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アラサーからのダンジョン探索~英雄は目指さない。マイペースに遊びながら稼ぎます~  作者: 迷子
第三章 はじめましてマイ・フェア・レディ

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135/135

第135話 【ライブ】スタート!

 今、何て言った?

 七緒ちゃんのその言葉を聞いた瞬間、俺達の思考が止まった。


【ライブ】……と言ったのか?

 あの七緒ちゃんが!?【ライブ】をするだと!?


 ――笹食ってる場合じゃねぇ!


「川辺ぇ!! 伊波ぁ!!」

「おおっ!!」

「ああっ!!」

「えっ? あの、ちょっと、坊やたち――」


 それを理解した瞬間、俺達はビーチフラッグもかくやといった勢いで駆けだした。


 クイーンの困惑した声が聞こえる。それに後ろ髪を引かれる思いになるが……NANAOの〈偶像〉公式初【ライブ】だ! 遅刻する訳にはいかない!


 走りながら俺はポーチ型アイテムバッグに手を突っ込み、人数分の応援グッズを取り出した。

 

 ハチマキをギュッと締め。

 バサァ、と法被を羽織る。

 NANAO♡ の文字が描かれたタオルを首にかけ。

 両手にはペンライトを装備。


 ステージ(七緒ちゃんが立つテーブル)の前に駆け付ければ、さっきまで虚ろだったチヨちゃんが、キリッとした目つきでスマホを構え、カメラを回していた。


 夢と希望に溢れ、ドキドキが止まらない俺達に、七緒ちゃんは悪戯っぽい笑みを浮かべる。


 そして――曲が始まった。


『――逝け! 私の下僕共っ♪ フーッ!』

「「「FUUUUUUUUU!!!!」」」


 俺達の叫びと共に、イントロが流れ出す。

 テンポの速い派手な音で、それだけで耳に残るリズム。

 

 それに合わせ、七緒ちゃんが拳を上げるなら――それに乗るのがファンの使命だよなぁ!?


『うりゃ♪』「「「うぉい!」」」

『うりゃ♪』「「「うぉい!」」」

『うりゃ♪』「「「うぉい!」」」 

『うりゃ♪』「「「うぉい!」」」

『うりゃ♪』「「「うぉい!」」」

『うりゃ♪』「「「うぉい!」」」


「しゃーっいくぞっ!」


「「「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!」」」


 密かに練習していた、Aメロに入る助走となる完璧なコール。

 この緊迫した場をぶち壊すほどはしゃいだ空気に、世永さん達だけではなく、クイーンとサキュバス達ですらポカンとこちらを見ている。


 そんな中で、NANAOワールドが始まった。


『お待たせしました ダンジョンアイドル♪ 皆のヒロイン NANAOです♡ はいっ!』 

「「「L O V E ラブリーNANAO! ななな! ななな! NANAO!」」」


『危険な場所でも 体当たり! 体を張って頑張りますっ! そう私が究極アイドルです♡ いぇい!』

「「「ななな! ななな! NANAO! ななな! ななな! NANAO!」」」


 楽しい――めっちゃ楽しい!

 本当にウキウキする! この時をずっと、俺達は待っていたんだ!


「――ぷっ、ぐふっ……! くひゅ……くっひゃっひゃっひゃっひゃっ……! お姉ちゃん……輝いて――あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!」


 その証拠にほら! 妹であるチヨちゃんは、俺達以上に嬉しそうだ! 片手でスマホを構えつつ、お腹を抱えて笑っている。


 でも、俺達の反応にちょっと緊張したのか、ピキッとNANAOの笑顔が引き攣ったような気がした。


 緊張なんかしないで、一緒に楽しんでほしい!

 アイドルと観客が一体になる。それが【ライブ】なんだから!


「そ、そんなっ……急速に心が離れ――チッ! お前達! あの女を止めなさい!」

「そうはさせるか! NANAOのライブの邪魔をさせるな!」

「「「「おおおおおお!」」」」


 クイーンの命令で、サキュバス達がこっちに向かおうとする。それを世永さん達が食い止める。

 クイーンには悪いが、一度歌い出したなら止まらない!

 最後まで歌い切らない限り、俺達は止まらない!


