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アラサーからのダンジョン探索~英雄は目指さない。マイペースに遊びながら稼ぎます~  作者: 迷子
第二章 小畑会結成

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第76話 走り出したら止まらない

「はぁ、すみません。ちょっと疲れました。休憩してもいいですか?」

「もちろん。むしろここまでよく頑張ったよ」


 俺がゲロゲロに乗っての探索は、思った以上にスムーズに進んだ。朝から出発し、二時間程度で既に三階層に辿りついている。そこまで進んでようやくチヨちゃんが休憩を望んだ。


 もちろんここに来るまでに何度か提案したのだが、チヨちゃんは本当に大丈夫だからと言っていたので、どこで休憩するかはチヨちゃんに任せることにした。


 その結果がこの探索速度だ。いや、本当に俺がどれだけ足手纏いになっていたのかが良く分かるな。


「体力のステータスが俺の五倍くらいあるんだもんな。そりゃこれくらいは余裕で行くか。むしろ今までが遅すぎたのか」

「ダンジョンって広いと思っていたんですけど、これだけ早く進めるのなら、深い階層の探索も無理じゃないのかもしれませんね」


 七緒ちゃんが意外そうに言うけど、確かにそうだよな。都道府県に匹敵する広さを探索なんか出来るかと思ったが、もっとレベルが上がれば普通にやれそうだ。


 改めて、探索者は一般人とは根本的に違うんだとよく分かる。もはや同じ人類とは思えない性能だ。なのに俺は一般人と変わらないと思うと、涙が出てくるな……。


 いや、気にするのはもう止めよう。俺の強みは身体能力じゃねぇから。生産能力と金稼ぎの力だから!


「チヨちゃんはどう? 休憩を望んだけど、結構疲れてる?」

「いえ、ちょっと休みたいなーっていうくらいですね。少し休めばまだまだ行けますよー」


 ふむ、どうやら強がりじゃないっぽいな。これは今日中に余裕で五階層まで行けそうだ。


「お前らはやっぱり余裕?」

「おう。楽勝」

「このペースなら全く問題ないね」

「私も大丈夫ですね」


 他の三人に至っては休憩すら要らないレベルか。むしろこいつらの限界はどの程度なのか知りたくなってきたな。


「私より、楓太さんは大丈夫ですか? 乗馬って意外と体力を使うんですけど」

「……大丈夫だよ」


 気遣うように見上げてくるチヨちゃんに、思わずそう答えてしまった。

 女子高生にリードまでさせて歩かせているのに、乗っている俺の方が、尻が痛いとか腰が痛いとか言える訳ねぇだろ!


「これは駄目な奴だね」

「だな、チヨちゃん。悪いけど降りるの手伝ってやってくんね?」


「はーい。さぁ楓太さん。落ちないように気を付けるんですよー」

「ありがとう。だけどさ――お前らが手伝えよ! わざわざチヨちゃんにやらせて俺を辱めるな!」


 女子高生に介護される三十二歳のオッサンとか見るに堪えん。キツイから素直に頼るけども!

 地面に立ち、腰のストレッチをする。


「ぐっ、ああっ……! 生き返る……」

「乗り物を使ってるのにそのレベルか」

「本当に体力は一般人レベルなんだね」

「憐れむような目は止めろ。どんな形であれ俺がついていけるようになったんだから、それでいいだろが」


 というか、なんだったら探索で今までガッツリ運動してんだから、一般人より体力があるわい。

 だけど、ここまで分かりやすい成果が見えると思わなかったな。


「ありがとうな。お前を作って良かったよ」

「グアッ!」


 ゲロゲロの首を撫でながら礼を言う。元気よく返事するが、やっぱり何も分かっていなさそうな顔だ。


 そんなゲロゲロを見つつ、七緒ちゃんは言った。


「むしろこれだけ余裕があるなら、チヨも一緒に乗るのも有りかもしれませんね」

「え? 私も?」


「そうすれば私たちのペースでもっと早く歩けるし、楓太さんとゲロゲロちゃんも慣れて来たなら、リードも要らないでしょ。というか、チヨが一緒なら問題なく操縦出来るんじゃない?」

