第134話 今日という日を、僕らはずっと待っていたんだ
喋る魔物という存在がいないわけではない。
現にサキュバスは、男を捕食するために言葉を使って誘惑をする。
七緒ちゃんだってインキュバスに口説かれて、危うく落ちそうになっていたし。
だけどそれはあくまで獲物として認識しているだけであって、個体として認識しているわけではない。
サキュバスにとって、人間の男は皆等しく美味しい獲物なのだ。ハッキリ言えば誰でもいい。わざわざ個人を覚えるなどありえない。
なのにあのサキュバスは明らかに、世永さんと分かって話をしている。
どう考えてもただのサキュバスじゃない!
【魔物鑑定】
名称:サキュバス・クイーン(特殊個体)
レベル:43
ステータス:【MP】876【STR】372【CON】321【POW】498【DEX】455【INT】573
スキル:【性技】【官能の鞭】【女王の魅了】【吸精の極致】【夢魔の幻惑】【気桃色瘴】【色欲の楽園】【淫香の支配】【女王の威光】
「サキュバス・クイーン! レベル43! あと〈特殊個体〉だそうです!」
「〈特殊個体〉だと?〈例外存在〉ってことか?」
俺の言葉を聞き、世永さんが小さく目を瞠る。
〈例外存在〉――その階層には居ないはずの魔物だったり、明らかに階層に見合わぬ飛びぬけた強さを持つ魔物の総称だ。
上位種が出たり、同種族にない動きやスキルを見せたり。個々で差はあるが、こういった魔物が出現することが時々あるらしい。
「初めてお目にかかったクイーンが〈例外存在〉とは。運がいいのか悪いのか」
「初めてって、世永さんでもですか? サキュバスなのに?
「ここ最近は渋谷ダンジョンで修行していたし、その前はこの30層付近をメインに回っていたが、それでもクイーンは見たことがなかった。おそらく本来ならもっと先――40層付近で見かけるような魔物なんだろうな」
なるほど、まさに〈例外存在〉という訳だ。
ただでさえクイーンという初見の魔物に、〈例外存在〉。世永さんが警戒しないはずがない。
しかし同時に、彼は期待を隠せないようだった。微妙に鼻息が荒く、目が血走っている気がする。
並みのサキュバスを上回る体つきに、言葉が見つからないほどの美貌。それほどの美女に、名前を知られている。そりゃ男として平静ではいられないよな。
しかしなんでまた世永さんが……いや、待てよ? クイーンだからこそなのか?
クイーンという上位種だからこそ、世永さんの【女殺し(物理)】を中和できるとしたら?
そしてその上で、クイーンは自らの意思で世永さんを見初めたとしたら?
いやいや、まさか世永さんに限って女に好かれるなんて、とは思うが。人間はともかく、魔物の美的感覚では、世永さんでもありなのかもしれない。どっちかというと魔物寄りのビジュアルだしな。
まさか本当に、サキュバス・クイーンこそが、世永さんにとって運命の人だった?
嘘だろ……マジでそんなことありえるのか?
人と魔物のラブストーリーなんて。それもまさしく美女と野獣のような、こんな二人の間で。
もし本当にそうだったりすれば、これまでの世永さんの悲劇を考えたとしても、一気にお釣りが返ってくるような――
「ずっと。ずっとこの時を待っていたわ。――この外道っ!」
キッ、とその美しい顔を怒りで歪ませ、クイーンは吐き捨てるように言った。
熱に浮かされていた世永さんも、スンッと平静になる。愛からはあまりにも遠すぎる、紛れもない殺意だった。一瞬でも期待した分、ショックも大きいだろう。本当に哀れな。
ああ、でも良かった。世永さんと魔物の美女との間での恋愛なんて、羨ましい話はなかったんだ。ちょっとほっとした。
「世永、そして〈不動戦士団〉。我が同胞を弄んだ罪。お前たちによって辱められてきた同胞たちの屈辱、ここで晴らさせてもらいましょう」
――それはそう。
俺達は思わず頷いた。
真っ当過ぎるほど真っ当な理由だな。
そりゃクイーンがわざわざ出張るわ。
もっとも過ぎて庇う気にもなれない。
っていうか、辱めって何だ?
「世永さん、それに皆さん。一体何をやったんですか?」
「いやマジでなんもやってねーよ!?」
「そうだ! 疑われるのは心外だぞ! 確かに何回も殺してきたかもしれないけど、それは人と魔物である以上仕方ないだろ!?」
本当かなぁ……?
