第133話 運命の出会い
サキュバスアマゾネスの回収後、俺達は地下牢にあった〈境界の魔鏡〉を調べた。
これまで通り〈斥候〉の人が一人で鏡を使用する。すると、すぐに戻ってきた〈斥候〉は俺達に手招きして、鏡の中に誘った。不思議に思いながらもそれに従う。
鏡に魔力を通せば、ぐにゃりと鏡の風景が歪む。そして次の瞬間、俺の姿は屋敷の正面広間にあった。これは……まさかワープしたのか!?
「驚いたな。まさか一瞬でここに戻ってこれるとは。さっき見た時は、ここの鏡は間違いなく普通の鏡だったんだが」
世永さんが意外そうに、今通ってきた鏡を調べている。
俺もわざわざ【鑑定】で調べたから、世永さんの言っていることに間違いない。なのに、今改めて見たら〈境界の魔鏡〉に変わっている。ってことは――
「向こう側から開通したら、こっちの鏡に繋がるようになる。って感じかな? で、こっちからも通れるようになる、みたいな」
「それっぽいよな。いよいよゲームじみてきたな」
「うむ。しかしこっちの方が便利だ。一度攻略した場所を再度通るのは、ただ面倒なだけだからね」
まさにRPGのダンジョンのようなギミックに、俺達のゲーマー心が浮き立つ。
他にもこういう所があるのかもしれないな。むしろその方が楽しい。なんだったらギミック探しで他の拠点も探検したい。
秘密基地みたいな感じがしてワクワクする。しかしそんな俺達とは反対に、七緒ちゃん達は何処までも実用面を求めていた。
「楓太さん、これと似たような物作れませんかね? 大きな建物とかにあったら便利ですし、高く売れそう……」
「お家にあったら便利ですね~。でも、今はまだ要らないかな? もう少し広いお屋敷だったら欲しいかもっ」
確かにこれがあれば移動が楽だよな。正直俺も欲しい。でも、これどうやって作れるんだろう?
〈妖精の羽〉だけじゃなくて、座標を認識、登録する素材が必要だろうな。でもどんな素材だったらそれができるか全くイメージがつかない。
これを再現するくらいなら、いっそホムンクルスに空間系のスキルを覚えさせて傍に置く方が現実的だろうな。でも本当に夢のあるアイテムだ。いつかは作ってみたい。
わくわくとしながら、あれやこれやと夢のような話をする俺達に、世永さんたちは羨ましそうな顔をする。
「小畑さんたちは気楽に考えられていいよな。今まで見逃していた俺達からすると素直に喜べん。ますますこれまでの探索はなんだったのかと無力感が……」
「ま、まぁ気持ちは分かりますけど、これは見つからない方が普通ですし、仕方ないんじゃないですか? これからは楽になるってことで、さぁ、先に進みましょ」
俺は拗ねる世永さんを慰めつつ、今度は正面から右側へ進んだ。まだ未探索な場所だけあって、次から次へと魔物達が現れ襲ってくる。だが、世永さん達がまるでハエ叩きのように魔物どもを蹴散らし、どんどん先へ進む。
先ほどまで探索してきた屋敷の西側には、食堂や書斎、客室など広い部屋があったのに対して、こちら側はどうやら狭い個室が多いようだ。使用人の部屋が集まっている、みたいなコンセプトなのか?