「ああー、確かにそうかも。楓太さん、一度試してみてもいいですか?」


 ふむ。ゲロゲロは大丈夫そうだし、チヨちゃんを乗せても問題ないだろう。そうすればさらに速度は上がるな。チヨちゃんが手綱を持った方が安全だろうし、試しても良いかもしれない。


「それじゃあチヨちゃん、やってみる?」

「はい! 私も乗ってみたいと思っていたので!」


「よし。ゲロゲロしゃがんでくれ。」

「グアッ!」


 すぐにしゃがんだゲロゲロに乗る。その後に、チヨちゃんは俺の後ろに腰を下ろした。


「大丈夫そう?」

「はい。乗るスペースは問題ないです。ちょっと手綱を持ってみますねー」


 そう言って、チヨちゃんは俺の背中から手を伸ばし、俺が持っている手綱を掴む。


――むにゅっ!


 ほう、これは……背中に暖かくて柔らかい物が……うん。

 自然と抱きつくみたいになるから、当然と言えば当然なんだが……うん。


 たぶん今の俺は真顔になってると思う。でも後ろのチヨちゃんには見えてないだろうな。

 うーん、と何にも気づいてなさそうな声を漏らしつつ、チヨちゃんは言った。


「届きますけど、そもそも前が見えないので危ないですねー」

「それもそうだね。じゃあチヨちゃんが前にしようか。俺が後ろなら身長的にも問題ないし」

「それもそうですねっ! それじゃあ場所変えますね!」


 自然な流れで降りてくれてよかった……。

 チヨちゃんはすぐに降りて、今度は前に。するとまるで最初からそうであったかのようにしっくりくる。


「これなら大丈夫ですねー! 楓太さんもほら、手綱を持ってみてくださいっ」

「はいよ」


 後ろからチヨちゃんの外側を通るように腕を伸ばし、手綱を一緒に掴む。すると――なんということでしょう! まるで俺が後ろからチヨちゃんを抱きしめているように!?


 手綱を掴む形でちょうど腕の中に収まる感じ。本当にサイズ感が可愛いなこの子……顔も綺麗だし、めっちゃ良い子だし……柔らかくてあったかいし……それでいて胸もデカいんだよな。あっ、うなじも色っぽい……このまま強く抱きしめてキスしたい。


 ………………。


「チヨちゃん」

「はい?」

「降りろ」

「何で!?」


 ビックリしたような顔で振り返ってくる。何で? お前どの口が言ってるんだよ。


「聞くまでも無いけど、一応聞いてあげようか。楓太、何で駄目なんだい?」

「チヨちゃんがドスケベ過ぎる。たぶんサキュバスの血が流れてるぞこの子。このままだとホム嫁を迎える前に浮気してしまう」


「流石に言いがかりが過ぎるんですけど!? ドスケベなのは楓太さんの頭です!」

「どっちがスケベかはともかく、一途な俺としては浮気するわけにはいかんのです」


「え? ホムンクルスでハーレム作ろうとしている人が一途って言いました?」


 何を言ってるんだ七緒ちゃんは?

 ホムンクルスしか興味ないんだから一途だろ。


「せめて誘惑してくるのを何とかしてくれないと、俺も我慢できなくなるよ?」

「してませんけど!? 流石に怒っていいですよねこれ!」

「すまないチヨちゃん。大人になって拗らすと面倒になってな。お前よ~。気持ちは分からんでもないけどその程度で動揺すんなよ。もっと真面目にやれ!」


 川辺が呆れたように叱ってくる。こいつはロリコンだから俺の必死さが分かってない。

 ある意味では真面目なんだが? 襲わないように必死に我慢してるんだが?


「性欲を向けるな。愛を向けろ、愛を!」

「なるほど。性愛か……」


「もう駄目だ。彼は救えない」

「ちょっと怖くなってきました……ッ!」

「久しぶりに本気で軽蔑してきましたね」


 うだうだ言ってる外野は無視。この試練の厳しさは俺にしか分からない!


