第77話 我が忠義を見よ!
「止まれ! ゲロゲロ! 止まれってば!」
「ゲロちゃん! 止まって止まって! 止まってぇえええええ!」
「ゲロォオオオオオオオ!?!?!?」
俺とチヨちゃんがいくら叫んでも、ゲロゲロは止まらない。
これは出発した時に見せた爆走とはたぶん種類が違う。あれは命令の理解が足りなかった故の失敗だが、こいつは今、魔物に襲われた恐怖で逃げている。
だからこそ簡単には止まれない。逃げることで精一杯で、俺たちの声が聞こえてない。
「げっ!? あれは――ゲロゲロ! マジで止まれ! あそこはやばい!」
ゲロゲロの走る先に、大きめの池が見えた。ここサバンナエリアにおいて、不用意に近づいてはならない危険な場所だ。
「ゲロゲロ! 頼むから止まれ! 止まれ! 止まれ!」
「お願いゲロちゃん! 止まって! 止まって止まって止まっ――」
「グエッ?」
池に突っ込もうとする寸前で、ゲロゲロはようやく止まった。
俺はもちろん、チヨちゃんですらそれについていけなかった。手綱から手が離れ、スポーンと空に投げ出される。
おい、またか。またなのか……。
チラッと見えたゲロゲロは、やっぱり何も分かってない顔だった。あの間抜けな顔を見ると、許してあげようかなという気に――いやなれんわ。いい加減にしろよお前。
――バチャァアアアアン!!
一層と違うのは、落ちた場所が池であったことだ。地面に叩きつけられて激痛を味わうことは避けられた。
「――ブハッ!? はぁ、はぁ……そんなに痛くない。地面に落とされるよりはマシか」
「そうですね。少しはマシ――楓太さん!」
浅めの水場で尻餅をついて呑気している俺とは反対に、チヨちゃんは引き攣った顔で、慌てて俺を立ち上がらせる。
何だ? 何をそんなに――じゃねえ! ここはまずい!
自分がいる場所を思い出して、反射的に顔を池の中央に向ける。そした、自分に迫ってきている魔物を鑑定した。
【魔物鑑定】
名称:マッドクロコダイル
レベル:13
ステータス:【MP】56【STR】162【CON】112【POW】59【DEX】45【INT】21
スキル:【咬牙】【水行】
弱点属性:氷、雷
「――ワニ!! やばい! 早く出よう!」
「早く早く早く!」
チヨちゃんに引っ張られて幾分かマシだが、やはり浅いとはいえ水場に居ては動きも遅い。逆にワニはスイスイと泳いでこっちに向かってくる!
明らかにワニの方が速い! このままだと捕まる! いや、チヨちゃんだけなら――!
「チヨちゃん! 俺のことはいいから!」
「良いわけないですっ! そんなこと言ってないで速く走って!」
駄目なんだよ! どう足掻いてもワニの方が速い!
まずい、このままだと俺だけじゃなくチヨちゃんまで! 七緒ちゃんに何て謝れば――
「ゲロォオオオオオオオ!!」
「ゲロゲロ!?」
命令をしてもないのに、ゲロゲロは自ら池の中に入ってきた。そしてあっという間に俺たちを追い越し、そのままワニの元へ。
「まっ、待て! ゲロゲロ! 待てッ!!」
「楓太さん! 駄目です!」
「いやでも、ゲロゲロが! ゲロゲ――」
必死に俺を陸に引っ張るチヨちゃんに抗議しようとした時、俺は見てしまった。
ワニの一匹が、ゲロゲロの長い首にがっつりと噛みついたのを。
「グッ……グェ……ッ!?」
「まっ、待て! やめろぉおおおおおお!!」
――ブチィ!!
あっ……。
ゲロゲロの首が、千切れた。いくらゲロゲロな頑丈でも、首が落とされたら。
呆然としている間に、残ったゲロゲロの体にワニが次々と噛みついていく。
その光景を前に、俺は完全に思考が止まった。
――ピュイイイイイイイイイイ!!!!
――ドッパアアアアアアアアン!!!!
――イタゾ! アソコダ!
――チヨ! フウタサン! ハヤクアガッテ!
――チカヅクナ!! アイスランス!!
