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この狂った街の全てに抗え  作者: 柑藍
動き出す5人
23/37

倉沢勇真という男

「あのシジィまじムカつく殴ればよかった」


「柴崎が1番問題起こしてるだろうが」


「は?

五十嵐、また殴られたいのか?」


「まぁまぁ」


スイッチの入りそうな一華を

勇真がなだめる


「三浦先生があそこまで言ってくれるなんてね

熱いところもあるんでしょうか」


「あいつ、変な教師だよな」


賢人は

優しいとか生徒思いとかではなく

変な教師というイメージを

三浦に対して抱いたのだった


「退学は別にいいけど

お前に巻き込まれてるみたいで

腹立つんだよな」


収まったと思えばまた

涼が一華につっかかる


自分の起こした問題行動は

全て棚にあげた言い方だ


それには一華もカチンとくる


「お前もやらかしてんだろーが


いちいちムカつく奴だな

退学したからって

敵なのは変わんねーからな


「お前に追いかけられる趣味は無いんだけど」


「私だってねーよ!」


ムキになる一華の横で

淡々と鈴は言った


「本当に退学になったら

皆さんどうするんですか?」


「そのことで俺、提案があるんだけど!」


勢いよく手を挙げた勇真

4人の視線が集まる


この場にいる5人以外には誰もいない廊下で

1人ひとりを見渡して

勇真はとんでもないことを言い出した


「俺達5人でチームを作らないか?」


時が止まったかのように

シンとする廊下


「ふざけてんのか?」


静けさを破ったのは

賢人だった


「ふざけてもないし

冗談を言ったつもりもない俺は…―」



“俺は復讐がしたい”



倉沢勇真は

妹思いの優しい兄だ


それは両親が離婚をして

勇真が父に引き取られ

妹が母に引き取られても変わらなかった


そんな勇真に異変が起きたのは

彼が中学3年生にあがって少しした頃だった


異変が起きたというよりも

起こされたという方が

正しいのかもしれない


勇真の通っていた中学校とは別だが

近くにあるいわゆるお嬢様校に妹、穂香は入学した


楽しそうにしている穂香の姿を見て

勇真も嬉しく思った


一緒に暮らしてはいないが

登下校で顔を合わせたり

穂香が遊びに来て

父を交えて夕食を食べたり

そんな何気ない日常が

勇真にとっては何よりも幸せだった


しかしその幸せは

たった1日で壊された


「穂香が自殺を図った

命は助かったけど

意識はいつ戻るかわからないって」


母からの電話は

勇真の思考をストップさせた


その後どうしたのかは全く覚えていないが

気がつけば母に教えられた病院にいて

ベッドに横になった穂香の姿を見ていた


「何で…自殺なんか…」


そう問いかけるが返事は返ってこない


数日後、母から穂香が書いたメモが見つかったと

連絡があった


渡されたメモには

穂香がいじめを受けていたことが書かれていた


「いじめ…?」


「穂香の通ってた学校

お金持ちの子が多いでしょ?


