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アラサーからのダンジョン探索~英雄は目指さない。マイペースに遊びながら稼ぎます~  作者: 迷子
第三章 はじめましてマイ・フェア・レディ

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第128話 AZUMA MAY CRY


 三日目にして、俺達は十七層まで進んだ。

 これだけ広い中層も、ゲロゲロ達にすればここまで時間短縮できる。


 しかもまだ夕時前だからな。余力を残してこれだから、本気で走らせたら一日でどこまで行けるのか。


「やはりこいつらは凄いな。今まで自分の足で探索をしていたのがバカらしく感じる……」


 世永さんは微妙な表情を浮かべつつも、ポンポンとグンシンの首を労うように叩いた。グンシンは嬉しそうに顔をほころばせる。


 まぁ気持ちは分かるけど、その経験があっての今の世永さんだし、回り道もそう悪いことではなかったんじゃないかな?

 いや、そのせいで世永さんが悲しみを背負っているとも言えるが……。


 無理をする必要はないということで、俺達は17層の道中にある白い水場で、キャンプをすることにした。


 セオリーとしては階層の入口、もしくは出口。人が集まる場所でキャンプをするんだけどな。


 このダンジョンに限っては、魔物以上に人の方が危ないということで、あえてそこから離れた場所でキャンプをしなくちゃいけないらしい。


 本当にろくでもない奴らが集まる場所なんだな……。


 当然、16層でも〈魔力通信変換核〉は設置してきている。なので夕食後、ネットを開くなりゲームをするなり、皆は思い思いのことをして時間を潰している。


「本当にダンジョンにいるとは思えないよな」

「だな。いつもならこの時間、さっさと寝るか小説を読むくらいしかできないもんな」

「俺もう、前の環境に戻れねぇよ」

「ああ、全くだ。これを作ってくれた小畑さん達には感謝しかねぇ」


 世永さんのパーティがそれぞれスマホを見つつ、礼を伝えてくる。

 それに、川辺と伊波はとんでもないとばかりに笑った。


「いやいや、ただオレ達がそうしたいって思っただけですから」

「ええ。僕らの方こそ皆さんの協力に感謝してますよ。ははっ」

「お前らなんもやってねぇだろ」


 頑張っているのは俺やぞ。

 お前らおこぼれに預かっているだけだろうが。

 なんであたかも頑張りました、みたいな振る舞いをしてんだ。


「よくねぇなーそういうの。オレ達がいなかったら、そもそもお前レベルを上げれてねぇよ?」

「全くだ。その場合、他の〈錬金術師〉と同じでポーション製造機になっていたか、無理にレベルを上げようとしてとっくに死んでいたと思うよ?」

「それを言われるとなんも言い返せねぇんだよなぁ……」


 コイツらなしで、タケさんとかに目を掛けて貰えたかと言われると怪しいからな。

 もちろんコイツらへの感謝は忘れてないつもりだが、でも釈然としねぇ!


 渋谷の拠点で俺が生産地獄に陥っている時、お前らがのほほんとしていたのは忘れてねぇからな!? 後半は特訓漬けだったとはいえよぉ!


「私達の場合は、楓太さんにお世話になりっぱなしですからね……」

「まだまだ恩を返し切れてないですから、してほしいことがあったら言ってくださいね~」


「あんがとね。何か思いついたらその時は頼むよ」

「むっ、そっけないですね~。本当になんでもいいんですよ?」


 チヨちゃんがちょっと頬を膨らませて、上目遣いで聞いてくる。可愛い。

 それだけで陥落しかけるが、その誘惑をなんとかねじ伏せる。ふっ、どうよこの精神力。これならサキュバスが相手でも耐えきれるな!


 それに世話になってるって言うけど、地上では家事全般をやってもらっているから、既にかなり助けられてるんだよね。


 むしろ俺達だけサボっているようで申し訳ないくらいだ。最近は犬ホム達に手伝ってもらって、楽になっているみたいだけど。


 ……膝枕でもしてもらうか?


