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この狂った街の全てに抗え  作者: 柑藍
休まらない夏休み
20/37

柴崎一華

一華は街の外れにあるアパートに家族と住んでいた


両親共に荒っぽい家庭であったが

一華に最も影響を与えたのは

隣に住む4つ年上の西岡順也だった


一華が小さい頃からの仲で

順也と呼び捨てにするほどなついていた


そんな順也から

喧嘩の方法を教わっていた


彼はこの地域一帯をしめる暴走族のリーダーで

順也の代になってからの成長は著しかった


そんな街の危ない面も知っている彼は

一華に自分の身の守り方を

教えているつもりだった


その護身術を自分なりに変化させ

喧嘩の手法とした一華は

順也がやっている争いに混ざりたかった


だがそんなことを順也が許すはずもなく

一華が中学2年生になるまで

一度も連れていってもらえなかった


このままでは

一生連れていってもらえないと思った一華は

夜中どこかへ出掛ける順也の後を着いていくことにした


喧嘩の場面がみられるかもしれない

もしかしたら参加できるかもしれない

そんな期待で一杯だった


しかし一華が予想していたものとは違い

行き着いたのはとある立体駐車場だった


ちらほら車が止まっているが

人は見当たらない


ところが暫くすると

どこからともなく

ゾロゾロと人が現れた


一華は嫌な予感がしていた


「何だよ用って」


駐車場に順也の声が反芻する


「最近この街で暴れてるっていうのは

お前のところか?

