篠原鈴という女
夏休みが始まり
数日が経ったある夜
時間は遅いがわりと賑わっている街中
今日もどこかで
喧嘩や危ない取引などが行われているのだろう
そんなことを考えながら
倉沢勇真は街を眺めながら歩いていた
勇真はここ最近
この街での情報収集を進めている
今までも情報を集めてはいた
決して安全と言えるものではなかったが
今回は特に危険であることを十分に自覚していた
そんな勇真は
見覚えのある姿を捉えた
「鈴がこんな時間に出歩いてるとは
他の生徒が知ったら
驚くだろうな」
勇真に声をかけられた鈴は
驚いた様子も見せず
少しだけ勇真に視線を向けた
「倉沢君は驚かない
というような言い方ですね」
「鋭いな
さすが…ウルドのトップに立つだけあるな」
ウルドという言葉が出ると
鈴は初めて素直に驚いた反応を示した
「なんで…
どこまで知ってるんですか?」
「まぁ、ある程度は」
優等生の風貌の男女2人が
深夜の街で話す内容は
誰もが想像できないものだった
篠原鈴の今は
誰にも言えない過去から続く
今だった
鈴は自分の両親を知らない
生まれて直ぐに施設に預けられ
そこにいる皆を家族として
育てられた
頭が良くて優しい子どもだった
鈴が11歳の時、施設を悲劇が襲った
台風が直撃していた夜
眠れない鈴が好奇心から数歩だけ外に出てみた
強い雨風にふかれ
昼間とは全く違う表情に
鈴は見入っていた
すると急に家の中から
パリンと何かが割れる音がした
まだ誰かが起きていた
ここにいることが施設の人にバレたらマズイ
そう思った鈴は
静かに家に戻り
自分の寝ていた部屋に戻った
だが違和感があった
いつもの部屋ではない気がした
一歩、二歩と足を踏み入れる
クチャリ
ぬるっとした暖かい液体を踏んだ
ピカっと
雷が部屋を照らす
「…!」
その光景に声が出なかった
鈴の目に飛び込んできたのは
変わり果てた家族の姿だった
「きゃー!」
別の部屋で悲鳴が聞こえる
鈴は無意識に
部屋に落ちていた血のついた包丁を掴み
急いで声のした部屋まで走る
その部屋も同じく血の海だった
生きている人などいなかった
鈴の家族を何度も刺している殺人鬼以外は…
人の気配に気づいたのか
殺人鬼は振り返る
「まだいたのか」
そう言うとゆっくりと鈴に近づき
躊躇うことなく
包丁を降り下ろす
「うっ…」
なんとか逃げようとした鈴の急所は外れたが
太ももに刺さっていた
だが不思議と痛みは感じなかった
わかるのはこのままでは
殺されるということだけ
包丁は直ぐに抜かれ
もう1度鈴を狙う
必死で避けたため
鈴を外れ壁に刺さる
やらなければやられる
鈴の頭のなかは
そんな単純な考えで支配された
包丁をしっかりと握り直す
殺人鬼はやっと壁から抜けた包丁を持ち
振り返る
目の前に標的がいる
仕留めた
そう思ったが
腹部に強烈な痛みが走った
鈴は腹部に一突きすると
すぐに引き抜き何度も刺す
殺人鬼が動かなくなっても
何度も何度も…
この事件で生き残ったのは鈴だけだった
そんな鈴の心は
闇に支配されていった
あの時殺人鬼を刺したのは
家族を殺された復讐心からではなかった
自分の命のためだった
私はなんてひどい人間なのだろう…と
中学校にあがると同時に
北山という男に誘われ
街に存在しており
強い女性ばかりが集まるウルドという
チームに入った
そこが鈴の居場所だった
鈴は北山の思惑通り
気づけばウルドで3本の指に入るほど
狂気的な強さを身に付けていた
だが鈴は普通に暮らしたいと思うようになっていた
そんな鈴の願い叶ってか
中学校卒業と共に
ウルドは消滅し
解散という形で抜けることができた
ある程度がどれくらいなのかはわからないが
勇真はそのことについて
ある程度知っていた
「ウルドはこの街から姿を消した
なのになんで
またウルドが街に現れたんだ?
しかも鈴がトップで」
勇真は純粋な疑問をぶつけた
「復活したのは
私が高校2年生にあがった頃
ウルドの上には別の組織がある
よくは知らないけど
そこの人達が復活を決めたんでしょうね
そこで名前が挙がったのが
私だったんだと思います
結局私が本当にウルドから抜けるなんて無理だったの
上の組織が存在する限り」
語尾が敬語になったりそうでなかったり
鈴の心の不安定さがうかがえる
「上の組織か…」
勇真は真剣な顔で考え込んだ
「それで
倉沢君はどうしてこんなところにいるの?」
「あぁ、俺は情報収集だよ
この街についてのね」
「情報収集?」
「何かわかったら
鈴にも教えるよ!」
そう言うと勇真は行ってしまった
1人残った鈴は
自分からも情報を収集されたのかもしれないと
去っていく勇真の背中を見ながら思った