 いや、やはり我慢だな。もうすぐホム嫁というメインディッシュが食べられるのに、おやつに手を出す訳にはいかない。

 

「さて、そんじゃあボチボチやりますかね」


 スマホで暇つぶしをしている連中の横で、俺は〈錬金釜〉を取り出す。

 ここまで先に進むことを優先してきたが、中にはどうしても絡まれて戦わざるを得なかった時もある。


 まぁ世永さんたちがいるので鎧袖一触で蹴散らしてきたわけだが、もちろん素材は丸ごと回収してきた。


 解体する手間なく運べるアイテムバッグは本当にありがたい。

 ちょこんと俺の隣に座って、チヨちゃんと七緒ちゃんが興味深そうに並べた素材を眺めている。


「こうして見るといろんな魔物が集まりましたね〜。何を作るつもりなんです?」

「ん~、まずは攻撃用のマジックアイテムかな」


 悪魔系素材を使用して作れるアイテムと聞き、真っ先に候補に上がるのがこれだろう。


 低層の悪魔では性能が低いだろうから見向きもしなかったが、中層の魔物なら、今の俺達でも十分に使えるものが作れるはず。


【恐慌】状態に陥る咆哮を放ってくる狼の〈ヘルハウンド〉。

 まんまるとした体型で、行動意欲を失わせる【怠惰】を誘う〈スロウ・デーモン〉。

 背景に溶け込むように、常に輪郭がブレている〈ミラージュ・スプライト〉。


 どれを使っても中々のアイテムが作れそうだ。


「だけどまぁ……とりあえずこいつから行くか」


〈バーンテイル〉。低層で見た【激怒】を誘発するレッドインプ。その上位種とでも呼ぶべき魔物だ。レッドインプよりも太い尻尾から、巨大な火の玉を打ち出してきていた。


 あの火球といい、憤怒をモデルとした魔物であれば、より攻撃的なアイテムが作れそうだ。


 その自慢の赤く太い尻尾を切り、〈錬金釜〉にぶち込む。

 ここでさらに重要なのは、荒野のあちこちに生えているこの枯れ木の枝。


【アイテム鑑定】

〈瘴枯木の枝〉――荒野に自生する異形の枯れ木の枝。瘴気を吸収し続けた結果、内部が魔力結晶化している。加工することで魔術触媒や精神防御装備の基材となる。


 これ、そこら中で見つかるくせに、魔力伝導率が高く、マジックアイテムを作るのにわりと優秀な素材らしい。


 それらを【錬金術】で混ぜ合わせ、生産をすること三十分。できたのがこれだ。


【アイテム鑑定】

〈赫怒の指揮杖〉――瘴枯木を基材に、バーンテイルの炎核を組み込んだ小型魔杖。魔力を込めることで巨大な火球を射出する。だが怒りを凝縮したその構造は脆く、過度な連続使用は自壊を招く。【火魔術】【憤燃】

 

【憤燃】――怒気を燃焼させ、込めた魔力量に応じて威力を増幅する。


「できた。どうだ? 初めてにしては中々の出来だと思うんだが」

「どれどれ」


 伊波は渡された魔杖をしげしげと観察しはじめる。

 伊波も一応は〈魔術師〉。いや、今の伊波は世間的に言えば一流に分類される。


 現役の〈魔術師〉ならではの視点で、正確な評価をしてくれるだろう。

 伊波は指揮棒のような魔杖を優雅に振りつつ、魔力を通す。

 すると、ほぅ、と小さく感心した声を上げた。


「うん、魔力の通りは悪くないよ。武器としても使えそうだ。さすがに今使っている杖よりは劣るけど、これは渋谷の深層素材で作った杖だからね。中層の素材なのに少し劣る程度の出来になっているって考えると、破格の性能じゃないかな? しかもこれ、誰でも【火魔術】が撃てるんだろう?」

「ああ。ついでに言うと、【憤燃】っていう魔力を込めればさらに威力が上がるスキルも付いた」

「えっ。それ僕の立場がなくなるスキルじゃ……」


 ああ、そういえばそうだな。

 唯一の長所だったのに、なんか申し訳ないな。

 まぁでも仕方ないよな。技術って進歩するもんだからな!


