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アラサーからのダンジョン探索~英雄は目指さない。マイペースに遊びながら稼ぎます~  作者: 迷子
第三章 はじめましてマイ・フェア・レディ

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第119話 とうとう来たな。この時がっ!

 倒れ伏しているグランドスタンプ。階層中にまで轟くような皆の勝利の雄叫び。

 そんな光景をぼうっと見廻して、俺はようやく息を吐いた。 


 やっと終わったか。どうなることかと思ったけど、誰も死ななくて本当に良かった。


「小畑さん、お疲れさまでした」

「ああ、マサ君。本当にお疲れ。ありがとうね」

「いえ、小畑さんの力があってこそですよ」


 そう言って、マサ君は俺を立ててくれる。準備は頑張ったけど、戦闘では何も役に立ってないからなぁ……。


 むしろマサ君の貢献は大きい。七緒ちゃん同様、広範囲へ強力なバフを掛けられる存在だ。いくら戦闘部隊の皆が強くても、彼のバフがなければこの結果もなかっただろう。


「ところで、なんだか体に力が入らない気がするんですけど、気のせいですかね?」

「いや、気のせいじゃないよ。七緒ちゃんが最後に歌った曲の副作用だね」


 尋常じゃない特大のバフを与える代わりに、使用後にその反動があるんだよな。ステータスの低下に加えて、無気力感が出てくるというか。燃え尽き症候群みたいな感じだ。


 まさに決戦仕様。倒し切れなかったら逆にこっちが追い込まれる。ここぞという時にしか使えない類のものだ。


 まぁ、納得といえば納得である。だってJ〇Mだもん。魂を燃やして歌うんだから、そりゃ体力くらい減るだろ。それだけの価値があるバフなのだから、受けいれなければなるまい。使い時を誤らなければいい話だし。


「それはまたなんとも……まぁあれだけの効果が出れば当然ですか。ともかく、お疲れさまでした」


 マサ君が差し出した手を掴む。力強く握り合うと、なんだかやり遂げたって感じがする。

 ちょっと照れくさいと思っていたら、カッと体が急激に熱くなった。

 これはレベルアップした時の――え!?


「レベルアップした!? えっ!? 何で!?」

「もしかしてグランドスタンプの経験値が!? いや、でもこの人数で……?」


 どうやらマサ君もレベルが上がったらしい。いや、俺達だけじゃない。あちこちで、おおーっ!? と嬉しそうな声が上がっている。

 

 これだけ大勢の高レベル探索者が、揃ってのレベルアップだ。グランドスタンプの馬鹿げた経験値が入ってきたなら、不思議ではないんだけど……。


「経験値ってさ、六人までしか同時に割り振られることはなかったんじゃなかったっけ? だから基本的にパーティも六人までって決まってるんじゃ?」

「そのはずなんですが、こうして皆レベルが上がっているようですし……」


 マサ君も困惑しているようだ。よほどあり得ないことなのだろう。

 六人までというのが間違っていたのか、あるいはフィールドボスが例外なのか。

 どちらかは分からんが、もしかしてこれさぁ――


「実はフィールドボスが、レベリング最適解ってことになりえる?」

「いや、確かに経験値だけ見ればそうかもしれないですけど……」


 俺の言葉に、マサ君は腕を組んで悩んでいる。

 あいつと戦うとなると、どうしても危険度は高いし、悩むところだ。


 だけど今回でアイツの戦い方は分かったし、より踏み込んだ対策が可能になる。今回の分の素材を使って、俺が良いアイテムを作れば、もっと楽に戦えるようになるし……なんだかマジでモン〇ン染みてきたな。

 

 そして何よりさ。これを知ったら、もう一回やろうとか言い出しそうな連中ばかりなんだよね、うちって。


「楓太ぁ! もう一回やろうぜ!」


 ほら来た。


「まさかレベルが上がるとは思わなかったぜ! フィールドボスだったら人数制限が外れるんじゃねぇか!? 素材も手に入るし、レベリングもできて一石二鳥だろ! 確かめるためにももう一戦! なっ!?」