『でもね本当はとっても不安なの……』

「「「えー!?」」」


『それでも私は絶対 止まれない!』

「「「だよねー!」」」


『だってここが私のステージ』

「「「はい!」」」


『誰にも譲れない!』

「「「うぉい!」」」


 不安があるなら、俺達が応援してあげよう。

 そんな気持ちを込めて、本気で俺達は叫ぶ。


 その時、世永さんの包囲網を抜けて、アマゾネスが七緒ちゃんに襲い掛かった。

 俺達の〈偶像〉が……ッ! 最悪の光景を想像し、一瞬体が引き攣る。


 だが、NANAOにとってはこんなトラブルは些細な問題だったらしい。

 振付の一部で、俺達に微笑みながら、ピッと指をアマゾネスに振る。


 すると、一瞬で強固な魔力バリアが張られ、逆にアマゾネスを跳ね返した。

 ステージに立った【ライブ】中の〈偶像〉には、【おさわり厳禁】が常識なのだ。

 そして一瞬でも【ライブ】から意識を離した俺達を嗜めるように、七緒ちゃんは歌う。


『ほらほらちゃんと見ててね? 目を逸らしたらダメだから♡』

「「「はい! はい!」」」


『私の声だけ聞いてればいいの♪ 逃げても無駄だよ? 分かってる?』

「「「おおおおおおお!」」」


「あっひゃっひゃっひゃっ……! マッ、マル、【守護命令】……【守護領域】……!」

「アオォオオオオオオオオン!!」


 七緒ちゃんの歌で、マルもテンションが上がっていたのだろう。

 チヨちゃんの指示に従い、いつもより大きな遠吠えで結界を張る。それすらもまるで曲の一部かのようだ。


 これでサキュバスは近づけない。誰の邪魔も入らない。

 サビに入るぞと言わんばかりのお膳立てで、七緒ちゃんも最終確認に移った。


『それじゃあ行くよ? 覚悟はいい?(台詞)』

「「「はい……⤵」」」


『逃げちゃダメだよ?(台詞)』

「「「はい……ッ!」」」


『よーしっ――逝け! 私の下僕共っ!! とっつげきー!!』

「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」


 七緒ちゃんの合図で雄叫びを上げる。

 最高潮まで高まった熱を感じながら、七緒ちゃんも更にリズムに乗った。


『私が歌えばゴミクズも 一端気取った一流兵士♪ その身を捨ててブチかます♪ 命知らずの神風アタック!』

「「「わああああああああ!?」」」


『私が歌えば死人すら 何度も起きて頑張りますっ! 私の為なら何度でも♪ 終わりの見えないゾンビアタック!』

「「「ゔぁああああああああぁぁぁ……!」」」


『私のために、命を捨ててくれる? 本当? ああ、だから皆――大好きよっ♡』

「「「いえぇえええええええええええええええ!!!」」」


 まるで自分で言われているようなその言葉に、発狂寸前まで俺達のボルテージが上がる。

 しかし訓練されたオタクは、大好きなあの子の合図で、仲間と一心同体となるのだ。


『うりゃ♪』「「「うぉい!」」」

『うりゃ♪』「「「うぉい!」」」

『うりゃ♪』「「「うぉい!」」」 

『うりゃ♪』「「「うぉい!」」」

『うりゃ♪』「「「うぉい!」」」

『うりゃ♪』「「「うぉい!」」」


「しゃー、いくぞっ!」

「「「虎! 火! 人造! 繊維! 海女! 振動! 化繊!」」」


 二度目の完璧なコールで俺達の身体が勝手に動く。

 次のパートに行くまでの間奏で、キレッキレのオタ芸を見せ会場は更に盛り上がっていく。


 俺達は熱狂し、チヨちゃんが爆笑している。世永さん達も戦いながら笑みが止まらない。会場の雰囲気が、完全にNANAOによって染められていく。


 これぞ〈偶像〉。人類のスターとなりえる存在。

 その圧倒的な魅力は、クイーンすらも動揺させるものだった。


「そんなっ! 私の結界がここまで……しかもあんなっ! あんなバカみたいな歌を歌うような女に負けるなんて!」


『またまた来ました♪ ダンジョ――はぁ!? ざけんなっ! 好きでこんな歌を歌ってる訳じゃないわよっ!」

「「「――え」」」


 その言葉は、一気に俺達を現実に引き戻した。

 スンッ、と。さっきまでの熱が嘘のように消えていく。


 そんな……嘘だろ……? NANAOも楽しんでくれていたんじゃないのか?