 だが中々の高評価だ。さくっと作っただけなのに、まさかここまでの性能になるとは。やっぱり適性が高い素材で作ったからだろうな。

 

 ここの深層素材を手に入れたら、伊波の装備を本格的に考えるべきか。今の装備も決して悪くないけど、深層の高いステータスの素材を使っただけ。一応それでも作れるというだけで、魔力的なアイテムの適性が高い訳じゃない。


 防御力はもちろん高いが、〈魔術師〉特化の装備になっているかと言われるとそうじゃない。どちらかというと〈戦士型〉。もしくは汎用装備みたいな感じだ。


 ここの深層素材で作れば、それこそ【INT】がぐんと伸びたり、【魔術】を助けるスキルが付与された装備が作れるはず。


 皆レベルも上がったことだし、そろそろ装備を厳選することを視野に入れてもいい頃合いだろう。


 どれ、と。俺達の様子を見ていた世永さんが、腰を上げて伊波から魔杖を受け取った。


「ちょっと試し撃ちをさせてくれ。これは俺みたいなのが使ってこそだろう」

「いいですよ。忖度の無い意見をお願いします」


 世永さんは頷くと、俺達から離れてキャンプの外に出る。

 そして少し離れた場所にある岩に向かい、杖を突きつけた。


 世永さんの魔力を受け取り、杖が赤く灯る。すると、杖の先から直径一メートルくらいの火の玉が現れ、ボンッと飛び出す。


 その火の玉は目標に真っすぐ進み、ボガンッと音を立てて岩を砕いた。直撃した箇所はガラガラと崩れ落ち、岩の全体を炎で包み込んでいる。


 焼け跡の残った砕けた岩を見て、おおっ、と世永さんは感動した声を上げた。


「素晴らしいな。レベル20前半の〈魔術師〉くらいか。これなら深層でも使えるし、俺達みたいな〈魔術師〉のいないパーティだったら喜んで買うぞ」

「本当ですか? よし、OBATAの主力商品がまた一つ増えたな」


 このレベルの素材なら、うちの犬ンクルス達でも作れる。俺が手を煩わせることもない。

 我がOBATAが益々繁栄してしまうなぁ!


 世永さんもOBATAの明るい未来を喜んでくれたのか、嬉しそうに頷くと、スッと魔杖を懐に――待てや。


「何さり気なくパクろうとしてんですか」

「駄目だったか。行けると思ったんだが……」


 行ける訳ねぇだろ。どんだけ俺を舐めてんだ。

 さすがにそれを見逃すほど俺もアホじゃねぇわ。


「それじゃあいくらで譲ってくれる? 【魔術】攻撃がない俺らにはかなり重要なアイテムだから、それなりの額は払うが」

「ああ~、今はちょっと待ってください。相場が判断できないのもありますが、俺にとっても必要なアイテムなので、ストックを作りたいんですよね」

「そうか。それなら仕方ないな。これのストックとは、なんとも贅沢な……」


 うん、確かに贅沢かもしれない。

 だけど、俺はそれが前提だからな。

 有用なアイテムは少しでも貯めておかなければ。


 改めて決意していると、チヨちゃんと川辺が羨ましそうに見てくる。


「楓太さん。そのうち私にも使わせてくださいね」

「オレもだ。一度でいいから【魔術】を使ってみてぇ」

「はいはい。そのうちね」


【魔術】を持ってない奴は憧れるから気持ちは分かる。

 チヨちゃんに持たせて魔法少女コスプレをしてもらうのも面白そうだしな。

 ただし川辺は無視。豚に真珠を渡してどうしろというのか。


「さて、次はこれを試してみるか」

「これを見た時は驚きましたね。今までで一番魔物っぽいかもしれません」


 俺が手を伸ばした素材を見て、七緒ちゃんが気味悪そうな声を上げる。

 まぁそれも無理もない。俺もこいつを見た時はぎょっとした。


〈バインドグリモア〉――大きく分厚い本が一人でに宙に浮き、表紙に鋭い歯を生やした口がある魔物だ。この口から【魔術】を撃ってきたり、近づけば噛みつこうとしたりと、本のくせになんとも狂暴な魔物だった。