「やりません」


 俺はきっぱりとトシさんの提案をはっきりと断る。

 すると、トシさんは悲しそうな顔で縋ってきた。


「なんでだよぉ~! やろうぜ!? こんな美味い獲物いねぇって!」

「やりませんよ。皆疲れてるんですから」


 というか、アンタが一番死にかけただろ。逆に何でそんなやる気満々なんだよ。


「しかし、実際にやる価値はあるかもしれんぞ。次にやる時はもっと楽に戦えるだろうしな」

「確かにな。今回の素材で楓太が装備を作れば、より万全になるし」

「とはいえ、リポップの問題もあるでしょう? フィールドボスは今まで討伐されたことないんだから、どれだけ時間がかかるか分からないわよ?」


 それぞれ兵藤さん、タケさん、ミライさんの発言である。

 トシさんの声を聞きつけ、皆が集まって積極的に意見を交わし始めた。

 やっべぇ。このままだと本当にもう一戦になりかねないんだが……ッ!


「俺はハッキリ言って勘弁してほしいんだが」

「僕もだ。レベルが上がって再挑戦ならまだしも、死にかねない相手と連戦はちょっと」

「だよな!」


 さすが俺の親友! 期待通りの発言をしてくれる!

 言っていることは情けないことこの上ないけどな!


「私は別にいいですよ〜。ピーちゃんもマルも楽しそうでしたし」

「私もまぁ、もう一度くらいなら試してもいいかなーって」


 それに対して七海姉妹の勇ましいことよ。俺たちよりよっぽど男らしい。

 というか七緒ちゃん、もしかしなくてもハマってないか?


 ……自分の歌で皆が熱狂して、強大な敵に立ち向かう。そしてその果てに勝利を掴む。ふっ、なるほどな。


「身も心も完全にアイドルになったか……」

「違う! そういうんじゃないですから! ただ悪くはない気分だったので、皆がやるならやっても――」


 そこまで言った七緒ちゃんは、数秒固まったと思ったら、どさりと崩れ落ちた。

 足をくっつけて横にのばし、上半身は落ち込んだように俯かせている。スカートから覗ける太ももが相変わらず眩しい。


「どうしたん?」

「いえ、ちょっとジョブが……あっ! いえ、なんでもないです!」


 ジョブ? 何か変化でも――あ。


【人物鑑定】

 名称:七海七緒

 ジョブ:〈偶像アイドル


「七緒ちゃんのジョブがとうとうアイドルになったぞぉおおおおおお!」

「ちょっとぉおおおおおおお!?」


 七緒ちゃんは真っ赤な顔で怒ってくる。何で怒ってるんだ? こんなに素晴らしいことはないのに!


「おおっ! やっと来たか! オレたちはこの時を待ってたぞ!」

「ようやく、ようやく決心したんだね! 任せてくれ! 君のアイドル活動は僕たちが支えてみせる!」


「違うから! いや、違くないけど! そんなこと望んでない!」

「お姉ちゃん。さすがにそれは誤魔化せないよ……」


 必死に声を張る七緒ちゃんに、チヨちゃんが憐れむような目を向けている。

 無理もない。これでアイドル願望がありませんはさすがに嘘だよ。


「七緒ちゃんがアイドル!? マジで!?」

「まさか本当にそんなジョブがあるとは。もはやなんでもありだなダンジョン」

「でも上位ジョブってことでしょ? だったら七緒ちゃんの歌もさらに上手くなってるってこと?」

「え!? だったら聞いてみたいんだけど!」


 ほら見ろ。七緒ちゃんが〈偶像〉として覚醒したことに、誰もが興味津々だ。

 皆の心は一つ。俺が何も指示せずとも、当然のように皆は声を揃えていた。


 ――七緒! 七緒! 

