表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
38/41

38. 白い夜鷹


誰か、偉い人……。

長老のところの大婆さまに呼ばれて……。

いつもと違う浴衣を着た……。


桜の花弁が描かれた、可愛らしい浴衣。


冷たい風が吹き抜ける夜鷹渓谷の祭壇の上。

銀色と金色の真ん中を通って、ゆっくり上がる。


そうだ、母さまが言ってた。


月の光が濁らないために、この国を照らし続けてくれるために、必要なのよ、って……。


よくわからないけど、これで全部終わるのかな、って。

わたし、何も悪いことしてないのに、って。

ずっと思ってた。


白い夜鷹が、目の前を横切る。


「ごめんね…………」


最後に見た母さま……泣いてたなぁ……──。



真っ暗な中から時間を掛けて意識がはっきりしてくる。


ようやく目を開けると汗をかいていた。

毛布を深く被って寝たから、熱がこもったのかな。


ここは……寮の……わたしの部屋……。


寝ていたはずなのに、体がぐったり疲れて重い。

仰向けに寝転んだまま息を大きく吐いて、目を閉じる。


「……夢……?」


今のって……わたしの記憶、だよね……?


すごく悲しくて、寂しくて。

よく覚えていないはずなのに、じんわり涙が滲む。


またアレンさんに話してみよう。



入団者の人たちが騎士団に馴染み始めた頃。

外の日差しはだんだん強くなって、薄着をできる日が増えてきた。


またあのワンピース、着ようかな。


「あっという間に春も終わってしまいましたね」


いい香りのするお茶を淹れてくれたアレンさんが、わたしの座る長椅子に戻ってきた。


今わたしがいるのは魔術師塔のアレンさんのところ。


「このお茶、美味しいです」


「気に入っていただけたようで良かったです」


アレンさんの笑顔はいつも柔らかい。

こうやって一緒にお茶を飲んでいるだけで、どこか強張っていた体から力がすっと抜けていく気がする。


わたしは夢で見たことを話した。

すごく悲しくて、苦しくて、起きてからここに来るまで何度も泣きそうになったこと。


わたしが、夜鷹渓谷で……死んだのかもしれないこと……。


「……なるほど……」


顎に手を当ててしばらく黙るアレンさん。


「いくつかお聞きしたいのですが……。まずはサクラさん、“桜”をご存知なんですか?」


「え?」


どういうことだろう。

桜って、あの桜だよね?

春になると花が咲く、大きな木……。


「桜は、恐らくこのあたりで見ることはできません。生えていないんです」


……そういえば、一度も見てないかも。


「以前読んだ文献では、たしか……“日ノ出国(ひのでこく)”という国に自生している植物だと……」


大陸の西の端にあるエイルメーア。

日ノ出国があるのは地図の反対側。

東の果ての、小さな島国なんだって。


「サクラさん、この国の名前に聞き覚えはありますか?」


「……いいえ。すみません、聞いたこと、ないです……」


「そうですか……いえ、大丈夫ですよ」


何か手掛かりが掴めそうだったのに。

指の間からすり抜けてしまったみたいで悔しい。


「では次に、“浴衣”という服。これも月影国のもの、ですね?」


「はい、いつも着てました。……ええと、まだ捨ててなくて……部屋に、とってあります」


グレンに服を買って貰ってからは、それしか着てない。


はじめは違和感があったけど……。

浴衣を着ると周りから変な目で見られるし。

わたしだけ浮いちゃうし。


でも、ほんとは……それだけじゃなくて……。


「──……いいですか?」


「……え……はい……?」


どうしよう。

アレンさんの話、ちゃんと聞いてなかった。


「ふふ、お時間のあるときに、サクラさんの浴衣を見せていただきたいんです。何かわかるかどうかは、何とも言えませんが……」


アレンさんは怒らなかった。

グレンなら「聞け」って言ってくるのに。


「サクラさんのお話を聞いていると、“色”にまつわることが多いですね」


「そう、ですか?」


「……ええ、それが何か意味するのかは、まだわかりませんが」


……わからないことだらけだ。


「実は、日ノ出国については、わかっていないことがかなり多いんです」


魔術師塔から戻るとき、アレンさんが苦笑しながら教えてくれた。


日ノ出国は、はいたてき?

……他の国とあまり交流したがらないんだって。


ただ、日ノ出国には浴衣みたいな民族衣装があるらしい。


アレンさん、何でも知っててすごい……。


「このあたりでは見ない形の服なので、珍しいと思って覚えていただけですよ」


お気に入りのワンピースの裾を翻しながら、騎士団の寮へ歩く。

魔術師塔を出たところでアレンさんに貰った茶葉が、包み紙の中で軽い音を立てて揺れた。


「先程のハーブティー、気に入っていただけたようなので……少しですが差し上げます」


香草茶のこと、ハーブティーって呼ぶんだ。

また一つ勉強になった。


……ん?

でもわたし、ハーブティーの淹れ方なんて知らない。


また今度アレンさんのところに行ったときに聞いてみようかな。



「──ハーブティー?」


夜。

人の波が落ち着いてきた食堂の、グレンの隣。

いつもの席で夕食をとりながら今日のことを話す。


夢のことは詳しく話さなかった。

きっと心配かけちゃうし。


「うん、アレンさんがくれたの」


ふんわり甘く、でも不思議に香る包み紙をグレンに見せる。


「でも淹れ方がわからなくて……アレンさんに聞いてくれば良かった」


「……教えてやる」


え?

今、なんて?


「自分で淹れてぇんだろ……なら、教えてやる」


「グレン、淹れ方知ってるの?」


そんな感じしないのに。

グレン、自分でハーブティー淹れて飲むのかな?


「……何だよ、その目は」


「な、何でもない! 教えて!」


じとっとした横目で見られて、ぎくりと固まる。

ドクンと跳ねた心臓が、今度は全力で走った後みたいにバクバクと鳴る。


「あ、あの……や、やっぱり、また今度でいい!」


「……わかっ「やっぱり今日教えて!」」


「……」

「……」


わ、わたし、何言ってるんだろう……!?

自分で言ってて、意味がわからない!


わたしがわからないんだから、グレンはもっとわからないに決まってる……!


「ハァ……今日でいいのか?」


無理ならまた今度でも、と言いかけたグレンをまた遮って首を横に振る。


「きょ、今日がいい! 善は急げ、って言うし!」


声が裏返って、恥ずかしい。


「よくわかんねぇが……それなら厨房に入れ」


まだ変な目でわたしを見ているグレン。

わたしはグレンの顔を見れない。


ハーブティーの包み紙を持ってくれてる大きい手を見ながら、二人で厨房に入った。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

タイトルの「白い夜鷹」結構気に入っております。

実際に白い夜鷹がいるのかどうかはわかりませんが……いたらカッコいいですね、きっと。

ではまた次回、エイルメーアでお会いできますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