているだろうに形も崩れていない。
こんな物を切り落とすなんてとんでもないっ!
自分から見せているとはいえ、やっぱり恥ずかしくはあるのか、今西さんは気まずそうに眼を伏せる。
「楓太さん的にはどうかな? 男装している巨乳の女って……気持ち悪い?」
「いえ、最高だと思います」
マジで最高だと思います。
ギャップがより魅力を引き立たせているかと。
というか大好物ですね。油断したら惚れそう。
わりとドキドキし始めている俺に、今西さんはこれまた可愛らしいはにかんだ顔を見せる。
「そっか。それなら良かった。――ミライお姉様。いけそうです」
「ええ、そのようね。蒼、いざとなったら私と二人で」
「はい」
はいじゃねぇんだわ。いざという時なんかねぇよ。
ミライさんも混ざると思った瞬間、一気にスッと冷めたわ。今西さん単独だったらマジで危なかったけどな。
悪いけど俺の恋愛対象人間だから。ゴリラはノーチャンスだぞ。
♦ ♦
【探索のヒント! その三十八】
〈アイテムバッグ〉
ファンタジーには欠かせない魔法の鞄。見た目以上の物を収納することが可能で、これ一つで旅に必要な道具の全てを運んだり、大量の採集を可能としたり。ぶっちゃけこれがないと始まらないまである。わりとどんな作品にも出てくるが、ハッキリ言ってお手軽チートだろこれ。
本作におけるアイテムバッグは、性能ごとに容量、重量の制限がある。なお、重量の場合制限内であれば重さを無視する。
バッグ内に異空間の箱のようなものがあり、どちらかが制限に達した時点でそれ以上の物が入らなくなる。袋の入口より小さい物しか入らないが、袋の中に入れた物は自動的に隙間なく詰め込まれ、最も効率よく収納される。
取り出すという意思を持たない限り、中身が零れることはない。また、袋の中に手を入れることで何が入っているかが頭の中に浮かぶ機能もある。本編で蒼が行ったように、一部分ではあるが瞬時の装備の取り換えも可能。
アイテムバッグ自体に重大な損傷を受けた場合、中の物が纏めて異空間に消え去るという危険こそあるものの、バッグを落とした程度では中の物に傷がつくことはない。卵が割れるなんて悩みとはおさらばだっ!
ちなみに残念ながら、時間停止の機能はない。
とまぁこのように、他作品にも負けない便利アイテムである。探索者の助けになるのはもちろん、地上での物流、保存の概念すら間違いなく変わる。数億どころか数十億出しても欲しがる者は確実に居るだろう。
欠点と言えば、生物を入れることは不可能であることくらいか。逆に言えば――死体を入れることはできる。
中身が異空間であるため、たとえ金属探知機を通しても中の金属には反応しない。
警察犬に匂いをかがれようと、中身の匂いが漏れることもない。
たとえば小型のバッグに重火器、凶器を忍ばせたとしても、先入観からそれに気づくことは困難だろう。
日常生活で使えれば間違いなく便利なアイテムだが、同時に広く普及されてしまった場合、目に見えて犯罪率が――いや、見えない所での犯罪が横行する可能性がある。
便利ではあるが、公開するには細心の注意を払うべき、危険なアイテムでもある。