辱めだとか言ってるんだよ?
死体を弄んだり(意味深)とかしてない? やってもおかしくないと思うんだけど?
「どう思う?」
「まぁ、そこは世永さん達の良心を信じるとしてだ」
「普通に何体も狩って、持ち帰ったりしてるんだから、恨みが溜まってもおかしくはないと思うけどね」
疑惑の視線を向けながらも、川辺と伊波は世永さん達を信じているようだ。
まぁちょっと疑わしいところはあるけど、最後の一線は超えない人達だからな。
ってことはだ、単純にサキュバスの討伐数が一定数を超えたから条件が満たされて、このクイーンが生まれたって感じなんじゃね?
〈特殊個体〉だしな。ゲーム的に考えるとしっくりくる。
俺達の話が聞こえていたのだろうか。思わず同情しかけてしまうような、悲痛な声でクイーンが呟く。
「私には聞こえる。死してなお弄ばれる同胞達の声が。我らはサキュバス。男を喜ばす存在ではあれど、それは誇りあってのもの。一方的に都合よく扱われる玩具ではない……ッ!」
またすげぇ反論しづらい答えが返ってきたな。
実際、外に持ってかれたサキュバスはオ〇ホ扱いされている訳だしな。
「当然ですよ。女としてあり得ません」
「世永さん達が悪いとは言いきれませんけど、それでも気持ちよくはないですね~」
七緒ちゃんとチヨちゃんの視線が痛い。
俺らはマジでなんもやってないから、その冷たい目を向けるのはやめてくれっ。
対して、世永さん達は大変不服そうだった。
「言わんとすることは分かるが、俺らマジでなんもやってねーからな」
「だな。襲われたから反撃した。で、それの何が悪い?」
「そっちだって散々男を襲ってるじゃねーか。それで自分達がやられて許せねぇって、ただの逆恨みじゃねーかよ」
「つーか、俺ら以外にも同じことやってる奴らがいっぱいいるだろ? なんで俺らだけ責められなくちゃいけないんだ?」
実に自己弁護がうまい奴らである。
一切自分達は悪くないと考えているあたり、やっぱりこいつら悪党なんじゃないか?
仲間の言葉に勇気づけられたんだろうか。
世永さんは、ウォーハンマーを構え睨み付けた。
「クイーン、お前の言い分はよく分かった。だが、お前もわかっているだろう。所詮、俺達は探索者と魔物。どこまでも弱肉強食の関係。負けた方が悪いんだよ。気に入らないと言うのであれば、力で押し通してみせろ」
言ってることはかっこいいんだが、結局は自身の正当化という。
今一つ応援しきれねぇ……。
しかしクイーンはそれに、待っていたとばかりの余裕の笑みを浮かべた。
「ええ、もちろんよ。同胞達の恨みはここで晴らさせてもらいましょう。私達の全戦力をもって」
パチンと、そのしなやかで美しい指を弾く。
すると、部屋に隠れていた配下のサキュバスが次々と現れた。
天井裏や、床下、カーテン。あらゆるところから飛び出し、俺達を囲んでいる。
「凄い数だ……普通のサキュバスはもちろん、アマゾネス、ハイ・サキュバスもいる!」
「ああ、まさに選り取り見取り――おい、後ろ!」
川辺の声に引かれ、思わず振り返った。
すると入ってきた扉が閉まり、また封印の文様が浮かんでいる。
逃げ道を塞がれたことに俺と川辺が青くなる中、なるほどと、伊波は冷静に呟く。
「倒さない限り帰れないということだね。それほど本気という訳か。ふっふふふ、怖い」
「言ってる場合ですかっ! 完全に罠にはまってるじゃないですか!」
「ピーちゃん、マル! 気を付けて!」
「ピュイイイイ!」「ワンッ!」
チヨちゃんの声掛けに、勇ましくピーちゃんとマルが吠える。
この二匹はどんな時でも頼りになる。とはいえ、数が違いすぎる。逃げ場もないし、これじゃいくらなんでも……ッ!
「安心しろ、小畑さん」
動揺し、平静ではいられない俺を落ち着かせるように、世永さんの頼もしい声が聞こえた。
「この状況、確かに少し前だったら、俺達でも詰みだったかもしれん。だが、今の俺達には障害にすらならん」
それは、実力が裏打ちする確固たる自信。
そして似たような顔を、〈不動戦士団〉の皆も浮かべている。
そうだった。冷静に考えてみれば、これは焦るような状況ではない。
確かにクイーンは強い。だが、所詮はレベル43。
レベル50に至り、【種族進化】に届いた世永さん達にとって、これはピンチでもなんでもない!