 ――ナ、ナ、オ! ナ、ナ、オ!  

 ――NA! NA! O! NA! NA! O!


「またなの……?」

「覚悟を決めろNANAO。世界は君を求めている」

「誰のせいでっ! くっ……ッ!」


 七緒ちゃんは握り拳を作り、フルフルと震えていた。満更でもないくせに、ポーズだけは一丁前だな。


 しかし、彼女はやはり天性のアイドル。自分の気持ちはさておき、求めているファンのことを放っておかなかったようだ。


 諦めたかのような天を見上げたかと思ったら、ビシッとしたポーズを決める。


「――七緒、歌います」


 ――わあああああああああ!!


 皆の歓声と共に流れる【伴奏】。そうして歌い出す七緒ちゃん。

〈偶像〉と化した七緒ちゃんは、相変わらず綺麗な声なのだが……その声がより澄んで、聞いているこっちの心まで届くような気がした。


 それだけではない。ただでさえ高かった技量が、さらに磨き上げられている。

 透明感のあるバラードを歌っていたかと思えば、次の瞬間には躍動感と可愛らしさを求められるアイドルソング。

 曲ごとに出す声はがらりと変わり、そのたびに違った一面を見せつけられる。


 いつの間にか、七緒ちゃんの作る世界に皆が引き摺り込まれている。

 まるで彼女を中心として、ダンジョン中の全てを巻き込むかのように。


「えっ? 何これ? ちょっと凄すぎないか?」

「これがジョブの力か? にしてもここまで上がるかよ?」


「これは……冗談抜きに世界を取れるんじゃないか?」

「お姉ちゃん、輝いてるよ……ッ!」


 俺たちはあまりの歌に呆然とし、チヨちゃんは感動で涙する。

 まさかここまで七緒ちゃんが進化するとは思わなかった。


 最初は悪ノリしていただけなのに、今は違う。

 この歌を世界中に届けなければならない。そんな使命感を感じていた。


 俺たちは自然と頷き合っていた。七緒ちゃんのためにも、俺たちが支えなければ!


「戻ったンゴー……」

「天城さん!!」


 決意を新たにしている俺たちの後ろから、天城さんから声を掛けられた。

 あれだけの働きをしたというのに、トボトボとした足取りで、どことなく元気がないような気がする。いや、むしろ当然か? 疲れているのかな?


 だとしたら、優しく労わってやらないといかんといけないが――申し訳ない! アレを見て興奮を抑えることなどできない!


「さすがですね! ちゃんと見てましたよ! ファースト、セカンドからのラストショット! マジかっけぇっす!【鑑定】した時から分かってはいましたけど、あの威力といい技の名前といい、完全にカ◯マじゃないですか!」

「ほんっとそれな! 久しぶりにスク◯イドを見たくなったわ!」

「あれだけの威力があるなら、ソロで活動ができるのも納得です。最後の一撃を食らって、生きていられるやつなんていないでしょう?」

「お、おまいら……ッ! ――いや、いつもラストに行く前に仕留めるから、むしろ使ったのは久しぶりだったな」


「なんすかそれ!? かっけえええええ! 俺も言ってみてぇ!」

「奥義を出すまでもないってか! くっそ! 誇張じゃないのがスゲェ!」

「そんなのカッコ良すぎるでしょう……ッ! どれだけぼくたちを喜ばせるつもりですか!?」

「〜〜〜〜〜〜ッ!!」


 ガシッ! と、天城さんはなぜだか俺たちをまとめて抱きしめた。

 えっ? なに? どういうこと?


 戦いの高揚が抑えきれんのかったかな? それなら仕方ないか?