――ッ! ――――!? ――!! ――――
♦ ♦
「楓太さん。気持ちはわかりますけど、元気出してください。楓太さんが悪いわけじゃないですよ。仕方なかったんです」
「……うん。そうだよね。分かっているんだよ」
全てが終わった後、俺はようやく周りが見えるようになってきた。
どうしても力が入らず、俺は膝をつき項垂れている。そんな俺の前には、無惨な姿となったゲロゲロの遺体が。
あの後、ピーちゃんが真っ先に駆けつけて、捨て身の攻撃で纏めてワニどもを片付けてくれたそうだ。そして川辺たちが追いついて残りを蹴散らし、呆然自失で何も出来ない俺に代わって、こうしてゲロゲロの身体を集めてくれたらしい。
そこまでしてくれているのに、俺は礼の一つも言えないでいた。ゲロゲロが死んだショックが大きすぎて、何も考えられなかった。
ゲロゲロ……ついさっきまで一緒に冒険していたのに……。
「流石にさ。今回ばかりは俺のせいじゃないと思うんだよね。言い方が悪いけど、ゲロゲロの暴走が原因なわけで。責めるわけじゃないけどさ」
「そうですね。誰も悪くないですよ。ただ運が悪かったんです」
まだ上手く頭が働かない。隣でしゃがんで寄り添ってくれるチヨちゃんに甘えて、俺は話を聞いてもらっている。
そんな俺たちに遠慮してくれているのか、他の三人は少し離れたところで見守ってくれているようだ。
「でもさ。暴走したゲロゲロが悪いかもしれないけど……アイツ、俺を守る為に自分から飛び込んでくれたんだよ……ッ!」
本当にバカなやつで、ろくにちゃんと命令を聞かなかったアイツがさ。
命令もなしに、自分から盾になったんだ。こんなの気にするなって方が無理だろ。
「俺、密かにホムンクルス軍団作って、世界征服とか考えてたんだけどさ……」
「はい――うん? ……はい、良い目標ですね」
「おい。あのバカとんでもないこと企んでやがったぞ」
「いいんじゃないか? 僕は賛同するよ」
「シッ。今は傷心中ですからっ」
だけど、ゲロゲロを失ってから気づかされた。
俺に、それを成し遂げる度量はないってことに。
「自分が作ったホムンクルスが死ぬって考えたら、軍隊なんてとても作れない。俺のせいで争いが起きて、俺の知らないところで死ぬなんて嫌だよ。こんなに傷つくくらいなら、もうホムンクルスを作るのも辞めようかな……」
「それは待て! 考え直せ! どれだけの人がお前に期待してると思ってんだ!?」
「僕達だって君に賭けてここまで協力してるんだぞ!? 逃げるなアア! 責任から逃げるなアア!」
「それが傷ついている友達にかける言葉ですか……?」
七緒ちゃんの呆れたようなため息が聞こえた。すると、隣に誰かが座った気配を感じる。
七緒ちゃんは膝を着いて、俺の背中を宥めるように撫でてくれた。
「気持ちは分かりますが、落ち込んでいると助けてくれたゲロゲロちゃんもガッカリしますよ。楓太さんを守る為に、ゲロゲロちゃんも頑張ってくれたんですから」
「七緒ちゃん……」
七緒ちゃんの気遣う優しい表情に、なんだかほっと心が軽くなった気がした。まるで母親に宥められたような、そんな安心感があった。
少し目線を下げれば、水着とほぼ変わらない姿と深い谷間が見えた。
この子、やっぱり胸大きいよなぁ……こんなえちえちな衣装を着てダンジョンに入られると、ちょっと困る。
「そうですよっ! ゲロちゃんの事は忘れずに次に活かしましょ! 同じことを繰り返さなければそれでいいんですっ!」
「チヨちゃん……」
明るい声で励ますチヨちゃんに、俺もまた引っ張られる。落ち込んでいた頭が、すっと切り替わった気がした。
膝を抱えてしゃがんでいるチヨちゃんは、シャツでもシルエットを隠し切れない大きな胸が、太ももでむにゅりと潰れて、下手すれば七緒ちゃんよりエロかった。
くっ! ゲロゲロが死んだっていうのに、俺はこんな時まで何を考えているんだ! こんなんじゃゲロゲロに面目がっ! ……でも、なんか元気出てきたな。
「ありがとう。もう大丈夫。二人のおかげで立ち直れたよ」
「いや、いいんですけど……あの、言葉で元気になったわけじゃないですよね?」