しかし向こう側と比べて狭い部屋ばかりの分、探索もしやすい。だからすいすいと進んでいく。
「おっ、あったぞ。ようやく一つ目か」
幾つかの部屋を探索して、ようやく〈境界の魔鏡〉を見つける。
早速〈斥候〉の人が先行してくれたかと思えば、地下牢と同じように、すぐに戻って俺達を呼んでくれた。
順番に鏡を使って渡ってみれば、そこは個室の部屋よりも少し広いくらいの空間だった。その中央に台座が置かれ、そこには一枚の紙が敷かれている。
いや、紙というか、なんか革っぽいような……あっ、羊皮紙か。
なんだか羊皮紙っていうだけで、特別感があるよな。まるで何かの罠のようにも見えるし、財宝のようにも見えなくもないが……。
「あれ、なんです? 何かの罠だったりしますか?」
「いや、初めてのケースで分からん。だが罠の気配はない。それと何をすべきかは分かりやすいぞ」
〈斥候〉の人に尋ねれば、彼はそう言って、羊皮紙の傍でちょいちょいと俺達を手招きする。
危険じゃないならと、俺達も恐る恐る近づいて羊皮紙を覗き込む。そこにはこう書かれていた。
『せいなる四十八の秘技を全て答えよ』
「聖なる四十八の秘技!? なんだそれカッコ良――あ、いや、違うか」
どんな技だと一瞬湧き立つが、俺はすぐに冷静になった。
せいなると書かれているが、ここはサキュバスの館だ。普通に考えて聖なる技を答えろというのもおかしい。だとしたら、この場合のせいとはつまり――
「性の技、ってことかな?」
「っていうか普通に四十八手しかねぇだろ……」
「確かにサキュバスの館なら分からなくもないけど、肩透かしにも程がある……」
ワクワクしていた俺達は、がっくりと肩を落とした。
そんな物があるのか? 一体どんな奥義だ。そんな期待をしていたのに、盛大に裏切られた気分だ。
俺達の話を聞いていた七緒ちゃんとチヨちゃんは、どことなく頬を赤く染め、気まずそうにしていた。
「なんて問題……セクハラじゃないですかこんなの!」
「まあまあお姉ちゃん。サキュバスだし。でもこの問題、楓太さん達なら分かりますよね?」
いや、分かんないからね?
偏見が過ぎるだろ。俺らのことどう思ってんの?
「確かに調べたことはあるよ。だけど覚えているかと言われると厳しいね」
「ああ、さすがに四十八もあるとな……」
「うむ、男なら誰でも通る道だ。ちなみに僕は結構覚えてるけど、やっぱり全部は厳しい。使い道がないと忘れるんだよね……」
ああ、全くその通り。使わない知識は薄れていくだけだからな。
……本当に悲しくなるわ。何をカミングアウトしているんだ俺らは。
でも実際、数個ぐらいしか覚えてないな。
「燕返し。卍崩し。達磨返し……いや、達磨返しは裏だっけ?」
「調べた当時はエロ技のくせに名前はカッコイイ、ってことでしっかり覚えていたんだけどな。ふっ、オレも衰えたもんだな」
「僕の場合は、名前だけじゃなく形まで覚えようとしたけどね。こんな物を覚えたら、将来のお嫁さんにアブノーマルな体位を試したくなるかもしれないと考えたら、ちょっと怖くなってね。紳士として、自分の妻を実験台に使うような真似はしたくないからね」
「あの、聞いてないですから。言わなくていいですよそういうの」
「なんか地雷を踏んだ気分です……」
聞いたのはそっちのくせに。なんで俺らが責められるのだ。
いや、でも名前はカッコイイってのはマジなんだよな。しかも表だけじゃなくて裏もあって、正式には九十六手っていう。武術の秘伝みたいな扱いをしている。
今も昔も、日本人のバカさ加減は変わらないと思うとちょっと面白い。
いや、でも面白がってる場合じゃねぇんだよな。誰も分からないとなると、どうしようもな――
「網代本手。揚羽本手。筏本手。鶺鴒本手――」
悩む俺達の耳に、厳かな声が背後から聞こえてくる。
バッ、と後ろを振り返ってみれば、世永さんが目を瞑りながら腕を組み、流れるように次々へと技を唱えていた。
その静かながらも力強い姿に、何か神聖な空気すら感じる。
――バカな。ここまでスルスルと技の名前を言えるなんて……ッ!
――一体どれだけ諳んじればこんなに……ッ!
「二ツ巴。立鼎。櫓立ち――これでフィニッシュだ」
驚愕している間に、世永さんは全ての技を言い切った。すると、羊皮紙が一人でに宙に浮かぶ。そして強い光を放ったと思ったら、溶けるようにしてその紙が消えた。
それを見届け、世永さんはふっと目元を緩める。
「どうやら成功のようだな。これで封印が一つ解けたはずだ」
「おっ、おお。世永さん、さすがですね。まさか四十八手全てをあんなにスラスラ言えるなんて」
「なに、ちょっとした嗜みの一つだ。そう大したものじゃない。いつか役に立つかと思って、中学生の頃に散々暗唱した経験が活きただけだ」
何言ってんだこいつ?
堂々と口にして恥ずかしくねーのか。中学でお前は何を学んだんだ。
そんなんだから女が寄ってこなかったんじゃないのか?