 でも、ジジイに抱きしめられても嬉しくないな。普通に離してほしいんだけどな。


 ♦   ♦


 渋谷ダンジョン、一階層。

 そのダンジョン入り口の前で、協会職員の男が椅子に座ってのんびりと本を読みつつ、たまに周囲を眺めている。


 そこにはよく見かけるタイプから、このダンジョンには生息しないタイプまで。様々な魔物が入り混じり、寝そべったりじゃれ合ったりと、思い思いに過ごしている。


 非常に微笑ましい光景だ。温和な空気で見ているだけで和んでくる。


 これらは全て〈調教師〉によってテイムされており、一時的に預かっている魔物たちだ。そしてそれを観察しているこの男は、〈テイムモンスターお預かりサービス〉担当の職員である。


 とはいえ、その魔物の数はそう多くない。〈調教師〉自体が珍しいため、利用する者自体が少ないからだ。


 テイムされている魔物は気性も比較的落ち着いているため、そうトラブルも多くない。職員はいつも通り、そんな彼らに時々目をやりながら持ち込んだ本を読む、このゆったりとした時間を楽しんでいた。


「ん? ――なんだ?」


 遠くからなにやら、ドドドド、という大量の足音が聞こえてくる。それは明らかに、魔物が群れになって走っている音だ。


 反射的にそちらを見る。まだ距離もあるだろうが、よほど大量の魔物がいるのか。砂埃が上がってその姿は確認できない。とはいえ、渋谷ダンジョンの一層ではありえない光景だ。


 そんな魔物の群れが、こっちに――ダンジョンの入口に向かってきている。


 まさかスタンピードか!? 定期的に人が入る渋谷ダンジョンでは考えづらいが、あり得なくもない可能性に、職員の男に緊張が走った。


「え? なにあれ~?」

「おおっ、すげぇ。こっちに向かってね?」


 たまたま入り口の傍にいた、低レベル探索者たちが呑気な顔で見物している。その危機感の無さに職員は思わず舌打ちした。

 

 急いで逃がさなければならない。行動に移ろうとした職員の男は、はっきりと見えた魔物達の姿に、あんぐりと口を開けた。


 それは、ダチョウの群れだった。

 おバカで有名な、グーフストリオ。いや、それにしては大きい。もしや深層にいるという上位種か? 気のせいだろうか。その表情には、知性のようなものを感じる。


 そしてなにより、そのダチョウの背には人が乗っていた。つまりあれはスタンピードではなく、テイムされた魔物の群れだ。


 え? あれだけの数をテイム? ダチョウによるサバンナのキャラバン?

