問題の多い再会
「何で俺らまで付き合わされてんだよ」
「知るかよ勇真に聞けよ」
「あぁ?
誰もお前に聞いてねーよ」
「お前らいっつもそうやって言い合い始めて…
仲良しか」
睨み合っている涼と一華を
茶化しながらなだめる勇真
今夜、5人は街の裏路地に身を隠していた
少し前に一華と川口がやり合った時
一華が渡された紙切れ
そこには今夜の日付と時間
この裏路地の地図が書かれていた
「敵から渡された情報だ
それにあいつはイチを銃で撃とうとしてた
今回のが罠の可能性もある
もし罠だった場合
イチは何の情報も掴まずに
戦って終わりだろう
俺らはまだユグドラシルの拠点を見つけられてない
少しでも情報が必要だ」
賢人は勇真だけはまだまともな人間だと思っていた
しかし違った
ここに全員を連れてきたのは
一華を守るためだと思っていた賢人
しかしそうではなかった
勇真の揺るぎない信念を
感じさせられることになった
「柴崎が心配だから
とかいう理由ではないんだな」
「イチは心配されることを嫌うから」
そう言って勇真は建物の陰から
紙切れに書かれた場所を見る
そこに現れたのは2人の男
2人も深々と帽子を被っていて
顔がよく見えない
「あいつらか?」
確認しようと一華の方を見ると
そこにはもうおらず
2人のもとへ歩き出していた
「涼」
「あぁ、やってるよ」
涼は勇真に頼まれた通り
周辺のカメラをハッキングして
他に怪しい奴らがいないかを見て回る
「あれ、薬の売買だと思う」
ウルドの中にも
薬の売買に関わっている奴らがいた
そいつらの雰囲気に似ていると思った
深く帽子を被り2人1組
薬を売る奴らは皆こういう格好をするよう
決まっているのかもしれない
一華は2人の背後で立ち止まった
顔は見えていないだろうが
一華に迷いはなかった
「何やってんだよ……順也?」
1人の男がすぐさま振り返る
「……イ、イチ?」
男は少しだけ帽子のツバをあげる
「どういうことだよ、これ」
「イチ…もう俺には関わるな
危険な目に合うかもしれない」
「んなの関係ねーよ!
順也をさらった組織潰してやるんだからよ!」
「バカ、やめとけ!
そんなこと出来るわけない!
殺されるぞ!!」
初めて順也が声をあらげ
建物の陰に隠れている3人にも
声が聞こえた
「何言われようとやるって決めてんだよ」
「イチ、頼むからやめろ
どうしてもやるって言うなら
俺は…イチをこのまま帰す訳にはいかない
気付いてる通り
俺はもう組織の人間だからな」
「は……?
何言ってんだよ?
順也のチームは順也がいなくなった後
あいつらに潰されたんだぞ」
一華は血の気が引いていくとともに
脱力感に襲われた
「知ってる、でも
組織を裏切ることはできない
イチとやり合うなんて気が引ける
できればやりたくない」
「なめんな
目を覚まさせてやんよ!」
身の危険を感じたもう1人は
こそこそと逃げていった
そんな奴を一華は無視し
順也勢いをつけて飛びかかる
だが順也もバカではない
そもそも一華に体の使い方を教えたのは順也だ
余裕でかわす
かわされた一華は
着地する前に身を翻すと
倒れ込みながら順也の背中を蹴った
しかしそれほどのダメージは与えられていない
「はぁ
知らないうちに戦い方を覚えたようだな
イチにはこっち側に来て欲しくなかったよ」
やれやれと言いたげな表情は
昔と全然変わっておらず
一華を動揺させた
涼が見ていたモニターに動きがあった
「おい、ここに20人くらいの男が向かってる
どうすんだ?」
「やっぱ罠だったのか
イチはまだ帰るつもりはないだろうし…」
「20人なら俺1人で充分だ」
賢人は暴れる興奮を抑えきれないように
笑みを浮かべると
ナイフを握った
「殺すなよ」
勇真の注意を背中に受けて
自ら20人の元へ立ち向かった
「お前らの相手は俺がする」
狭い裏路地で
22人が入り乱れる喧嘩が始まった
「お前らがもし雑魚だったら…
死ぬかもな」
ナイフの刃を向ける
ユグドラシルのメンバーなのか
ウルドのような下の組織の人間なのかわからないが
刃を向けられたくらいでは
全く動じない
ただ半袖から覗く腕には
誰1人として木の刺青は見えないため
幹部ではないことは確かだ
賢人は戦いながら思った
着実に自分は祖父へ近づいている
こいつらを倒せば
また自分は強くなれる
また一歩祖父に近づける
賢人は喜びを感じながら戦っていた
刃に対しては動じなかった男たちだが
笑いながらナイフを振り回し
どんどん倒していく賢人には
さすがに恐怖を抱いた
「最近俺が戦った奴らに比べると
骨のある方だと思うが…
話になんねー」
賢人は残り半分以外になった男達の方を向く
もう笑顔は消えていた
一華は怒りなのか悲しみなのか
ぐちゃぐちゃになった感情を拳に込めてぶつけていた
「おかしな組織の人間なんかに成り下がりやがって!」
「この街で生きていくためだ」
「そんな生き方
気持ちわりーんだよ!」
感情に任せて攻撃を繰り出す
順也を探していた長い月日に思ったことを
ぶちまけているようだった
「柴崎、まだやってんのか」
いつもの調子ではない一華に声をかけたのは
もう決着をつけ終わった賢人だった
「うっせー
邪魔すんな!」
振り返りもしない一華に
賢人はまだ続けた
「わかってんだろ?
お前の目の前にいる男は
お前よりもはるかに弱い
にぶってる
体がついていってねーんだよ
薬の売人なんてそんな程度だ
手加減する必要はない」
一華が見てみぬふりをしていた
自分の考えを
賢人が述べてしまった
わかっていたのだ
順也がもう自分よりも強い存在ではなくなってしまっていることを
一華は冷静さを取り戻す
「順也…もう終わりだ」
一発重く殴る
一華よりも身長も体重もある順也の体が
宙に浮く
一華は怒りでも悲しみでもなく
寂しさを感じていた
それまでに何ヵ所も攻撃を受けており
地面に仰向けになった順也は
もう息をするのがやっとのようだ
「気は済んだか?」
「…」
賢人の問いには答えようとせず
黙ったままで立ち去ろうとする
「ま…待て……
イチ、が……強いことは…わかっ…た
…でも……潰せねーよ…」
「…」
立ち止まらず行ってしまった一華に
順也は溜め息をつき
賢人に目を向けた
「お前、…イチの……味方か?」
「味方かどうかはわかんねーが
あんたのいる組織を潰すつもりだ
それは俺だけじゃない」
賢人は視線を移す
順也も同じ方向を見ると
そこには3人の男女が立っていた
「イチは…
俺の…言うこと…なんか……
聞きやしねー……
イチ…を、任せた…」
「えぇ、任されました
責任をもって
俺らは5人であなたを苦しめた組織を潰します」
「…」
勇真の言葉に順也は黙りこんだ
涙が溢れそうだったのかもしれない
味方かどうかもわからないが
一華は1人ではない
心強い奴らがついてる
もう自分に付いて回っていた頃の少女ではない
自分が守ってやらなければいけない存在でもない
この街を立派に生き抜く女になっていた
順也は視界がぼやけるのがわかった