こう派手にやられると

俺らも黙ってられないんだわ」


「誰かに指図されて大人しくするほど

従順ではないんだよ、俺らは


どうしてもっていうなら

潰し合いだな」


柱の陰から見ていた一華は

いつもとは違う順也に

恐怖心を抱くどころか

むしろ格好いいと思っていた


「あまり手荒な真似は

したくないんだが…」


集団の先頭にいる男がそう言うと

後ろで構えていた奴等が

順也に襲いかかる


バットを持っている奴もいるが

順也には歯が立たないようだ


確実に順也が優勢だった


その時までは


先ほど先頭にいた男が

スーツの中に手を入れる


取り出されたのは銃だった


順也に向けられた銃口からは

勢いよく発砲され

弾は順也の肩に当たった


肩を押さえながらその場に倒れ込む

大量の血が留められずに腕をつたう


そんな順也を男達は車に連れ込もうとする


一華には何が起きているのかわからなかった


でもわからなくてもよかった

ただ順也の危機だけは

理解できていたのだから


「お前ら!順也を離せ!」


痛みに歪んでいた順也の目が

見開かれる


順也しか見えていなかった

その間に邪魔をする奴がいれば

倒すのみ


数人の男を倒したところで

順也に近づくことができた


そこで周囲への注意が疎かになった一華は

背中に強い衝撃を受けた


「…った」


衝撃の正体は

後ろから当てられたスタンガンだった


意識が朦朧とする

気を失う直前に一華の耳に届いたのは


「イチ!」


そう叫ぶ順也の声だった



目が覚めると

警察署にいた一華は

自分の見たことをすべて話した


すぐに順也を探し出してくれるだろう

そう思ったが警察の反応は鈍かった


そこで初めて

警察が手を出せない何かがこの街には存在していることを知った


そしてそれが自分の倒すべき敵であると

覚悟を決めた


手がかりは銃を撃つとき

男の左腕に見えた

木の刺青だった


もちろん街で暴れて回る一華に

上手く情報を集められる訳もなく

そこには中学校からの仲である

勇真の協力もあった


そうして3年かけてやっと真相への鍵に近づけた


だからこそ一華は目の前の男が

西岡順也の誘拐に関わっていると

確信していた


「さっさと居場所を吐けよ」


このまま話し合っていても

埒があかないと思ったのか

それとも怒りを

コントロールできなかったのか


一華は走りだし

素早く川口の前まで迫ると1発顔面に打撃を与えた


確かに殴ったが

今までの経験から

この1発だけではまだ相手に余裕があることがわかった


一華は間隔を空けずに

次の攻撃へと移る


ほんの少しだけふらついた川口の体勢を崩そうと

回し蹴りを繰り出す


勢いよく振り回され

川口の頭目掛けて一直線だった一華の足は

川口を捉える数センチ手前で

動きを封じられた


簡単に川口によってつかまれた足は

一華が動かそうとしても

まるで言うことをきかず

そのまま放り投げられた


「ぅわっ」


一華は敷き詰められた砂利の上に

受け身をとる


ダメージはそれほど大きくはなかったが

今まで相手にしてきた奴等とは

格が違うことを思い知らされた


あんな簡単に攻撃を受け止められ

投げられるのは

街で喧嘩をするようになった一華にとって

初めてのことだった


「こういうガキは面倒だな」


川口も決して油断していなかった


それどころか

本気で一華を迎え撃とうとしていた


懐から出した拳銃で


「しばらくは入院してもらうとするか」


そう言いながら銃を構えると

躊躇なく発砲する


パーンと

公園に似つかわしくない

音が広がる


砂利の上を転がりながら

なんとか弾を避ける


銃にビビっている暇などなかった


憩いのスペースとしてある

壁に身を隠し

様子を伺いながら反撃のチャンスを待った


しかし一華は待つことなどできなかった


砂利を掴むと

川口に向かって思いっきり投げつけた


手で防ごうとしたその隙を狙って

一華は壁の陰から飛び出すと

一瞬で川口の持っていた銃を蹴飛ばした


川口の手から離れた銃は

カチャカチャと

地面へ転がっていく


「やるな

俺がさっきまで会ってた子と

どっちが強いんだろうな」


「は?訳わかんねーこと

言ってんじゃねーよ」


さっきまで会っていた子というのが

同じクラスの生徒で

自分と同じく狂ったなんて

言われている存在だとは思いもよらない一華は

川口の言葉をスルーする


川口も本気を出す気になったのか

目の色が変わる


その直後一華の前まで一気に距離を詰めた川口は

一華の腹部に拳を入れる


気を緩めたつもりはなかったが

あっさりと危険な攻撃をさせてしまった一華


はっとすると

拳が目の前に迫って来ているのが見えた


どうするかを考えるよりも先に

反射的に顔の前で腕をクロスさせ

受け止めようとする


顔への直撃は避けたが

一華の腕は悲鳴をあげた


そのまま攻撃を受け止めきれず

後ろに吹き飛ばされ

再度砂利の上に転がされた


「いって…」


さすがの一華も

今回は無傷ではすまなかった


川口はもう少し痛め付けておいた方が良いと判断し

一華に近づく


一華はまだ諦めていなかった

足ならまだ動く

腕も気合いで動かせるだろう

まだまだ攻撃はいくらでも仕掛けられる


川口を目の前にしているこのチャンスを

逃せられる訳がなかった


そんな一華の覚悟をよそに

川口は足を止めた


理由は

遠くで聞こえていたパトカーのサイレンの音が

徐々に近づいてきていたからだ


「けっ、運が良かったな


それと…西岡とかいう男に

そこまで執着してるなら

ここに行ってみろ」


川口は日時と場所が書かれた紙切れを渡した


「そこまで価値のある男には思えないがな


行くぞ、お前ら!」


見下した目で一華を見ると

倒れていた男達を無理矢理立たせ

公園を出ていった


「おい、待て…よ」


一華は呼び止めるが

腹部を殴られた影響か

声が上手く出せなかった


川口達が姿を消した後


「イチ!

野次馬がいるみたいだし

警察来たら厄介だから

行くぞ」


どこからか現れた勇真に支えられ

立ち上がる


「あの、野郎…ぅ」


まだ歩くと振動で体が痛むのか

言葉を発せない


「ぜってー許さねー

でしょ?

わかったから、急ぐぞ」


心配はしているが

なんとも軽い様子で

勇真は一華を歩かせた


涼は一華が勇真に支えられながら

公園を出たのを確認すると

画面から目を離した


あの女は何をしようとしているんだ?

ヤバい組織のトップに喧嘩を売るなんて

どこまでバカなんだ


そういう思いが巡ったが

最終的には自分の中に沸き起こる

別の感情に至った


「どうでもいいか

まぁ、なんにしろ

お前が川口に殺されなくて良かったよ


お前を消すのは俺なんだからな」


多額の金を使って

一華を街から消そうと企んでいた涼だが

いざ一華が危ないとなると

自分の手で消したいという

強い思いが沸き起こった


「1番良いのは俺の下に就かせることなんだけどなぁ

柴崎も塚本も

無理矢理就かせても暴れるだけだろうし…

やっぱ消すしかないよな」


そんな物騒な独り言を呟きながら

涼の意思とは関係なしに

一華と川口との戦いが

頭のなかで再生される


口ではどうでもいいようなことを言いつつも

やはり気にせずにはいられなかった


怒りに任せて自分を殴った女と

兄が関わっているという

ヤバい組織のトップの男が

争ったという事実を


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