 職員が混乱している間に、その集団はすぐ傍まで来て、続々と足を止めていた。


「ああ~、ちくしょう。一ヶ月の申請が無ければ延長してたのによ……」

「仕方ないでしょ。それ以上出すと怪しまれちゃうし」

「そうそう、あんまり欲張ると調達班の連中にも文句を言われるわよ」

「だな。あとは話し合って順番を決めんと。あ、小畑さん。お先どうぞ」

「あ、どもども。それじゃあお言葉に甘えてお先に。それでは皆さん、お疲れさまでしたー!」

「お疲れー! 次も頼むぞー! あ、すみません。預かりサービスを利用したいんですけど」

「あっ、ああ……」


 ダチョウに乗ったまま出て行く五人を見送ると、残った者達が次々と職員に利用を申し込む。そのあまりの多さに職員の男は目を回していた。


 初めての大量利用に慌てながらもなんとか捌き、職員はようやく一息つく。そして大量の探索者が出て行ったダンジョンの入り口に目を向け、呆然と呟く。


「一体何だったんだ……?」


 訳が分からない。性質の悪い冗談を見せられたようだ。

 混乱しながらも、男は改めて背後を見た。そして、大量のダチョウを前にして固まる。


「グェ?」「グェエエエエ~?」「グエグエッ、グエ!」「グエェエエエ!!」

「俺、こいつらの面倒を見るのか……?」


 数十頭に至るダチョウの群れに、職員は怖気づいた。

 のんびりとした業務が一転、激務に変わる予感がしていた。


 ♦   ♦


 グランドスタンプを倒したあと、やっぱり皆はそのまま遠征を続行したがっていた。

 まぁ拠点を作ってここからって感じだからな。そう考えるのも納得だ。


 エンジョイ勢たる俺達は、文明の元に帰りたかったけどな。いくら環境を整えてもね。やっぱり地上の方が遊びに行けて楽しいしね……。


 どうにかして説得しなければと思っていたが、幸いなことにその必要もなく、一度地上に帰還することになった。一ヶ月という、協会に申請した遠征期限があったからだ。


 もしこれを破った場合、救助隊が結成されて探索される場合があるらしい。ここにいる人たちは、誰もが深層まで探索できる全国でも屈指の探索者。それが一斉に期限を破ったとなったら、間違いなく派遣されるだろう。


 その結果、拠点が見つかる可能性がある。まぁ広いダンジョンだし、まず大丈夫だとは思うが、万が一を避けなければならない。そのあたりの分別は皆にもあった。


 というわけで、ダチョウに乗ってダンジョンを爆走し、最短の日数で帰ってきたわけだ。

 それにしても、深層のダチョウのスペックを舐めていたな。

 時間が無いからと最短距離を全力で走らせたとはいえ、まさか三日で帰ってこれるとは。


 もしかしたらこのダチョウを揃えられたことが、今回の遠征における最大の成果かもしれない。こんだけ時間短縮できるなら、ワープが無くても十分にやっていけるからな。いや、もちろんファストトラベルは欲しいけど。


 この後の予定だが、俺はグランドスタンプの素材を使って、皆の装備を作ることになっている。


 今回の遠征班、そして素材調達班の全員で話し合い、まず誰が拠点を利用するのかを決める。そして決まった人の要望で装備、アイテムを作り、遠征へと送り出す。


 拠点にはペロたち生産ホムも全て置いてきたから、俺がいなくてもやっていける。また一ヶ月の予定を取り、今度こそレベリングに集中。一気に上げられるだけ上げる予定だとか。


 まぁ、話し合いという名の殴り合いになるだろうな……。

 皆が次の遠征で、【種族進化】することを目指しているみたいだ。誰も譲らんだろう。一方的に要求を押し付けて喧嘩になるのが目に見えているわ。


 こればかりはマジで巻き込まれたくないから、俺のいないところで決めてもらうことにした。さすがにこれは俺も逃げて許されるだろ。話し合いもできないバカ共に付き合っていられない。


 そんな訳で、俺は帰ってきてからしばらく、生産に集中する日々を送っていた。


 その生産は装備だけではなく、ホムンクルスにも及ぶ。更に生産スキル持ちのホムンクルスを増やし、俺の手伝いをしてもらうのはもちろん、遠征に出た人に密かに拠点に連れていってもらったりもしている。


 小型なので巨大なバッグに隠れてもらって、見られず持ち運ぶのも容易い。結果、拠点は更に充実した物になっていると連絡があった。


 ダンジョン内にいる人と、地上からスマホで連絡が取りあえる。実際にそれを体験すると、凄いことをやったなと改めて実感する。それをより強く感じているのは、やっぱり遠征に向かった連中だ。


 本当にしょっちゅう連絡が来るからな。暇つぶしもあるんだろうけど、どんだけ喜んでいるんだという。なんだったら鬱陶しいくらいだ。中には重要な情報共有もあるから、別にいいんだけど。


 まぁそんな訳で。俺はさらに賑やかになった家で、とにかく生産に集中。他の四人は俺の要望で素材調達に専念。無理のないペースで仕事をしながら、遊ぶことも忘れない。そんな充実した日々を過ごし、あっという間に一ヶ月が経った。


