第61話 勧誘③
【鑑定】の情報量を察した段階で、既に格付けは済んでいた。
そして彼のやろうとしていることに覚えがありすぎて、正直後半は聞き流していた。
だって、まともに聞いてられねぇんだもん……。
真面目に聞こうとすればするほど、哀れすぎて同情しちゃいそうなんだもん……。
なので俺はその間、話を聞きつつ彼のステータスから、彼という人間を分析していた。
まず、〈忍者〉という希少なジョブ。探索者協会の情報によると、コイツは斥候系から魔術師系のジョブを取って成長した結果、統合され取得できることがあるらしい。
全員が全員そうなるわけではないらしいので、何か他にも条件があるようだが、まぁそこはいい。ともかく、彼は最初に〈斥候〉。二番目で〈魔術師〉のジョブを取れたはずだ。
【隠蔽】レベル4【気配察知】レベル4【マーキング】レベル2【追跡】レベル2
この辺りはいい。元から〈斥候〉で持っていたスキルだ。最初から育てていれば、レベルが高いのも頷ける。
問題は〈忍者〉になってから習得したであろうスキルだ。
【遁術】レベル2【影討ち】レベル2【暗器術】レベル2【毒術】レベル2【毒耐性】レベル2
【遁術】――自然に干渉し操る忍術。
【影討ち】――対象の死角から攻撃した際にクリティカル率、ダメージに補正。
まぁ〈忍者〉っぽいスキルではあるな。正面からではなく、遊撃役として援護に回った方が活きる。じわじわと確実に敵を削れるし、影打ちからの一撃も侮れないだろう。
そして、特にレベル高いコイツら。
【身代わりの術】レベル4【隠れ身の術】レベル3【影潜り】レベル4【忍び走り】レベル3
【身代わりの術】――己への敵意を他の生物に押し付ける。
【隠れ身の術】――己の姿を自然に溶け込ませる。
【影潜り】――影に潜って己の身を隠す。他人を連れて使用することは出来ない。
【忍び走り】――ありとあらゆる場所を足音を消して走れるようになる。
こいつらも〈忍者〉っぽいスキルだ。特に【身代わりの術】は有用だな。擬似的な【挑発】を使えるようなもんだ。
だけど問題なのはさ、このスキルから何が見えてくるってことなんだよ。
たぶんだけど、アイツ――自分が助かることを一番に考えてんじゃね?
「【隠れ身の術】、【影潜り】からの【影討ち】。これは確かに強力なコンボなんだけど、見方を変えれば自分の安全を確保した上でしか攻撃しないってことなんだよな。で、極め付けは【身代わりの術】。擬似的な【挑発】として使えるスキルだが……」
「自分へのタゲを仲間に擦りつけるって、どう考えてもクズの所業だな。仲間がどうなっても自分が助かればそれでいいってのをヒシヒシと感じる」
「事前に説明されれば納得はするけど、その本心を考えると殺してやりたくなるね」
全くだ。仲間が何も思わず受け入れているのだとしたら相当度量がある。仲間には恵まれてるな。
流石に穿って見すぎてるかもしれないって思うじゃん? じゃあなんで【忍び走り】のレベルが高いんだよ。これどう考えても逃げるためのスキルだろ。
〈忍者〉になってから習得したであろうこれらのスキルが、〈斥候〉の時から持っていたであろういくつかのスキルをレベルで上回ってるって、つまりそういうことだろ。
〈忍者〉になる前に、〈斥候〉から〈魔術師〉を取得したのもさ、たぶん相手に近づかずに強力な攻撃がしたいとか思ったんじゃないか?
それだけ生存をまず意識しているなら、〈忍者〉になっても不思議ではない。
まぁともかく。ここまでのやつのスタイルを改めて纏めると……。
自分へのタゲは他人に移し、安全を確保した上で陰から攻撃。いざという時にはあらゆる場所を駆けるその足で真っ先に逃げ、最悪一人だけで隠れてやり過ごす。
「ガチで〝汚い忍者〟だアイツ。まさかこの呼び名を皮肉ではなく使う時が来ようとは」
「まぁそう言われても仕方ないとは思うけどな」
「実際ポテンシャルは悪くないと思うのだが……」
そうだな。伊波の言う通り、〈忍者〉自体は悪くない。むしろ強いよ。
心情はどうあれ、パーティーで見れば【挑発】を仲間に使わせるのと一緒で、さらに遊撃アタッカーとして頼りになる。
ただ、奴からはそんな仕事人的なものは感じず、自分だけは生き残るという思いを感じるだけで……いや、むしろアイツの方が〈忍者〉として正しいのか?