 生きた本という姿で、ある意味一番悪魔っぽい魔物だと思ったが、そのスキルを見てやっぱり悪魔だと思ったよね。


【アイテム鑑定】

〈バインドグリモアの死体〉――魔力的アイテム各種への適性あり。【契約】


【契約】――両者の合意に従い、契約を成立させる。破った者には相応しき罰則を与える。


 悪魔の魔物で、【契約】のスキルよ。

 ますます〈悪魔憑き〉とかのジョブの可能性が高まったな。


「この魔物は何が作れるんですか?」

「まぁそのまま、【契約】に関わるアイテムだね」

 

 七緒ちゃんにそれだけ答え、俺は早速【錬金術】スタート。


〈錬金釜〉に画用紙くらいの大きさのバインドグリモアだけぶちこむ。今回はそれ以外、何もいらないようだ。素材が少ないからか、これも三十分くらいで物は完成した。


【アイテム鑑定】

〈悪魔の契約書〉――両者の署名による合意のもと契約を成立させる魔導契約書。使用には以下の条件を満さなければならない。

 ・契約は常に対等でなければならない。

 ・契約締結時、両者は精神的に正常かつ自律的判断が可能な状態であることを要する。

 ・契約内容にいかなる虚偽も許されず、条項には精細な説明責任が伴う。

 ・契約は必ず相応の代償を伴い、その効力は絶対である。

 ・契約を破った場合、違反者には重大なペナルティが発生する。

 ・その罰は契約内容と対価に応じて決定され、悪魔であっても例外ではない。


 また物々しいのができ上がったな。ちょっと怖いんだが。

 まぁ、契約はそれだけ重いってことかな。


 内心で冷や汗を流しつつ、〈悪魔の契約書〉の説明をする。

 それを聞き、ぎょっと世永さんは目を瞠った。


「それつまり〈呪術師の契約書〉を作ったってことか!?」

「これは〈悪魔の契約書〉ですけどね。でも名称が違うだけで、効果は一緒ですね」


 要するに、〈呪術師〉を通さずに〈呪術師の契約書〉を自分で使えるってことだ。


 大きな取引は〈呪術師の契約書〉を通しての契約が、世界でスタンダードになりつつある。そのため生産職のように、〈呪術師〉はあちこちで引っ張りだこらしい。


 小遣い稼ぎでやる人も多いが、探索者を引退してそれを専門に働く人もいるとか。


「これもかなり需要ありますよね?」

「もちろんだ。〈呪術師〉も数が多い訳じゃないからな。使いたがる奴らはいくらでもいる」

「ですよね。ということはこれも独占できるか? やったぜ」


 おいおい、今日だけでどれだけ売れ筋商品が増えていくんだよ。

 笑いが止まらねぇや!


 ウキウキする俺とは対照的に、しかし世永さんのパーティメンバーは難しい顔をしている。


「これ大丈夫か? 確かに便利だし、なんだったら俺らも使いたいけどよ。契約専門で働いている〈呪術師〉の仕事を奪うことになるよな?」

「下手すりゃ会長が報復で呪われる可能性があるんじゃ……」

「いや、そんなゴミクズはそれこそ〈呪術師〉に【呪い返し】をしてもらえばいい。それよりもこれを悪用する奴らが出る方が問題だろ」

「だな。〈呪術師〉が間に入るってのは、間に入った〈呪術師〉にも責任が生じる利点もあるからな。だがこれなら犯罪にいくらでも利用できる。詐欺どころじゃない被害が絶対に出るぞ」


 マジかよ。俺、呪われるの……?

 商売競争で負けたからってそんな手段を取りに来るか。これだから探索者は信用できないんだ!

 ただまぁ、悪用に関しては問題ないかな?


「詐欺とかそういう被害は、たぶん心配しなくて大丈夫ですね」

「その根拠は?」


「この契約書を使うには、お互いが正常で、契約が対等であること。あらゆる虚偽を許さず、契約には説明責任を伴うこと。これらを守る必要があるんですよ。悪用したくても、そもそも発動すらしないでしょうね」