 そんなNANAOが、俺達は好きだったのに……今までなんて下らないことに時間を使ってきたんだ……。


「あ、あれ? ちょっ、三人共! 何でまたクイーンに!?」


「NANAOには失望しました……」

「正直がっかりだ……これならまだ寿引退の方がマシだった……」

「もうNANAOファン止めます……」


「このっ……ッ! くっ――――なーんてねっ! ウソウソ、照れちゃった! 私もね、本当は皆と過ごすこの時間が――大好き♡』

「「「俺もぉおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

「あっひゃっひゃっひゃっひゃ……! だめっ、もう死んじゃう……!」


 全く、NANAOは素直じゃないな!

 古参ファンの俺達でもファンを辞めかけたぞ!

 でもそんなツンデレなところもあざと可愛くて好きだぁああああ!


「ふざけるな! こんなふざけたパフォーマンスでっ! お前達、何がなんでも――」

「確かにふざけているかもしれん。だが、戦術的には真っ当だぜ」


 その美貌を苛立ちで歪ませるクイーンに、世永さんは静かに呟いた。そして、ニッと凶悪な笑みを浮かべる。


「七緒ちゃんを潰すことに夢中になって油断したな。既にお前のデバフは薄れている。俺達が本気を出せるほどに! ――うぉおおおおおおおお!」


 世永さんが雄叫びを上げると、不動戦士団の皆もそれに続いた。

 そして、その姿が一気に変わる。


 一人は、光に包まれたと思ったら、筋骨隆々なオーガに変わった。

 一人は、全身の体毛が伸び、顔が狼のそれになっていく。


 そして、世永さんは――


「――ガアアアアアアアアア!!!!」


 背が高く、体も分厚い。小畑会の中でも随一の体格が、ますます大きくなっていく。

 その肌はどす黒い緑色へと染まり、筋肉が膨れ上がる。鎧が軋み、今にもはじけ飛びそうだ。


 そして美形とは言えないその顔は更に歪み、醜悪と言い切ってもいい容貌に。

 もはや人ではない。本物の化け物が、そこに現れた。


【人物鑑定】

 名称:世永公司(種族:半巨鬼ハーフトロール

 種族スキル:【超再生】


【超再生】――怪物のみが持ちえる再生力。その身はどんな傷をも癒し続ける。たとえ死を望むほどの激痛だとしても、その力は安易に死ぬことを許さない。【MP】を消費することで常時回復効果。欠損すらも再生する。


「〈半巨鬼〉……これはまた……」

「世永さんらしいといえばらしいが……」

「完全に怪物だね……」


 進化したことで、二メートルを超える体格に、手足も巨大化している。両手持ちのウォーハンマーが、まるで方手持ちのメイスのように小さく見えた。


 あまりの変貌に、味方であるはずの俺達ですら恐怖が湧く。これと正面から向かい合うサキュバス達にとってはたまったものじゃないだろう。


 クイーンという絶対者がいなければ、我先にと逃げ出していたはずだ。


「とうとう本性を見せたわね、化け物め……ッ!」

「フッ、本性カ……本性ヲ見セルノハ――コレカラダァアアアアアア!!」


 ――グォオオオオオ!!


