八十四話 戦いの疲れ
とある海上に浮かぶ一隻の大型空母。その内部にある無骨な部屋で、椅子に座った男と御帝がそこにいた。
「まさか、典宮中佐までも失ったというのか……」
報告を受けてそう頭を抱えたのは、白髪交じりの壮年男性。その右肩には階級を示すバッジが付けられており、横並びの星が二つ、銀色に反射して輝いている。
この国でそのバッジの階級を示すのは、中将である。
「想定外と言わざるを得ませんでした。慣れない環境であり敵地、地の利もなく白兵戦であれば不利なのは火を見るより明らかであることから、当初の予定では過剰とも言える装備で、かつ精鋭を揃えました」
「公国との戦争での主力だった第一特殊部隊。加えて百台の自走施設に十五台の戦車。武装は拳銃型に散弾型、ライフル型のレーザー。しかもVTOLまで。それなのに、まさかグラシアを陥としただけとは。ナチュラルエリアの半分さえ取れておらんではないか」
中将の言葉に、御帝が頷いて返す。先の戦争でもここまでの戦力は用いておらず、出せるだけの戦力を用意したはずであった。
やはりイレギュラーだったのは、蒼佑とソフィの存在。
「第一部隊の大半と四機のVTOLを除いて、その全てを失う結果となりました。事前の調査も半年は掛けましたので、決して少なくはないはずです。大型飛翔体の存在も確認しているため、彼らの対処も兼ねて戦車を用意しました。問題は、奇襲の際に現れたヒト型の怪物です。それは二つ確認できましたが、移動中のVTOLに攻撃を当ててきた三つ目の存在も謎です」
「いったいどんな魔境だというのか、ナチュラルエリアは。もはや、我々には手を出せる場所ではなかったのかもしれんな。この四、五千年で随分と様変わりしたのか」
可能性も残らぬほどに徹底的な敗北を刻まれたことで、ナチュラルエリアへの認識を改める二人。しかし、事態は待ってくれなかった。
「しかし、そうなるとエーテルエリアのみで彼らへの対処を余儀されなくなったというわけか。あの白き空人たちは、プラードの大気圏に入る少し手前あたりで留まっているようだ」
「であれば、こちらから攻撃をする……のは得策ではないでしょうな。ナチュラルエリアでのイレギュラーもあります」
プラードとはこの惑星のことである。中将の言う通り、来訪者たちは群れをなして上空にて留まっている様子であった。御帝はそれを好機かとよぎったものの、相手はナチュラルエリア以上に未知数の存在であることを考え直す。
「そうだ。そもそもこちらの攻撃さえ効くかどうかも分からん、調査に来たのか侵略に来たのか、そのうえ武装や知能に目的と、なにもかもが不明だ。つまり様子見だろう。平和的な解決ができる可能性は捨て置けん」
あらぬ被害を受けてしまいすっかり牙の折られた二人は、戦い以外の道を考え始めていた。とはいえ、戦争になったことも想定しなければならない。
相手が好戦的でないとは言いきれないためである。
「では、本土に戻りすぐにでも対策を行いましょう。彼らが訪れてからふた月近く経過、そろそろ事態の進展が予想されますから」
「あぁ。補給と休息の後、夜に出発してくれ。ご苦労だったな」
中将の言葉に、御帝が礼をして退室する。一人残った中将が、椅子の背もたれに身体を預け、大きな溜め息を吐いた。
一方、ナチュラルエリアのオルスの街では、日照国軍の生き残りである十名ほどの軍人たち、そして冰辺と陰素が、自走施設にて休息と話し合いをしていた。
また蒼佑たちは、サタンの話を元にこれから起こりうる戦いについて危惧し、領主の館にて疲れた身体をおして次に備えようとしていた。ただ、夢愛と紅美においては経験が比較的浅く、幸多のような勇者特性もないため休憩していた。
しかし彼女たちもそうだが、幸多も精神的なダメージを負っている。理由は明らかで、いくら敵とはいえ人間、しかも同郷で、自分達の平和を守ってくれていた者たちともなれば、その傷は深い。
とある一室で、夢愛と紅美がベッドで横になっていた。
顔色が悪く疲れ果て、しかし未だ緊張が解けないまま。当然疲労は蓄積していく。
虚ろな表情で横になっている二人の耳に、ノックの音が届いた。二人はそちらに視線だけを向けて、誰が入ってくるのかを確認しようとする。
間を空けて、扉がおもむろに開かれると、そこから姿を現した人物に彼女らはやにわに飛び起きる。
「あれ、起きてたんだね。大丈夫、二人とも?」
「まぁ酷い戦いだったしな、疲れすぎて寝ようにも寝れないだろ」
心配そうに声をかける幸多と、共感した様子の蒼佑が、夢愛と紅美の様子を見にやって来た。
夜中から一睡もできていないため、比較的マシとはいえ幸多も疲労は隠せていない。
「激しい戦いだったから、心配で様子を見にってな……疲れたな」
四人の中で最も戦い慣れした蒼佑が深い溜め息と共にそう言うと、三人も疲れを露にして頷いた。