「舐めるなよ、クイーン。〈例外存在〉だろうがいくら数揃えようが、お前達はサキュバス。〝女殺し〟の世永の力を見せてやるぜ」
〝悪魔殺し〟じゃないのか。いや〝女殺し〟も間違ってないけどさぁ。
でもいい。このピンチをくぐり抜けられるなら何でもいい。
ウォーハンマーでもベッドの上でも何でもいいから、どうにかしてくれ!
そんな世永さんの口上に、クイーンもまた不敵に笑って応えた。
「舐めているのはお前達の方よ。サキュバスの女王たる私の力、たっぷりとその体で味合わせてあげる。【色欲の楽園】――さぁ、色の誘惑に溺れなさい」
クイーンが腕を広げたその瞬間、部屋の床全面に、扉の封印と似たような文様が描かれた。
ピンク色に染まった文様、それらが光り出すと、そこから粉のような物が噴き出す。
まるで蝶の鱗粉のようなそれが部屋に満ちると、ガクリと体から力が入らなくなった。
「うおっ!? な、なんだこれ……力が抜ける……ッ!? というか、なんか戦っちゃいけないような……」
「馬鹿な! 俺にも効くデバフだと!? クイーンとはいえ、レベル的には格下だろうが!」
これは世永さん達も予想していなかったのだろう。初めて表情に焦りが見えた。
敵全体を対象として、さらに世永さん達にまで通すデバフなんて……ッ! これかっ!
【色欲の楽園】――戦場を色欲の結界で覆う奥義。結界内では敵の精神抵抗が低下し、自軍の魅了系能力が強化される。闘争心を減退させることによるステータスの封印効果。
「世永さん!【封印】系のスキルです! 闘争心減退によるステータス封印だって!」
「サ、サキュバス如きがこんな高度な結界を使うだと……ッ!?」
「私は同胞の無念を背負った女王。お前達を殺すために生まれた存在。ただのクイーンと思わない方がいいわよ?」
「へっ、舐めんなよ。本気を出せばこの程度……ッ!」
強がるように笑みを見せ、ぐっと世永さんは体に力を入れていた。
入れていた、のだが――
「ち、力が入らん……ヤベェ! 進化できねぇ!」
「うぇええええ!? いやちょっと世永さん!? ふざけてる場合じゃないですよっ!?」
「いや、小畑さん、ホントにすまん。俺らも同じだ」
「どうしても、体に力が入らん……ッ!」
嘘だろ? 冗談じゃなくて?
世永さん達がいるならまだなんとかなると思っていたのに!
「おい、これまずいんじゃねーか?」
「ああ。というか、僕達だと動くことすら」
「【封印】……害を与えられているなら……ッ! マルッ! 【守護領域】!」
「ワオオオオオオオオオオオンッ!」
チヨちゃんの命令に応え、マルが遠吠えを上げると、俺達を囲むように緑色の結界が現れる。
マルの【守護領域】だ。チヨちゃん、ナイス判断!
守護効果を持つ結界なら、多少はクイーンの結界に抵抗できるはず……ッ!
「あらあら、賢いわんちゃんね。でも、その程度では私の美貌からは逃げられないわ。【桃色瘴気】」
クイーンが意外そうにしながらも、すぐに新たなスキルを発動させる。すると、見覚えのあるピンク色のうっすらとした煙がクイーンから洩れ、部屋中にどんどん満ちていく。
この色と、うっとりするような甘い香りは――
「これ屋敷に漂っていたのと同じ……〈淫香の霧〉!?」
「まずい! 小畑さん達、なるべく吸うなっ!」
「いや吸うなって言われても……」
密室じゃ逃げ場がない。マルの結界で少しはマシになったとはいえ、ろくに体も動けない。こんなのどうやって逃げろと?