 クイーンのスキルにより、士気低下が起こらないはずのサキュバス達。

 そんなサキュバスでさえ、怪物と化した世永さんの咆哮で狼狽えたように見えた。


 しかし、そのそれも一瞬のこと。クイーンを守ろうと、サキュバス達がそれぞれ世永さんに襲い掛かる。

【魔術】による遠距離攻撃、アマゾネスによる近接攻撃。


 あらゆる攻撃が、トロール世永に降り注ぐ。

 だが、それも無意味だった。


「なんてふざけた体……!」


 観察していたクイーンが、ギリッと苛立たしそうに歯ぎしりをした。


 世永さんは確かに【魔術】による攻撃で肌が焼かれ、裂かれる。しかし傷ついた端からグジュグジュと肉が盛り上がり、その傷は強制的に癒されていく。


 規格外の再生能力。それを獲得した世永さんは、決して倒れぬ化け物になった。攻撃する側が無力を感じ、躊躇を生むほどまでの。


 そしてその力は、攻撃に回った時こそ最大限に発揮される。


「【浸透打撃】――【滅多打ち】! ウォオオオオオオオオオ!!」


 世永さんは真っすぐサキュバスの群れに突っ込み、ウォーハンマーを振り回した。

【滅多打ち】――打撃武器による乱れ打ちに補正を掛けるアクティブスキル。


 目に入った敵にとにかくウォーハンマーを振るっているだけ。しかし〈半巨鬼〉となった世永さんが使えば、自然災害に等しい。


 掠っただけでも戦闘が不可能なほどの傷を。防御をするならその上から潰す。

 世永さんが一振りするだけで、数体のサキュバスがその命を散らしていく。


 そして、サキュバスにとって脅威なのは世永さんだけではない。


「いっくぞおらああああああ!」

「世永ばっかりに暴れさせるかよ!」


半大鬼ハーフオーガ〉、〈人狼〉、〈半蜥蜴人ハーフリザード〉といった世永さんの仲間達が、負けじとサキュバス達に襲い掛かる。世永さんに匹敵する彼らもまた、サキュバスを蹴散らす戦闘力を持っている。


 涙交じりに逃げ惑うサキュバス。襲いかかる【種族進化】の化け物達。

 どっちが悪者なのか、改めて分からなくなる光景だ。


 元から地力に差があった。世永さん達が全力を出せる以上、サキュバス達が駆逐されるのに大した時間はかからなかった。


 横たわった配下を見て、クイーンは動揺を隠せなかった。怯えたように顔を引き攣らせている。


「そ、そんな……こんな、私の配下達が……」

「男ヲ弄ブ悪魔ヨ。潔ク降伏シロ。セメテ安ラカニ、天国ニ逝カセテヤロウ」


 ぎこちなく、くぐもった声で、世永さんはクイーンに勧告した。

 そんな意味は無いんだろうけど、なにかいやらしく聞こえるのは気のせいか?

【種族進化】してバカになってない?


「――ッ! ふざけないで! お前たちの玩具になると分かっていながら、従う訳がないでしょ!」

「違ウ! オ前ガナルノハ――オ嫁サンダァアアアアアア!!!!」


 やっぱり間違いない。確実にバカになってるだろ。

 いや、元からだろうか?


「来るな、ブ男が!【官能の鞭】(ヴィーナス・ラッシュ)!」


 ピンク色の魔力で形成されたクイーンの鞭が、音速の壁を越えて世永さんに襲い掛かる。

 皮と肉をズタズタにするそれは、世永さんの体でも傷つけた。


 だが、やはり意味はない。鞭を受ける度に、新たな肉で傷が埋まっていく。

 クイーンではやはり、世永さんを止められ――


「オッオオウ……イイ……新タナ扉ガ開ク……?」


「効いてる!? ――あっ!? 【魅了】と【混乱】の効果が付いてる! まさか理性が低下して精神系のデバフが効きやすくなってる!?」

「嘘だろ!? おいあの世永さんが敵に回ったら洒落にならねぇぞ!?」

「それはまずいね!? ――いや待て! チヨちゃん、【叱咤】で声をかけよう! 一応魔物みたいなものだし効くかも! そして七緒ちゃんは【ライブ】続行だ!」


「え!? もう良くないですか!? 充分頑張ったでしょ!?」

「世永さーん、駄目ですよー! ……私の声は届かないみたいですねっ! お姉ちゃん、やっぱり出番だ――ブフッ! あっひゃっひゃひゃっひゃっひゃ……!」

「チヨ……ッ! アンタ……ッ!」


 凄い目でチヨちゃんを睨むも、七緒ちゃんは再びNANAOへと変わり、歌い出した。

 思わずかけ声を上げてしまうほどノリの良い歌。耳から離れないテンポに、NANAOの事しか考えられなくなる。


 その魅力はクイーンの誘惑を上回り、世永さんを正気に戻した。


「オオオオォ――NANAOоOOOOOOOOO!!!!!!」


 やっぱり正気じゃないかもしれない。

 しかし、純粋な気持ちから出た〈偶像〉の応援は、ブ男に新たな力を与えたようだ。


「必殺――【巨滅打ち(トロルハンマー)】!!」


 これまで受けた分を返すかのように。世永さんの体と武器が光る。

 その輝きを前に、クイーンは避けることもできなかった。

 脳天に渾身の一撃が振り落とされ、しかし【浸透打撃】によって守られたクイーンは、外傷無く床に叩きつける。


 傷が無くても、床に作られた陥没と、周囲にめくれ上がった木の板が、その威力を物語っていた。


 クイーンはピクリとも動かない。やがてクイーンが張った結界が消えていき、扉の封印も解除された。


 と、いうことは――


「勝った……勝ちましたね! 世永さん!」

「ああ、すげぇ! 本当にすげぇよ世永さん!」

「その通りです! 全て世永さんのおかげです! だから世永さん! もう戦いも終わったのだし、そろそろ進化を解いてもいいのではないでしょうか!? ――解けますよね!? もう正気ですよね!?」


 伊波の声には、隠し切れない焦りがあった。

 大丈夫だとは思うが、あのまま世永さんが暴れたら……ッ!