 ……あれだな。可愛いとかじゃなくて、凄く良い子だな〜って気持ちを増やせば良いんだな。そう、欲しがるのではなく、与える、もしくは守る存在。慈しみの心だ。

 両手で頭を抑え、自分に暗示をかける。


「故郷と家族を無くした可哀想な子。可哀想な子は抜けない……いや、幸薄な子は結構そそるな……妹……姪っ子……いや、いっそ娘……養女! ――あ、いけるわ」

「本当かよ。んなすぐ切り替えられるか?」

「というか今、結構最低なワードがいくつか聞こえたんだけど」


「いや、マジで大丈夫。自分の娘に手を出すほど俺は鬼畜じゃない」

「私の妹がいつの間にか他人の娘に?」

「女として意識されないのも、それはそれで悔しいです……」


 よし、これで問題ない。休憩は済んだし、そろそろ行こうか。

 改めて手綱に手を伸ばす。そして、必然的にチヨちゃんの身体と俺の腕が触れた。


「――あんっ♡」

「――――」


 ――ドン! ドシャッ! ぎゃんっ!?


「痛いですっ! 何で落とすんですか!?」

「何でじゃねぇよ小娘! はっ倒すぞ!!」


 純情な男の心を弄びやがって! この程度で済んでありがたいと思えよ!


「ピュイィイイイイイ!」「グルルルル……ッ!」


「文句あんのかコラァアアアアアアア!!!!」

「ピュッ!? ピュイッ……」「ヒャン!? クゥーン……」


「おぉ、ピーちゃんとマルが怯えている」

「あの二匹がチヨちゃんを傷つけられて怯むとは、凄まじい怒りだ」


 そりゃキレるだろ!! こっちはエロいことを考えないよう必死なのによぉ!!

 何があんっ、だよ! 耳に残って離れないだろうがっ! めっちゃエロかった!!


「う~、ちょっとした冗談のつもりだったのに」

「今のは流石に貴方が悪いわよ。私は淫乱を妹にした覚えはないからね」

「お、お姉ちゃん……いくらなんでも酷すぎ……!」


 全然酷くないわ。もっと言ってやれ。自覚しないと直せるもんも直せないからな。


 思った以上の成果に、全員の気が緩んでいたのかもしれない。まるで地上に居るかのように、悪ふざけをしながら俺達は探索を再開した。


 ――しかし、次の四階層で事件は起きた。


 ♦   ♦


「あ、この先に魔物が隠れているそうです」


 四階層の半ばまで進んだ時、チヨちゃんがそう教えてくれた。

 どうやらピーちゃんが見付けて、知らせてくれたらしい。


「俺らを狙っているのかな? それが何の魔物か分かる?」

「えーと、ハイエナみたいですね。それが七匹だそうです」


 この階層でハイエナっていうと〈ポイズンハイエナ〉だろうな。

 ステータス的にはそう高くないがすばしっこくて、群れを作っている点と、毒を持っているのが厄介な敵だ。


「なんとか避けられないかな?」

「うーん……避けた先にも魔物が居るみたいで、どちらにせよ戦うことになりそうみたいです」


 なるほどな。それなら下手に避けるより戦った方がいいか? 

