表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
39/41

39. ハーブティーの香り


「ねぇグレン、もういい?」


「まだだっつってんだろ」


ガルドさんに薬缶を貸して貰って、お湯を沸かす。

でも熱すぎるお湯は、ハーブティーには良くないらしい。


「そっちに湯を入れる前に、こっち、あっためとけ」


「はーい」


ええと、ハーブティーを淹れる前に、茶器をあっためるの?


「……おい、何やってんだ」


「え?」


グレンが深く溜め息をつく。


「何でティーポットを抱いてんだよ」


これ、ティーポットって呼ぶんだ。


「だってグレン、あっためとけ、って……」


「ちげーよ」


グレンはわたしの手にあったティーポットを置くと、そこに熱いお湯を入れる。

なるほど、こうしたらいいんだ。


「カップも同じ要領でやってみろ」


「わかった!」


わたしが淹れ方の基本も知らないことに気付いたらしいグレンは、茶器の一つ一つを指差して「あれをああしろ」「これをこうしろ」と教えてくれるようになった。


ティーポットに茶葉を入れるところで、ガルドさんがわたしの手元を覗き込む。


「ほぉ、こりゃ高級品だな」


「え?」


「アレンのやつに貰ったんだと」


「メルセーリオの坊か、なるほどな」


納得したように唸るガルドさん。

よくわからないけど、そんなに高いものなんだ……。

わたしが飲んでいいのかな……。


「……そろそろだな」


「え?」


グレンの言葉にハッとする。


茶葉を出したティーポットを軽く揺らすように混ぜて。

さっきのカップにゆっくり注いで、グレンを見上げる。


小さく頷くグレンを見て、カップに口をつけると……。


「……! 美味しい! グレン、すごく美味しい!」


「……そうか」


花みたいな果物みたいな甘い香りで、味はしっかり濃いのに全然苦くない。

アレンさんのところで飲んだのと同じ味だ!


「グレンも飲んでみて、ほんとに美味しいから!」


ティーポットに残ったハーブティーをカップに注いで、ずいとグレンに差し出す。


「……まあまあだな」


「もうっ!」


熱いハーブティーに何回か息を吹きかけながら、あっという間に一杯飲み終える。



「──ねぇ、グレン」


「ん?」


後片付けをして、並んで部屋へ戻る。


「あの……お金、大丈夫なのかな……」


「何がだ」


「だって、さっきのハーブティー……ガルドさん、高級品って……」


「気にすんな、寄越されたなら受け取っとけ」


「う、うん……」


二人で並んで歩くと、会話はあんまりない。

話し掛けるのは大抵わたしからで、グレンは必要なことしか聞いてこない。


でも……。

 

「……何ニヤけてんだ」


「……へ、えっ……ニ、ニヤけ……っ!?」


う、嘘!?

わたし、そんな変な顔してた!?


「し、してないよ! そんな顔!」


「……そーかよ」


グレンのこの顔っ!

わたしのこと揶揄った!


切れ長の琥珀色が、ほんの少しだけ細められる。


まだ初夏、しかも夜なのに、風がちっとも涼しくない……!



入団者の人たちが入って、もうすぐ三ヶ月。


みんなが言ってた通り、新人の数は少しずつ減って、最初の半分くらいになった。


夕食後。

今日もまた退団者が出たみたいで、トビアスがちょっと気落ちしてる。


「あーあ……あいつも辞めちまった……」


こういうとき、どう声を掛けたらいいんだろう……。


「トビアス……あの……元気、出して?」


「別に凹んでねぇよ、黒猫女」


もうっ。


「……ま、その程度だったっつーだけだ」


自分に言い聞かせるように、納得させるように、小さく呟く。


「騎士になるっていう覚悟、あいつにはまだできてなかったんだろ」


「……」


「俺は……俺だけは、ぜってー辞めねぇからな」


それだけ言うと、トビアスは部屋へ戻ってしまった。


トビアスは、騎士になりたくてここにいる。

このままたくさん訓練を積んで、きっと立派な騎士になるんだと思う。


グレンも騎士。

レオンさんやリカルドさんも。

みんな、この場所でやりたいことがある。

この場所にいる理由がある。


じゃあ、わたしは……?



数日後。

雨の降る、少し肌寒いある日。

わたしは気付いてしまった。


「……ワンピース……小さい……?」


グレンにはじめて買って貰った、桜色のワンピース。

きつくはないけど、腕を前に伸ばすと袖がだいぶ短い。

裾もちょっと……短すぎる、よね……?


揺れるスカートの先を少し引っ張ってみるけど、やっぱり膝が出ちゃう。


「どうしよう……」


これ、気に入ってたのに。


布を継ぎ足せばいい?

……ううん、そういうのじゃない。


アレンさんの魔法でどうにかならないかな?

……それも違う気がする。


わたし、このワンピースがいいのに。

これじゃなきゃ嫌なのに。


ワンピースとの思い出を探すように、窓の外に目を向ける。


灰色の空、ぼんやりした街並み。

濡れた窓硝子の向こうで滲んだ景色が揺らめく。


はじめて着たとき、グレンに「悪くねぇ」って言われた。

これを着て王都を歩いて、市場で買い物もした。


ずっと着ていたいと思ってたのに……。


この一年で、変わったものなんて殆どないと思っていた。

でも気付かないうちに、少しずつ大きくなっていて。


「……もう着れないのかな……」


それが嬉しいことなのか、寂しいことなのか、自分でもよくわからない。


「ずっと、着ていたかったのに……」


今日が雨でよかった。

ちょっとくらい落ち込んでいても「天気のせい」って言えるから。


そのとき。

詰め所の扉が勢いよく開く音が聞こえた。


なんだろう、何かあったのかな。


部屋の扉を開けてみると、バタバタと足音が響いてくる。


「おいおい、大丈夫か!?」

「医務官呼べ!」

「揺らすな、ここに寝かせとけ!」


誰か怪我したのかな……それか、病気?


「おーい、起きろー! サクラが心配すんぞ!」


……わたし?


胸が嫌な音を立てた。


まさか──。

倒れたのは、グレン!?


指先が一気に冷たくなって、かたかたと震える。


グレンが、倒れたの?

嘘だよね?


わたしは階段を転がるように駆け降りて、広間に走った。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

ハーブティーっていいですよね、なんかオシャレ。

植物を乾燥させたり発酵させたりして、最初にお茶を考えついた人、すごいです。

ではまた次回、エイルメーアでお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