 だが、俺達の心配は杞憂だったようだ。


 世永さんを始め、〈不動戦士団〉の皆はあっさりと【種族進化】を解き、元の姿に戻った。

 良かった。まぁないとは思うが、今度は俺達に襲い掛かると思ったら気が気でない。


 だが、世永さん達はまた驚く行動を取った。

 皆で俺達の前に集まると、深々と頭を下げたのだ。


「小畑さん達、本当に申し訳なかった。まさかこんなピンチになるとは……」

「いやいやいや! そんな滅相もない! 頭を上げてくださいよ! 世永さん達は頑張ってくれたじゃないですか!」

「いや、そもそもピンチにさせている時点で大問題だ。強くなったとはいえ、油断していた訳ではないが……まさかこんな目にあうとは。もし小畑さん達に何かあったら、アイツらに何をされるか……ッ!」


 ああ、それは確かに……。

 洒落にならないペナルティ、というか制裁が下されそうだよな。

 それを想像したのだろうか。世永さん達は冷や汗を流し青い顔をしていた。

 でも、そんなこと本当に気にしないでいいんだよな。


「いいんですよ、本当に。〈例外存在〉だったんですから、仕方ないでしょ? 俺達は全員助かりました。そしてなにより、〈例外存在〉だからこそとんでもない宝を手に入れたじゃないですか」


 俺は意味深に視線を向ける。その先には、横たわったクイーンの死体があった。

 命を落とし、体が埃に塗れてなお、美しさを損なわない美女。

 俺の嫁になる女がそこにいる。それを思えば、さっきまでの危険なんて些細な問題だ。


「それに、これだけ高レベルのサキュバスの数々です。もう大収穫でしょ!」

「確かにな。世永さんが倒した綺麗なサキュバスが、こんなに……!」

「これだけあれば、僕達も……!」

「そうか。――それもそうだな! くっ、ふふっ、これで俺にも嫁が……ッ!」


 ふひっ、と怪しい笑い声が男衆から洩れる。

 ハイ・サキュバスにアマゾネス。お姉さん系からロリ系まで、より取り見取りだ。これを素体にすれば、どんなホム嫁も――頑張った甲斐があったなぁ!


「良かったですね。欲しいものが集まって」


 その冷めた声で、俺達はまた現実に引き戻された。

 ハッと声のした方を見れば、ジト目でこちらを見ている七緒ちゃんの姿が。


 ――そうだ、完全に忘れてた!


 はぁ、とうんざりしているような溜息を吐いている七緒ちゃん。

 そんな彼女に、俺達はバッと詰め寄った。


「えっ!? な、なんですかっ! ちょっとした嫌味くらい――」


「凄かったよ七緒ちゃん! めっちゃ良い【ライブ】だった!」

「ああ、超楽しかった! おかげでオレ達も助かったし!」

「ダンスも歌も完璧だった! まさしく君こそがダンジョンアイドルだ!」


「えっ。……え、えぇ~。いや、そんなこと言われても、あんな変な歌で……イロモノ系だし~……」


 七緒ちゃんは口では不満を漏らすが、照れている様子から見る限り、まんざらでもなさそうだ。

 そんな七緒ちゃんを後押しするように、世永さん達も言う。


「いや、確かに変わった歌だったが、本当にいいライブだったぞ!」

「ああ! 正直俺も小畑さん達に混ざりたかった!」

「今度の集会で披露してみようぜ! 絶対大受けだから! 会場中でコールが響くぞ!」


「さ、流石にそれはちょっと恥ずかしいですね。……でも、皆が望むならやってもいいかも?」

「いやマジでやるべきだって! 皆楽しんでくれるから! ねっ、チヨちゃんもそう思うよね!?」


 是非ともやってほしい。そう思って、俺はチヨちゃんに話を振ってみた。

 実の妹からの賛同もあれば、七緒ちゃんも踏ん切りがつくだろう。

 期待通り、チヨちゃんは弾んだ声で頷いた。


「そうだよお姉ちゃん! 絶対やった方がいいよ! あんなにいいライブが出来るアイドル他にいないよっ! あんなっ……あんな……ふくっ! くっひゃっひゃっひゃっひゃ!」


