八十二話 不時着
帝国城跡地から離脱した、御帝率いる戦闘機部隊。戦闘機であるため移動速度は凄まじく、全速力でなくとも十分と経たないうちにオルスを目前としていた。
しかし、そんな彼らを追う小さな反応に、全員が気が付いた。
夜闇の中に、赤く何者か。ソレから突如として放たれた光の玉に、一機が鋭く貫かれた。
機体は人間ごと貫かれ、失速しながら戦地に届かず墜落していく。得体の知れない存在に、御帝たちは速度を上げて逃げることを決める。
『逃げないでよ』
速度を上げた戦闘機を見て、少女はそう呟く。薄ら笑いを浮かべながら、右手を上げて逃がすまいとエーテルを収束させる。
妖しく輝めくその光に背筋を冷えさせた御帝が、間もなく起こる危機に声を張った。
「回避行動!」
通信から響いたその声に、その他パイロットたちは即座に散開した。間を置かず、彼らのいた場所に鋭い光が後方から貫くように過ぎていく。
一同はその輝きに冷や汗を滲ませる。どうしようもないほどの絶望が、逃すまいと後ろから迫り来る。
先の戦争に比べ、明らかに未知の敵。事態は飲み込めないものの、生存率が極めて低いことは察していた。戦うことも逃れることも難しい。
『ふぅ、ちょっと疲れてきたかな』
焦りを抱く彼らなど露知らず、呑気にもそんな呟きを吐いた少女は徐々に速度を緩めた。まるで飽きたかのような少女から、必死に逃げる彼らと徐々に距離が空いていく。
しかしそんな彼らを、黙って見逃す少女ではなかった。
離れていく彼らに向けて、少女は光の玉の群れを作り出す。無数のそれらは、ランドルたちを襲ったものとはひと回りもふた回りも小さかったが、その量は幾分か多い。
なんてこともなさそうに、少女は掲げていた右手を前に振りかざし、光の玉を放つ。
大きさにして野球ボールほどのそれが、一機の尾翼の推進装置を貫く。推進力に致命的なダメージを負って、高度が下がっていく。
『ちぇー、やりきれなかったなぁ』
つまらなそうに呟き、足を止める少女。パイロットは、落ちていく機体の姿勢の制御をしながら不時着を試みる。
しかし、助けようにも助けられない御帝たちは、悔しく思いながらもそれを尻目に飛び去っていく。もはや、逃げる他にできることはなかった。
推進装置にダメージを負った機体は、見晴らしの良い平原へと近付いていく。直前に出されたランディングギアが音を上げて、地面を抉っていく。
空気抵抗により速度は落ちていたが、それでも完全に停止するにはかなり強い衝撃を伴った。死ぬことはなかったが、中の二人は呆然としている。半ば死を覚悟していたが、無事に不時着できたことを理解した二人は、搭乗部の扉を開けて戦闘機から降りる。
パイロットの男が機体の後ろへと回って、破壊された部位を視認する。大きく欠損した推進部を見て、大きくため息を吐いた
「誘爆しなかっただけでも儲けものか……」
「どうしますか、あの様子では救助も期待できません」
「おそらく、俺たちは戦死したと本国には伝わるはずだ。どのみち、あのような化け物がいることが分かった以上占拠は不可能。部隊が派遣させることなどは諦めるしかあるまい」
蒼佑たちやドラゴン、そしてあの少女たちの攻撃を受けたことでほぼ崩壊した部隊。それを理解している二人にとっての結論。
御帝も同様の考えであるため、彼らはナチュラルエリアで生きていくことを余儀なくされた。
そして、彼らの耳に届く音。その数は多く、足音であることが窺えた。追手が来たことは自明の理である。
その方角を見れば、人間たちだけでなくドラゴンたちの影も空にあることが分かった。もはや戦うまでもないだろう。
「生かしてもらえるだろうか……無理だろうな」
男は諦観を滲ませながらそう呟いた。
高度を下げていく戦闘機を見た御帝は、今回の戦いにて大敗を喫したことを理解した。千人規模の部隊、最新鋭の武装や移動施設を用いて、磐石な拠点を築いたはずだった。
しかし結果として、一国を滅ぼしたのみ。
既に部下たちには撤退の命令を下し、少女の追跡もなくなったことで思考に気を回すこともできるようになった。起きたことを報告するために、その内容を頭で整理する。
空が白み夜が明ける時間、ようやく中継地点である空母を視認した。作戦失敗の報告を携えて。