しかし俺の内心に気づかず、世永さんは頼もしさを感じさせる笑みを浮かべた。
「この手の問題なら、むしろ簡単だな。俺達なら造作もない」
「ああ。伊達にサキュバスを専門に戦っていない。その手の知識なら、俺達に勝てる奴はいないだろう」
世永さんだけじゃない。〈不動戦士団〉のメンバー全員が、勝利を確信している。
その姿には、自ら死闘に飛び込む歴戦の戦士のような威風があった。その凄みを感じ、俺達は怖気づいていた。
なんでこんな自信満々でいられるんだろう。むしろこんな恥知らずが身内に居ると思うと、逆に俺の方が恥ずかしくなってくる。
マジで情けなくなってきた。このままだとOBATAの品位も落ちかねない。ちょっとこいつらの強制退会も考えようかな……。
しかし困ったことに、豪語するだけあってその実力は確かなものだった
色にまつわるあらゆる問題を、ろくに時間もかけずに次々と解決していく。
それはさながらエロ界の金〇一か。はたまたコ〇ンか。この人達がいれば迷宮入りはあり得ないと確信できる実力だった。名探偵に対する激しい侮辱である。
確かに凄いんだけど、すいすい解けば解くほど、この人達の悲しみが見えるというか……本当に哀れになってくる。
俺は彼らの悲しさに見ないふりをしながら、その後をついて行く。彼らの活躍は留まることを知らず、いよいよ最後の部屋まで辿り着いた。
しかし、最後の鏡の向こう側にあった問題は、ここまでの怒涛の勢いを止めるような難問だった。
「こいつは難しいな……」
「ああ。さすがに専門外だ……」
最後の部屋は、それまでとは一風変わったものだった。
部屋のあちこちに、剣や盾、鎧といった装備が置いていると思いきや、はたまたボールペンや定規といった文房具。タオルやティッシュを始めたとした日用品や、香水や口紅、化粧品。色とりどりの花束まで落ちている。
そして部屋の壁には惑星らしき絵が飾られ、その目の前にはそれぞれの台座のようなものが。この中だと土星くらいしか分からんな……。
こんな訳の分からない部屋だが、問題文は同じように置かれているようだ。部屋の中央に置かれた羊皮紙に、世永さん達は揃って難解な数式を見たような顔をしている。
くだらないエロ問題でこの人達がこんな顔をするとは思えない。ということはマジで数学の問題だったりするのか?
ちょっと失礼して、俺も問題を見てみる。最後の問題にはこんなことが書かれていた
『最も我らに相応しき星を示し、相応しき供物を捧げよ』
ふーん? あーはいはい、そういうことね。理解した。分からん。
「マジでどういう意味だこれ。急に問題の傾向が変わったな」
「むしろこっからが本番なんじゃねぇか? 今までは準備体操というか」
「なるほど。どうせ馬鹿には解けないから、簡単な問題を置いて精々ぬか喜びをさせておこう、ということか」
「おい」
辛辣な言葉を吐く伊波を、世永さん達がじろりと睨む。
そりゃいくら事実でも、そんな堂々と馬鹿呼ばわりした怒るわ……。
しかし、だとしたらこの問題を考えた奴は相当性格が悪いな。調子に乗せて、上げて落とすとか、まじで性格がひねくれてる。逆に解いてやりたくなるな。
「ちなみに二人はこれ分かる?」
「いいえ。さすがに分からないですね」
「惑星についてなんて調べたこともないです」
そうかー。真面目な七緒ちゃんはもちろんだが、つい最近までJKだったチヨちゃんは期待できるかと思ったんだけど。
ははーん、さてはこの子、勉強してなかったな? 案外役立たずだね。
「となると、あと期待できるのは伊波か。どうだ?」
「少し時間をくれ。これは僕に対する挑戦とみた」
うーん、と唸りながら、伊波は真剣な顔で部屋中を見渡している。どうやらこいつの中二病心に火をつけたらしい。まあどんなんであれ、正解さえ掴めば何でもいいんだけど。
……そういえばこれ、間違えたらどうなんだろ?
「世永さん。これ、仮に間違ったとしたら何かペナルティがあるんですかね?」
「どうだろうな? 今までこんなタイプの罠を見たことがないからなんとも言えんが……サキュバスの館なら即死トラップはないと思うぞ。精々が魔物を発生させるか、幻覚を見せられるか。あるいは〈悪魔の悪戯〉に近いものか」
げっ、最悪じゃねーか。
あんな悲劇がまた繰り返されるなんて! それだけは何とか防がなければならない!