 年末年始をのんびりと過ごし、新年が明けた頃だった。


 まだ正月気分が抜けない頭で、皆で炬燵に入って駄弁っている時――天城さん、そしてミライさんが【種族進化】したという、特大の知らせが入ってきたのだ。


 ♦   ♦


【探索のヒント! その四十四】

〈偶像〉

〈吟遊詩人〉と〈舞踏士〉統合された結果生み出された上位ジョブ。

〈吟遊詩人〉や〈舞踏士〉と同じく、歌と踊りでバフとデバフを振りまくサポーターだが、〈舞踏士〉が所持する前衛性能を完全に放棄した結果、完全なフルサポータージョブへと変貌した。

 しかし、それだけ極端な方向へ成長を傾けただけあって、そのサポート能力は破格の一言。

 歌と踊りを同調させて発動するスキル【ライブ】は、発動するだけで範囲内の仲間にステータスのバフを与え、ここに〈吟遊詩人〉時代に保有していた【歌唱】【伴奏】スキルも加わる。結果、狙ったバフ効果は〈吟遊詩人〉とは比べ物にならないほどに。

 さらにレイド戦向けと言われていた〈吟遊詩人〉の影響がより強くなった結果、【会場一体(コール&レスポンス)】というスキルまで発現。その場にいたファンの数に比例し、バフ効果が上昇する。

 ここまでがバフに関する内容だが、では敵への影響はどうなのかというと、これがまた極悪の一言。

 デバフの選曲によるデバフ効果は言うに及ばず。〈吟遊詩人〉で保有していた【魅了(歌)】。〈舞踏士〉が保有している【魅了】は統合され、【世界は私のためにある(アイドルステージ)】を取得。

【ライブ】中、敵に対し【魅了】効果を与え、目の前の相手に集中しないとならないその時、常に目の端で〈偶像〉の姿がちらつく。中には見蕩れてしまい、棒立ちになったまま殺される者もいるだろう。

 ちなみにライブ中でなくても、常時魅力アップの効果もある。お肌のケアは欠かせませんっ♡ だって〈偶像〉だもんっ!

 それならまず、鬱陶しいサポーターから仕留めようと考えるのは当然の摂理。アイツさえ……ッ! アイツさえ仕留めれば……ッ! はいっ、残念でしたっ! 〈偶像〉は【おさわり厳禁(ノータッチ)】でお願いしますっ!

 短時間ではあるが強固なバリアスキルは、あらゆる攻撃からアイドルを守る。そして僅かな時間さえ稼げば、推しに手を出した愚か者に暴徒と化したファンが襲い掛かる。野郎テメェぶっ殺す!


 ――大舞台で歌うキラキラとした姿に、僕達は脳を焼かれる。


〈偶像〉であろうと人間。嘘も付くし、汚いところもある。僕らに見せている姿はあくまで演技。この薄汚れた世界で輝くために、陰でその身を売ったり、裏では一人の女として個人に心を捧げているかもしれない。そんなことも分かっている。

 こうあってほしい。僕らが想う〈偶像〉の姿は、僕らの思い込みにすぎない。

 でも、それでもいい! たとえ偶像だろうと、偽りの姿だろうと! 

 君が歌って踊るその輝きに、僕らは救われるのだからっ! 


『皆―! いっくよー!』

『――おぉおおおおおおおおお!!!!』


 今日も今日とて洗脳済みのファンたちは、〈偶像〉の号令によって命を捨てて敵に突貫する。

 煌びやかな姿に騙されがちではあるが、ファンを思いのままに動かすその様は、一種の扇動家アジテーターと何ら変わらない。

 取得した者の心持ち一つで、大きな混乱を容易く起こせる。間違いなく危険視すべきジョブの一つである。



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― 新着の感想 ―
この世は私のためにある!ワンサくんのミミ思い出しました。 ミライさんの進化先が気になります、今のところ進化先が悲惨な人は居ませんが・・。
ダンジョンだけに『地下』偶像とかになってたら闇がもっと深かったんやろなw
さすがに大量のダチョウもどきテイムは注目されるし 他の勢力や協会からの調査が入るような気がする
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