八十一話 決する戦況
突如として飛来したいくつもの赤い光の玉が、ドラゴンたちを傷付け、またそのほかの流れ弾が地面に着弾した。何台もの自走施設が巻き込まれ爆発を起こす。
これにより、日照国軍と蒼佑たち双方が少なくない被害を受けた。前者は人数が多かったため、巻き込まれ負傷した者が多数おり、軽重傷者の対応に追われるようになった。後者サイドは、狙われたドラゴンたちの一部がその翼に穴を空けられた。
ソフィは負傷したドラゴンの方へ、蒼佑は冒険者たちの方へと向かった。
依然として戦闘は続いているものの、日照国軍に比べて少数精鋭である冒険者たちの負傷者の割合は少ない。加えて回復魔法による即時治療も相俟って優勢ともいえる。
しかし、戦闘機の戦域離脱作戦により集中砲火を受け、更に先ほどの爆発もあって彼らは優勢でありながらも安定感を失いつつあった。そこに駆けつけたのが蒼佑である。
砲撃部隊を魔法により一掃し、典宮を含めた前衛部隊との交戦が始まった。
ドラゴンたちは光の玉で負傷したことで墜落し、さらに光線や砲撃により態勢を立て直すこともできずに守りに一辺倒であった。そちらにはソフィが駆けつけて、攻撃していた部隊を魔法により一掃した。
「ランドルたちよ、無事か?」
『奥方か、すまない。どうやらさきほど受けた攻撃のせいで、みなの回復が遅れているようなのだ』
ランドルの言葉に、ソフィが負傷したドラゴンの患部を見る。
「魔力が、無い……?そんな、ありえない。もしかして、散らされたとでも?」
ソフィがドラゴンの傷口に触れ、眉をひそめてそう呟いた。本来ならば傷口にあるはずの魔力が、そこには感じられなかったのだ。
魔族やドラゴン、そして人間もそうだが、ナチュラルエリアの生き物には、血液や筋肉のように魔力も身体を構成する一部である。そのため、傷口からは僅かにでも漏れ出す魔力があるはずだった。
しかし、光の玉を受けた傷口からはその痕跡がなく、傷の治りが遅い理由を彼女は理解した。魔力がなければ、それは自然治癒の影響さえ鈍らせるため、単純な回復魔法による措置では不十分である。
加えて、さきほどの攻撃によりドラゴンの持つ魔力が乱されたらしく、命に別状はないが戦える状態でもなかった。
「この傷は私が癒すしかないか。幸い後ろに敵はいない、ランドルたちはそちらを頼むぞ」
『承知した、奥方よ!』
話を終える頃、舞う砂塵による視界が晴れ、その先にいる敵の姿がランドルの瞳に映る。彼を含めた四体のドラゴンたちが、敵のいる方に向けて口から強烈なブレスを放った。
魔力を多分に含んだブレスが、軍人たちを放ったレーザーごと飲み込み焼き尽くす。その奥にいる冒険者たちに被害のないように調整された火力だが、目の前の敵を焦がすには充分だったようだ。
自走施設や戦車を破壊するには至らなかったが、少なくともその高熱により、直接炙られていない人間たちも無事では済まなかった。
そして、接近戦を行っていたバレットら冒険者と典宮率いる部隊だが、そこに現れたのが蒼佑であった。激しい攻防の繰り広げられているその場所に駆けつけた彼は、大盾を用いたバレットと激しく交戦している典宮を発見した。
無言でその後ろに着地して、地面を強く蹴って典宮の背中に向けて脚を振り上げる。
蒼佑がその背中に蹴りを放とうとするその刹那、典宮が後ろを向き、放たれた蹴りを合金性ブレードで受け、身体を捻らせて流す。そして二人から避けるように横へと跳躍するが、すかさずバレットのシールドバッシュが放たれた。
辛うじて両手で防いだものの、その上から蒼佑の踏みつけるような蹴りを頭に受けた。ほぼ同時に来た蹴りは防ぐことができず、その衝撃が頭から背中へと駆け抜ける。
ギシッと、骨が軋む音がした。
千人規模だった日照国軍の軍人たちは、既に百人を切るほど数を減らしていった。一流の軍人たちが、超一流の冒険者たちに、徹底的と言えるほど打ちのめされていく。
慣れない環境、乏しい資材と設備。割けるリソースに大きな制限があるならば、いくら精強な軍隊だとて苦戦を強いられるのは間違いなく、さらに相手取るのは上澄みの人間たちに加え、魔族やドラゴンといった、人間からすると上位の実力を持つ者たち。
それは日照国軍にとって、想定の遥か上を行く戦力であり、この結果は当然と言えた。防戦どころか、圧倒的質量に押されて一部戦力は戦線離脱。さらに指揮官を失ったことで、帝国城跡地拠点は完全に陥落した。
一方、占拠されていたオルスの街も同様であり、日照国軍の軍門に降ったジョナサンたちは、ロック一人に無力化されていた。当然危なげもなく日照国軍の相手へと戻っている。
ドラゴンたちもいることから、こちらも既に戦況は決していた。
そんな中、遠くから轟音を響かせる者が飛来してきていた。言うまでもなく、御帝率いる戦闘機部隊であった。