 おかしいな。途中までは純粋な応援になっていたのにな。

 さっきまでの【ライブ】を思い出してか、またチヨちゃんが腹を抱えて笑い出した。


 いやー、しかし【ライブ】中も思っていたが、下品な笑い方だ。

 チヨちゃんってこんな笑い方もするんだな。新鮮ではあるけど、ちょっとイメージ壊れたかも。よっぽどツボだったのかな。


 でも、気づいた方がいい。実の姉の視線が、冷たく、殺意を持ち始めていることに。

 七緒ちゃんは綺麗に笑っている。でも、目が笑っていなかった。


「チヨ、そんなに面白かった?」

「はっ、はっ、はっ……ご、ごめんっ、違うのっ。本当に楽しかったの。ただ、あんなに変な歌だと思ってなくて……でもお姉ちゃんもノリノリで、我慢できなくて……あんなの笑うなって方が……!」


「へぇ。そう、そんな風に思ってたの……アンタ、妹なら何を言ってもいいとか思ってない?」

「お、思ってないよ……。あ、そうだ。あのね、私お姉ちゃんの【ライブ】見てて、こんなのやってほしいなーって思ったの」


「へぇ? どんなの?」


 相変わらず冷え切った視線で、七緒ちゃんは聞き返す。

 チヨちゃんは笑いを抑えると、七緒ちゃんになり切っているのだろうか。パチンとウィンクをして、ピストルポーズを作った。


「NANAOビームっ♡ って感じ! どう!? 絶対バカ受けだよっ! ――あっひゃっひゃっひゃっひゃ――ヘブ!?」


 バチンッ! と、七緒ちゃんは容赦なくチヨちゃんにビンタをかました。

 今まで見た事がないほど痛そうなマジビンタだった。


 ♦   ♦


 チヨちゃんに暴力を振るおうとする七緒ちゃんを必死になだめ、俺達は〈サキュバスの館〉を後にした。

 あそこまで笑われたらそりゃ怒る気持ちも分かるが、もう少し冷静になってほしいところだ。止めた俺達の方が殺されるかと思った。


 余計なトラブルがあったものの、サキュバスを回収した俺達はウキウキだった。

 クイーンはもちろんのこと、傷がほとんどないサキュバスを、マジックバッグに詰められるだけ詰め込む。


 手ぶらに帰ると怪しまれるからということで、バッグに収まらない分まで布に包んで、ダチョウに縛り付けたくらいだ。


 あとは帰って、ホム嫁作りに取り掛かるだけ。

 ゲロゲロ達に跨りながら。休憩で止まった時。どんな時でも、どんなホム嫁を作るかで話が盛り上がった。


 帰りの道中がこれほど楽しかったことはない。俺達は最高の気分で、地上を目指して進んでいた。


 ――そう、進んでいたのだ。


「鮫島。テメェ何のつもりだ」

「この状況を見て分かんねぇか? 随分と鈍くなったな、世永」


 二十階層の入口で、柄の悪い連中が道を塞ぐまでは。


 ♦   ♦


【探索のヒント! その四十六】

〈ゆけ、私の下僕共っ!〉


 皆さんご存じ、大企業OBATAが生み出したダンジョンアイドル、NANAOのデビュー曲。

 ハイテンポな曲調、意味が分からないようで分かる勢い重視の歌詞。いわゆる電波系と呼ばれる楽曲。

 これが知られたのはOBATA公式ホームページのPVが初。かの美神ミライが絶賛した美容品に釣られてサイトを訪れた際、なんだこれと興味本位でクリックした者をNANAOワールドに引きずり込んだ。

 そのミライに負けない美貌もさることながら、アイドルとしては遅咲きすぎる年齢に思わず二度見。そして歳を考えぬノリノリなパフォーマンスで多くのファンを獲得した。

 新規のファンからは、『これは明らかに小畑Pの失態。デビュー曲がもっとまともだったら、間違いなくライバルの〈歌神妃(ディーヴァ)〉を突き放して名実ともに世界一のアイドルになってた』