「真面目に声をかけるよりコレ使ったほうがいいのかな。そういえば結構前にSNSで見ましたね。も~、次にやったらコレだ――ゴメンお姉ちゃん。流石に恥ずかしいから代わりにお願い」
「絶対やらないわよ。やるならあなたがやりなさい」
「でも、こういうのはヨゴレ担当だし……」
「チヨ。ちょっと真面目に話があります」
チラ見しただけのつもりだったのに、モロバレであったか。流石に恥ずかしいわ。
「おうスケベ男。ようやく立ち直ったか」
「ああ、悪いな迷惑かけて。でもスケベは止めろ」
スケベじゃねぇんだよ。ただ素直に生きてるだけなんだ。男なんて皆そうだろうが。
一応素直に謝った俺に、伊波が小さく頷いた。
「初めて自分が作ったホムンクルスが死んだんだから、仕方ないさ。むしろ早く立ち直れて良かったよ。長引いてもおかしくなかったし、二人に感謝だね」
「ああ、そうだな」
やはりおっぱいは凄い。おっぱいには男を癒す力がある。おっぱいからしか摂取できない栄養がある。
とはいえ、ゲロゲロのことを思えばまだ気が沈むが。
またしんみりしたのを感じたのか、川辺はあえて明るく言った。
「ゲロゲロは失っちまったけどよ、手に入れたもんもあんだろ! チヨちゃんはレベルが上がったみたいだぞ。お前も上がってんじゃね?」
「え、そうなの? あれ? でもお前らは?」
「最初にピーちゃんが纏めて仕留めた分は、距離が離れていたせいか経験値が僕らには入ってこなかったみたいだよ。近くに居た楓太は上がってるんじゃないか? あと川辺、たかだか1レベルアップとゲロゲロは釣り合わないと思う」
「それは分かってるけどよ。……すまん。元気づけるつもりが、不謹慎だったかもしれん」
いや、別に構わないけどな。気持ちは伝わっているし。
でもレベルが上がっているかもとは、気づかなかったな。見てみるか。
【人物鑑定】
名称:小畑楓太
レベル:15
ステータス:【MP】251【STR】9【CON】11【POW】13【DEX】101【INT】78
〈錬金術師〉
【錬金術】レベル4【生産量増加】レベル2【品質上昇】レベル1【人工生命体創造】レベル2【再錬成】レベル―
〈鑑定士〉
【素材鑑定】レベル2【人物鑑定】レベル5【魔物鑑定】レベル5【アイテム鑑定】レベル2
〈アイテム使い〉
【アイテム理解】レベル―【アイテムスロー】レベル1
あっ。本当にレベルが上がってたわ。
しかし相変わらずステータスは伸びねぇな。まぁ【MP】と【DEX】、【INT】と生産関連に必要であろう部分は伸びてるから別に構わないけど。
スキルは……ほう、【生産量増加】が一つ上がってるな? 最近量を作ることが多かったから、それで上がったかな? これからも大量に作ることになるだろうし、これはありがたいな。なんだったら最優先で上げて貰っても……いや、今必要な分だけでいいか。あとから他に有用なスキルが見つかるかもだし、下手に経験値リソースは振れない。
他に変わったところは……【再錬成】? ……え、何これ。――何これ!?
【再錬成】――自身が【錬金術】によって作り上げた物を再構成する。
説明はこれだけ。レベルもないということは、アンロックされてやれることが増えるタイプのスキル。内容がこれだけで詳細は掴めないが……【錬金術】で作った物……再構成……ということは――
「さて。とりあえず、ゲロゲロの埋葬をするか」
「そうだね。このまま放置して死骸を荒らされるのも可哀そうだ。焼いてから埋めてあげよう」
「待て! 燃やすな! 絶対に止めろ!」
「止めろって、いや、流石にこのまま放置は可哀そうだろ?」
「そうじゃなくて、なんとかなるかもしれないんだよっ。でも、そのためにはゲロゲロの身体を持って帰る必要があって」
「持って帰るって……え!? まさかこの死体全部!?」
「それは流石に厳しくないかい? これだけのものを運ぶには、全員で持たないといけなくなるよ?」
無茶を言っているのは分かっている。欠損しているとはいえ、原形はある程度残っている。ゲロゲロの身体は大きいし、かなりの重さになるだろう。俺も自力で歩くとなると、帰るまでの時間もかかるだろうし。
だけど、諦める訳にはいかないんだ……!