よくよく考えれば、忍の仕事って単独での潜入、調査、破壊工作、暗殺だよな? パーティーで活かすって方が間違い?
身代わりも本来は、逃げる時にその辺の動物に使うと考えれば、これ以上なくしっくりくる。 もしかして、この辺りの心構えが〈忍者〉の習得条件なんじゃ……。
「しかし楓太の分析が正しいとすれば、色々と杜撰なのは少し解せないね。そこまで警戒心が高いやつなら、もう少し慎重になってもおかしくないんじゃないか?」
「ああ〜。それはその通りなんだけど、焦っていたんだろうな。アイツも言ってただろ? 俺に【鑑定】の情報をばら撒かれたら、意味がなくなるって」
俺が〈錬金術師〉であることは突き止めていたから、たぶん有力な探索者とも取引しているところくらいまでは調べていた、あるいは予想していたと思う。
下手をすればその伝手を使って、自分より上の探索者に助けを求めるだろうと。
時間があったら、その辺りをきちんと調べた上でどうするかを考えただろう。ダンジョン内で脅すなり、俺たちとの実力差ならなんだって出来たはずだ。
だが、俺がいつ気まぐれで【鑑定】の情報をばら撒くか分からなかった。
慎重な奴。ビビリな奴なら、不確定要素がある以上こんな接触はしなかっただろう。しかし、計画達成で得られる報酬の大きさが。身の丈に合わぬ野望が。その判断を狂わせた。
「要するに、欲に負けたってことだ。冷静なつもりでアイツも舞い上がってたんだよ」
「え〜、それにしたってバカすぎねぇ? せっかくのチャンスを自分のミスで潰してんだぜ~?」
他人には厳しいデブだな。
降って湧いたチャンスを棒に振れって方が無茶だと思うけどな。大人だって難しいし、ましてやまだ野心のある若い子なら尚更難しいだろ。
「自分が指導者になって、大事な三年間で結果出そうとキャラ育成するゲームあるじゃん?」
「なんだよ急に。まぁいくつかあるけど。パワフル? ウマ? どっち?」
「別にどっちでもいいしなんだったら他のでもいいよ。好きに選べ。デイリー報酬目当ての適当プレイだったのに、何故かヒキが良くてあれよあれよと理想通りの育成が進んでいく。このまま行っても過去最高のキャラが出来上がるぞ!? そんな時、もう直ぐ終わる寸前でダイジョーブじゃない博士とか、うーん、不安! としか感じない謎の変人美女が現れた。成功率は低い。しかしこれをクリアしたら前人未到のステータスを持ったキャラが……ッ! さてこのイベント――踏む? 踏まない?」
「踏む」
「踏まない」
「踏むと答えた愚か者が川辺と拝賀で、踏まないと答えた賢者が俺と伊波だ」
「おおっ、なるほど……これが欲に負けるという……いやしっくり来たけどお前が賢者呼ばわりは納得いかねぇんだが!?」
「賢者であるほど、己が足らぬことを知っている。つまり足りぬ自覚がある俺は賢者」
「おお、咄嗟にしてはそれっぽいことを。自分はバカですと言っているようなものだが」
拝賀のような実際にバカやらかす奴よりは遥かにマシだろ。
まぁとにかく言いたいのはさ、アイツは欲に負けて、たぶんいけるやろの精神で俺に手を出してしまったと言うことだ。
「アイツの誤算は、俺が実力者との伝手があるどころか、その集団の指導者になっているってことだな」
「指導者という言葉には異論を上げたいところだが……流石に彼に同情してしまうね。まさか脅しをかけた相手が、すでに自分の計画の上位互換を進めていたとは思うまい」
伊波の同情的な声に、俺もついつい頷いてしまう。
最初は潰してやるって気持ちでいっぱいだったんだけどな。ピエロだって分かってからは、本当に可哀想になってきたんだよ。
まぁだからといって見逃すのはあり得ないけどな。
たとえ同情しようが、まだ若者だろうが。我が大望の障壁となるなら排除せねばなるまいて。
「よぉ、邪魔するぜ」
「三人とも、お疲れ様。お邪魔しますね」
「ああ、タケさんに真帆さん。お疲れ様です」