それでも、少しでも煙から逃げるよう、封じられた扉へと後ずさりをする。
そんな俺達を、放っておいても良いと判断したのだろう。クイーンが手で合図すると、配下のサキュバス達が、次々と世永さん達へと襲いかかる。
アマゾネスが肉弾戦を挑み、サキュバス、ハイ・サキュバスからの【魔術】の援護が入る。並みの探索者なら一溜りもない、怒涛の攻撃だ。
しかし、世永さん達はそんな不利な状況でありながら、時には反撃を入れて奮戦していた。
【種族進化】だけではなく、ステータスも封印されているとはいえ、そもそも地力が違う。一方的にやられるとまではいかないらしい。
しかし、それもまた余裕という訳ではないようだ。
「こいつらっ、妙に強くないか!? どうなってる!」
「あぁ、確かに。見た目は普通のサキュバスどもなのに」
強い? いや、でもクイーン以外のレベルは階層相当だぞ?
となると、クイーンが何かやっている?
【女王の威光】――女王の威光により、サキュバス系魔物の能力を強化する。配下は恐怖を感じず、士気が低下しない。
「世永さん! クイーンの仕業です! 配下の強化スキルがあります!」
「やっぱりか! ええいっ、これだから統率個体はめんどくさいっ! 配下を使ってチマチマと! 性格の悪い女だ!」
「ふふふっ。それが女王の戦い方よ」
世永さんの嫌味に、クイーンは気持ちよさそうに受けれていた。
それが強がりであり、自分の有利は決して崩れないということを、理解していたからだろう。
しかし、それでもなお抵抗する世永さん達に、クイーンはひっそりと眉をしかめる。
「とはいえ、流石の強さね。私の色を受けつつ、まさかここまで耐えるなんて」
「伊達に経験を積んでねぇ。体が不自由な状態での戦いなんて、これまで何度もやってきた。慣れてるんだよ」
逆に脅すように、凶悪な笑みを見せる世永さん。
しかし、それにまったく動揺を見せず、クイーンは愉快そうに尻尾を揺らす。
「ええ、そのようね。でも、そっちの子達はどうかしら?」
クイーンはにんまりとした目を俺達の方へ向ける。
その嗜虐的な瞳に、俺は焦りを感じた。
ヤバい、このままだと狙われる! だけどまともに体が……クソッ! 腕が上がれば、せめてアイテムに手を伸ばすことができれば……ッ!
「【夢魔の幻惑】」
クイーンの脳髄までとろけそうな声が耳に入る。
その声を聞いた途端、周囲の景色が変わった。
柔らかい雲のような床に、空間全体が夢の中にいるような、桃色の空気に染まっている。
そしてクイーンの傍には、寝心地の良さそうな巨大なベッドが。
あそこでクイーンと一緒に寝そべったら、どれだけ気持ちいいだろう。
そう思うと、それ以外の全てが、なんだかどうでもよくなった気がした。
「いかん! 小畑さん! 気をしっかり! 正気を保て!」
「さぁ、私の虜になりなさい。【女王の魅了】」
クイーンが俺達を誘うように手を伸ばす。するとその掌から桃色の波動が放たれ、俺達の体を通り抜けるのを感じた
今のはなんだ? 一体何のスキルを受け――いや、まぁなんでもいいか。
女王様から放たれたスキルに、害がある筈もない。むしろこれは祝福だろう。何なのか確かめようとするだけで不敬ですらある。
「ふふっ、いい子ね。さぁ、こちらへいらっしゃい」
女王様からの優しい声をかけられ、俺はそれだけで嬉しくなってしまう。
気づけば、俺と川辺と伊波の三人で、女王様の元へと歩き出していた。
「女王様……今お側に……」
「すぐに行かねぇと……待たせちゃいけない……」
「女王様……ああ、今日も角と尻尾が美しい……」
「駄目っ! 三人共止まって! ――ッ! チヨも行っちゃ駄目!」
「やだぁ。女王様が呼んでくれてるんだよぉ? 行かないと~……」
「クゥウウウン……!」「ピュイイイイ……!」
何故だか七緒ちゃんが、焦ったような顔をして俺達を止めてくる。
横目で見れば、俺達と同じように歩こうとしているチヨちゃんを、マルとピーちゃんの三人がかりで止めようとしていた。そのせいでチヨちゃんはそこから動けないようだ。
なんてかわいそうなことを。どうして止めるんだろう?
女王様が呼んでるのに。逆らう理由なんかないだろ?