「へぇ、そりゃ便利だな。バカでも騙されないってことか」

「それならむしろ〈呪術師の契約書〉より頼りになるかもしれないな。あっちはどんな内容だろうが、両者の合意があれば成立するからな」


 ほ~っと、世永さん達は感心した声を上げた。

 確かに、一般人にとってはこっちの方が安心するだろうな。


 融通を利かせた契約がしたいなら〈呪術師の契約書〉。

 杓子定規だがとにかく安全な契約がしたいのなら、〈悪魔の契約書〉。

 そんな風に使い分けられることになるかもしれない。


 俺の説明を聞き、チヨちゃんは首を傾げた。


「でも、〈悪魔の契約書〉なのに、なんでそんなにちゃんとしているんですか? 悪魔ですよね?」

「いや、おそらく悪魔だからこそだろうね。悪魔は確かに人を騙すが、契約は偽らない。これは後者だけを抽出した代物なんだろう。悪魔の契約で破滅する人間もいるが、それはそもそも身の丈に合わない願いをしたからこその破滅だ。悪魔はただ契約を果たしただけだからね」

「はぁ~、なるほど。……悪魔の方がよっぽど信用できるというのも、なんだか皮肉な話ですね」


 伊波の推測に、チヨちゃんは複雑そうな顔を見せた。

 なんかこのダンジョン、ちょくちょく人間の闇を突き付けてくるな……。


 まぁそこはどうでもいいだろ。俺にとって重要なのは役立つアイテムが作れること。その可能性が見つかったこと。

 哲学っぽい難しいものは、頭の良い連中に任せればいい。


「この【契約】のスキル。普通に使っても便利だけど、なんか応用すれば色々と作れそうだよな……」


 直感だけど、絶対何かできる気がする。

 それが何なのか分からないから、もどかしい。


「皆だったらこれを使って何を作る?」

「え~、なんでしょう? 私は契約書しか思いつかないな~」

「取引とか、主従の関係を結ぶとか……どちらにせよそれも契約か」


 チヨちゃんも七緒ちゃんも結構頭固いな。

 まぁでもいきなり聞かれても難しいか。

 川辺も伊波も、似たような顔で悩み込んでいるし。


「【契約】を応用した何かって意味だよな? 契約から連想できるもの……約束?」

「それもあまり変わらないんじゃないかな。でもまぁ契約ってようするに、縛りだよね。制限を掛けるような使い方ならできそうな気はするね」


 制限か。なるほどな。

 でも自分のアイテムを制限して何の意味が――あっ。

 あるじゃん。めっちゃ便利な使い方が。これならいける気がする。……試してみるか。


 俺は自分のアイテムバッグの中身を次々取り出していく。

 キャンプ道具から、ポーション各種、爆弾物、あらゆるマジックアイテム。

 どんどん出てくるアイテムに、世永さん達は目を丸くして言う。


「こんなにゴロゴロとアイテムが……小畑さん、随分と溜め込んでいるな。なんて羨ましい」

「こんなに豊富にアイテムがあるなら、どれだけ探索が楽になることか」

「しかしそれにしても貯めすぎじゃないか? こんなに用意してどうすんだ?」


 いや、まぁ正直それは俺も思う。

 必要なことではあるんだけどね。でも、いざこうしてアイテムを取り出すとなると……マジでめんどくせぇな。


 ようやく全てのアイテムを取り出したところで、俺はアイテムバッグを〈錬金釜〉に投入。続けてバインドグリモアを入れて、【再錬成】。


 さすがに【再錬成】となれば、それなりの時間がかかる。それでもかかったのは一時間くらいだ。


 ちょっとだけ苦労したが、問題なくアイテムはできあがった。


【アイテム鑑定】

〈専用化マジックバッグ〉――容量2立法メートル。重量制限300キロ。使用者を定め、専用化することができる。【空間拡張(小)】【専用化】


「できた! これで……ッ!」


 俺は早速魔力を流してみた。

 魔力がどんどん吸われる感覚があったが、十秒ほどでそれが止む。

 