「またトラウマを増やすわけにはいきませんね。どうにか正解しないと……ッ!」
「いや、あれはまだ低階層だったからあの程度に済んでいるだけで、深層で食らったらわりかし悲惨な目にあうぞ。この階層のだと行動不能になってもおかしくない」
「それじゃあなおさらやばいじゃないですか!? どうしよう、死にたくないんですけどっ!」
「安心しろ。そういう時のために、俺達には仲間がいるんだ」
世永さんは不敵に笑うと、懐からスマホを取り出した。そして部屋の景色をパシャパシャ写真に撮り、ポチポチ打ち込み始める。
「よし、できた。小畑会の皆に今の問題を聞いてみた。暇な奴が誰かしら答えてくれるだろう。一人では解けない難問も、皆で頑張ればなんとかなる」
「ああ、そうだった。そういえば俺達にはそれがあるんでしたね」
つくづく頭が固いな俺は。分からないなら他人に聞けばいいじゃん。フィフティフィフティやオーディエンスがなくても、俺たちはテレフォンがある!
分からなければ仲間を頼ればいいのだ! 他力本願とも言うが。
しかし改めて考えると相当ずるいよなこれ。他の探索者が自力でトライアンドエラーを重ねている中、俺らは攻略サイトを見ながら探索しているようなもんだ。
もしかして、俺の一番の発明は〈魔力通信変換核〉なのかもしれない。いや、普通にホムンクルスだろうな。どんな発明も愛する嫁の可愛さには勝てない。ぐへへっ!
まぁ楽に答えが分かるなら、それに越したことはない。遠慮せずに使わせてもらおう。クリアする事の方がよっぽど大事だ。俺にプライドなんかない
俺は夏休みの宿題も答えを見て写すタイプだ。むしろ答えがあって真面目に考える方が馬鹿らし――あ。
そういえば、【鑑定】で答えって見れないのかな?
【アイテム鑑定】
〈淫魔の問い〉
Q:『最も我らに相応しき星を示し、相応しき供物を捧げよ』
A:『金星の台座に香水を捧げる』
マジで見れちゃったよ……。
もっと早く見れば良かったわ。
「ふっ。やはりこういうことだろうね。謎は全て解けた。犯人は――」
「ごめん。なんか答えが見えちゃったわ。金星の台座に香水を置けばいいらしい」
「えっ」
今まさに推理を披露しようとしていた伊波は、唖然として俺を見た。
似たような視線が俺に集まる中、世永さんのスマホがピコンと音が鳴る。そしてスマホを見て、それを読み上げる。
「『おそらく金星の台座に、香水か口紅を置けばいいと思われます。金星は性、美、愛を司る女神ヴィーナス、あるいはアフロディーテを指します。サキュバスに最も近い性質です。
そして男を誘う意味を持つ香水か口紅が供物として相応しいかと。この館は香で満たされていると聞きますし、香水の方が可能性は高いでしょうか』――さすが樫原さん。分かりやすい」
おお、さすが樫原さん。見た目通り頭が良い。
伊達にポンコツエルフを長年支えてはいない。
「樫原さんも言うなら間違いないですね。というわけで答えは金星に香水です」
「答えが分かったならいいんだけど、もうちょっとこう……」
伊波は何とも微妙な表情で、俺に訴えかけるような目を向けてきた
いや、悪いとは思うけどさ。でも答えが見えちゃったんだし仕方ないじゃん。万が一間違ってペナルティくらったらどうするんだよ。
渋々とだが、伊波はそのまま床に落ちていた香水を拾い、金星の台座に置いた。
今までと同じように羊皮紙が浮かび、光となって消える。すると、部屋中の惑星の絵が輝いたかと思ったら、屋敷がゴゴゴと音を立てて揺れた
一瞬、間違いだったのかと身構えるが、幸いなことにそれはすぐに止んだ
驚いたな。まさかダンジョンで地震が起きるとは思わなかった。だけど、このタイミングで起きたってことは、無関係ではないよな。
「世永さん、これって……」
「ああ。多分封印が解けたということだろう。ようやく会いに行けるって訳だ」
世永さんは獰猛な笑みを浮かべる。それに仲間でありながら恐怖すら覚えた。これに狙われるマダムにはご愁傷さまとしか言いようがない。
「それじゃあ行こうか。この屋敷の女主人に会いに」