 ここまで上手いこと魔物を避けられちゃったから、今日はまだ一度も戦っていない。戦闘になった際の立ち回りを、ゲロゲロに教えたいと思っていたところだし。


「ハイエナが七匹だけど、やれそうか?」

「おお、任せとけ。むしろ良い練習になるわ」

「確かに。大物を一匹相手にするより、多数の敵から守る方がよっぽど難しいからね」

「この辺りで経験しておいた方がいいかもですね」


 うちの戦闘員は案外やる気だ。

 ポーションも解毒剤もたっぷり用意してあるし、【挑発】持ちの川辺も居る。むしろ俺らにとってはやりやすい相手かもな。

 それならゲロゲロの練習相手に付き合ってもらうとしようか。


「よし。ゲロゲロ、これから戦いになるからな。基本的には戦闘に巻き込まれないよう、少し離れるんだぞ?」

「グアッ!」


「俺かチヨちゃんの指示がない限り、勝手な行動は基本的に禁止。よっぽどまずいと思ったら走って逃げていいから。あとは何よりもまず俺とチヨちゃんを守ること。いいな?」

「グアッ!」


「本当に分かってんのかなコイツ?」

「大丈夫ですよ! ちゃんと返事してますし!」


 チヨちゃんがよしよしと嬉しそうに首を撫でている。

 俺もそうだと信じたいが、何も考えずに返事しているようにしか見えないんだよな……。

 やっぱり不安だ。でもまぁ、やってみないと分からないか。


「――♪ ――――♪」


準備をしてから、俺達は先へ進む。今回は練習も兼ねた真っ向勝負ということで、進みながら七緒ちゃんの【歌唱】バフをかけ、戦いに備える。


 ピーちゃんの指定したポイントに辿りついた途端、背の高い草むらに隠れていたポイズンハイエナたちが襲い掛かってきた。


「――ヴァン! ヴァンヴァン!」

「纏めてかかってこいやぁ!!」


 川辺の【挑発】が群れ全体に決まり、ポイズンハイエナの群れは一斉に川辺へと殺到した。流石に多いかと心配したが、反撃する余裕こそないとはいえ、川辺は次々襲い掛かる敵を上手く捌いている。兵藤さんとの特訓の成果だな。


「――【アイスバインド】!!」

「――フッ! シッ!」

「――ヴヴヴッ!! ヴォンッ!!」


 数が多いとみて、伊波は氷の絨毯で敵の妨害から入った。動きの鈍くなった敵を、七緒ちゃんとマルが横から攻撃を仕掛ける。いつもの勝ちパターンに入っていた。


 これなら全く問題ないな。ゲロゲロにも余裕を持って教えられる。


「よし、ゲロゲロ。ああやって川辺がひきつけてくれたら、俺達は巻き込まれないように下がるんだ。もし敵がすり抜けてきたらお前がやっつけるんだぞ」

「グアッ!」

「いい子だね~ゲロちゃん。そうそう、そっちだよー!」


 ゲロゲロは返事をすると、川辺達を挟んでポイズンハイエナと対角線上に居るように距離を取る。


 よしよし、ちゃんと指示を出したからではあるが、こうして動いてくれるなら十分だ。何度も繰り返していれば、その内指示が無くても――


「――ッ!! ウォン!!」

「え? ――ッ!? ゲロちゃん、止まっ――」


 マルが急にこっちに向かって吠えたと思ったら、チヨちゃんはぎょっとした顔になって、手綱を引こうとする。

 どうしたのと聞く前に、その理由の方から目の前に姿を現れた。


 ゲロゲロの進行方向の地面が、ボコッとめくれ上がると、何かがゲロゲロの足に飛び掛かってくる。


【魔物鑑定】

 名称:バスリザード

 レベル:12


〈バスリザード〉!? 確か地面に偽装するトカゲ型の魔物! こんな所に!?


 咄嗟に発動した【鑑定】で魔物の正体は分かったが、俺に出来たのはそこまでだった。

 ゲロゲロの足に飛び掛かったバスリザードは、そのままガブリと嚙みついた。


「ゲロゲロ!? 大丈夫――なの……か?」


 見た限り深く噛まれているみたいだし、痛くないはずがないんだが? 

 ボケーっとしていたゲロゲロは、数秒経ってからようやく自分の足に顔を向け、噛みついているバスリザードを見た。そして首を傾げると、ぎょっと目を大きく開く。


「……ゲロォオオオオオオオ!?!?!?」


 ブオンッ! と風が唸るほどの強力な蹴り。その勢いで噛みついていたバスリザードは盛大に吹っ飛んでいく。

 大したことなさそうだと、俺は思わずほっと息を吐いたが、その判断はまだ早かった。ゲロゲロは未だパニックの真っ只中だった。


「ゲロォオオオオオオオオオ!!!!」

「えっ? ――待て! 待て待て待て!?」

「ゲロちゃん! ゲロちゃん! 止まって止まって止まって!?」


 ゲロゲロの爆走が始まった。


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