だから…」


母は言葉を詰まらせ

涙を流した


「…」


何も気づけなかったことを

兄として情けなく思った


じっとしていられなかった勇真は

母と共に

穂香の通っていた学校を訪れた


しかし

いじめは確認できなかった

と言われあっさり帰された


その校舎を見ながら勇真は思った


ここに穂香を自殺に追い込んだ奴がいる

放ってなどおけない

学校が目を瞑るなら

この手でケリをつける、と


勇真の心の中には

黒い闇が渦巻くようになった


勇真は元から

コミュニケーション能力に長けていて

情報を集める力があった

だから穂香をいじめていた生徒は

すぐに見つけることができた


主に関わっていたのは

穂香と同じクラスの3人

すぐにでも穂香と同じ目に

合わせてやりたいと思った


勇真なりのやり方で


3人は決して素行の良い生徒ではなく

万引きや公共物への落書きなどを繰り返していた


勇真は手始めとして

3人が万引きをしている写真を

深夜の学校に忍び込み

ばらまいておいた


呆気ないほどすぐに

結果は現れた


万引きの写真がばらまかれるということは

警察やマスコミに知られていてもおかしくない


そう考えたのは

本人達ではなく他のお嬢様達だった


穂香が学校に来なくなった原因も

彼女達にあると薄々気付いていた

他のお嬢様達は

本格的に縁を切り始めた


お嬢様にとって

いや、女子にとって

これはかなりの苦痛を伴うものだろう


穂香のいじめに関わった女子生徒は

街を出て他の中学校へ転校することを選んだ


3人のうち1人を除いては


いじめの主犯格らしい生徒、福本里美は

平然と学校生活を送っていた


味方がいようがいまいが関係ない

そもそも里美は

この学校で頂点にいると自覚していた

だからこそ

自分よりも下の奴らに

何を言われようが構わないのだった


勇真はその日から標的を福本里美のみに絞って

彼女の行動を見張った


自宅を突き止め

一晩中門を出入りする人々を観察していた


福本家には

夜中でも人が出入りすることがあった


1人は里美の父親らしき人だが

他にも同じ年代に見える男が何人もいた



そんなある日の夜

通りかかった空き地で

喧嘩の場面に出くわした


通りすぎようと思ったが

なんとなく目を向けてみた

するとそこには

同じ学校に通う女子生徒の姿があった


彼女がよく喧嘩をしているという噂は

何度も聞いたことがあった

しかし実際に人を殴り蹴りしているところは

初めて見た


もう戦闘不能であろう男の襟を掴み揺すっている


「おい、腕に木の刺青入れてる奴ら

知ってるなら今すぐ吐け」


何とも強引なやり方だ

男は知らないというように

首を何度も横にふる


「クッソ

どいつもこいつも…」


「危ない!」


勇真は思わず声をあげた

倒れていた男の1人が立ち上がり

バットで殴りかかろうとしていたのが見えたからだ


「ぅうぁああああ!!」


両手で持って力をこめて降り下ろされた金属バット

しかし手で掴まれ勢いを殺されると

男が後悔するよりも先に

顎を蹴りあげられていた


声をあげたことで見つかってしまった勇真

恐怖はあまり感じず

殴られたら記憶飛びそうだな

なんてことを考えていた


「お前誰だ?」


名乗ろうかどうか一瞬迷ったが

同じ中学校の生徒じゃないかと警戒心を解いた


普通ならここで逃げ出してもおかしくない

この辺りが勇真は普通の高校生とは違っていた


「え…

倉沢勇真、一応君と同じ中学校の生徒だよ」


「あー…

そういや見たことあるかも」


一華も

特に見られたことを気にする様子も無さそうだ


「なら良かった」


これが勇真と一華が

初めて出会った時の会話だった



それから学校で会うと

勇真は一華に話かけるようになり

ある日、木の刺青が入ってる男達について

屋上で聞かれた

そこで西岡順也という男についても

勇真は知ることになった


「腕なんてなかなか見ないからな

ごめん、心当たりないや」


「やっぱ知らねーよな」


「あ、でも…

これは噂のレベルの話なんだけど

赤原学園って高校には

表には出てこない組織が関わってるって言われてる


ただそれが

その組織に関わる生徒がいるのか

教師がいるのか

それともがっつり経営に関わっているのか

そこまでは全然わからないけど…」


この情報を一華に伝えたのは

一華が高校に行く気がないのを

なんとか変えたかったこと

そして1つ前の会話で嘘を言ったことに対する

罪悪感からだった


「先に教室戻るよ

じゃあな、イチ」


「は!?」


何か言っているようだったが

校舎に入り扉を閉めたため

勇真の耳には届かなかった



勇真は階段を下りながら思い出していた

一華と初めて会話をしたあの日の夜を


一華が男に聞いているのを目撃したとき

勇真の頭には1人の男が頭に浮かんだ


福本里美の父親だ


数回門の前で見かけているが

傘を持つ手に

木の刺青がしてあるのを1度だけ

見たことがあった


しかし一華には伝えられなかった

これは復讐のための

自分のための情報だ


一華に言ったらすぐに騒ぎを起こすことは

目に見えていた

それは何としても避けたかった


そして何もできないまま勇真は

高校生になった


休日の深夜

派手な格好の男女と出かける里美


勇真は後を追った


深夜の街の中心部の公園で

彼女達は堂々とお酒を飲み始めた


「最近学校どう?」


「つまんなーい

可愛がってた奴も学校来なくなったし

学年あがってまじダルいし」


「可愛がってたって

どうせまたいじめてたんでしょー?」


「まっさかー

パシったり水かけたりしただけだよ」


「それ充分いじめでしょ」


「あんな庶民が

私にパシられるなんて

光栄に思ってもらわないと」


「でたー!

里美女王様!」


ゲラゲラと大声で笑っている


ここまで腐っているとは思わなかった

勇真の心に渦巻いていた闇が

隙間なく真っ黒に染まった瞬間だった


「私、水買ってくるねー」


里美が集団から離れ

公園の外に出ようとする


何か仕掛けるなら今がチャンスだ

そう考える勇真に

なんと里美の方から近づいてきた


「お兄さんかっこいいですねー

よかったらー

一緒に飲みませんかぁ?」


かなり酔っ払っているようで

まともに歩けていない


「いや、俺は結構です

…その代わり、これあげますよ」


勇真が取り出したのは

ビニール袋に入った怪しい錠剤


夜の街に出るようになって

怪しい男達から渡されたもの

違法性はないから

と言っていたが本当かどうかは疑わしい


「ん?何これ?」


「これ飲んだら

毎日が楽しくなるし

頭がスッキリするし


俺、これのお陰で

両親を見返すことができたんです」


薄い言葉を並べたと自分で思った勇真

だが里美が

両親と上手くいっていないことは調査済みで

酔っ払った相手には

これくらいで充分だと思った


袋を受け取ると

トロンとした目で錠剤を見ている


「へぇー…

ありがと、もらっとく」


確実に飲ませたいなら

今ここで無理やり口に入れるべきだろう

しかし勇真はそれをしなかった

勇真には

確実性よりも優先したいものがあった


彼女には

自分の足で

地獄までの道を歩いて欲しい

そんな恐ろしいことを

涼しい顔で考えながら

勇真は闇に姿を消す


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