「そこをなんとか、頼む……! ゲロゲロが助けられるかもしれないから……諦められなくて……だから、頼む……!」
涙交じりの俺の言葉に、皆は困った顔をするが――結局、誰も嫌とは言わなかった。
♦ ♦
ゲロゲロの死体を持ち運びしやすいように解体し、全員で手分けして運び移動した。 ゲロゲロの身体にナイフを入れるのは正直躊躇したが、背に腹は代えられない。
ピーちゃんには徹底的に敵を避けてもらい、一度も戦闘することなく進めた。その分、距離が伸びることになったが、俺は必死に歩き続けた。
なけなしの体力を振り絞り、仕方なく一日ダンジョンで宿泊したものの、翌日にはダンジョンを出る事ができた。
そして素材となってしまったゲロゲロの配送を、金の力で頼み込み、家に帰宅。しっかりと体を休めた翌日、届いたゲロゲロの身体をアトリエの水槽に沈める。
「残り一回分だけど、ポーションの材料が余っていて良かった」
「本当になんとかなるんですか? その、ゲロゲロちゃんは完全に死んでますよね?」
「でも、上手くいってほしいですね」
「というか、上手く行ってもらわないと困るって感じだな」
「僕らもかなり危ない橋を渡って運んだからね。あそこまで頑張ったんだ。是非とも成功させてほしい」
ああ、その通りだな。皆にはかなり迷惑をかけた。
だからこそ、なんとしても成功させなければならない。
皆の頑張りに答えるためにも。そして、ゲロゲロの為にも。
俺は用意しておいた魔物の肉に該当する素材を次々に水槽にぶち込む。
その様子を見て、川辺がぎょっと目を瞠った
「って、おいおい!? え? そんなに素材を入れて大丈夫なのかよ!?」
「正直分からないけど、なんとなく大丈夫だって感じがする。だからいけると思う」
この辺はスキルの直感としか言いようがないけど。
「……なるほどね。魔物素材というより、欠損した部位を埋めるたんぱく質を求めるって感じかな? ということは、【人工生命体創造】が難しいのは魔物素材として扱うからなのかもね。魔物成分を抜きにしてタンパク質だけを取り出すということなら、難易度は難しくないのかも」
「正直、理屈はどうでもいい。ゲロゲロが助かるならなんだっていい」
材料は全てぶち込んだ。あとは俺が成功させるだけだ。
神に祈る気持ちで、俺は水槽に魔力を注ぎ込んだ。
イメージするのはゲロゲロの姿。あの声。あの表情。あのおバカさ。
元気な姿をもう一度、それを考え続けながら魔力を注ぐ。
小一時間経ったところで、手応えが無くなった。無事に済んだことにほっと息を吐く。と思ったら、水槽の水が一気に減り始めた。
「え? もう完成なんですか?」
「一から作るのと、直すでは違うってことじゃないかしら?」
どちらでも構わない。一秒でも早く結果が見えるなら、その方がいい。
緊張して皆で見守る中、小一時間も経たずに、水槽の水は無くなった。
そして、水槽の中から、むくりと巨大なダチョウが起き上がる。
「……グェ?」
起き上がったダチョウは、何も分かってなさそうな顔でこちらを見て、首を傾げた。
まさか……失敗か? それともこれで成功なのか?
俺は祈るような気持ちで、その名を呼んだ。
「……ゲロゲロ?」
ダチョウはピクリと反応し、じっと俺を見ると、喉を詰まらせながら声を出した。
「グァ……グァ……グェ、グアッ――グィンポォオオオオオオ!!」
「ゲッ――ゲロゲロォ!!」
この雄叫びは間違いない。俺の知っているゲロゲロだ!
