3. 厄介な拾いモノ(グレン視点)
俺がアイツを見つけたのは、少し遅い雪解けが終わった頃、やけに森が静かな日。
妙なモンを拾っちまった。
この一言に尽きる。
いつも通りの巡回。
朝からレオンと騎士団の詰め所を出て、昼過ぎには城壁の外へ。
相変わらず無駄話の多いレオンを軽く無視しながら馬を進める。
草原の先には王都ルミネスタの北から東にかけて広がるデカい森。
厄介な魔獣に出くわすことはあまりないが、それにしてもこの日の森は妙に静かだった。
魔獣の気配が一切ない上に、遠吠えすら聞こえないとなると、さすがにおかしい。
レオンも似たようなものを感じ取ったのか、飄々とした態度の中で周囲を探るように視線を動かしていた。
森では危険な魔獣と遭遇すればそのまま戦い、必要なら相方を呼ぶ。
今回もこの流れでいくはずだった。
ふた手に分かれて進むと森の奥が光ってる。
何かと思って覗くと……ガキだ。
小さいガキ。
十歳かそこらの女。
何だあの服、この辺じゃ見かけねぇな。
違う国からきたのか?
いや、それでもこんな森にいるなんておかしい。
ちらっと見えた横顔はどこか呆然としていた。
ガキが俺に気付き、視線が絡まる。
嫌な予感がする。
「おい、こんなところで何してる……魔獣が出るぞ。……迷子にでもなったか?」
ガキが小さい声で何か言うがちっとも聞き取れない。
俺が何を話し掛けても、ガキは戸惑ったような心底困ったような顔をして、首を横に振るだけ。
言葉が通じねぇ。
全身から冷や汗が吹き出る。
どうすんだ、これ。
ガキは芝居をしたり嘘をついたりしている様子はないが、このまま意思疎通が図れないのは困る。
俺の名前はどうにか伝わった。
そしてコイツの名前は……。
「……サ・ク・ラ!」
いきなりデケェ声でガキが言う。
何だ、声出んじゃねぇか。
とにかく、名前はわかった。
サクラ、か……聞き慣れない響きだ。
忘れないように口の中で何度か呟く。
それにこの黒髪に黒い瞳、幼さが際立つような顔立ち、変な服、どれもこの国では見かけない。
コイツ、一体どこからきたんだ……?
とりあえず、このままここにいるのは得策じゃない。
明らかに丸腰なガキを連れて魔獣にでも遭遇したら面倒だ。
どんな理由でここにいたにしても、発見しちまった以上、一旦は騎士団の詰め所に連れて帰って話を聞く必要がある。
第一発見者が責任を持つ、これが騎士団の掟だ。
面倒くせぇが……連れて帰るしかねぇな。
サクラを馬のところまで連れていく途中、いつもの調子で森を歩いていると、サクラがいない。
どこいった? と振り返ると、俺よりだいぶ後ろを懸命についてきている。
歩きにくそうにしながらも弱音は一度も吐かなかった。
見た目より根性あんのか……?
同じタイミングで見回りから戻ってきたレオンは、俺の後ろに立つサクラに気付くと、面白いもんを見たようにニヤニヤとした目を向ける。
……クソッ。
サクラは足を怪我しているにも関わらず、馬に乗るのを極端に嫌がった。
それでもレオンの説得の末、馬に乗ることに同意したようだ。
「グレン、お前の馬に乗せてやれよ! 第一発見者、お前だろ?」
ハァ……面倒くせぇ……。
ついでに言うとレオンのニヤついた顔もうるせぇ。
後ずさるサクラを抱えて馬に横向きに乗せる。
コイツの着てる変な服じゃ、馬に跨るのは無理だ。
バランスが取れず落ちそうになる華奢な体を「じっとしてろ」と支えると、必死な形相でしがみついてきた。
馬に乗ったことねぇのか、コイツ。
ルミネスタに戻る途中、レオンが投げた干したルミの実をサクラにやると、警戒したのは一瞬。
相当腹が減ってたのか、俺のまで全部食っちまった。
「森で拾ったガキだ、上には俺から報告する」
城門に到着すると門衛に軽く事情を話して、門の中へ。
城壁にもルミネスタの街並みにも人にも、サクラはとにかく全てに目を奪われてる。
俺たちには見慣れた石畳ですらコイツにとっては珍しいらしく、目をキラキラさせてやがる。
おいおい、どこから来たんだよ……。
そうして俺たちが向かう騎士団の詰め所がある王城が見えてくると、サクラの目はこれでもかっつーほど見開かれて、口はポカンと開いていた。
ただ驚いてるだけの顔じゃなさそうだが……コイツが何を考えてんのか、よくわかんねぇ。
とりあえず、詰め所に着いたら魔術師塔に連絡して、アレンにでも来て貰うか。
アイツならサクラのこと、何かわかるかもしれねぇ。
……疲れた。
詰め所に戻れたのは、日が沈み切った頃。
ったく、サクラのやつ、市場の露店一つ一つに気を取られてすぐ足を止めやがって……。
ルミネスタは、エイルメーアの中心にして最大の街だ。
他所の国から来たやつにとっては物珍しいモンで溢れ返ってるんだろうが。
サクラは雰囲気というか……何か違うんだよな……。
共通語も通じねぇし。
何度も視界から消えるサクラを探しては引き戻す。
仕方ねぇから最後は手を繋いで、半ば引っ張るようにして詰め所まで歩いた。
詰め所で報告書をまとめてると、今度はレオンがいねぇ。
あの野郎、またサボりやがったな……次に顔合わせたら覚えとけよ……!
隊長に確認して、サクラは身元がはっきりするまで俺が預かることになった。
いや、俺だって不本意だし、正直不安しかないが、幼いガキをその辺に放置するわけにも……。
まぁ、少しの間ならいいだろ。
この日、サクラは騎士団寮の俺の部屋に泊まらせることにした。
はじめは詰め所のゲストルームを使わせようとしたが、意図を理解したサクラは怯えたような顔で俺にしがみついて拒否。
今思えば、こんなガキが言葉の通じない国にきて、知らない場所でいきなり一人になるのは不安だったんだろう。
アイツにはベッドを使わせて、俺は椅子か何かで寝ればいい。
そんなことを考えながら報告書をまとめ終えてると、少し前にサクラを案内した俺の部屋へ向かう。
部屋の前まで来ると、中から鼻をすするような音がする。
ゆっくり扉を開けると、窓辺で空を見上げる後ろ姿が目に入った。
……泣いてんのか。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
……はい、初回投稿、ものすごく緊張しました……。
第一話でもお伝えした通り、明日から三日間、一日一話ずつ更新します。
繋がる空の下で、またお会いできますように。