 試しに中にポーションを入れてみれば、いつも通り異次元空間に消えていく。

 よし、アイテムバッグとしてちゃんと機能しているな。あとは――


「世永さん。試しにポーションを取り出してもらえますか?」

「ん? おう。――んん? ポーションがない。というか普通のバッグになってる!?」


 目を丸くしていた世永さんだが、バッグの中を目にして仰天の声を上げた。

 混乱している世永さんにバッグを返してもらい、試しに手を突っ込んでみる。そして引き抜けば、俺の手には先ほど入れたポーションが。


 ここまでくれば、皆も説明せずとも分かったようだ。


「なにそれ!? お前専用のマジックバッグになったってこと!?」

「おおっ。それは素晴らしい。これなら地上でもバレずに使えるね」


「――楓太さん! 地上に戻ったらお買い物用のバッグを作ってもらってもいいですか!? これなら私達も使っていいですよね!?」

「私にも! 私にもくださいっ! ねっ、ねっ? いいでしょ?」


「はっはっは! いいよいいよ~。二人にはいつも買い物を任せてるからね。というかこのレベルの素材なら犬達でも作れるし、帰ったらお願いしていいよ」


 まさか専用化アイテムが作れるとは、嬉しい誤算だ。

 これで大手を振って地上でもアイテムバッグを使えるようになる。

 俺も帰ったら早速普段用のバッグを作ろう。


「いや、これヤバくないか?」

「ああ、間違いなくヤバい。本人以外には普通のバッグにしか見えないっていうのが洒落にならない。【鑑定】でもない限りこんなの見破れねぇだろ」

「密輸し放題だな。運び屋もリスクなく仕事ができる。絶対に外には漏らせねぇぞこれ」

「東に報告しないとだが……さすがに同情してくるな」


 ヒソヒソ話している世永さん達は、見なかったし聞かなかったことにしよう。

 俺が犯罪をするわけじゃないし、便利さには代えられない。


 ……マジで唐突で全く関係ない話なんだけど、今度東さんに胃薬でも渡してあげようかな? 知らないところで苦労してそうだしな~。なんとなくだけどね。


「小畑さん。俺らのマジックバッグも専用化してもらっていいか? もちろん報酬は払うから」

「いいですよ。でも今ので素材が切れたんで、また素材を確保してからで。あ、報酬は要らないので、今回の探索で可能な限り集めて貰ってもいいですか?」

「ああ、これは皆欲しがるだろうしな。いいだろう。明日から見かけたら狩るようにしようか」


 やったぜ。探索のついでに集めることができる。

 今回はアイテムバッグのみの専用化だけど、武器や防具にも使ったらどうなるか、試したかったんだよな。


 専用武器とかってさ、制限がある分、めちゃくちゃ強いとかあるじゃん?

 もしかしたら性能が跳ね上がるかもしれない。どうなるか楽しみだわ。


「さて、攻撃アイテムに、バッグときたことだし……次は順当にデバフかな?」


 悪魔の真骨頂といえば、精神系状態異常攻撃。つまり、デバフ用のアイテムだ。


 これはどの素材を使ってもいい。いろんな物ができそう。

 ということで試しにやってみたのだが……バリエーション豊かなアイテムができ上がってしまった。


【激怒】、【傲慢】、【欲情】、【陶酔】と四人にトラウマを刻んだものはもちろん。

【焦燥】、【恐怖】、【怠惰】、【妄信】と新たな状態異常まで。


 耐性がある敵でも、これだけあればどれか一つは刺さりそう。しかも効果範囲が広くなるように作ったから、逃げるのも難しいという。


 狙って作ったものではあるんだが、かなり怖いな。

 これをばら撒くだけで敵が崩壊するんじゃないか?


 個人的にはやはり【欲情】が一番恐ろしい。

 これが男のみのパーティに投げられてみろ。考えたくもない。


 内容を伝えると、世永さん達は引き攣った顔をする。


「これは強いな。凄まじいんだが、正直使うのを躊躇する」

「そうですか? 世永さんは敵に情けを掛けるタイプではないと思ったんですけど」

「それは間違いないが、そうじゃなくてだな。扱いを間違えて、自爆する可能性があるだろ? 万が一にでも手を滑らせてみろ。下手すれば俺らでも崩壊するぞ」


 あっ、そっちか。

 まぁ確かにな。それを言われると納得だ。


 自分達が使うアイテムで自滅するなんて、死んでも避けたいだろうし。

 世永さんは名残惜しそうな目をしながら、悩ましい声で続けた。


「とはいえ、まったく使わないというのも惜しい。念のために、状態異常を回復するアイテムを用意したいところだな。それなら安心して使える」

「ああ、なるほど。それは俺も作っておきたいですね」


 世永さん以上に、俺がやらかす可能性が高いからな。

〈アイテム使い〉がアイテムで自爆なんて、恥ずかしすぎて死ねる。

 真っ先に作っておかなければならない物だった。


「状態回復アイテムか。でも素材がな。ここの魔物はむしろ状態異常を引き起こしたりするものだし。一度ダンジョンを出ないと無理か?」

「いや、素材ならそこにあるだろ」

 