なぜか無性に気になって、後ろ髪をひかれた思いになる。でもごめんね。七緒ちゃんの言うことを聞いてあげたいけど、女王様の方が優先だから。
「しまった! 小畑さん止まれ! くそ、こんなはずじゃ……!」
なんだアイツ? ブ男風情が。気安く名前なんか呼びやがって。
散々お姉様達を弄んだクズが。なんで逆に仲間みたいな雰囲気出してんだよ。腹立たしい。
「そう、いい子ね。こちらへいらっしゃい。ふふふっ、貴方達はこの子達を人質にされて戦えるかしら?」
「クイーン、てめぇ……! サキュバス風情が調子に乗るなよっ!」
あぁ、また女王様に向かってなんて口を。
女王様も気が長いな。さっさと殺してしまえばいいのに。
まぁいいか。女王様にも考えがあるのだろう。俺達が気にすることじゃない。俺達はただ彼女の元へ行けばいいだけだ。
「女王様……おっぱい……お尻……」
「角……尻尾……この雰囲気……ママ……」
「ママ……僕らのママ……バブ味に溺れて溺死したい……」
「あぁ、そういう。ふふっ、いいわよ。さぁ、ママの所へいらっしゃい」
嬉しそうに、女王様は両手を広げ、俺達を受け入れようとしてくれる。
この瞬間、女王様は俺達のママになったのだ。
それまでの重く、引きずるような足の速度が、徐々に早くなっていく。
何故だか、また七緒ちゃんの声が切羽詰まったものになっていた。
「だから駄目ですってば! 捕まったら本当に――ああ、どうしよう! どうすれば……」
「七緒ちゃん! その三人はもう【魅了】されている! 声だけじゃ駄目だ! 【魅了】し返さないと!」
「【魅了】!? 【魅了】し返せって……。~~~~ッ! ほ、ほらっ! ママが欲しいなら、代わりに私のむっ、胸にどうぞ!」
「誰が行くか……」
「女王様とは比べるのも烏滸がましい……」
「男も知らぬ乳臭い小娘が……」
「はぁぁああああ!? ひっ、人が恥ずかしいのを我慢したのに! 自分達だって女を知らないくせに! 誰の為だと思って――」
「七緒ちゃんそうじゃない! 歌! 歌ぁあああああ!」
「歌? ――あっ!? ピーちゃん、マル! ごめん、ちょっとチヨをお願い!」
ガシャン、ガシャンッ、と。後ろで何やら物が落ちた音が聞こえる。
何の音だろう? ……いや、それこそ本当にどうでもいいな。
クイーンの傍に近づくにつれ、あらゆる物が目に入らなくなっていく。
俺達には、もう何も要らない。ただ、クイーンママの傍に居れるなら、その他全てがどうでもいい。
クイーンママさえ居れば、それで――
「…………? なんだ、これ?」
クイーンさえいればいい。その筈、なのに……。
俺達の愛の間に割り込むように、音が――いや、曲が聞こえてきた。
アップテンポの騒がしい曲調で、どこか間の抜けた感じの音。
優雅さの欠片もない曲なのに、なぜか耳に残る。
その音がどうしても気になり、俺達は音が聞こえる方へと振り向いていた。
俺達がさっきまでいた場所、そのすぐ傍にあったテーブル。テーブルの上にあった料理やドリンクは地面に落とされ、改めてクロスが敷き直されている。
そのテーブルの上に堂々と佇む彼女の姿に、俺達は見惚れた。
そのキラキラと輝くエフェクトを纏った姿に。
実体化した音符と共に、心が弾むような音を流しているその姿に。
目を瞑りながらリズムに乗って、体を揺らす一つ一つの動作に。
彼女、七緒ちゃんの姿は――まさしくアイドルだった。
クイーンに負けない魅力を放つ。誰もが憧れる輝きを放つスターだった。
俺が見蕩れ、七緒ちゃんに目を離せないでいると、ちょうど七緒ちゃんが瞼を上げる。
そんな七緒ちゃんと、目が合った。
彼女に、ハッキリと自分の存在を認められている。そう気づいた瞬間、俺は顔が熱くなるのを感じた。
すると彼女は悪戯っぽく笑って、ウィンクとピストルポーズを向けてくる。
そして、楽しそうにこう言うのだ。
「――【ライブ】スタート!」
ここまで毎日更新お付き合いいただき、ありがとうございました!
カクヨムの投稿に追いついたので、ここからはカクヨムのペースで週一目安の投稿になります!
なおカクヨムではサポーターになってくれれば先行で10万字くらい先を読めますので、早く読みたいと思う人はそちらをどうぞ!
まぁ我慢できるなら一定間隔でこれからも読み続けられますので、余裕のある人だけでwww
これからもwebも書籍もどうぞよろしくお願いしますっ!!!