「良かった……本当に良かった……ッ! 俺のせいで……まさかもう一度会えるなんて……ッ!」
「ゲロォ……!」
ひしりっ! と俺たちは涙を流しながら抱き締めあう。
この確かな温もりを忘れないでいようと、俺は固く誓った。
「これは最低な再会」
「感動のシーンのはずがここまで台無しになるとは」
「もとはと言えばあなたのせいですよ?」
「でも良かったです。ゲロちゃんが生き返って……!」
グスッとチヨちゃんが涙ぐむ。
俺と一緒にゲロゲロが犠牲になっているのを見ていたからね。そうなるよね。
それにしても他三人の薄情さよ。
「お前らさ、こうしてゲロゲロが蘇ったんだぞ? もっとちゃんと喜べよ」
「いえ、私は喜んでますよ?」
「俺だってちゃんとリアクションしたかったよ。だけどあんなの見せられたら喜ぶ前に肩の力抜けるだろ」
「僕も嬉しいとは思っているんだけど、ちょっと気になることがあってね」
ううむ、と思案気に唸り、伊波は続けた。
「確かに一度は死んだ存在。それが蘇り、姿形が同じ。記憶も同じ。完全に一致している。しかし果たしてそれは、本当に元の本人と言えるのだろうか……」
「スワンプマン問題は止めろぉオオ!! こいつは間違いなくゲロゲロなんだよ!!」
道徳心の欠片もない奴が、余計なことを思いつきやがって!
俺が本人だと感じているから本物なんだよ! 揺さぶるのは止めろ!
「まぁそれもそうだね。そんなことはどうでもいい。むしろ曲がりなりにも死者蘇生。これを果たしている事実を前にすれば些細なことだ」
「些細かどうかは置いておくとして、ホムンクルス限定とはいえとんでもないことですよね……」
七緒ちゃんが、恐怖とも興奮とも言えない顔で呟く。確かに通りだ。これは知られたらますます大問題になるだろう。
しかし、ホムンクルスならば死のうが直せる、ということはだ。
「これで何の憂いもなくホムンクルス軍団が作れちゃうねぇ……!」
「また危ないことを言い始めてますっ!」
「お前、数日前に言っていた言葉はどこにいった? 死んだら悲しいんじゃないのか?」
「え? いや、それは死ぬ場合の話だろ? 死んでも俺が直せばいいんだから全く問題ないじゃん」
「ちょっと、止めないでいいんですか!? 楓太さんの倫理観がヤバいことになってるんですけど!」
「完全に人の心を失ってしまっている。僕らではどうしようもない」
誰が外道だよ、失礼な。死んだら悲しいのは変わりないんだから、別に普通だよ俺は。ただ他の人と違って、死の基準が変わっただけだ。
「冗談はさておきだ。この【再錬成】があれば好きなだけホムンクルスをアップデートできる。これは本当に大きいぞ」
「それは確かに。お気に入りの子を強化し続けることが出来るんだもんな。実力不足で連れていけない、ってことがなくなるのはありがたい」
「まさに怪我の功名と言ったところか。酷い言い方だけど、ゲロゲロが一度死んでくれたお蔭だと思うと、感謝しなきゃだね」
マジで酷い言い方だわ。でも、本当に得た物が大きすぎるんだよな。
今回はゲロゲロの為に使ったけど、【錬金術】で製作した物に【再錬成】が使えるのだから、当然アイテム、武器、防具にも使用できるはずだ。
それを考えたら、身震いが止まらないな。俺の成長が留まるところ知らない。
思う存分、好きな物が作れると考えたら、俺は興奮を抑えられなかった。
♦ ♦
【探索のヒント! その三十三】
〈【再錬成】〉
【錬金術】により作りだされたアイテム、武器、防具、ホムンクルス等を分解し、再構成するスキル。
本来、出来上がった作品に再度手を付けることは禁じ手である。ここはこうした方が、もっとああした方が。そういった発見、後悔を抑えられず手を加えたところで、大抵ろくなことにはならない。
完成してしまった作品には未練を残さず、その経験を次に活かすようにするのが生産者の心構えである。
だが、〈錬金術師〉の【再錬成】はこの禁じ手を当然のように行う。
作品、素材を分子レベルまで分解し、再構成することで完璧に作り変える。この自由度は他の生産職とは比べ物にならない。
無法とも言える生産技術。器用貧乏と称される〈錬金術師〉の、他の生産職と比べて明確に強みと言える部分である。
自分が全身全霊を掛けて完璧な作品を作ろうとするその横で、失敗しても気軽に修正、はい完成! なんてことをやっていれば、ブチ切れても仕方ない。生産者にとっては余りにも邪道であり、羨ましすぎる技術である。