どうやらこっちの部屋にはショートカットをするような鏡はないらしい。部屋を出て行く世永さんの後を追う。
道中、これ以上魔物は現れなかった。静かな屋敷の中に、俺達の足音だけが聞こえる。
いよいよマダムに会うと思うと、ドキドキと心臓が高鳴るのが分かった。
今まで見たサキュバスを上回るほどの美貌。一体それはどれほどのものか。そしてその強さはどこまでのものだろうか? 緊張で手足が汗で滲む。
そうしている間に、屋敷の正面広場まで戻ってきていた。
世永さんは二階へと目をやり、嬉しそうに顎で示す。
「見ろ。封印が消えている」
「そうみたいですね。それではお願いします!」
さあ、いよいよだ。
誰ともなく、ごくりと唾を飲む音が聞こえた。
皆で階段を上り、マダムの通じる部屋の前に立つ。
世永さんは俺達をゆっくりと見まわし、目で確認してくる。それにそれぞれ頷くと、世永さんも応えるように首肯し、扉に手をかけた。
ギギギッと、悲鳴のような音を立てながら扉が開く。決して耳障りの良い音ではないが、それが長きに渡った封印がようやく解き放たれたことによる、喜びのようにも聞こえた。
中に入ってみれば、そこはパーティ会場のような場所だった。
床全体に絨毯が敷かれ、白いクロスのかかったテーブルが、間隔をあけて幾つも並んでいる。その上には料理や酒が配置され、今にもイベントが始まりそうだ。
そしてこの部屋の奥に、一人の女性が待ち構えていた。
「おおっ……こいつは……!」
「とんでもねぇ上玉だな……ッ!」
サキュバスを見慣れている世永さん達でさえ、言葉を失う程の美貌。
これまで見てきたサキュバス以上に、胸と尻に大きさと丸みを帯び、それでいながら折れそうなほど細い腰回り。いっそアンバランスと感じるギリギリまで女を主張するような体つき。
局部だけを隠す黒い水着のような姿の上に、透けたドレスを着ている。その身体付きだけでも十分だというのに、それがなおさら男の性欲を掻き立てる。同時に、俺なんかが触れてはならないという神聖ささえ感じた。
指先で波打つ金髪をなぞるようにして、耳にかける。その僅かな動作でさえ艶めかしい。
先端がハートを象っている細長い尻尾が、ゆらゆらと揺れている。まるで猫のようなそれに、平伏す程の美貌を和らげる愛らしさを感じた。
エロいと言うだけでは雑すぎる。美しいと感嘆させるような気品まで備えていながら、愛嬌まである。
彼女を構成する全てに、俺は目を離せなかった。
「あれがマダムか……とんでもないな……」
「ああ、あれはすげぇわ。オレ、一瞬ロリを裏切るところだった」
「凄いなんてものじゃないな……思わず下僕になってしまいそうだ……」
「本当にすごい美人……ミライさんにだって負けないくらい……」
「魔物であることを忘れちゃいそう……」
俺たちはただただ、その魔物の美しさに平伏すしかなかった。
はぁ、と感嘆の溜息しか出ない。油断すればそのまま思わず膝をついてしまいそうだ。それほどまでの美しさと威厳がある。
彼女を求めてここまで来たのだが、果たして本当に俺があの人に手を出していいのか。そんな罪悪感すら芽生えた
だが、感心するばかりの俺達とは違い、世永さんの様子がおかしい。
はじめは皆と同じようにマダムに見蕩れていたのだが、表情がぐっと厳しいものに変わった。
「――待て。この雰囲気、マダムとは思えん。構えろ! ただのサキュバスじゃないぞ!」
世永さんの指示に従い、慌てて〈不動戦士団〉のメンバーも構える。それに遅れて俺達もようやく戦闘態勢に入った。
マダムじゃない? 館の最後の部屋に居て、あれだけ美しさをもっているのに? それじゃあいったい……。
混乱する俺だが、それが吹き飛ぶような出来事が目の前で起きた。
自慢の胸をたぷんと持ち上げるようにして腕を組んだサキュバスは、頭がとろけるような色気のある声を出す。
「ようやく会えたわね、世永。この時をずっと待っていたわ」
…………。
脳が理解を拒んだ。
いや、だって……今、世永って……待っていたって……。
――普通にしゃべっとるやんけ!?




