八十五話 休息の裏側で
領主の館の一室で、蒼佑たちは久しぶりに四人だけで顔を合わせた。夜空を照らすほどの激しい戦で、すっかり疲弊してしまった夢愛と紅美の元に、蒼佑と幸多がやって来たのである。
「蒼佑でも疲れること、あるんだね」
「当たり前だ。ある程度慣れはしても、疲れはする」
疲れたと口にした蒼佑に、不思議だという表情の幸多が返す。当然だが、ソフィとの契りで強くなったとはいえ人間であり、精神まではそこまで変わっていないため、疲れ知らずとはいかない。
「なんだか、久しぶりだね。私たちだけで話せるのって」
「だよね。こっちに来てからは誰かしらいたもん」
ほんの少しだけ口角を上げた夢愛の言葉に、紅美が同意する。すると、幸多が はっとした様子で口を開く。
「そういえばあの時、蒼佑を呼んだ理由……あの話をちゃんとできていないままじゃないか」
「あの話?」
「うん。こっちにくる前、教室に蒼佑を呼んだだろ?」
幸多の説明に、蒼佑が思い出したように あーっと声を上げる。
「確かにな。今さらだけど、どうして呼んだんだ?」
「君に、明海さんとヨリを戻して欲しかったからさ。真木さんがいたのも、その事で話があるって言ってて」
「そう、だったのか。でも、夢愛は幸多と──」
「違うよ、私は蒼佑が好き」
蒼佑の言葉を夢愛が遮った。彼女の目はしっかりと彼を見据えていて、もう離さないという意志が全員に伝わる。
「じゃあ、二人で抱き合ってたのは?」
「それは私の友達がそうさせたんだ。夢愛を和泉くんに無理矢理くっつけさせたりして」
「なんだって……あぁ、そういうことか」
あの日見た光景を、蒼佑は思い出し尋ねたものの、その時の紅美の考えについては以前聞いていたのですぐに納得した。
これ以上語ることもなくなったのか、沈黙が部屋を包み込む。蒼佑が椅子の背もたれに身を預けると、ギシッと椅子の軋む音がやけに響いた。
話がネガティブな内容だっただけに、その沈黙はとても気まずく感じ居たたまれなくなった幸多が、蒼佑に質問を投げ掛ける。
「そういえば蒼佑は、五年前にも勇者としてこっちに来たんだっけ?」
「あぁ、その時はフラシア王国で世話になったな」
「その時の話、良かったら聞かせてくれるかい?」
「別に良いけど、長くなるからな。飽きたら好きに寝落ちしてくれ」
気になりつつも、その機会がなかった話。それをようやく聞けるという幸多の質問に、蒼佑はなんてことのなさそうに話を始めた。
同刻、前方は明るく後方は暗黒に染まった、いわゆる大気圏外に位置した場所。本来ならば生き物さえいないであろうはずの場所に、白き翼を携えた人々がそこにいた。
その集団の中心に向かうのは、二人の人間たち。その姿は変装だろうか、まるで一般人とも見える姿であったが、徐々にその正体が暴かれていく。
『ただいま帰還しました、ミカエル様』
『やはりあの惑星は極めて地球に酷似しています。かつてルシフェル様の残された報告と比べ、技術力はかなり進歩しておりました』
まるで片膝を着くような姿勢でそう報告したのは、惑星プラードからやってきた二人の男性。その報告を受けたミカエルという中性的な姿をした人物が、報告を受け ふむ…と声を漏らす。
『あれから五千年、発展するには充分すぎる時間だったというわけか。聞きたいことはまだあるが、詳しい報告は後にする。なにせサタンの反応を見失ったのでな』
『なっ!』
『まさかあの災厄が倒されるとは思えませんが、さりとて見失ったとは……』
ミカエルの報告に、二人は驚愕の表情を浮かべた。災厄と呼ばれたとおり、サタンの力は彼らにとっても異質であることが分かる。
『せめて、この星で好きなだけ暴れさせたかったのだがな。最初こそ楽しんでいたようだが、それも落ち着いてしまった』
そう言って、サタンの舞い降りた辺りを上空から見据えたミカエル。サタンに手を焼いていた者の一人として、その力を目的のために扱おうと画策していた。
『解き放てば少しは役に立つと思ったが、うまく扱おうなどと浅はかだったか。奴が降り立ったのはこの星の反対側だ。お前たちが向かっていた国はスサノオ殿に頼む予定だ……今度こそ、この星を第二の地球としてくれる』
住めなくなった母星を思い出しながら、ミカエルはそう強く締めくくる。二人は拳を左胸に頭を垂れた。
放浪の民は、再び惑星プラードを狙いに舞い戻ったのだ。