 ほら、と川辺が指を差す。

 それを追って見れば、そこには大量の白い水が。


 ……普通にあったわ。当たり前にそこにあるから、逆に気づかなかった。

 思わず顔を赤くして、顔を手で覆う。


「思いつかなかった自分が恥ずかしい……」

「それを言うなら俺の方だ。真っ先に提案すべきだった……」


 思わず頭を抱えてしまうが、世永さんは俺以上に悔やんでいる。

 まぁこのダンジョンを熟知しているならね。


 ちょっと同情して見た俺に何を思ったのか、世永さんは弁明するように続けた。


「い、いや、仕方ないんだっ! 白にしろ赤にしろ、誰かがこの水を素材にアイテムを作ったなんて、聞いたことなかったんだから!」

「そうそう! おまけに白い水の場合、水を運ぼうとしてもここから離れたらすぐにただの水に戻っちまうし!」

「でも逆に言えば、白い水を持ち運べるようにするだけで、このダンジョンの難易度がぐっと下がるよな?」

「おおっ! それだ! アイテム化するよりずっと楽そうじゃないか!?」


 いや、別に責める気はないけど。俺だって同じ立場のアホだし。

 でもそうか、誰もこれでアイテムを作ったことがないのか。


 たぶん、扱えるだけのレベルがなかったんだろうな。

 精神の蝕みを一気に回復する水だ。これならどんな状態だろうと正常に戻すだろう。

 これはまた売れちゃう商品が出来そうですねぇ!


【アイテム鑑定】

〈浄心の落涙〉――悪魔の住む荒野に滲む淡い白色の液体。精神汚染を浄化し正気を回復する清水。ただし過剰に摂取した場合、使用者の感情と欲望を削ぎ落とし、意志の衝動を鈍化させる。それが慢性化した場合、死んでいないだけの人間へと成り代わる。


「…………」

「どうした小畑さん? 作らんのか?」

「いや、ちょっと衝撃的なことを知ってしまいまして」


 なんなんだよこのダンジョン。あちこち罠だらけじゃねぇか……!

 怖すぎんだろ! 今すぐにでも出ていきたくなったんだが!?


 逃げたくなる自分をホム嫁への憧れでぶん殴り、その日は回復用のアイテムを作れたところで、俺は就寝した。

 ちなみに、〈浄心の落涙〉の情報を聞いた世永さん達が青ざめたのは言うまでもない。


 その後、三日を移動と生産に費やし、俺達は目的の三十層へと辿りついた。

 そう、とうとう嫁となるサキュバスがいる場所へと、たどり着いたのだ。




 発売から一ヶ月ちょっと経ちましたね。


 売れ行きは結構良いらしいよ(*´ω`*)

 皆のおかげだね。ありがたいよ(●´ω`●)


 そしてこれはつまり――小畑会が一丸となって戦えばやれる! ということを証明したということになる!


 という訳で、売れ行きのもうちょっとだけ詳しい話と次なる小畑会の戦い【一巻売れ行きとラノオンアワードの乱】という近況報告へGO!


 小畑会の力で業界を荒らしまわるのだ(*゜∀゜)ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャ

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― 新着の感想 ―
>……普通にあったわ。当たり前にそこにあるから、逆に気づかなかった。 小畑氏、いろんなとこで色々と見落としてるよなあ。 器用貧乏な錬金術師だからこそ、目につく素材はすべて鑑定するぐらいに徹底しないと…
楽しく読ませて貰ってます。 朝7時が待ち遠しい。 続刊はよー!
[契約]は面白いですね。 亜神専用装備で魅力10%アップかつ小畑会メンバーへの攻撃力半減の下着とか、 想像が膨らみます。 水は赤と白を混ぜてみたくなりました。
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