拝賀が出て行ってから十分くらいは経っただろうか。隣の部屋に待機していたタケさんと真帆さんが入ってきた。
適当に席に着く二人に、俺は軽く頭を下げる。
「急に護衛をお願いしてすみません。助かりました」
「なに、気にすんなよ。ボスの頼みなら当然だろ」
「せっかく楽しくなりそうなのに、邪魔されたら溜まったものじゃないからね。気にしないでください」
タケさん達にはいざという時に乱入してもらえるよう備えて貰っていた。アキラさんであれば、自分たちの気配を消しつつ、こっちのことも探れる。何かあれば直ぐに飛び込んでくれていただろう。幸い何も起こらずに済んだが。
「アキラさんが居ませんけど、どうしました?」
「アキラには拝賀を追ってもらった。戻って来そうにないのを確認して、連絡が来たから俺達もこっちに来たんだ。もう直ぐ戻って来るは――「戻ったよ〜」――言ってる側からだな」
部屋に入ってきたアキラさんを見て、タケさんは苦笑した。
アキラさんは入ってくるなり、テーブルや椅子を調べ始める。
「アキラさん、何やってるんですか?」
「盗聴器とかがないか調べてるんだよ〜……大丈夫だとは思うけど〜……念のためにね〜……ん。問題な〜し……」
アキラさんの発言に俺らは揃って顔を青くしていた。
危ねぇ! そこまで考えてなかった! もし聞かれてたらやばい話してなかったか俺ら?
下手すりゃ逃げられて、いずれ報復されてたんじゃ……!
この詰めの甘さ。拝賀君のことをバカに出来んわ。
「どれ。アキラも帰ってきたことだし、どんな話だったのか聞いてもいいか?」
「あっ、はい。拝賀の目的は――」
俺は拝賀の狙いを全て話した。
腕組みをしながら全て聞いたタケさんは、難しい表情をしながら唸るように言った。
「まさか拝賀がなぁ。最近調子が良いと小耳に挟んではいたが、そういうことだったか。しかしなんというか、哀れな」
「楓太さんのことを知っている身としては、その、完全に道化よね」
「儚い夢だったね〜……」
話を聞いた三人はなんとも微妙な表情だった。敵対行為ではあるんだが、致命的なとこがズレすぎて哀れみが出てくるんだよな。憎みきれない。
「ところで、タケさんは拝賀のことを知ってたんですか? なんかそんな口ぶりですけど」
「ああ〜。最近は顔を見てないけどな。マサと一緒に面倒を見てやった時期があったんだよ。アイツら、探索者になった経緯も年齢も一緒だからな。お互い意識し合うライバルってやつだ」
「へぇ。マサ君と」
確かにそれなら嫌でも意識するよな。
意外だが、冷静に考えれば納得だわ。
「いや、アレはライバルっていうか……」
「一方的な〜……敵視というか〜……」
真帆さんとアキラさんは悩むように呟く。思ったより複雑な関係なのかもしれない。
「まぁともかくだ。顔見知りではあるが、俺らのボスに喧嘩を売るってんならただじゃおかねぇ。遊びじゃねぇんだ。脅すってんなら覚悟してもらわねぇとな」
タケさんが目を鋭くしながらそう言った途端、真帆さんとアキラさんまで空気が変わる。
この切り替えの早さこそ一流の探索者の証だろう。
「というわけで楓太。俺らで片を付けるが、いいよな?」
「はい。それはもちろん。ただしもう少し万全を期しましょう。今のアイツは一人だけならタケさん達からも逃げ切る可能性があります」
「なに? そこまでか?」
意外そうにタケさんは目を丸くする。
この三人の実力を疑うことはないが、こと逃走に関して言えば、拝賀はおそらく全探索者のトップレベルに食い込んでくる。
それに、これは小畑会として動くいい機会だ。この際だから色々と実験台になってもらおう。
「まだ若い彼に、大人のやり方ってやつを教えてあげましょうか」
俺はスマホを取り出し、トークアプリを開く。部屋の名前はこれでいいか。主要人物を集めて~、俺の名前はこれでいいかな~っと。はいできた。