 古参ファンからは、『これを失敗とか言う奴はにわか。これがあったからこそNANAOはここまで愛された』と評される。

 NANAOを語る上では欠かせない曲であり、賛否両論が激しい迷曲でもある。

 歌の効果としては圧倒的な【魅了】効果を持ち、たとえサキュバスが相手だろうと、色気ではなく純粋な魅力でファンの心を引き戻す。また微弱な洗脳バフを備え、NANAOの命令に従った場合に限り行動補正がつくらしい。推しの為なら死ねる、というファン心理を思えばまぁ納得ではある。

 中身はどうあれ、人を惹きつける魅力があるという点においては、まさにアイドルらしい曲と言えよう。

 ――でも理屈なんか関係ねぇ!

 NANAOが歌うなら、俺達下僕は喜んで突撃するんだよぉ!

 ペンライトを持てぇ! 法被を着ろぉ! タオルをぶんまわせぇ! 踊れぇ! 叫べぇ!

 俺達ファンが推しに恥をかかせんじゃねぇ! しゃーいくぞっ!FUUUUUUUUUU!!!!


 曲【それゆけ下僕どもっ!】ショートPVver.


 ――逝け! 私の下僕共っ♪(フーッ!)(FUUUUUUUUU!!!!)

 うりゃ♪(うぉい!)うりゃ♪(うぉい!)うりゃ♪(うぉい!)うりゃ♪(うぉい!)うりゃ♪(うぉい!)うりゃ♪(うぉい!)

(しゃーっいくぞっ!)

(タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!)

 お待たせしました ダンジョンアイドル♪ 皆のヒロイン NANAOです♡ はいっ!(L O V E ラブリーNANAO! ななな! ななな! NANAO!)

 危険な場所でも 体当たり! 体を張って頑張りますっ! そう私が究極アイドルです♡ いぇい!』(ななな! ななな! NANAO! ななな! ななな! NANAO!)

 でもね本当はとっても不安なの……(えー!?)

 それでも私は絶対 止まれない!(だよねー!)

 だってここが私のステージ(はい!)

 誰にも譲れない!(うぉい!)

 ほらほらちゃんと見ててね? 目を逸らしたらダメだから♡(はい! はい!)

 私の声だけ聞いてればいいの♪ 逃げても無駄だよ? 分かってる?(おおおおおおお!)

 それじゃあ行くよ? 覚悟はいい?(台詞)(はい……⤵)

 逃げちゃダメだよ?(台詞)(はい……ッ!)

 よーしっ――逝け! 私の下僕共っ!! とっつげきー!!(おおおおおおおおおおおおおお!!!!)

 私が歌えばゴミクズも 一端気取った一流兵士♪ その身を捨ててブチかます♪ 命知らずの神風アタック!(わああああああああ!?)

 私が歌えば死人すら 何度も起きて頑張りますっ! 私の為なら何度でも♪ 終わりの見えないゾンビアタック!(ゔぁああああああああぁぁぁ……!)

 私のために、命を捨ててくれる? 本当? ああ、だから皆――大好きよっ♡(いえぇえええええええええええええええ!!!)

 うりゃ♪(うぉい!)うりゃ♪(うぉい!)うりゃ♪(うぉい!)うりゃ♪(うぉい!)うりゃ♪(うぉい!)うりゃ♪(うぉい!)

(しゃー、いくぞっ!)

(虎! 火! 人造! 繊維! 海女! 振動! 化繊!)

俺氏、ここ数日のケロロ軍曹の評判を見て『やっぱりこの作品アカンくね?』と震える。

今更ながら何でこれコンテストで特別賞貰えたんだ……?

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― 新着の感想 ―
七緒ちゃんのプロデュースが不憫。小畑さんもう少し正統派アイドル路線は無かったのか?オタクプロデュースでは、、、しかたないかな。本文より"探索のヒント!"の方が印象に残っちゃいました。笑
ミライに負けない美貌というからには、いずれ種族進化するんだねえ……セイレーン?
想像の斜め下に酷い歌詞だ……そらぁ怒るよ、こんなん。 そして東氏が知ったら憤死しちゃうよこれ(呪術的な意味で) 自爆テロ兵量産歌じゃん…… 世永さんチームの進化先は、まあ、あれだな……薄い本の竿役だ…
感想一覧
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